友情
その日は何をやっても駄目だった。ハンバーグを作るつもりが、トップモデル御用達ブランドの鞄の部品を作ってしまったり、洗濯物を取り込むつもりがいつの間にか黒豆を煮始めたりしてしまっていた。
「駄目ね、あたし」
青はそう呟いた。「青」とは彼女の名前で生まれた時に瞳の色が茶色っぽかったから、両親がそう名付けたのだった。
青は大変落ち込んで、何度もため息をついた。しかしそれさえ上手く行かず、結局のところ戸棚の中のお菓子に書いてある、成分表示を片っぱしから音読する始末である。
昼過ぎに友達の明美が家にやって来た。明美は仕事の同僚でスーパーの袋を鍋ブタに被せてひっくり返す、という部門を担当している。因みに青はトップモデル御用達ブランドの鞄をプロデュースしている。
明美とは週末に、乗馬教室に通うという趣味を共有していたので、この日も乗馬教室に行くことになっていた。
「早かったね」
「遅れちゃまずいと思って、ローラースケートで来たの」
「ローラースケートッ!」
青は変なポーズをとった。
「え?」
「今お茶を出すわ」
「あ、うん」
明美にとって青は美人でお金持ちで頭も良い、憧れの存在だったがときどき理解不能なことをするので、その度に戸惑うしか無かった。
「あ、そうそう」
明美はスーパーの袋から何かを取り出す。
「持ってきたよ、鍋ブタ」
「ありがとう、置いといて」
青にとって、明美はスポーツができて、野生味があり、とても魅力的な女性に映ったが、いつも売れ残りの鍋ブタばかり家に寄越すので、部屋が丸々一つ埋まってしまい正直鬱陶しく思うこともあった。
「足りなくなると大変だから、定期的に補充しなくちゃね」
明美は言った。
青ははっとして見ると手元で仕上げていたのはお茶ではなく、猿のぬいぐるみ型カーナビだった。いけないと思い、修正しようと思ったが無理だったので、作り直すことにした。青は情けなくて仕方がなかった。
明美がトイレに行こうと廊下を歩いていると、一つの部屋のドアの隙間から何やら銀色の光がちらついた。見てみると、なんと大量の鍋ブタが満員電車のごとくぎゅうぎゅうになって収納されていたのだ。明美はこの時初めて自分の愚かさを思い知った。
トイレから帰って、明美がごめんなさい、と言った。
青はすっと立ち上がってこう言った。
「ローラースケートッ!」
二人のいつもの週末が始まった。
友情