霞草をそえて・「紹介します」
霞草をそえて
特別なお客様がみえるとき、私たち女中は小さく切った霞草を胸に飾り、おもてなしをします。古くからの習わしだそうです。「もっときれいな花がいいな」とリンは言うのですが、私は、この花が好きです。 ――メアリ・A
§
辞
母へ
荘園のみんなへ
そして、
今、幸せの真っただ中というリンへ。
§
紹介します
『北と東は森。遠くに見える山々にさえぎられるまで、どこまでも広がる緑の絨毯。ひっそりと静まり返った森はとても不気味。嵐の夜は咆哮を立てる。あそこで迷子になったら、たぶん生きては帰れない。
西一帯は、幾つも連なるヒースの丘。丘をぐるりと囲う川。小川の水は冷たくてきれい。たまにしか行けないけれど、あそこは素敵。
南に見えるのは、色とりどりの広大な庭園と、街道まで真っ直ぐ伸びるライラックの並木道――』
と、これ全部がマーレ様の土地。すごいでしょ。
敷地が広ければ、お屋敷も広い。私とリン――あとで紹介します――の短い乙女の青春は、この途方もなく広いお屋敷の掃除に捧げてしまった。おかげさまで、雑巾とモップを持ったら、そのへん歩ってる街娘には絶対に負けない自信がついた。もし、秋祭りの催しに「ミス・ハウスキービング・コンテスト」があったら、私た二人は表彰台のトップに立つだろう。
後ろでリンが笑ってる。「そんなコンテストがあったら、一位になるのはサリエラじゃない?」だって。
サリエラは、私たちの女中頭。かなりのお歳のはず。でも、全然そうには見えない。しゃきりと伸びた背筋。後ろにモップの柄でも仕込ませているんじゃないかと思うくらい。ぴっちりと整えた銀色の髪。濁りのない青い瞳。昔はもてただろうな。このお屋敷で働く人の中では、執事のベイジルさんに次いで偉い。落ち着き払った静かな口調でキビキビと指示を与える姿は、使い魔を従える魔女、そのもの。
執事のベイジルさんは、このお屋敷に三百年前から住み着いている『家付き妖精』。嘘。でも解らない。一つ、旦那様が呼ぶよりも早くお部屋に着き、仕事を申し付けられるよりも早く、終えている。二つ、来賓されたお客様すべてのお名前と夕食の好みを、もらすことなく覚えている。三つ、この地方の歴史と伝説、ワインの出来とニジマスの穫れ高について、とても、詳しい。四つ、私とリンが仕掛けたささやかないたずらに、いまだ一度も墜ちたことがない。
これらの現象を総合的に分析し、判断するに、ベイジル・アトキン氏を『家付き妖精』であると結論づけざるを得ない。
でもほんと、解らない。
さっきから、しきりにリンが覗いてくる。こら、よるな。あんたの事はまだ書いてない。いてて、解った解った。書くよ。書きます。書けばいいんでしょ。
リンは、私と同じ使用人でありまして、歳は同じ頃ですが、私などよりずっと可愛く、美しく。その立ち振る舞いは気品にあふれ、とても魅力的な女性であります。ひとたび街を歩かれますれば、行く先々で殿方様に取り囲まれること、やんややんやの大騒ぎ。お屋敷に毎日のように届けられる、恋文と花束の山、山、山。私たち屋敷に住まう者達が、日々温かい食事と暖にありつけまするのも、これすべて、殿方より貢がれた儚き恋の送り物の数々が、かまどでござれ、暖炉でござれにくべられているからなのでありま
いててて、だってあなたがそう書けって言たいってて、解った解った。
リンは、私と同じ屋敷住まいの奉公人です。よく食べ、よく喋り、よく転ぶ娘です。どこの生まれなのかは教えてくれません。……こう書いている先でも、教えようとしないケチ娘です。以上あいたたた
霞草をそえて・「紹介します」
一話読み切りという形で、三つ四つ話しを用意してあるのですが、三つ四つしか話が無いので、全部を繋げても中途半端になってしまう。
書けた話しから付けたしてみようと思うものの、原稿が古く、今付け足すと別の人が書いたような話しになってしまう。