practice(156)



 閉じた鋏がゴトンと置かれ,恐らく手紙を収めていた封筒の口が開いた。あなたがそこを覗き込み,やっぱり手紙を引っ張り出した。折られて,折られた横書きが一枚,二枚,強く擦るようにして,のりっぽさと剥がれた三枚。目を細めたあなたが言った。私が頼まれて,新調した老眼鏡を近くの棚から取ると,フレームが部屋に冷やされていて,暖房はまだ広がりきっていないようだった。「首振り機能」は切り,少し歩いて,物は渡して,プレートを重ねたトレイとともに,洗い場に運んだ。戻って来て,戻って,来た。取ってきた乾いた布巾を水に浸した。出してあったカップをかたかたと選び直して,新しいものを箱ごと,慎重に下ろした。段ボールに爪を立てて,空振りみたいに力が抜けたぐらい,硬い梱包に,どうにか緩みを作れた。嘘みたいにカタッと開き,バラバラに出して,色と模様でペアに並べた。このカップから水洗いをし,次にあのカップを,という要領で。瓶に入ったインスタントものを手の中に収め,あなたを見,これでどう?という意味で振った。手紙の二枚目に目を通していたのであろう,あなたは,顔を上げて,表情を変えずに,大きくなった目でこちらを見た。
「いいんだよ。」
 という低い声で,教えた。
 蓋を開け,スプーンを掬う。そうしたら,あなたはすぐに手紙に戻ってまた,じっと動かずに,視線を横に横にと動かしていた。時々頷いて。
 


 写真立ての人物。外に比べて明るい室内灯の反射で,青いジャケットや赤いネクタイ,グレーの長いズボンといったところばかりが目立っていた。一人ひとりは分かる。埃も払った。衝立のネジも締めた。彫られた木の枠に塗られた,拙い絵の具も変わらない。
 湯気がたつ。つまみを捻った。



 ニュースペーパーを開き,記事を読んだ。寒いところで降りはじめた雪の天気に続いた,大きなタイヤを動かす車が,ゆっくりと道を拓く様子で書かれていた。関連する悲しい出来事も,注意を促す気づかいも,同じ色の文字だった。半分ずつで,クラッカーを割り,お皿に分けて,私は次の頁に移った。目の前であなたが飲み物を飲み,熱さを和らげて,曇りが晴れるまで,待っていたのを知っていた。嬉しいことを口にした。短い反応ののち,あなたは手紙に戻っていった。私が飲み物に口をつけた。あなたがちょっと,摘んだ。
「他には?」
 顔を上げないで,朗々と,読み上げられた。
 
 
 

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-12-06

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