猫の話

 猫が好きです。端的に愛情を表した話です。

猫っていいよね

 昔から猫が好きだった。ぶにぶにしてるし、擦り寄ったり無関心だったりのツンデレだし(ただの気まぐれ)、なによりなんかかわいい。
 道端で野良猫に遭えば一時間は遊んでいた。隣家や友人宅で猫を飼っていれば、人間そっちのけで構って(もらって?)いた。ルドルフとイッパイアッテナシリーズも、全部持ってる。最近では、猫カフェとやらにも一人で通っている。
 一番猫に懐かれたのは、岐阜へ旅行に行った時だ。『養老天命反転地』という体験型アート作品があるというので、盆の頃に訪れた。台風が通過した直後で気候は不安定だし、地面の質なのか、濡れてるところはやたらに滑るし、ちょっとイラついていた。
 施設に入ってすぐ、屋根付きの展示があった。作品というよりアーティスティックなアスレチックという感じで、基本的には屋外で楽しむものなのだが、導入的な意味もあるのだろうか、簡単な建物の中が迷路のようになっているという作品が一番最初にあった。
 黒猫がいた。
 毛並みもよく、首輪がされていたので、飼い猫だとすぐにわかった。同行した友人を放ったらかして、私は真っ先に猫に近付いた。間近でみるとえらくべっぴんさんで、不覚にも胸がときめいた(雄かもしれないけど)。
 警戒心が強いタイプか、とりあえずすぐに手を出すタイプの奴だと、撫でる手をかいくぐるどころかいきなり噛む・引っ掻く・猫パンチをかます、などがある。二十数年生きてきて、猫の噛む・引っ掻く・猫パンチよりも痛い思いをしたことは数多あるため、やられたところで「こいつぅ、なにすんだよぉ~」とむしろ喜ぶくらいなのだが、相手をびびらせないためにしゃがんでそーっと撫でてみた。
 逃げない。どころか、擦り寄ってきた。人懐っこいなぁと両手でぶにぶに撫でていると、なんと膝の上に乗ってきた。不安定なせいか、ふみふみまでしてくる。そんなことされた暁には、こちとらメロメロである。猫カフェなどでは「猫がストレスを感じるため、抱っこは禁止」なんてところも多い。だが、こやつは自ら私の膝に飛び込んできたのだ。もう離しはしない。アイラブユー。愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけない。傷つけられても気にしない。でもふみふみするときにズボンを爪で傷つけるのはやめてほしい。なんて思いつつ、放置していた友人を呼び寄せ写真を撮ってもらった(後で見せてもらったら、私の大顔面が邪魔で猫本人があんまり写っていなかったのであるが)。
 そうしてまた友人を放置し、膝の上の猫と戯れていたら、若い女性が一眼レフを持って近寄ってきた。
「猫ちゃん、撮ってもいいですか?」
 ん? と疑問を感じた。何故、私に許可を求める。私と猫のあつあつタイムを邪魔するから気を遣っているのか。写真を撮られるくらいで冷める愛じゃないわよ! ええ、どうぞと頷くと、相手は嬉々として写真を撮り始めた。ところがどうしたことか、猫が私の腹に顔を埋めたのだ。このぉ、照れ屋さんめっ。かわいいぞちくしょー。多分、女性がいなければ私は最高にふやけた顔をしていたと思う。あれ、顔見えないなーと女性が立ち位置を変える。だが、猫の顔は私の腹に埋まっているのだ。背後からレントゲン写真でも撮ればあるいは写るだろうが、彼女は多分骨格の写真を求めていない。
「ほれ、写ったらどないや。顔見せたりー」
 ほっぺをつかんでぶににと回してみるが、強情にも腹から顔をどかさない。諦めたのか、女性は私と猫のしり撮ることにしたようだ。撮りながら、私に話しかけてくる。
「この猫、随分人懐っこいんですねー」
「そうなんですよー。かなり人馴れしてますよねー。」
「いつ頃からここにいるんですか?」
「えっ」
 いや知るわけないやん。俺かてこいつにあったの今日が初めてやもん。口を開けたまま固まった私に、女性は回答待ちなんですけどーという目を向けてくる。それも嫌な感じじゃなくてきらきらした感じの目を。
 そこでようやく気付いた。私、飼い主に間違えられてる。そうか、だから最初に猫の撮影許可を得ようとしたのか! なんか、短い会話だったけど、散らばってた疑問が急に解決したわ! 結構すっきりした。ユーレカとは叫ばなかったけど。
 いや、私も観光客なんですよー。この子には、さっき初めて会ったんです。そう言うと、えらく驚かれた。そりゃそうだろう、初対面で膝の上でふみふみしたり腹に顔を埋めてくるような猫なんてあんまりいないもの。後にも先にも、初対面の猫にあんなに擦り寄られたことはない。そして、あの時ほど、どんなもんだい猫にこんなにも懐かれる俺どんなもんだいと勝ち誇ったこともない。
 二十数年間で出会った猫の中には、もう亡くなったり、様相がだいぶ変わった者達もいるだろう。私は猫を飼ったことがないので、刹那的にしか関わったことがないのだが、彼等彼女等が皆幸せであるといいなぁとおもう。
 余談だが、私が猫カフェに行くと、いつでもどの店でも店員さんが「あれー、今日は皆起きないなぁ。おかしいなぁ、いつもならこんなに寝てないんだけど……」と困惑する。意図しないうちに催眠波でも出しているのだろうか。これを読んだ猫がいたら、ぜひ教えていただきたい。

猫の話

 書きながら思ったけど、やっぱり猫ってかわいいですね。

猫の話

猫好きな自分が、人生で一番猫に懐かれた時の話。

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-12-22

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