私の心

「人は神様に祈るでしょう?」

「でも、神様は私たちに何をしてくれたのかしら?」

イエス様もマリア様も、アッラーも天照様も私にはよくわからないのです。
人は神様のおかげでなんだってできるようになって、でも結局何もしてくれないことに気づくのです。

「神様はいるよ」

「世界の全てが神様なんだよ」

でも、私にはそれだって何がなんだかわからなくって
この世界であくせくしながら生きていることがとても恥ずかしくなりました。
この世界の神様が私に何をしてくださったのかもわからなくて、普通と違うのですから

「でも、私にはなんだかよくわからないわ」

「あなたはどうやって神様を感じているの?」

彼は少し考え込むようにして空を見上げているような雰囲気で何かを見ていました。
その目には私には見えない神様がきらきらと輝いているように見えて少し羨ましく思いました。

「僕は生きていることが神様だと思うんだよ」

「空気があって、水があって、空があって・・・」

「それがみんな神様に見えるんだよ」

結局彼の言っていることは私には感じられないものでした。
彼がどの宗教に入っているかも知らなければ、彼と話すことも実は初めてだったからです。


彼と初めて会ったのは、教会の前のベンチでした。
私は神様が何なのかを探すために教会に来て教えを聞きに来たのですが、
神父様は神様がなんなのかを教えてはくれませんでした。
神様のことについては事細かに話してくださりますし、人間がやってはいけないことを教えて下さるのですが
やっぱり神様が何であるのかを言葉にして紡いでくれはしないのでした。
私は何もかも嫌になって、教会の前のベンチで聖書を読んでいたのです。
それでもやはり神が何なのかわかりませんでしたが、読んでいるうちに聖書に影ができたのです。
ふっと目線を聖書から上げてみるとそこに居たのはとても日本人には見えない金髪で目の蒼い男の人だったのです。
その方は「信心深いのですね」とだけ言って去ろうとしましたから、私は「そうではないのです 私には神様がよくわからないのです」
と答えたのがはじまりでした。

そのあとは私に彼の神様のことを教えてくださりました。
でも、彼の神様は抽象的といいますか、なんだか形がないのです。
私が知りたいのは神様の形なのです。神様が人の作った創作物でないのならば、その根拠と理由が欲しいのです。
神の中には生贄を欲するものもいると聞きますが、なぜ人の作った創作物が人を殺してしまうのかも私には調べれば調べるほどにわかりません。

結局、彼とは夕暮れ時に別れて私は家に帰りましたがいくら考えても彼の考え方が分かることはなかったのです。

「今日はいったいどうしていたのですか?」

母はそれきり言うと、食事に戻りました。
私は神様がいるのかどうかを調べていたと正直に言えるほど常識をなくしてはいませんでしたし、かといっていえば恥ずかしいでしょうから

「図書館に勉強をしてきました。」

とだけ言いました。

母は少し疲れた顔で何かを見るが如く私とは違う遠くを見ながら言いました。

「あなたはもう32でしょう? そろそろ勉強だけではなく結婚してほしいものです・・・。」

「明日にはまたお見合いの話があるでしょうから、父様から呼び出されたらすぐに行くのですよ」

そう結婚!!!
神様に永遠の契を交わすというあの結婚!!
神様の理解できない私にはあの行為すらわからなくなってしまっていました。
兄は既に結婚し、お義姉さんと子2人で暮らしていますが、その様子を見ても私には契が理解できずに悩んでおりました。
私の家系は華族であり、貴族でしたのでお見合い結婚が普通でしたが、私がこんなことばかり考えているせいで両親は困り果てておりました。
兄は既に結婚し、妻を招き入れ子も生んでいるので跡取りは問題ないのですが、やはり娘が32にもなって独身は世間体の悪いものでした。
ですから両親としては早く私を嫁がせて、楽になってしまいたいとお考えのようですが、やはり私には荷が重すぎたのです。

翌日の早朝はあまり気分の良いものではありませんでした。
ベットから体をあげようとしてもなかなかあがらず、気だるさが部屋に靄をするように充満していたのです。
その日の昼には父様から呼び出され、今回のお見合いの相手の写真を見せていただきました。
イギリス人と日本人とのハーフだそうで、もう跡継ぎも決まっているゆえに外国の商人とのつながりが欲しいといった理由でした。
その方は見れば見るほど昨日の教会の前であった方に似ていて(もしくはそうなのかもしれませんが)私はなにか運命といったものを少し信じてみるような気がしました。

お見合いの日時も決まり暇をしていたある時に、ふとあの方が気になって教会に足を運びました。
その頃には私のなかでの神様は彼の考えに近いものに固まりつつありました。
もうすっかり街路樹の木は紅葉しており、はらはらと落ちてくる葉をとても儚いものとして見ておりました。
少し寒い気もしておりましたが、彼に会って私の固まりつつある考えを聞いていただこうと、なんだか気持ちが高揚しているようで
あまり寒くは感じませんでした。
一時間ばかりかベンチに座りながら本を読んでおりましたら、待ちわびた彼が教会にやってまいりました。
私ははやる気持ちを抑えつつ、あくまでも貴族としての挨拶をして彼に話しかけました。

「ごきげんよう またお会いしましたね」

「あなたに会うのを心待ちにしておりました」

彼はいきなり声をかけたのに驚いたのか、一瞬私が誰だかわからなそうな顔をした後、私を思い出したようにして挨拶をかえしました。

「ああ あなたは先日お会いしたお嬢さん ごきげんよう」

「わたしを心待ちにしていたとはどういったご要件でしょう?」

彼は紳士的な振る舞いをしながら答えました。
私はあまりの美しい振る舞いに少し気後れしながらも、自身の考えを言葉に紡ぎました。

「私はあれから神様が何であるのかを考え続けたのですが、私の考えは神は何にも存在するといった結論になりました。」

「・・・ それは何故でしょうか?」

「私にとって神様は人でもありそこに存在する一部に過ぎないのです。」

「私がいくら悩もうと、神はどこにでも存在するのです。 そして人間は困ったことをなんでも神様に押し付ければそれでよいのです。」

彼は私の考えを聞いてよく頭の中で咀嚼し、飲み込んだのでしょう
彼の考えが言葉となって吐き出されます。

「しかし、その困ったことは後に人間に降りかかるのではないのですか?」

「その通りです。 それが人の罪なのです。」

彼は私の考えが読めたのかとても晴れやかな顔になり言いました。

「貴方の考えは、正解の一部なのでしょう。 私の考えと似ているような気もします。
もしかしたら僕たちは似た者同士なのかもしれない」

「似たもの同士ですか・・・?」

「ああ その言葉がとても合うような気がするんだ」

「僕は近々お見合いがあるのだけれど相手の写真は君によく似ていた
僕の相手があなたのようなひとであれば嬉しい」

「あら 珍しいこともありますね 私もお見合いがあるのです
写真はとてもあなたに似ていらっしゃいますわ」

「もしかしたら私たちは神に選ばれたのかもしれません」

「それはとてもロマンティックなことだ それが教会の前なのだから尚のこと」

「そうですわね」

私たちはこの日はあとはたわいもない話をした後に別れましたが、また近々会う約束をしました。

しかし、その日は来ませんでした。
私が家で読書をしているときのことです。
小間使いが父様が呼んでいると言って私を父様の部屋に連れていったのです。

「残念だ 実に残念だ あのお見合い話はなくなってしまった」

父様は私に理由を話してくださいました。

「彼が車に跳ねられて死んでしまったらしい ああ 今度こそ結婚相手が決まったと思ったのに!!」

「・・・」

私は何を言われているのか理解できませんでした。
その日は葬式に連れて行かれて棺を見ましたが、顔も分からぬほど酷い事故だったそうで
その男性の顔には白い布がかぶせてありました。

その二日後 彼との約束のため教会のベンチに向かいました。
しかし、彼は遂にくることはなかったのです。

神はやはり存在しないのかもしれません
ですが、もしかしたら彼はくるのがお嫌になってしまわれたのかもしれません。
ですから私は神様を恨みきれませんでした。
やがて雪が舞い、春の訪れが垣間見ることのできる季節になりましたが、私の心はあの紅葉の秋からなにも変わってはいないのでした。

私の心

私の心

短いですから読んでみてください。 こういったお話を書く事は初めてなので、ほかの人の反応がしりたいです。 題名はないのですが書かないと投稿できないみたいなので、適当ですがつけました。 どうぞよろしくお願いいたします。

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-02-07

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