俺の妹はスパイ様? 3話<分かち合い>

「なぁ史郎―。この建物なんだよ。ちょっと前までたってなかったよな史郎の隣に。」
「いや、夏美のちょっとって何年前の話だよ。そもそも最近までこっちにいなかったんじゃないの?」
「最近ならずっといたよここに。っていうか史郎の家の隣のマンションに引っ越してたよ。」
 俺は少し怒った。
「じゃあなんですぐ挨拶に来てくれなかったんだよ。」
 夏美は下を向いてしまった。奈々は愛莉と世間話。あの二人はすごく気が合うのかもしれない。でも俺は目の前のことに腹が立っててまともに頭が働かない。
「だって……」
「ん?」
「だって、入ったんでしょ?」
「入ったって?確かに高校で野球はちゃっかりと続けさせてもらってるよ?」
「えっ……じゃあマネージャーになってドラッガーの本読んで野球部を甲子園にっ!って、違うっ!」
 夏美は俺のほうに近づいて俺の頭をヘッドロックして奈々たちがいない方向を向かせる。
「あの三姉妹ってスパイでしょ?」
 ……なぜばれた。
「い、いやだなぁーそんな物騒な話あるわきゃ……」
 少し気を抜いた瞬間俺の懐からさっき愛莉からもらったデザートイーグルが落ちた。暴発しなかっただけでも良かったと思うべきなのかな?
「これはなに?どう考えてもエアガンでもパチモンでもないよね?」
 愛莉は話しちゃっていいと思うといっているがこんな時に頼りになる唯一の妹星七がいないなんて……もしかして今頃夏樹とご飯作ってつまみ食いして怒られてる頃かもしれない。運がよかったらこっちに来てくれるかもしれないけど。
「あ、あのだなぁー夏美……それには深いわけが……」
『あーっ!もうなんで星七はいつもつまみ食いばっかりするのーっ!』
『いいじゃないかっ!おなかがすいていたら戦もできないですよっ!そう思いますよねっ!士郎っ!』
 あ、やっぱりつまみ食いしたんだ。でも助かったかもしれない。これで説明してくれる人が全員そろった。
「史郎っ!やっぱり腹が減っては戦は……お、お前。」
「ん?夏美のこと知ってるのか?」
「知ってるもなにも、私たちが所属している組織にいる仲間だよ。」
 ……マジで?
 俺は口を開けているしかなかった。
 正確には口を開けているしかなかった。
 そして俺はどう行動すればいいのかわからなかった。
「やっぱり上の判断は変わんなかったんだ……いくら体育祭の射撃で毎年一位を取ってるってだけで実銃を握らせるなんてどうかしてんるだよなー。頭だけで上がってきたやつなんて信用なんないよなー……」
 マジなのか?
 これは夢じゃないのか?
 そのあと俺はショックで倒れてしまったらしい。らしいというのはその辺から記憶がないのだ。記憶が残っているのはそのあと自分の部屋に戻っていたということだけ。だれがどうやってこの重たい俺の体を二階の俺の部屋まで運んだのかもわからない。そして大きく変わったことが一つ。
「なんで夏美と奈々が俺の家にいるんだ?」
「あぁ、前住んでた家出てきた。ほ、ほら私史郎に告白したからさ。告白したからにはやっぱり同居しないとっ!」
 わけわかんねーよっ!ってかもう余ってる部屋ないぞ?このままだと俺に死亡フラグが立っちまう。
「あとさ。」
「な、なんだよ……」
「これから私が銃の打ち方ってやつを教えてやるから。その辺覚悟しとけよ?」
 ですよねー。この際ずっと気になってたこと聞いてもいいかな?夏美はこの組織とつながってるみたいだから。
「なぁ夏美……」
「ん?なに?」
 こんな大胆に聞けるのもラッキーなことに奈々が寝ているからだからさっさと質問する。
「俺が所属してる組織ってやつはどんな奴らがいるんだ?」
 やっぱり、みたいな顔をされて。きっと俺がこのことを聞くってわかってたんだと思う。
「まずはロシアの組織って言ったってその組織はいろんな国とつながってるんだ。ただ単にあの三姉妹がロシアで拾われたからロシアの組織ってことになってるだけだ。この組織は日本にもあるし、もっと言えばガーナとかそういう発展途上国にだってある。だからそこに所属じゃなくて会員みたいなもんだな。」
 夏美は説明するのがうまい。これはこういう小難しいことだけじゃない。勉強でも、スポーツでもそうだ。俺に野球をやったらと勧めたのも夏美だ。
「私が所属『してた』組織は三姉妹の組織と対立してる組織なんだ。要するに私と奈々は裏切り者。殺害対象なわけ。だから私たちをかくまったら史郎もそうだしあの三姉妹、といっても三姉妹は自分たちでどうにかすると思うから史郎、史郎が一番危ないってことになるんだ。」
 俺が一番危ない?
「だから一緒に私たちの組織をつぶしてくれないか?」
 意味が分からない。こういう組織の人間は自分の組織を裏切るなんてできないはずだ。裏切ったらどうなるかわからない。こんなの1割程度の言い訳に過ぎない。残りの9割以上はこの組織のメンバーは家族だから、仲間だから、俺はそういうもんだと思ってた。だからいくら俺たちの敵でもそんな考えはよくないと思ってしまう。
「なんで……」
「なんで自分の組織を裏切ったんだよっ!」
 少し強めの口調で夏美を責める。もちろん寝てる奈々には配慮はしてるつもりだ。もしかしたら熱が入ってたかもしれないがこればかりは譲れない。そして譲りたくない。
「だってっ!」
「だってなんだよ!」
「だって奈々の両親がその組織に殺されたんだもんっ!」
 へ?今なんて……
「だって、だってっ!奈々の、あの優しかった奈々の両親が私たちの組織が殺したんだよ?そんなの許せるわけないじゃない!そんな組織にいたら私が息できなくなっちゃうじゃない。そもそも奈々がかわいそうだよ……」
 そんな理由があったのか。
「じゃあなんで先に言わなかったんだよ。」
 夏美はこのまま黙り込んでしまった。しばらくその沈黙が続きどれくらいの時間がたったかわからなかった。しばらくして奈々は起きたものの空気が重かったためか顔が明るくない。
「わかった。俺が首を突っ込むのはやめる。」
 しばらく静かな状況だったから俺の声がやけに大きく感じる。その声を聴いた途端夏美は驚いたように口を開けたまま俺の話を聞いていた。
「俺が首を突っ込むのはやめる。だけどもし、もし俺の助けが必要だったりあの三姉妹を頼りにしたいときがあったらすぐに俺に連絡しろよ。すぐにすっ飛んでいくからさ。」
 俺がしゃべり終わると夏美は安心したのかすごく明るい、いや正確には明るすぎるかもしれない。そんな笑顔を俺に見せて燃え尽きた太陽のように眠りに落ちた。

 それから五分も経たないうちに奈々が起きた。夏美の話が本当だとすると奈々の両親は夏美が所属してる組織に殺されたってことらしい。とりあえず奈々にはこの話は降らないようにしないと。
「史郎先輩。私の両親のこと聞きましたね、夏美から。夏美には私が話すって言っておいたんですけどね。」
「もしかしてずっと寝てるふりをしてたとか?」
「もちろん。夏美が先に史郎先輩に何かしようとしないかちゃっかり監視ですっ。」
 ちゃっかりって……でもあんまりこのことで引きずってない様子だからすこし俺は安心した。
「あ、でも先輩?私このことはしょうがないと思ってますからあまり心配しないでくださいね?」
 あぁ。よかった……へ?しょうがない?
「しょうがないってどういうことだよ。」
「そんなの簡単ですよ。単純に仕事をしくじった。ただそれだけです。」
 満面の笑みでこんな恐ろしいことさらっと言えちゃうところ。いつになっても奈々には脱帽しかできない。
「奈々の両親も組織に入ってたのか。」
「はい。でも私と夏美が入ってた組織よりかはもっと下のほうの組織でしたけどね。」
 親より上の組織に所属できるって……両親が残念なのか、それとも奈々が優秀すぎるのか。俺は後者のほうであってほしいけど、ってか絶対後者じゃないとこんな恐ろしいことさらっと言えないか。
「じゃあ高町三姉妹の所属しているのはどの辺なんだ?」
 あ……つい興味本心で聞いちゃったけど大丈夫かな。
「そんな知りたいですか?」
「うん」
「どうしても?」
「どうしても」
「……」
 奈々はいつも考え込んでしまう。俺が小学校低学年の時はそうでもなかったんだけど小学校高学年になったときに急に自分が話すことに対して少し考える間ができるようになった。ちょうどその時から奈々がいじめられ始めたんだっけ?それでたまたま俺がその現場に出くわしてそこでいじめている奴らをぼっこぼこにしたらいつの間にか奈々が隣にいるようになったんだよな。
「わ、わかりました。」
 奈々は俺の目をしっかりと見た。
「高町三姉妹はこのスパイの組織の中でトップクラスの実力の持ち主です。実際史郎先輩もスナイパーライフルを使ったとき使いやすかったですよね。」
「なんで知ってんだよ。まぁいいけど確かに使いやすかったよ。それがなんか関係あるのかよ。」
「それに比べて自分が組んだデザートイーグルとその辺に置いてあったAKは使いにくかった。」
「だからなんで知ってんだよ。でも事実だよ……」
 何でも奈々が知ってるってのはちょっくら悔しいけど流石スパイ様ってところか。
「要するに銃の手入れがうまいんです。」
「それ、どうでもいい情報じゃない?」
 なんとなくどうでもいいと思ってしまった。
「まぁそうかもしれないですね。いずれ史郎先輩もわかるときが来ると思いますよ。で、一番すごいのが判断力です。」
 お、今度はマジなほうかな?
「えーっと風向きを読んだりするのがうまいんです簡単に言えば。」
「スナイパーライフル撃つ時に隣にいるのも含まれる?」
「……含まれると思いますよ。」
「確かに……思い当たる節があるよ。」
 だからド素人が撃ってもまっすぐ行ったのか。納得納得……
「で、所属してるところはどこだよ。」
 俺はきっぱりこの話の流れを切る。これ以上話してたらきりがないと思ったから。
「スパイの中でも潜入してターゲットを殺すほうですね。私と夏美は諜報系です。高町姉妹はターゲットの秘書とか、メイドとか、そういうのになって機会を狙って上からの命令でやれって言われたらすぐに実行する。そういう組織にあの三姉妹は所属しています。」
 ごめん奈々。俺はあの三人の秘書の姿とかメイド姿を妄想しちゃった。ホント申し訳ない。
「なるほど。ありがとな奈々。助かったよっ」
 奈々の顔が赤くなった。そういえばなんであの三姉妹もそうだがこの二人もなんも俺まずいこと言ってないし、体調も悪そうに見えないのによく顔が赤くなるのはなんでだろう。

俺の妹はスパイ様? 3話<分かち合い>

俺の妹はスパイ様? 3話<分かち合い>

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更新日
登録日
2012-02-04

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