Blue♡LOVE

春風に走る少女

朝。静かなひと時に似合わないバタバタという音。

ひとりの少女が通りを駆け抜けている。

右足重心で思い切りカーブ。そして、水たまりを勢いを付けてジャンプ。

おしとやか……とは言えない動きだ。

今はもう八時をまわりそうだ。商店街の時計を見た少女のスピードは二倍になった。

横で束ねているストレートで胸まである髪が風に遊ばれている。

お花の可愛らしいピンで止めた長めの前髪もたなびいている。

あのセーラー服は、確か中部中学校のものだ。

俺の妹も同じ中学だから、すぐに分かる。

もうそろそろあの子がここからは見えなくなる。

俺ももう一度寝るか。せいぜい遅刻しないようにな。

俺は、まだ肌寒い空気からバリアを張るように、布団の中に移動した。

あたしの始まり

あたしは足をようやく止めた。

中部中学校の二の一の教室前。チャイムまであと一秒!

ドアをばっと開く。みんなの視線が集まる。

今まで忘れていた疲れがどっと出てくる。一人の男子が言う。

「今日のホームルーム、先生いねぇぞ。」

呆然と立ち尽くすあたし。みんなの笑い声が響く。

親友の桃と心も苦笑している。

「あー……。桜らしくて、うん。」

桜らしいってどんなだよ。無駄にむなしくなったあたしは自分の席についた。

えーっと。このむなしさを飛ばすためにも自己紹介を。

あたし、青井 桜。青春していない中二。女子力0で男子が苦手。

もちろん、恋してない。ところがどっこい!意外とモテチャッテタリする。

何でだろうな。スポーツダメで、勉強は持ち前の根性のおかげでできるだけなのに。

これは、永遠の謎であろう。

うーん。自己紹介も終わったし、暇になるなぁ。

……って、ホームルームまだ始まってない?!

その時、隣の草原に声をかけられた。

「お前のドジ、なんとかならねぇのかよ。」

「ま、待ってよ。あたし今日、一度もドジしてない!」

なぜかみんなこっちを向いている。え?

草原が黒板を指差した。日直と日付しか書いてない。

あ、今日の日直誰なんだろう。

『五月十日 青井 桜』

……。無言で立ち上がって、前に進む。

草原の机をちょっと蹴ってからだけどね。

ブツブツ言いながらも前に立った。

さて、ちゃっちゃと終わらせちゃいますか。

ーここから、あたしの日常が始まるー

分かれ道

無事、一日が終わったあたしと心と桃は帰宅中。

そうそう。二人の紹介をしておこうか。

藍澤 心はおとなしめで女の子っぽい。

ふわふわなボブで小柄だから、子犬みたいで守ってあげたくなる。とってもかわいい。

吉野 桃はスポーツ少女でいつも元気。

猫目でポニーテールだから、見た目から運動神経が良さそう。でも、乙女。

結論的には、二人とも女子力が高いんですよ……。

ボケーっとしていると、ふいに心が振り向いた。

「ちょっとぉ!聞いてる?もう、桜ってば。」

「あ……。ごめん、聞いてなかった!たはは。」

桃があたしの両肩に手を乗せてきた。そして、言った。

「そうそう。桜の恋についての話なんだからさ!本当にいないの?」

あたし、びっくりして凄いスピードで振り返った。

「よ、余計なお世話だよ!二人の応援だけで、充分だし!それに、恋なんて……。」

あたしは言いかけてハッと止めた。まだ、言えるくらい古傷は治ってない。

まぁ、前から親友だった桃は知ってるけどね、あたしの元カレ話。

……しまった。二人が心配そうにこっちを見てる!

わ、話題を変えて……と。

「え、えと!二人はいないの?じゃあ、まず心!」

心は頬を真っ赤に染めて言った。

「居るよ……。といっても、今週好きって気付いて。」

だれだれ?!と、桃と詰め寄る。

「浅賀 星」

へぇ。同じクラスなんだ。読み方はショウ。珍しいでしょ?

「わぁ、そうなんだ!まぁ、優しいんじゃない?イケメンで。」

ね?と、桃を見ると、あたしが予想していた反応じゃなかった。

桃はハッとして、弱々しい笑みを見せただけだった。

心も心配そうに両手でバッグをギュッと抱えた。

いつも長話をして別れる道を、今日は雰囲気的に素通り。

すぐに、それぞれの道に進んだ。

心がザワザワする。桃のくるくる動く大きな目に正気がなかった。

もしかして……。あたしは、不安を胸に決意した。

空には、さっきの空だと思えない暗い雲が広がっていた。

真実は明らかに

あたしが今いるところは学校の秘密ルーム。

といっても、ただの階段にあるスペースなんだけどね。

昼休みに入って即来た。桃を連れて。やっぱり、元気ない。

「どうしたの?いきなり呼び出して。」

桃があたしの横に腰掛けた。甘いバニラの香り。シャンプー、今度聞いてみようかな。

「分かってるでしょ。」

びくっと動揺したのが分かった。桃は膝をギュッと抱え込んでポツリと言った。

「そうだよ……。自分も、好きだよ。もっと、前から。」

あたしは桃の震える肩に頭を預けた。

「自分が心よりも全然可愛くないことも知ってる。だけど……諦めないから。」

小さく、でもはっきりと桃が言った。顔を上げたあたしは微笑む。

「諦めなくてもいいよ。二人とも応援しちゃう!」

ガッツポーズをして立ち上がったあたしを見て、やっと笑った。あたしの顔も自然とほころぶ。

心にはまだ言わないと約束して、あたし達は階段を降りた。

その頃にはもう、いつもの明るい桃がそこにあった。

まさかの……

次の日。あたしの足取りは重い。久々に早く起きたのだが、みんなはまだ家だろうな。

爽やかでまだ少し冷たい風が背中を押す。桜が並んだ道を上を見上げながら進む。

普通、こんなに気持ちのいい朝は軽いステップなはずだろう。

まぁ、昨日の席替えさえなければ、ね。ぐだぐだ言ってても仕方が無い。

結論から言うと、あたしは草原の隣になりましたとさ。嫌いな訳ではない。

ただ、問題はそこじゃない。あたしの前後が、心・桃!

頭上を見上げすぎて足元をすくわれた。ふわりと桜の絨毯に膝をつく。

ため息をほぅとついてから、また歩き出した。

その時、後ろから声がした。可愛らしい声。

「桜!今日は早いね!」

そう言って微笑んだのは心だった。早いな……。

「おはよ、心!訳あって席変われなくてごめんね。」

首を横に強く振りながら心は言った。

「いいよ、いいよ!桜と桃と近くて嬉しいし。」

…可愛いこと言うじゃないか。

「大好きーーー!」

あたしが抱きつくと後ろから笑い声がした。

「ははっ。朝からうるさい奴だなー。藍澤メイワクしてるだろぉ。」

「うっさいな!心は優しいのでそんな風に思いません!」

そう、草原が立っていたのだ。心は真っ赤になる。

草原が軽く笑ってから走っていった。軽快なリズム。バネみたい。

心がぽわぽわしているので、引っ張って学校まで来た。そうとう嬉しかったのだろう。

教室のドアを開けると、新しい席が広がっていた。

「おはよっ!」

Blue♡LOVE

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  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-12-07

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  1. 春風に走る少女
  2. あたしの始まり
  3. 分かれ道
  4. 真実は明らかに
  5. まさかの……