practice(159)




 ライトより指示器のランプを二つ,同時に点けて消してを繰り返し,前のブロックから続いて大型のトラックが止まった。徐行の延長線上,ゆっくりとした動作であった。すぐに助手席から一人,もう一人と同乗者が降りてきて,男性が立っている歩道の場所から街灯を等間隔に挟んで,重なって溜まったゴミ袋と濃い青のポリバケツの前に向かった。彼らはどちらも息を温かく吐き,真っ白にソースの汚れのような染みが目立つ手袋を厚い袖口まで入れ直して,上に積もった雪にお構いなく,手前のものからテキパキと背後の荷台に乗せていった。もう手慣れたという様子で,数は減っていった。どちらも手にしたものを,それぞれ勢いよく放り投げることがあった。運ばれる先の荷台の方は両サイドが板で高く仕切られていて,立体的に容積量が増やされていた。一息ついた天候から,ゴミの収集はおそらく深夜に及ぶものと見られており,仕切られたこのトラックも,駆り出された形で随分と所定の場所を回ってきたはずだった。一旦は戻らなけれないけないぐらい,ただ,ここの分を乗せ切った後で,ということなのだろう。タクシーを待っていた男性はそう思った。路駐しているトラックの側から,じゃりっと踏み固める音に続き,乗客を乗せたものばかりが過ぎていくのを見送っていたとき,男性はまたドサッという音を聞いた。ドササと続いた結果だった。慌てた様子に,勢い余ってゴミ袋が地面に落ちた,ようだった。男性が分かったのは浮いた車体の隙間から,ライトが影を素早く伸ばした個数であり,持っていたものをその場に残して,もう一人を手伝いにトラックの側を離れた様子だった。声が飛び交っていた。聞き取れないが,深刻でもない。指示とも取れるものだった。人の影も伸びていた。男性からよく見える,運転席にいた者は後ろを気にして,バックミラーより,特に助手席のサイドミラーからそれを知ろうとしていた。さっきまでそこにいた一人が男性から見えて,ゴミ袋を持って現れ,投げずに置き,また消えた。また現れ,また置き,消えた。足下の影は,車体の下を暫く動き,動くタクシーはなかなか捕まらない。男性は白い息を吐いた。運転席に居る者は,外の様子を窺おうと助手席側に身をよじりながらも,ハンドルを離そうとはしなかった。背後の作業は進んでいた。今度は上手いこと積めている。投げるより。ただ二人のいる所からは,それがよく見えない。降ってきたようなちらつきが感じられて,雨のように消えた。男性が首元を触った。長いマフラーを手にしていた。



 ショーウインドウに映る映像が時刻を伝える。前を通りかかった人が見向きもしないで,掻き分けられた通りの中の,道を進む。慎重で,慣れていない。買ったばかりの袋がその度にかさかさと,厚手の衣服と擦れている。
 排気ガスの煙が上がって,暖かさを伝える。重く走り出した速度は見送れる程度だと,誰もが思えた。



 じゃりっと言わせて,男性が息を吐いた。ハイライトが下を向いた。
「どちらまで,と言えないんですよね。お客さん。それで?」
どこそこと目的地を,近くまで,と言って,後部座席の革のシートがぐいっと伸ばされた。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-12-17

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