最後のクリスマスプレゼント (仮面ライダーBlack)
時間がぽっかり空いたので、クリスマスということもあり、久々に書いてみました。
特撮のクリスマス編は好きなんですが、最近あまり感動していない気がします。
皆さんにとっても心温まるクリスマスでありますように。
ドオオオン!!!!!
廃工場内に轟音が鳴り響いた。
ゴルゴムの怪人生産工場は仮面ライダーブラックの活躍により、たった今完全に破壊されたのである。
「クッッ、仕留め損ねたか・・・・・」
変身を解いた南光太郎は悔しげにそうつぶやいた。
この工場を取り仕切っていたゴルゴムの配下・ハリガネムシ怪人はすんでのところでライダーキックをかわし、姿をくらましたのである。
「?」
光太郎の改造された聴覚が、工場内の地下から聞こえる苦しそうなうめき声をキャッチした。
「これは!」
工場地下に設置された怪人プラントに光太郎は声を失った。
無数の巨大な試験管のような容器の中には怪人に改造され培養液に浸された、元人間らしきものが入っていた。
その多くは先程の爆発により破裂し、中の生物たちも絶命しているようであった。
「何とむごいことを・・・」
光太郎の固く握りしめたこぶしがギリギリと音を立てた。
「う、ううう・・・・」
見るとそこにはまだ息のある物体、怪人になりかけの男が倒れこんで苦しそうなうめき声をあげている。
「おい!しっかりしろ!」
光太郎に抱きかかえられると、その男は何かを訴えかけるように口をパクパクと動かした。
ケロイド状に溶けた頬がボロボロと崩れ落ちる。
「修・・・治・・・・」
吐き出すように言うとその男は絶命した。
光太郎は男の見開かれた両目をやさしく閉じてやり、おもむろに立ち上がった。
「あなたたちの無念は俺が晴らす!」
今日は12月24日。
町はクリスマス一色。どこか浮かれた雰囲気が充満していた。
小学生たちはすでに終業式を終え、そんな町の輝きを満喫している。
小学校3年生の富田修治は友達らと町の広場にいた。
「俺はこれ買ってもらったぜ!」
「俺なんかこれだもんね!」
それぞれが両親に買ってもらったクリスマスプレゼントを披露し、自慢しあっている。
「お前んちは何買ってもらったんだよ、修治」
何も持っていない修治は黙り込んでうつむいた。
「おい、やめろって。そいつんち親父が蒸発してそれどころじゃないんだからさ!」
裕がからかい半分で言う。
「蒸発なんかしてないよ!きっと今夜かえって来るんだ!そうに決まってるんだ!」
「うそつけ!また修治のうそつきが始まったぞ!うちのお父さんが最近の蒸発事件と同じだって言ってたんだから、帰ってくるわけないんだよ!」
「うそつき修治~」「うそつき修治~」
少年たちは町の浮かれた雰囲気に当てられて興奮し、はやし立てた。
「何だこんなもん!」
修治は悔しさのあまり裕の持っているラジコンを取り上げ、地面にたたきつけた。
グシャッと鈍い音を立ててラジコンはバラバラになった。
「何すんだよ!」
裕は修治に馬乗りになる。
「このやろう!」
修治も負けじとバタバタともがくが、腕を押さえつけられてなすすべがない。
「どうした、うそつき!何も出来ないのかよ!」
「お父さんが言ってたんだ!本当に困ったとき、悲しいときはきっと仮面ライダーが来てくれるって!だからお父さんもきっと連れて帰ってきてくれるんだ!」
「バカじゃねーの?仮面ライダーなんてサンタクロースと一緒だ。ホントはいねーんだよ!今更仮面ライダーなんて信じてんのかよ!」
ひとしきり修治を殴りつけた裕は不機嫌そうに他の友人たちに言った。
「こんなやつ置いていこうぜ!」
一人残された修治は悔しさと悲しさで顔をくしゃくしゃにしながら泣いた。
「どうして来てくれないんだよ、仮面ライダー・・・・」
光太郎はイルミネーションの輝く町の中を小走りにかけていた。
「あの傷では遠くにはいけないはず。一体どこに隠れているんだ・・・!」
ハリガネムシ怪人の放つ子ムシは人間に寄生し、その体を自由に操ってしまう。
すぐにでも怪人生産計画を再開できるのだ。
「急がなければ!」
修治は一人、アパートの中から遠い町のイルミネーションを見ていた。
町の輝きは幸せの象徴のような気がして、その輝きの外にいる自分は幸せとはまるで無関係のような悲しい気持ちになった。
父が行方不明となってから母は方々へ相談に行ったり、捜査の嘆願に行ったりと家を空けることが多くなった。
今日も修治はコンビニで買ってきた夕飯を終えるところである。
食欲もあまり沸いてこない。
彼のそんな気持ちとは裏腹にテレビではどのチャンネルを回しても賑やかだ。
電源をオフにすると、修治はリモコンを乱暴にテーブルに放り投げた。
その拍子に写真立てがひとつ、転げ落ちた。
見るとそれは去年のクリスマス、町の中心の公園にある大きなツリーの前で家族三人で取った写真であった。
「今年も行ってみようかな・・・」
修治はその写真の家族の笑顔を見ているうちに、その大きなツリーが見たくなったのである。
去年のイブのように、暖かい家族の団欒がそこにはあるような気がして修治は表へ走り出た。
「人の命をもてあそび、幸せを奪うとは断じて許せん!!!ゴルゴム!!!!!」
ギリギリギリ・・・・・
光太郎の人口骨格が怒りをこめた握力に悲鳴を上げた。
「変身!!!!!!!」
改造人間・南光太郎は醜いバッタ怪人に姿を変え、そして閃光ような一瞬の輝きと共に黒き太陽の王子に変身した。
「仮面ライダー、ブラアアアアアアアッック!!!!!!」
追い詰められたハリガネムシ怪人はがむしゃらに向かってくる。
ジャンプ一番、組み付いたライダーはそのまま怪人を投げ飛ばした。
大きなクリスマスツリーの前で繰り広げられる怪人同士の戦いに、人々は逃げ惑った。
逃げる人々を操ろうとハリガネムシ怪人は子ムシを飛ばす。
「トウアッ!」
素早く宙返りし、ライダーは子ムシを叩き落とした。
「ギシャアアアアッ」
怪人は悔しそうな威嚇音を出した。
二人の距離はじりじりと縮まる。
「あ!あれは!」
ツリーを見に来た修治は異様な光景に凍りついた。
「か、仮面ライダー?」
「ギュアアアアア!」
チャンスとばかりに表れた少年に標準を絞り、怪人はとびかかった。
「うわああああああッ」
修治は恐怖で身動きが取れない。
「おとうさーーーーん!!!!」
「ツウウアアアッ」
ライダーは矢のような速さで二人の間に割って入り、怪人に強烈なチョップを見舞った。
少年を抱きかかえ、その場に立たせる。
修治ははっと我に返り、目の前に現れた伝説のヒーローに懇願した。
「僕、修治っていうんだ!お願いだよ仮面ライダー、僕のお父さんを連れ戻して!ずっと帰ってこないんだ!」
「修治・・・」
聞き覚えのある名前。廃工場地下での光景、データベースに残された被害者の情報が瞬時にライダーの脳裏によみがえった。
「離れていなさい!!」
修治にそう告げるとライダーはよろよろと立ちあがるハリガネムシ怪人に向けて大きくジャンプした。
「ライダアアアアアアアッ、パアアアアアンチッ!!!!!」
獰猛な怪人の顔に向けライダーの拳がめり込む。
続けざまにライダーは怪人に飛び掛かった。
「ライダアアアアアアアッ、キイイイイイイイイイイイック!!!!!!!!!」
「ギイヤアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
怪人は断末魔の咆哮とともにその身を燃やし、跡形もなく消え去った。
ツリーの周りに静寂が戻る。
ライダーはそのまま立ち去ろうとしたが、思い出したように修治のもとへ踵を返した。
「ありがとうライダー、お父さんのこともよろしくね。」
希望に目を輝かせる少年の両肩にそっと手を置いた。
「いいか修治、これからはお前が頑張るんだ。お前がお母さんを守っていくんだ。いいな。」
きょとんとしている修治を残し、ライダーはその場を離れようとした。
「もしかして、お父さんなの?お父さん、帰ってきてよ!」
キラキラと光るイルミネーションに照らされながらライダーは愛機・バトルホッパーにまたがって発進した。
修治を振り返らずに。
まっすぐに闇に向かって消えていった。
修治は頬を高揚させ、大きなクリスマスツリーの夢のような輝きに見とれていた。
「修治!!!」
彼が振り向くとそこには母親の姿があった。
廃工場の地下から発見された被害者の遺体確認の帰り、タクシーで偶然通りかかった広場で修治を見つけたのである。
母親はきつく修治を抱きしめた。
「お母さんどうしたんだよ。今ね、お父さんと話したんだよ!お父さんは仮面ライダーだったんだ!」
「修治!修治!」
母親は号泣しながら修治を抱きしめた。
「それでね、僕、約束したんだ。お母さんを守るって!僕頑張るよ!そしたらお父さんも帰ってくるよね!」
ツリーの輝きは二人の親子をやさしく包み込んだ。
(今年のクリスマスはすっげええや!プレゼントがなくても最高だ!)
修治の心はとても暖かかった。
町にあふれる暖かな空気の中を、南光太郎は疾走する。
この幸せを守るために。いつまでも。
最後のクリスマスプレゼント (仮面ライダーBlack)
読んでいただいてありがとうございました。書きなぐったので荒さも目立ちますが、お楽しみいただけましたでしょうか。また不定期に書きたくなったら書こうと思います。