人間カイロ。

人間カイロ。

「いい男の条件!」



・容姿端麗。 【○】※私はかっこいいと思う。
・頭はいい。 【?】※わからない。
・運動神経抜群。【◎】※足がめっちゃ早い。
・優しい。 【◎】※かなり遠回しで伝わらない事が多い。



私の彼氏、古泉伊月はいい男の条件を悠々と満たしていた。こうしてノートに書き出すことでわかることがある。彼はかなりパーフェクトな男なのだ。彼の欠点を除いて。古泉くんはクソみたいに口が悪い。最悪なくらい。よく私が言われるのは

「アァ? うるさいよ、イグアナ。お前、イグアナに似すぎ。もうお前、アフリカの熱帯雨林に帰れ。ここにいると保護されんぞ。」

彼女に言うには少々キツイ言葉だ。イグアナは酷い。せめて哺乳類であってほしかった。だけどそんな彼を私は大好きなのだ。いくら口が悪い残酷な奴でも愛しちゃってるのだ。



古泉くんは時に優しい。例えば雪が降る冬のある日。二人で歩いていると手袋を持っていない私に古泉くんは片方だけ手袋を差し出すのだ。そして手袋をはめてない方の手で手を繋いでなんでもないような顔でまた歩き出す。彼は不器用で。優しい。自惚れかもしれないが私は彼に大事にされているのだろう。寒い日の両手は彼といる時いつも暖かいから。キスなんて恋人らしいことは滅多にしないし、甘い甘いデートなんて絶対にしない。自宅でゴロゴロと1日を過ごす。これが私たちの当たり前だ。幸せだった。古泉くんといるといつも心が暖かった。


古泉くんははっきり言ってモテる。硬派な男なのだ。容姿端麗。優しい。さらに普通の男なら恥ずかしがってやらないような事まですんなりできる。というか自分で自覚がないらしい。無意識のうちに女の子に壁ドン。なんていうのはザラだった。それ故に軽い男に見られることも多かった。だけど古泉くんは一途だ。アホみたいに。あるハマったバンドがあったならそのバンドは一生好き。みたいな人だった。彼は音楽が好きでそれがきっかけっ付き合うことになった。それは学校祭。


私はギターを愛していた。むしろギターが恋人みたいな奴だった。それはクラスのみんなは知らない事実だった。もちろん古泉くんも。


私は学校祭でバンドとして出る予定だった。ギターとボーカルで。歌には自信がなかった。だけど私以外にやる人がいなかったのだ。日は早々と過ぎ本番になった。ギターは順調だった。が。歌がまるでダメだった。私は声量がない。だから、本番もマイクに頼ろうと決めていた。だけど学校のマイクは古くて雑音も多い。私の声なんてまるで聞こえなかった。全校生徒700人の白い目とざわめきで倒れそうだった。その全校生徒の中の一人。同じクラスの古泉くんだけ嬉々とした表情でこちらを見ていた。そして前の方に移動してきてライブ感覚で私たちの演奏を楽しんでいた。それが嬉しくて私も笑った。学校祭からの数日は憂鬱で最悪だった。みんなの目が怖かった。だけど演奏中はとても楽しかった。それが私と古泉くんの最初の出会いだ。きっと古泉くんの一目惚れだったのだろう。ギターを弾く私に音楽好きな古泉くんはイチコロだったのだ。それから数週間後、私は彼に告白された。




こんな平和な日々がずっとずっと続けばいいな。古泉くんとずっとずっと一緒にいれたらいいな。2人でいたら怖いものは何もないね。その分喧嘩もたくさんしようね。古泉くんとならどんなことでも仲直りできると思うから。ぁ、それからたまには外でデートもしたいね。普段はしないキスをドラマみたいに映画館の後ろの方に座って誰にもばれないようにこっそりしてみたいな。あとね、もしもね、結婚することになったらさ、私、ウェディングドレスより着物が着たいよ。私はイグアナで寸胴だからドレスは似合わないから。それに、古泉くんは何を着てもかっこいいけどきっと着物のほうがかっこいいから。



古泉くんのことを考えるとたくさんたくさんやりたいことや
言いたいことが浮かんだ。


それを見ていた古泉くんは、


「何ニヤついてんの。気持ち悪いよ。ぁ、イグアナ、そこのリモコンとって。」


なんていうから


「うっせ!誰がイグアナだ! はい、リモコン。」

「お前だよ。イグアナ。 ありがとう。」


なんていうのが日常で。

とても幸せなんだ。私。
だから、古泉くん。ではなくて伊月に質問をしてみた。


「ねぇ、伊月。なんで私に告白したの?」

「んー。」


「ん?」


「俺はな、貰い手のない可哀想なイグアナを保護しただけであって告白はしてないぞ?」



「は?てめっ、ふざけんな!誰が野良イグアナだ! おぅ?なんですか。じゃあ私は今飼いイグアナですか。おぅ?」

「そーゆーことですね。」


「伊月に飼われるなら、もっと可愛い動物が良かったな…」


「んー? いいの。お前はイグアナで。」


「なんでよ!」


「可愛いから。俺はイグアナを可愛いと思うから。お前の良さは俺だけ知ってればいい。 イグアナ、可愛いし。俺みたいなイケメンにこんなこと言われてお前幸せだな。もう少しで死ぬんじゃねぇ? イケメンにこんなこと言われたから。なぁ、イグアナ。」


「なんだ。偽善イケメン。」

「偽善イケメンて。笑 」


「で、なんだ。偽善イケメン。」

「泣くなよ。鼻水出てんぞ。よりイグアナに磨きがかかったな。 鼻かもうな、はい、チーン。」


「ありがとう。偽善イケメン。」



「なぁ、イグアナ。」

「なんだ。偽善イケメン。」




「俺たち、結婚しようか。」





あぁ、本当に私は幸せだ。伊月とならどんなことでも乗り越えていける。仮定が確信に変わった。例えば私が病気になって余命3カ月になっても伊月は普段通り、私をイグアナと呼んで古いこのマンションで2人でテレビを見る。それが私の幸せだと伊月は知っているから。下手な愛の言葉なんて言わずにくだらない言い争いを死ぬ間際までやって、最後に私は伊月にありがとう。と笑いかけるのだ。



ねぇ、伊月。これからも2人であっためあっていこうね。手を繋いでなんでもない顔して歩こうね。手袋がなくても寒くないよ。伊月は人間カイロだね。あったかい。心があったまるカイロ。


ねぇ、伊月。プロポーズの返事。してもいいかな?



「よろじぐおねがいじまず」



「はいはいはい、泣かないの。はい、チーン。」

人間カイロ。

人間カイロ。

毒舌クソ野郎 とその彼女 イグアナ の日常。

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-12-08

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