日本政治の夜明け
政治に足りないところを考えていたら、こんなことを思いつきました。
2017年、新たな政治が始まる。
「みなさんの大切なお給料の一部をいただき、本当にごめんなさい。大切なお金です。どう分配するか、国会で議論させていただきます」
雪がちらつく12月。渋谷のスクランブル交差点で、「新党ごめんなさい」の太野党首が声をからしながら、深々と頭を下げる。
「ホントーにごめんなさい!」
同じころ。夕刻のJR大阪駅。多くのサラリーマンが背中を丸めて、足早に家路に向かう。
「ありがとうございます。わたしの演説に少しでも足を止めていただき、本当にありがとうございます」
「橋上さん、あんたに一票や。日本を立て直してや!」
「ありがとうございます」
ありが党代表の橋上は、高々と手を振り上げ、答える。
2017年。民自党が掲げた経済政策「タベノミクス」に対する国民の不満は、爆発寸前だった。田部総理は「景気は良くなっている」と賃金上昇のデータを示すが、実態はちがった。ハイパーインフレだ。
日銀が国債を大量に買い占め、市場にお金が増えた。しかし、生産活動は活性化せず、物価だけが上がってしまったのだ。「安い!うまい!」が売りの牛丼チェーン「吉田家」の店の前にも、最近こんなのぼりが立った。
「牛丼値上げします。380 円から、3800円」
これが、日常である。
そこに現れたのが、この2つの党だった。
「新党ごめんなさい」と「ありが党」。
「ごめん」は関東中心に、「ありが党」は関西中心に、瞬く間に支持者を増やしていく。何かにつけて横柄な態度を取り、失政だと批判されても開き直る今までの政治家。その姿に辟易としていた国民は、あまりに謙虚な2つの政党に新鮮味を感じ、とりこになるまで時間はかからなかった。
こんなことがあった。勢力が拮抗する愛知県。名鉄名古屋駅前で街頭演説していた「ごめん」の太野の前を、「ありが党」の橋上が、選挙カーで通りかかった。その時だった。
演説のボリュームを瞬時に下げ、太野が橋上に声をかけた。
「うるさくて、ごめんなさい」
すかさず、橋上は「お気遣いいただき、ありがとうございます。お互いにがんばりましょう」
そのやりとりを見ていた聴衆からは、どよめきが起こった。「どえらい紳士的だかや。今までの政治家なんて、鼻くそみたいだにゃあ」
2017年の年の瀬。3年前の「タベノミクス解散」時の衆院選より、圧倒的に政治への関心が高まり、投票率は84%。北欧の福祉国家並みの高水準となった。結果はというと。
与党の民自党は大幅に議席を減らし、陥落。「ごめん」「ありが党」は飛躍的に議席を獲得し、2党で過半数を超える結果となった。
特別国会に注目が集まった。この新党2党が連立政権を組むか、どうか。
しかし、事前の報道ではまったく不透明だった。それは、当然のことだった。太野も橋上もお互いの連絡先を知らなかったし、知ろうともしなかったからだ。
上品なパーティーのような雰囲気だった。真新しいスーツの議員が目立つ。きらびやかなドレスの女性もいる。当選した議員の3割が女性だ。そんな議場が、一瞬にしておごそかなムードに包まれた。全員がスッと席を立ち、直立不動となった。天皇陛下の登場だ。
「国民の信託に応えるため、しっかり議論してください」
いつものように、おだやかな口調で「開会宣言」をする。しかし、そのあとだった。天皇陛下は、少し上を向いた。なんと、カメラ目線になったのだ。
「国民のみなさん、こんにちは。今回は多くの方々が投票に行っていただき、ありがとうございました。その結果、『ありが党』と『新党ごめんなさい』というこれまでにない理念を持った政党が議席を多く得たと聞いております。わたくしも、非常に共感しております。80年前、わたくしの父が『戦争はダメだ』とはっきり言えば、多くの犠牲者を出さずにすんだかもしれません。原爆の投下もなかったかもしれません。本当にごめんなさい。あれから、国民のみなさんの努力で、日本は豊かになりました。本当にありがとうございます。今は不景気で大変だと思いますが、ここにいるみなさんが一生懸命議論してくれます。本音を言えば、わたくしもその議論に加わりたいのですが、天皇が政治に口出しをすれ ば、憲法違反になります。わたくしも、ここにいる475人にお任せしますので、しっかり見守っていきましょう」
475人全員の目がまんまるになった。テレビ中継を見ていた国民の多くも、言葉を失った。天皇陛下が、自分の言葉で語ったのだ。
「ごめん」「ありが党」を支持する発言は、明らかに憲法違反だ。しかし、いつもは天皇制に反対している産共党の議員でさえ、涙ぐむ人もいた。
総理大臣の指名では、「ありが党」の橋上が、「新党ごめんなさい」からの票も集めた。橋上総理の誕生だ。
橋上が登壇する。一言目に注目が集まる。
「ありがとうございます。橋上でございます」
期待どおりだった。太野がすかさず、声をかける。
「ごめんね、重い責任のポストを任せて。協力するから!」
議場は大きな拍手に包まれた。
日本政治の新たな夜明けだ。だれもがそう、確信した瞬間だった。
日本政治の夜明け