ゼダーソルン 編入許可 そのニ

ゼダーソルン 編入許可 そのニ

編入許可 そのニ

 ツウィーク・シェ・イニーがみんなに最後のあいさつをしたのは、今日一日分の授業が終わって、全員が席を立とうとする寸前だった。
 それはクラス担任のチェサ先生がイ二―の家の事情を説明するところからはじまった。
「よってイニーは、お父さんの仕事のつごうでポッツビーツ州へ引っ越すことになった。学校もポッツビーツ宙空都市にあるペイル・フォリイド1180校に転校する。残念だがみんなとは今日でさよならだ」
「いままでありがとう。ぼく、むこうにいってもみんなのこと忘れない。元気でね」
 なにかと対抗意識をあおるノウプ・フォリイドやリシュワントへの編入とちがって、転校はみんなもどこか同情的だから、こんなときはいい意味でクラス中がもり上がる。そこで今日は、みんなすぐに家へは帰らず、ここからそう遠くない駅前通り沿いに立つ複合ビルの一階、リノの母さんが経営する『ラビとヒーツ茶の店』って軽食屋に集まって、生徒主催によるイニーのお別れ会を盛大にやることになってるんだ。
「イニーごめん。俺、今日のお別れ会出席できなくってさ」
「いいよ。シナグは店の手伝いで大変なんだから気にすることないよ」
「ねっ、今度はどんな家に住むの?」
「今日のお菓子、期待しててね。すっごくおいしいのを用意したのよ」
 みんながイニーのまわりに集まって、口々に別れをおしんでるのが気になるけれど、今日のぼくはいろいろといそがしくって、みんなの輪に加わるヒマがない。それに。
「実行委員は全員会場へ急いで。忘れ物、ない?」
 そう、いまの。いかにも自分がリーダーだと言わんばかりのセリフを放った、あの赤毛の女の子が問題だ。
 今回選ばれた実行委員の中でも、いや、断トツでクラス一の仕切り屋だとだれもが認めるキャザ・シイ・アルファネ。なにかって言うと人の上に立ちたがるから、嫌う男子も多いけど、大抵のことはしっかりやってのける実力派なところが買われて、女子と先生たちには絶大な人気がある。だからこそ、大勢の敵を作ることにもなりかねない彼女との衝突は回避するにかぎるんだけど。
「キューン、リノをよんできて。お別れ会の会場にリノのお母さんの店をつかうのはいつものことだけど、今日は特別、キューンのご両親が経営するホテルの業務員専用駐艇スペースを借りて艇を止めさせてもらうんだもの。早くいって実行委員全員であいさつしなくちゃ格好がつかないわ」
「ごめん、アルファネ。チェサ先生によばれたんだ。なんの用かわかんないけど、とにかくいってくる。もどるのが遅れたらリノと先にいっていいからさ」
 相手が先生なら、アルファネも無理強いはできないはず、と思う。
「なにそれ? このタイミングでよびだしなんて信じらんない! いくら『お別れ会』が生徒主催で学校側には関係ないイベントだからって、先生にだって声をかけてるんだから、こっちの都合はわかってるはずでしょう」
 そりゃそうだけど。
「ああっ、もう! ねえ、わかってる? あたしはあと十日もすれば、リシュワントへの編入テストを受けなくちゃなんないの。成績さえよければだれでも編入できるノウプ編入希望のキューンたちとはワケがちがうんだから。もしテストに失敗したら絶対、ぜーったい、あんたたちのせいなんだから」
 そうそう、だからさ、実行委員なんかに立候補しなきゃよかったんだって。
「なにか言った?」
「別に」
 結局小言のひとつも言わなきゃ気がすまないんだな、アルファネはさ。あっ、ぼくらのやりとりに気づいたメセルとパーシイがひそひそ話をはじめたぞ。
「アルファネ、あれてんなあ」
「まあ、あいつはなんでも自分が思うとおりにやりたがるクラス最強傲慢女だからな。だれと組んでもぶつかっちゃうのさ。キューンもついてないよ」
「それはそうだけど、一番の原因は編入テストだろ。ノウプへの編入許可は一年も前に獲得したってのに高望みするからだ。今回あいつが自分から実行委員に立候補したのだって、内申の点数かせぎ目当てだって聞いてるぜ」
「えっ、けど、お別れ会は生徒主催で」
「だからよけいさ。『協調性』があるってところを見せて内申よくしたいって魂胆。リシュワントは内申重視しすぎてて受かるやつがすくないんだ。そのうえ俺たち最終学年の五年生は、どの学校へ編入するにも消費期限切れ寸前だからな。必死なんだろ」
 陰口はよくないけど、アルファネをかばうつもりもない。友情あってこそのお別れ会を、内申の点取りに利用するなんざ無神経にもほどがある。母さんたちといい勝負だ。だからアルファネは男子全員から煙たがられるんだ。

 この学校の職員室のいいところ。それは教職員専用デスクにボックス型ユニットデスクが採用されてるだけでなく、少数ずつのブロックに分けられ配置されてるおかげで、外野を気にせずにすむところだ。聞き耳をたてられることも、のぞきこまれることもあまりないから、どの先生も生徒の重要データをデスク正面に拡大して映しだすのに遠慮がない。それでぼくが一昨日受けたテストの採点結果も、チェサ先生のデスク正面にでっかく映しだされてるってワケなんだけど。
 なるほど。
 いつもの遠慮なしに加えて、まずはよびだされた理由を確認して反省しろってことですね。
 やさしいって評判のチェサ先生にしてはいけすかないなやり方だけど、全7教科合計840点満点中662点しかとれてないんじゃ文句は言えない。
「なぁ、サン。せっかく学力審査の結果がよかったっていうのに、これじゃあどうにもならないじゃないか」
 言われなくっても、ぼくだってショックだ。一昨日はいくら調子が悪かったとはいえ、700点以上はとれてると思ってたんだから。
「ノウプへの編入を決めるためには740点以上はとれてないとな。いいか? ここの教師の俺が言うのもなんだが、ペイルを卒業したっておまえの将来を保障するものはなにも手に入らない。就ける仕事だってロクなもんじゃないんだぞ。事実、いまの社会で重宝がられるのはノウプ・フォリイド中等部卒業以上の学歴で。ああ、そりゃ、おまえの両親はホテルのオーナーなんだから、それを継ぐってものありなんだろうが。だとしても、ホテル経営となると職業訓練校のアークリイド程度じゃ話にならん。やっぱりノウプかリシュワントへ編入して、ローヴァーツ・ウィッツ・マーとはいかなくても、ピッツ・マーの専門課程ヘ進学、卒業しないとな」
 つぎつぎと資料を映して見せてくれる、チェサ先生の親切心がいろんな意味で痛苦しい。
「ぼくは、その、ほかへ編入してもうまくやっていけるだけの自信がなくって」
「けどおまえ、編入志望なんだろう?」
「それが母さんの希望だったから。でもぼくには、編入してまでやりたいことや、その先の未来が見えないから決心がつかないんです」
 先生だけじゃなくって、このごろは自分が発した言葉までが心に痛い。つくづく追い詰められてんだよな。だからこそ説教覚悟で本音を話して、すこしでも知恵を借りたいところなんだけど。
「なんだ、そりゃこまったな。うーん、……いや、まあ、そうだな。おまえもなにかと多感な年頃だから。とりあえず高学歴をとるのを目標にしろと言ったところでナットクできんだろうし。すこし時間がいるな? あまりゆっくりはできんがな」
 あれ、てっきり小言のひとつやふたつはあるものと覚悟してたのに。これならアルファネたちが教室をでていってしまう前にもどれるかもしれないぞ。

ゼダーソルン 編入許可 そのニ

ゼダーソルン 編入許可 そのニ

授業が終わり、お別れ会の会場へむかう寸前で、クラス担任のチェサ先生に呼び出されたキューンは職員室で厳しい現実を突きつけられる。小学5年生~中学1年生までを対象年齢と想定して創った作品なので漢字が少なめ、セリフ多めです。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-12-04

Copyrighted
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