否定言葉の裏の顔

人は信じてみる価値はある、なんて断言できるなんてすごいと、僕は思う。
なんで簡単に人を信用できるのかわからない。
そう思っていると、クラスで一人でいることが多くなり、僕はクラスで浮く存在になった。
けれど、この環境に不満があるわけではない。むしろ、誰ともかかわらなくて済むのだから、僕にとっては好都合だった。
一人で、席に座ったまま外を眺めて、ぼぅっと過ごすことにも、慣れてしまっているし、それが悪いとは思わない。
100人いれば100通りの過ごし方があるし、それぞれ悪いことなんかないと僕は思っている。
その人その人での毎日の楽しみ方があるんだから。
だからこそ、人は信用できないし、慣れ合おうなんて思ったりなんかしない。
バラバラな個々が、分かり合おうなんてこと、結果なんて、見えているようなものだろう。

 いつものように、窓を眺めていると、いつの間にか、空きの隣の席に人が座っていた。
席が空いているのには理由があった。
ついこの間、教師に暴力をふるったということで、退学になった男の席。
「よ、俺わかんないことだらけだからさ、教えてくれよな」
あぁ、こいつは転入生か。
ちらっと横目で相手を見てから、ふっと黒板に目を移した。
汚い字で、横山 啓太と書いてあった。
もう一度、相手の顔を見てみると不機嫌そうな表情に変わっていた。
僕はその顔を自然と頭にインプットしていた。
僕と逆側に座っている、横山の隣の席の山田さんが、横山の肩を叩き、小さな声で言った言葉が聞こえた。
「だめだよ・・・片倉くん、人と話すの、嫌いみたいだし、それに」
それに、変な人だし。
横山にしか聞こえない声で言ったつもりなのだろう、けれど、僕にもはっきりと聞こえていた。
変な人で構わない、から話かけるな。
そっぽを向いたままだが、オーラ、雰囲気で伝えたはずだったのだが、どうやら横山には伝わっていなかったらしい。
平気で僕に話かける横山と、それを慌てて止める山田さん。
そのやりとりでさえも、僕は無視して、校門を慌てて走る生徒に目を向けていた。
彼は、同い年の、遅刻魔。いつもこの時間帯に学校にやってくる。もう朝のホームルームが終わるっていう時間に。
廊下から聞こえる教師の叱る声と、必死に謝る遅刻魔。
直接聞いたわけではないが、彼と教師との会話で、どうやら遅刻魔は早瀬というらしく、成績も優秀みたい。
教師は決まって「もったいない」という。
廊下の、声の聞こえるほうを眺めていると、教室に向かう早瀬がちらっと僕のいる教室を見たとき、目が合ったような気がした。
そんなわけはないのだが、なぜだかそう感じた。
廊下を眺めている僕に、横山は身を乗り出して話しかけてきた。
「なんだあいつ、いっつも遅刻してんのか?俺には興味は示さないのに、あいつには興味あるんだ?」
不機嫌なまま、僕をじっと見つめる。
その問いかけにも、答えず、一時間目の用意をする僕に、彼は余計腹立てていた。
人とかかわらない分、人の行動には敏感になっていた。
周りの人を注意してみているからだろう。
「よ、横山くん、私の教科書、見る?」
山田さんは、おずおずと横山に話かける、それににこりと笑って答える横山。
お似合いだな、なんて心の隅で思っている自分がなんだかおかしくて、ふっと笑ってみた。
そういえば、笑ったのって、久々なような気がする。

否定言葉の裏の顔

否定言葉の裏の顔

人を信用するのが苦手で、いつもネガティブに考えてしまう主人公に、 明るく前向きなクラスメイトと、遅刻魔の男子。 友達もいない主人公、人気もなく、むしろ嫌われがち。 そんな彼とは反対に、男女関係なく、友達も多く、人気もある二人。 暗く、ネガティブな主人公の過去と、その理由を知った二人は・・―――

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-02-10

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