SS44 大失言
岡村大臣の失言は大きな波紋を広げた。
「大臣、何であんな発言をされたんですか?」
「恥ずかしいと思わないですか? 仮にも現職の大臣なんですよ」
「国民感情なんかまったく関係ないってことですか!」
次々と突き付けられるマイク、マイク、マイク。
群がるマスコミに揉みくちゃにされながら、岡村大臣は顔を背けて車に乗り込んだ。
盛んにフラッシュが焚かれる。
どこからか聞こえる、「バカ野郎!」の声。
しかし車は何も語らず、そのまま走り去った。
”こちら首相官邸前です。岡村大臣の発言に関して、首相にも説明を求める声が上がっています。当然任命責任の問題にも発展するでしょう。”
大混乱に陥った官邸前の様子はもちろんテレビで全国に放送されている。
「まったく何考えてやがるんだ」
「子供じゃないんだから」
街頭でのインタビューに答える市民の声は一様に批判的だった。
あまりに凄まじい抗議に恐れをなした首相の対応は早かった。その日の夜には大臣の罷免を決定し、早々に記者会見を開いて発表した。
「早かったな」
「いや、これでも遅すぎるくらいだ」それは歓迎ムードが沸き起こるほどの反応だった。
そうして、ついにマイクの前に立たされることになった”元”大臣。今の彼は完全に四面楚歌の状態だった。
「では発言の真意を語って頂きましょう」
「まず謝罪させて下さい。大変申し訳ありませんでした。あの時の私はどうかしていたんです」
逃げ道はないはずだが、それでも彼は言葉を濁してこう言った。
「ただ、今はまだ考えが纏まりません。明日になったら包み隠さずすべてをお話し致します」と。
***
翌日夕刻……。
国会、官邸、警察や主要な放送局までが、一斉蜂起した自衛隊員によって占拠されていた。
何も決められない政府など不要だ。
そう叫ぶ彼らに、政府の閣僚メンバー全員が拘束されていた。
銃を突き付けられた彼らに発言は許されない。互いに顔を見合わせながら、自分たちの命運を祈るしかなかった。
岡村は逃げたのだ。
一人クーデターを察知した彼は、わざと失言を吐いて巻き込まれまいと逃げた。
もちろん彼は首謀者ではない。単なる臆病者だった。
勇気ある男なら、何かしら対応策を考え、説得ないし、対峙する道を選んだことだろう。
もはや失言など誰も追及しまい。
安全な場所に身を隠した岡村は、暖かい炬燵で足を伸ばしながら、テレビに映る国会の様子を眺めていた。
命あっての物種だ。
禊が済めば、返り咲くことなど実に容易いのだから……。
SS44 大失言