シグナル
どうも
ドブネズミ達があたりを警戒する様子もなく、端から端へと平然と往来している裏通り…
ドブネズミ達があたりを警戒する様子もなく、端から端へと平然と往来している裏通りで、自虐的にくっさい臭いを嗅ごうかと、鼻から大きく息を吸い込んだ刹那、以前にも経験した事のある、嘲笑うような感覚を鼻孔の奥に感じた。
どうやら、くっさい臭いと同時にケサランパサランを吸い込んでしまったようだ。
愉快と不愉快が入り混じった気持ちのまま歩を進め、交通量の多い表通りに出ると、ギラギラした日差に視界は鈍い痛みとともに、強烈な白銀に包まれた。
「まっ、まぶシット!」
肌着の胸元に無造作にぶら下げてある色眼鏡を物憂い気に掛けながら、喉の奥へと逃亡しようとするケセランパサランに向かって
「お出口はこちらになりまストッキング!」
と獅子舞の如く上下の歯をガチガチ鳴らし、首で大きくゆっくり弧を描きながら、ありったけの肺活を込め、痰唾もろとも吐き出した。
すると、それは命知らずのイカロスの如く、とても勇ましく青空めがけ飛んでゆき、面白可笑しく堕ちてゆく。
私は瞬時に眼球だけを落下予測ポイントに向けると、そこには鼻歌交じりで赤信号とにらめっこしている、陽気なバイク便の黄色いヘルメット。
「まずは自分で自分を愛してあげよう。そうする事で何かが変ってくるはずだよ」
と私の祈りも虚しく、それは、黄色いヘルメットの後頭部にまるで重力を待たない物体のように、とても静かに、とても汚く、パサランとへばりついた。
その光景を目の当たりにした私は、ある詩人の詩を思い出した。
「汚れちまった悲しみに、痰唾かかって、わしこまる…」
了
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