読経の声

夕食を済ませたあと、お茶を飲もうと、やかんを火にかける。
しばらくすると、お経が聞こえてくる。
なんだーむにゃむにゃかんだーむにゃむにゃと、お坊さんの、途切れの無い読経の声が、聞こえてくる。

水が沸騰してゆくときに弾けた泡が、ステンレスのやかんの中で共鳴し、そのような音を立てていることは想像がつくのだが、蛍光灯の明かりが一本ついただけの薄暗い台所の隅で、時計の針がただコチ、コチ、と刻む音のなか、やかんからお経が聞こえてくるのは、それなりに、怖い。

洗い終わったお皿やお椀。フックに掛けた白い手ぬぐい。ただじっとぶら下がっているだけのオタマやフライ返し。「生」の気配をまったく感じない台所で、お坊さんが経を読む声が聞こえてくるのは、やっぱり、怖い。

読経の声

全稿手書き

読経の声

夕食を済ませたあと、お茶を飲もうと、やかんを火にかける。しばらくすると、お経が聞こえてくる。

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • サスペンス
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-12-21

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