全ての恋が成就するはずもなくて

全ての恋が成就するはずもなくて

仕事帰りに二人で立ち寄った居酒屋はクリスマスイブの夜を楽しむ人達で賑わっていて、主任は美味しそうにビールをグビグビ飲みながらご満悦だ。

「クリスマスイブの夜なのに上司と居酒屋に居るなんて本当に冴えない男だな」大きなお世話です。
「別れた彼女にまだ未練があるのか」ほっといて下さい。
「早く新しい彼女を作れ」僕の自由です。
「早く…嫁をもらえ!」展開が早すぎます。

「大体、男女が出会う確率なんて…相当少ない!その確率の中で出会って付き合って結婚する…これはもう奇跡だ!」話しのスケールがでかすぎます。
「そうだよ、奇跡なんだよ。それなのにその奇跡に感謝せずに相手を大切にしなくなるなんて、みんな馬鹿野郎だ!」主任、かなり酔いが回ってきましたね。

「だから、早く結婚しろ!」主任だってしてないじゃないですか。
「前はしてたんだよ、今はしてないだけ」そういう言い方もありですね。
「結婚は…人生の墓場だ」お気の毒様。
「感謝の気持ちを忘れて相手を大切にしなくなり、傷付け合う」ご愁傷様。
「最後なんて修羅場だよ、修羅場!」神よ…

居酒屋の店内にはクリスマスソングが流れている。周りの学生や会社員達はみんな仲間同士で食べて飲み、語り、笑い、本当に楽しそうだ。あなたがその人に出会えた確率は果たして何%なのか?
恋人同士なら今頃素敵なレストランで甘い時間を楽しんでいる事だろう。あなたがその人と付き合えた確率は果たして何%なのか?別れる確率は何%?そして結婚する確率は果たして何%なのだろうか?別れる確率の方が明らかに多いだろう。

「息子が欲しがってたおもちゃ、用意してくれてありがとう」とんでもないです。
「すごい人気のアニメのおもちゃなのに、よく手に入ったね」発売日に早朝から並んで会社に遅刻までして手に入れたなんて口が裂けても言えません。
「喜ぶよ、きっと。本当にありがとう」今夜はサンタクロースですね。
「髭は生えてないけどね」生えていたら困ります。
「お正月はどうしてる?もし暇だったら家に遊びにおいで。私の母が張り切って御節料理を作るからさ。私はもちろん手伝わないけど。料理が苦手だから」有り難き幸せです。

髭のないサンタクロースに僕は小さな箱を差し出した。メリークリスマス、髭のないサンタクロース。僕と結婚してください。主任は目を白黒させた。

「サンタクロースにプレゼントするなんて度胸あるわね」仰る通りです。
「…ようこそ、墓場へ」アーメン。

全ての恋が成就するはずもなくて

全ての恋が成就するはずもなくて

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-12-23

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted