花葬

花葬

蟋蟀

彼の葬儀ほど美しかったものは無かったと思います。

母の実家のお葬式でした。母のお姉さんの子供。恐らく私の従兄弟。彼は若くしてこの世を去ってしまいました。
彼の訃報の電話を受けたとき母は忌々しそうに電話を睨んでおりました。

お葬式の参列者の皆さんはどなたも仮面をつけて、夏だというのに長袖の黒い服を身に纏っていました。棺の中の彼はやはり参列者の方々と同じように仮面を被っていました。彼の仮面は参列者の人達より豪華に飾られていたように思います。私は母に言われて仮面は着けませんでした。参列者の方々が黒い服なのに私は真っ白な、それこそウエディングドレスの様なドレスに身を包んでおりました。
それも母の言いつけに従っただけでした。

ふと、参列者の人達の中に私とも仲良くしてくれた従姉妹のお姉さんを見つけました。お姉さんはほんの少し出ているだけでもわかる様な真っ白な陶器のように美しい肌をしていました。鴉の羽のような黒い髪の毛がキラキラと背中に張り付いておりました。
お姉さんは彼の棺に桔梗を入れました。棺の中の悲しい白の中で紫に光る桔梗は、お姉さんの心を表しているようでした。親類の方々もその行動に驚いて仮面越しに何やら話しているようでした。
それでも、お姉さんは全く気にしていませんでした。
何かの本で、桔梗の花言葉は永遠の愛だと知りました。お姉さんは彼と恋仲にあったのでしょうか。それともただ、思いを告げられぬ片思いだったのでしょうか。
どちらにせよ、桔梗の花を送れるほどお姉さんは彼を愛していたということです。
私もいつかお姉さんの様に人を愛する日が来るのかと考えていると母の献花の番が回ってきました。母は私の手を引いて棺に向かいました。
仮面の人達が私を見ていました。
母は私を棺の横に座らせてそのままでいるようにと言いました。
母は白い花を彼に添えませんでした。
棺の横に来れたのでさっきより、棺の中の彼が見やすくなりました。
彼の顔は見えませんがきっと、あのお姉さんが想う方ですからさぞかし美しい方なのだと思います。所々から見える肌は滑らかで、お姉さんと似た陶器のように美しい肌でした。
髪の毛は、白銀で狐を思わせました。
母が言うには彼は身体が生まれつき弱かったそうです。
献花は母が最後で私は棺の中にいる彼の横に座ったまま惚けておりました。
奥の部屋から仮面を被った背丈の低いご老人が出てきて私に言いました。
「贄か」
この時の私にはこの言葉は難しくてわかりませんでした。
「その身を捧げるか」
その言葉も難しくてわかりませんでした。
「だれ?」
私にはそれが精一杯でした。その後で人を指差すのはいけないと母に教わるのですが失礼なことに私は人差し指でご老人を指差していたのです。
「その身を捧げるか!」
ご老人は怒ってしまったようで地団駄を踏むようにして言いました。

それでも、わかりませんでした。

わからないので首をかしげているとご老人はわなわな震えて私を睨みつけました。
「お姉さんお姉さん」
私は仮面の人達に見られながら、従姉妹のお姉さんを呼びました。
「仮面をお取りなさいよ」
私はこんな言葉を使ったことがありませんでした。お姉さんは驚いた様子で仮面を外そうとしました。
「外すんじゃない!!!」
どこからか金切り声が聞こえました。恐らく従姉妹のお姉さんのお母さんだと思います。
「うちの子は贄じゃない!!!」
「お姉さん、こっちへおいでよ」
私が手招きをするとお姉さんは嬉しそうに
「あぁ、連れて行ってくれる?」
そう言いました。お姉さんは仮面をゆっくり外しました。
お姉さんは赤い口紅と黒曜石の目で私を見ました。整った顔がとても美しかったのを覚えています。
「お姉さんが行くのでしょ?」
私の問いかけにお姉さんは鈴のような軽やかな声で相づちを打ちました。
「うん」
仮面を外したお姉さんは棺の彼の仮面も外すと深く深く口づけを交わしていました。
彼は生きていないはずです。彼は死んだと言われておりました。
彼はこの時確かに起きてお姉さんを抱きしめていたのです。
物語のお姫様が王子様のキスで生き返るのに似ていると思いました。
目の前で起こる、現実から離れた事が子供ながらに私の心を擽っていました。
悲しい白い花がお姉さんと彼を祝福するように舞踊っていました。その中でひとつだけ彼の手に握らされた桔梗の花が大きく大きく肥大して彼らを飲み込みました。それっきり、何も起こらなくなりました。
桔梗の花と、狂ったように舞踊った白い花弁が棺の中にありました。

彼らの行方は知りません。

花葬

ご閲覧頂きありがとうございました。
如何でしたでしょうか。
初投稿でございます。
解釈は如何様にも…と、文章力の無さを棚に上げさせていただきます。
こんな感じの文をチマチマと書いて行ければ幸いです。
さて、本文ですが。
お花の話ですね。書きたかったのです。
不思議な感覚になってもらえればなぁと思います。

花葬

花と怪異の話。

  • 小説
  • 掌編
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-12-15

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