お化けをパスされた話

 旅行先でお化けをパスされた話です。怖い話ではありません。

序章

 今年の夏、友人と男二人で沖縄旅行に行った。
 友人(以下A)が写真好きで、ある場所からの景色が撮りたいって言い始めたんだけどさ。そこ、ちょっとした心霊スポットらしかったんだよ。ネットで調べたら、WW2の時に戦闘のあった区域って書かれてたし、日本兵の霊がよく出現するそうなんだ。
 俺は、子供の頃は変なものが見えたり、死んだ人の声が聞こえたり、プチポルターガイストに遭ったりしてたけど、今はほぼ遭遇しない。だけど、Aは家系的に憑かれやすいらしく、月初めには家に必ず盛り塩したり、常に数珠を持ち歩いているくらい幽霊とかを連れてきちゃうとのこと。修学旅行で慰霊碑や戦場跡とかに行くと、自分や周りが体調崩したりぶっ倒れちゃう、なんてよくあることだったそうだ。
 だったら行くのやめた方がいいじゃんって言ったんだけど、Aは写真は撮りたいと。またタイミング悪く台風とバッティングしたから、海にも入れなくて暇こいてたんだ。しょうがないから、車とばして行ってきた。ちなみに、ジャンケンで負けたから、その日の運転は全部俺。

現場

 で、ちょっと道に迷ったけど、昼前くらいには目的地に着いたんだ。
 車から降りた瞬間、思わず俺達は顔を見合わせた。ここ、やべぇって。そこの周辺に住んでる人は気を悪くするだろうけど、鳥肌と悪寒が止まらねぇの。無能力者の俺でもこんなやべぇって、ホントにやべぇよ! お前もっとやばいんじゃね!? って、馬鹿みたいにやべぇやべぇ言ってた。
 眺めは本当によかったんだけど、生々しい戦闘の痕が当たり前にあって、びびッた。
変なものが写りこんだりするなよ~、って急いで写真撮って、慰霊碑とかにも片っ端から手を合わせて、そそくさと公園を出たんだけどさ。長い階段があったんだけど、そこが特にゾクゾクする場所で、頭とか腰とかすごい痛くなった。引っ繰り返って落ちないように、手摺を掴んで慎重に、でも早足で降りてった。

 そいで、車に乗り込んだで一息ついたら、途端に大雨になってさ。多分、スコールだったんだけど、飛沫で前もろくに見えないくらいの雨だった。怖ぇなぁって言いながら、あまりに雨が強いから車も出せず、ぼーっと待ってたわけ。そうしたら、さっきから痛かった頭がガンガン痛み始めた。腰もかなり痛くて、座ってるのもしんどかった。心なしか、肩も重い気がした。Aにそれ言ったら、お前連れてきたんじゃね、とのこと。俺の症状は、霊障ってやつらしい。だから、怖かったけどバックミラー確認したんだよ。まぁなにもいなかったんだけど。いたらどうしたんだろうな。

 五分くらいしたら雨がやんだから、車を出した。ここから離れれば、霊障もなくなるだろうって思って、急いで発車した。その後は頭痛かったけど、一時に比べればだいぶマシになったので普通に観光して、一日が終わった。
その日の夜は、ホテルの部屋で飲もうってなって、コンビニに買い出しに行ったんだよ。酒買いまくって、Aが盛り塩したいっていうからついでに紙皿とアジシオ(普通の塩は5kgパックのデカいやつしかなかった)買って、ホテルに帰った。
 後から知ったけど、盛り塩って、既に中に霊がいる場合は閉じ込めちゃうから危ないんだってね。霊に宣戦布告するようなものだし。
 それも悪かったんだろうな。その夜、見事に襲われました。幽霊に。

お化けへのラッシュ

 酒飲んで、零時くらいに寝た。夜中に、急に目が覚めた。豆電だけ点けてたんだけど、割と部屋の中はハッキリ見えるのね。時計は夜中の二時半を指してた。昼間あんだけ霊気感じるとこにいたから、あー嫌な時間に目が覚めたって思った。小便したけど、怖いしどうしようかなぁって思いながら、部屋の鏡のぞいたんだ。何も映らなくて、安堵したよ。で、横になって寝なおそうとした。
 次の瞬間、Aが急に叫んだ。「やめろぉ!!!! ついてきたのかぁぁ!!!!」って。あぁ、こいつ本当に憑かれやすいんだな、連れてきちゃったのはお前の方だったんだな、ってなんかしみじみと思った。怖いとかはなかったな。俺じゃなくて、Aに憑いてるなら別にいいかって。今ならそんな自分が怖いが。
そしたら、思いもしない言葉がAの口から飛び出た。
「隣の奴のところに行けぇぇぇぇ!!!!」

 おいおい、隣って俺じゃねぇか。なに幽霊パスしてくれてんだよ。っていうか、それでこっち来るわけねぇよな。そんなに聞き分けいいわけないもんな。そう思った瞬間、来たよ。金縛り。
 ズンッ!!!!  って下っ腹にすげぇ衝撃が来たと思ったら、体中が痺れて動かないの。えぇぇぇぇ!?!? さっきまで自由に動けてたのに!?!? 体だけ寝てて頭だけ起きてるとかいうレベルじゃありえねぇよ。体が寝ちゃったならのび○並の寝つきのよさだよってかなりテンパった。
 上になにか乗ってるなら、視えるかな!? って目ん玉だけでも動かしてその面拝んでやろうとしたけど、目ん玉すら動かなかった。ふえぇ~人生初金縛りだよおぉぉ~って小便漏らすかと思った。実際、酒飲んでたから結構小便したかったんだけど。

 でも、時刻は夜中の二時半をとうに過ぎてるわけで。多分、俺が目を覚ましたのも小便だけじゃなくてこいつのせいなんだろうなぁと。安眠妨害じゃねぇかと。その上、元々俺じゃなくてAに憑いてたくせに、Aが隣の奴(=俺)にパス!! ってしたのを素直に言うこと聞いたから、俺のところに来たんだろうなぁと。
 金縛りにあいながら、順々に事情を辿っていったら、ムカついてきたんだよね。ムッカァァァって。でも、言葉が出ない。「お、おぅ、っぅぅぅっぅぅっぅうううううヴヴヴ」みたいな唸り声しかでない。それが余計にムカついて、俺の中でプッツンした。

 プッツンした瞬間、体が動いたので、真っ先に「オラオラオラオラァァァァァァァ!!!!」って横になったまま体の上にラッシュかました。手応えもないし、なにも視えなかったけど、動ける瞬間にラッシュぶちかましたから何発かは幽霊のバカたれに当たってると確信した。

 その後は部屋中の明かりを全部点けて、小便したいのも怖いから我慢して、布団抱きしめながら(く、くるならこいぃ……! でも、ズルイから姿だけはみせやがれぇぇ……)って身構えてた。
 夜中の三時過ぎにAが目を覚ましたんだけど、「なにぃ? 明るいんだけどぉ……」って言ったので、もう一回ラッシュかましそうになった。ちなみに、その時と朝の二回、Aに事情を説明したけど、自分のしたことは一切覚えていないとのこと。人にお化けパスしたくせに。朝には「お前、なんか唸ってた?」とかぬかしやがったから、おめぇは叫んだじゃねぇか!! って肩パン入れた。
 翌日は、思い立って沖縄の始祖神? が祭られている離れ島の洞窟に行ってきた。すげぇ体が軽くなったし、その日の夜はお化けも特に出なかった。捨てる神あれば拾う神あり、ってちょっと筋違いかーなんて思ってた。
沖縄は大好きだから一人でも何回も行ってるし、これからも行こうと思ってるけど、一人で行くのはちょっと怖くなったなぁ。
 ちなみに、Aは旅行中はずっと俺のことを「日本兵」と呼び続けやがった。
 
 おわり

お化けをパスされた話

 いかがでしたでしょうか。肝試しに行って怖い目にあった、っていうのはよく聞きますが(生還してその話ができているだけ、まだマシなのかもしれませんがね……)、冷やかしにいったわけでもなく、ただその「場」に行くだけでも、「ナニカ」は起こるんですね。
 コトが起こった夜と翌日は、びっくりさせられるんじゃないかとひやひやでしたが、結局パスされた日以外は何事もありませんでした。
 実際、ああいったコトに遭遇すると、心霊番組とかの怖さというより、びっくり箱的な怖さが最初に来るもんです。いや、個人的な感想ですが。
 オカルト関係を信じる信じないにかかわらず、そんなこともあるのねぇと思っていただければ、私がこれを書いた意味もあるのかなぁとぼんやり考えております。
 ご一読いただき、ありがとうございました。

お化けをパスされた話

旅行先で、写真撮影に行った「俺」と「A」。そこは心霊スポットとのことだったが、風景を撮りたいので行ってみることに。 真昼間、ふつう~に写真を撮っただけの二人だったが、夜に思わぬ出来事が……。 オカルト好きもそうでない人も、思わず鼻で笑うような話です。怖くないので、ぜひ。

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • ホラー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-12-17

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