キノコ狩り(5)
五 折檻
翌朝だ。俺は太陽の光の眩しさじゃなく、頭を殴られ、目から出た火花のおかげで目が覚めた。
「こら、俺たちのキノコをどこへやった」
俺の檻の周りに、社長を始め、副社長、専務たちがいた。今では、俺たち、キノコ人間は、誘拐魔たちに敬意を込めて、役職で呼ぶよう指導されている。
「キノコって?」
「とぼけるな。頭のキノコだ。昨日まで生えていたはずだ。貴様、まさか、共食いでもしたのか?」専務が俺の顎を掴んで、首を絞める。
「し、し、知りません」首を絞められたら、知っていても吐けないじゃないか。
「嘘をつけ。まさか、どこかの業者に横流ししたんじゃないだろうな」
今度は、副社長が、俺の頭を、ちょうどキノコが抜けたところを叩いた。
「痛い」俺の頭は、今は、河童の皿のようになってたので、ゲンコツの響きが直接脳ミソに届いた。
「まあ、手荒なまねはよしな」社長の出番だ。よくある、何とか組の光景だ。最初は、子分が手荒くして、後から親分がやさしくする。これで、たいていの奴は、白状してしまう。
「俺はなあ、あんたのことを心配しているんだ。この子分どもは、手荒な奴が多くて困っているんだ。許してやってくれ」
そらきた。俺の予想どおりだ。だが、俺は小人のことなんか、決してしゃべらないぞ。
「し、知らないんです。朝、起きたら、頭になかったんです」
「嘘をつくな」 再び、副社長のパンチが俺の頭を殴り、その痛みが電光石火の早さでで俺の頭のから足の指さきまで貫いた。再び、目から火花が飛び出た。
「ほ、ほんとう、です。な、何も知りません」
社長が、俺の顎を握って、「今回だけは許してやる。今後、お前の体に生えているキノコ、つまり俺の財産を一本で失ったら、ただじゃおかないからな」
社長は立ち上がると、店舗全体に聞えるように、
「いいか。お前たち全員も、だ。キノコを一本でも失えば、体のどこかが一本無くなるぞ」
ほんとに、どこかの暴力系映画のワンシーンみたいだ。俳優にしては上手い。もちろん、俺は役者じゃない。本当に、体中にキノコが生え、檻に収監されている。なんてこった。
その日も、次々と客が訪れ、俺を始め、キノコ人間たちのキノコがむしり取られ、閉店の頃には、丸裸状態になった。俺たちは、明日に備えて、シャワーを浴びせられた。こんなに日が永遠に続くのかと思うと気が狂いそうだったが、立ちっぱなしの仕事なので精神の疲れより肉体の疲れが優先し、俺は膝を抱えたまま眠ってしまっていた。
キノコ狩り(5)