きえていく、ほんとうの流星

とってもみじかいお話です。
絵本のような語り口の、フィクションです。

今日は、「よふかし」して良いよって
おじいちゃんが許してくれた。

いつもなら夜の9時には
いっしょに畳の部屋に行くのに、

今日だけは良いんだってさ。
変なのって 思ったけど すぐわかった。
今日はりゅせいぐんが来る日なんだ。

数えきれないおほしさまのうち、
200こくらいだったっけ
飛んでいってしまう日なんだ。

りゅせいぐんを見るときは
月のあかりも明るすぎるんだ。

だから いつもよりずっとずっと
「よふかし」をして
月が山のむこうに行くのをまたなきゃいけないんだって。

おじいちゃんは、
ふたござのりゅせいぐんだけは
欠かさずにみるんだって。 

ことしは僕をはじめて連れてってくれる。
うれしいなあ。

ぼくはもっている服のなかで、
いちばんあったかいジャンパーをきて

おじいちゃんはいつも着てる、 
がさがさ音のする上着をきて

暗いお外にでかけた。
そらには 星が でていたけど
街灯があかるくて ちょっとみえにくかった。

だから もっともっと暗いところに行くんだって 
おじいちゃんの、
かさかさの手をにぎりしめながら、

ずっと空をながめていたけど
りゅせいぐんはみえなかった。
おじいちゃんはたぶん 
ちょっと笑ってたとおもう。

なんのあかりもない まっくらな所についた。
おじいちゃんの顔も よく見えないくらい。

おじいちゃんは空をゆびさして

「ほら、あれが、オリオン座だよ」っておしえてくれた

すごくあかるい星ばかりの星座だから 見つけやすいんだって。

「あの、オリオン座の、ちょっと左をみててごらん」って言うから

まばたきもしないで そこをじっと見ていると
急に、はりの穴くらいの星が出てきて ぴゅーっと飛んできえてしまった。

「あれもいちおう流星群だ、でも、あんなちっちゃいのはね、
 いくらでも見れるよ、ほんとうの流星群はな、ええと」

そういいながら、おじいちゃんはがさがさの上着からマッチ箱をとりだした

「マッチの火をよくみるんだよ」

そして、そのマッチを勢いよくこすって、遠投をするみたいにうでをふったんだ
一瞬だけど すごくおおきなひかりが走ったようにみえた

「こんなにおおきな流星なんだよ、『ほんとうの流星群』は」

ぼくは目を きらきらさせて早くみたいって言った
けど、おじいちゃんも 『ほんとうのりゅせいぐん』は
ちいさいころに一度だけしか見たことがないんだって

『いちおうりゅせいぐん』がひとつ流れるたびに 
すこしずつおじいちゃんはおはなしをしてくれた

「おじいちゃんにも、おまえとおなじくらい小さいころがあってな、
 おじいちゃんのおじいちゃんが、わしを流星群を見に連れてってくれたんだ。
 ちょうど、おまえと同じくらいのときになあ。
 そのとき、わしのおじいちゃんはな、『いのち』のことを教えてくれたんだ」

「『いのち?』」

「そう、いのち。人はね、いつか、おほしさまになるんだよ。
 あんなにたくさんあるだろう?名前もしらない星がたくさんあるだろう?
 みんな、もとは人だったんだ。けどね、この世でやることがぜんぶ終わると
 ああやって空からずーっと、地球を眺めるようになるんだよ」

「おじいちゃんは、まだまだ、やることがたくさんあるんでしょう?
 たくさん、『このよ』にいるんでしょう?」

「いや、たくさんは、無いんだ。いくつ、とはいわないけれどね。
 また、『いのち』のことだけど、おほしさまは、これまた、
 地球をずーっと眺めているわけじゃあないんだよ。
 いつか、『ほんとうの流星群』になって、ほんとうに、何もなくなるんだ。
 もう、地球を眺める必要も無くなった時、最後に輝きながら消えて行くんだ。
 『いのち』の話はね、これだけだよ。
 わしはな、わしのおじいちゃんといっしょに、この場所で、
 『いのち』の話をきいたあとすぐ、『ほんとうの流星群』をみたんだ」

「すごい!でも、その星は、ほんとうに消えちゃったんだね」

「うん、そうだ。けど、悲しいことじゃあ、ないんだ。
 それからな、おじいちゃんのおじいちゃんは、
 すごいぞ、すごいぞ、って言いながらわしを強くだきしめたんだ。
 わしはな、"おじいちゃんのおじいちゃん"は、初めて『ほんとうの流星群』を見たんだと思っていた。
 けどね、違うんだと思う、わしのおじいちゃんも、小さいころにあれを見たんだ。
 他でもない、この場所で、オリオン座の左側を眺めて。『いのち』の話をきいたあとで。
 今日は、それを確かめに来たんだよ。だから、お前が一緒じゃないとだめなんだ」

「おじいちゃん、むずかしいよ、よくわからない」

「良いんだ、ただ、覚えていてくれればね。さあ、オリオン座の左側を見るんだよ」

それから、ぼくがおじいちゃんに何を話しかけてもおじいちゃんはだんまりだった。
もう、20分くらいはたっただろうか、というころに、
オリオン座の左側がきゅうに光って、大きな、丸い光になって
大きくカーブしながら、光の尾を引きながら、『ほんとうの流星群』が流れた。

僕はもう、声もでなくて、ただ、そこにたっていることしかできなかった。

おじいちゃんもしばらく、同じところを眺めたまま、じっとしていた。
そしてふと、おおきくてはっきりした声で、

「やっぱり、ふたごの流れ星だったんだ。」

と言った。
そして、僕のほうを向いて重い手を僕の頭の上にのっけて、

「おまえも、ちゃんと、『いのち』の事がわかったんだな。えらいぞ」

と僕をほめた。けど、なんでほめられたか、よくわからなかった。

もう、さっきみた、『ほんとうの流星群』が、
現実だったのか、夢だったのかも、よくわからくなってしまった。

少しして、おじいちゃんに手を引かれながら、家に帰った。

お風呂に入って、いつもよりずっとおそく、
おじいちゃんと一緒に畳の部屋に行った。

なぜか、なかなか眠れなくて、

「おじいちゃん、来年も、りゅせいぐん、行こうね。
 また、『ほんとうのりゅせいぐん』を、みたいよ」

と、声をかけてみたけれど、
おじいちゃんは、いつもどおり、すぐに寝てしまったようで、
返事は返って来なかった。


おじいちゃんは、来年の「双子座流星群」を待たずに、
お星様になってしまった。

すごく悲しかったけど、おじいちゃんは、ちゃんと、
オリオン座のちかくで僕を見てくれてる。
『いのち』の事をちゃんと覚えていて良かった。

もう少し、大きくなったら、ひとりで双子座流星群を見に行こう。
ぼくがおじいちゃんになっても、ずっとずっと見に行こう。
『ほんとうの流星群』がもう一度見れる日まで。

きえていく、ほんとうの流星

読んでいただきありがとうございます。

変わっていく世代を、流れ星に託したひとたちのお話でした。
これは、実話ではありませんが、本当の意味で環境に恵まれて育ったと思っている、
僕の幼少時代の経験を元にして書いたものです。

田舎には何も無い、というのが当たり前のように言われますが、
都会には無いものが何でもあるのです。なぜ、大きなビルやゲームセンターのみが、
『有るもの』として認められるようになってしまったのでしょうか。

うまくピントを合わせることが出来れば、自然ほどに僕達に語りかけてくるものは有りません。
今回は流れ星でしたが、ほかのどんな「自然」たちにも、人間の思いは息づくものだと思います。
形ある物質が豊かな今、一歩自然に近づいて、その呼吸に触れれば、
忘れかけていた感動や、今は亡き人の心が伝わってくるかもしれませんね。

きえていく、ほんとうの流星

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2010-12-17

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