10年先を歩むキミ

こんにちは、海月(クラゲ)です。

初の投稿作ということで、文章ボロボロでひどいです…>_<

主人公の気持ちをどこまで表現できたかわかりませんが、皆様に読んでいただけると幸いです。

消えない想い

“……ごめん”

“うん、わかってる”

謝らないで。

わかってたから。

だって、
キミはオトナで
私はコドモ。

この恋は報われることなく終わる。

だから、忘れよう。

別の恋をしよう。

それが、2人とも幸せになるための道。

わかってたハズなのに……

本当にはわかっていなかった。


どう足掻いても、この想いを消すことなんてできなかった。


私は今も、キミの瞳に囚われたまま、

先へ進めていないんだ。




「ん……っ、は……」

放課後の教室で乱れる呼吸。

ふしだらなリップ音が鳴り響く。

「……みゆ……シてもいい?」

何度目かわからないその問いに、私……進藤美結の応えは変わらない。

「うん……いいよ」

「……怖かったら言って」

「うん……」

ブラウスに手がかけられ、ボタンを外していく。
少し緊張しているのだろうか、なかなか外れない。

しかしなんとか全てのボタンを外し終え、私は机の上に押し倒された。

そっと覆い被さる彼。

左手を私の背中に回し、熱いキスをしながら留め具を外す。

上半身が露わになっても、不思議と恥じらいはなかった。

ゆったりと、彼の手が私の胸を揉みほぐす。

「ぁ……、んっ……」

彼の手が、下に伸びていく──

『……やっぱりダメだ……』

「ごめ……ん、まだ、無理……」

「……そっか。ごめん、急かして」

「ごめん、ごめんね……」

何度同じことを繰り返したかわからない。

何度謝ったのかもわからない。

ずっと同じことの繰り返し。

キスはできる。

彼の前で素肌を晒すことだってできる。

なのに。

それ以上はどうしてもできないのだ。

『どうして……』

……“どうして”?

原因はわかってる。


本当に愛しているわけじゃないから。


結局私は、他人の愛を利用して逃げている卑怯者。

それは、私が隠し持つ2つの過去の記憶が深く関わっている。

これは、4年前のこと──……




「え……っと、進藤美結です。小学校6年生です。一応2年目なので、頑張ってリードしていきたいと思います! 1年間よろしくお願いします!」

『ふぅ、緊張した……
上手く自己紹介できたかな。
リードしていきたいとか、なんか偉そう!?
うわぁどうしよう……』


ここは“動物の森”という公園。

公園といっても、沢山の動物がいる公園だ。

私はそこで、動物の世話をするボランティアをすることになった。

これは、その活動を始め2年目の時のこと。

小学校6年生である。

「美結! ボランティア続けるんだね」

「トモ! 久しぶり~っ!」

トモは、ここで正式に働くスタッフの人。

1年目の時からお世話になっている。

「ねぇねぇ、あの人誰? 新しいスタッフ?」

ずっと気になっていたことを聞いてみる。

「ん? どの人~?」

「ほら、あそこに立ってる……」

「あぁ、そうそう。新しいスタッフだよ。リュウって言うの。後でスタッフの自己紹介もあるから、その時にもわかると思うけど」

「ふーん……」

「リュウ~!」

「あ、はい!」

「えっ!? 別に呼ばなくても……」

「何ですか? トモさん」

『来た……っ!』

とっさにトモの後ろに隠れる。

「さっきも自己紹介してたけど、この子、美結。なんかリュウのこと気にしてたから呼んでみた」

「えっと……美結?」

『と、とりあえず何か言わなきゃ……!』

「あ、えっと……あの……」

「美結、意外と人見知りだよね。まだなおってないの?」

「うん……」

「俺も割と人見知りなんだ。ボランティアの子と話したの、美結が初めて。なかなか話しかけられないし、自分からも行けないからさ~」

「そうなの?」

「うん。名前覚えたのも、美結が初めてだよ」

「そうなんだ……」

『なんか、嬉しいな……』

「んで、気にしてたってなんで?」

「あ、えっと……、はいこれ。あげる」

「……のど飴?」

「なんか、体調悪そうだったから……。勘違いだったらいいんだけど」

「え、ちょっとリュウ、それ本当? 体調悪いの?」

「……さっきから徐々に」

「バカ! 何で言わないのっ!」

「ト、トモ落ち着いて……」

「全く……皆に移ったらどーするの! 周りに迷惑かけるんだから、体調悪いなら悪いって言いなさい」

「はい……すみません」

「大体ねぇ……!」

「トモ、もうやめようよ~。リュウだって反省してるし。もうすぐお仕事終わりだからいーじゃん?」

「……美結は本っ当優しいよね~。相も変わらずお人好し。あ、やば! 残ってる仕事片付けなきゃ。じゃあね美結、今年も1年よろしく!」

「うん、よろしくね~♪」

「……ありがと美結。助かった」

「トモは怖いからね? 気をつけないと。ハハッ」

「良かった、美結と話せて。これからもっと楽しく仕事できそうだ。じゃあ、また! あめもありがとう!」

「うん!」

『……今年1年、楽しみだな』


それからの生活は、とても充実していた。

友達がいっぱいできて、皆に慕われた。

それだけのハズだった、私の日常。


夏休み、変化が訪れた。


「じゃあ戻るよ! 皆早く出て~!」

「はーい」

リュウの呼びかけに、口々に皆が返事する。

私は部屋の確認をしてから、最後に出た。

『あ、誰か水筒忘れてるな』

「ごめん待たせて! この水筒誰の~? 置いてあったけど」

「あ、それ俺の!」

「ハッシーの? はい」

「ありがと美結姉」

「気をつけなよ?」

「おう!」

「……“美結姉”か。すっかり皆のお姉ちゃんだな」

「ガラじゃないけどね~」

「そう? いいと思うけど」

「ん~……でも、私は妹になりたかったな。お兄ちゃんほしい!」

「美結みたいな妹いたら、楽しいだろうな。可愛いし」

“可愛い”

その言葉が、深く心に残った。

「ん、可愛いといえば……」

「いや私可愛くないからっ!! その大前提おかしいからっ!!」

「今日なんかあったの? 髪がいつもと違う」

「へ? あぁ……コテ買ったの。髪巻くやつ。まぁ、あんまり目立たないけどね~」

「いーじゃん。可愛いよ」


──単純で、チョロい奴。


多分一番、私にはこの言葉が合っている。

『なんなの、もう……』


笑顔が似合う、10歳も年上のキミに、恋をした。


叶わない恋って、わかっていたのに。




「ノロケか」

「違うよ! ちゃんとした立派な悩みです!」

「悩みに立派もなにもないわ」

「優子冷たい……。名前と違って優しくない!」

「こんな子に育つと知って付けた名じゃないからね」

「親友でしょ私達~!」

「酒でも飲んだ? マジ面倒くさいんだけど」

「飲んでません~。16歳は飲めません~」

「てか、あんた彼氏いるじゃん。その悩み超失礼」

「……知ってるよ」

「好きでもないのに付き合って? キスして? 脱がされて? そこまではすんなりできるのに、セックスはできません~とか。彼氏超寛大。てかかわいそう」

「……そうだよね……」

わかってはいるのだ。

だが、身体が追いつかない。

「いつまでも過去に引きずられてたら駄目だよ。ちゃんと断ち切らなきゃ、美結のためにも」

「……わかってるけど……」

遠い、10年以上前の記憶が脳裏をかすめる。

「……でも、知ってるからさ。美結は他人からの愛が元々足りなすぎるってこと。だから、愛が必要だってこと」

「……っ」

優子は、なんだかんだ言ってちゃんと私のことをわかってくれている。

私の、辛いあの時の出来事を、優子だけは知っている。

だから、優子の言葉はスッと胸に入ってくる。

「本当に好きな人に愛されないんじゃ、美結のしてることもしょうがないっちゃしょうがないか……」

「愛されてはいるんだよ、きっと……でも、やっぱり“異性としての愛情”、にはならないの」

「そりゃそうだ。10歳下でしょ? よくて妹だね」

「……うん、知ってる……」

「ちゃんと区切りつけなきゃさ。いつまでも引きずってても仕方ないし、目の前の恋に集中したいじゃん」

「まぁ、ね……」

「てかさ、何でキスとかはできんのにセックスは無理なの? その基準がよくわからないんだけど」

そう。

問題はそれなのだ。

「……よくわかんない」

「は?」

「なんていうか……挿入(い)れられるって意識しちゃうと、現実に戻るんだよね」

「どーゆーこと?」

「……いつもする時、リュウに重ねちゃうんだよね……相手を」

「……だからあんたの彼氏、皆雰囲気似てるんだ」

「え、似てる?」

「似てる。無意識かよ」

「あ、でも確かに……歴代彼氏、リュウに雰囲気似てるかも」

「怖っ」

「なんで!?」

「おんなじようなヤツが5人いるんでしょ? 怖いわー」

「ま、まぁ並んだらちょっと怖いかもね……」

「あ、やば。もうこんな時間。帰んなきゃ」

「本当だ、ヤバいね。これから塾だっけ?」

「そ。じゃあまた会える日にね」

「うん。今日はありがと、優子!」

「いーよ。バイバイ」

「バイバーイ」

『悪いことしちゃったな……多分優子遅刻だ。……そういえば、あの時……私がリュウに告った時は……私が遅刻したんだっけ』




「こんにちはっ!!」

「あれ~? 美結~! こんにちは!」

「アイちゃん! ごめ……遅刻……」

「大丈夫だよ~10分くらい♪」

アイちゃんは、リュウと同じくスタッフの人。

小柄で声が高く、その独特のオーラに皆心を癒されている。

「今日はどうしたの? 冬休みなのに美結遅いね~って皆で話してたよ」

「中学受験するから、塾だったの」

「美結エラいね~」

「いやそんなことはないよ~」

「冬休みなんだけどね~……今日ボランティアの子誰もいないんだ」

「え、うそ」

「ほんとほんと~。だから、美結重宝されるかもね!」

「じゃあいつも以上に気合い入れて頑張りますよ~!」

「もうお昼ご飯食べて来た?」

「うん! もう仕事できるよ~」

「よし! じゃあ今日は~……」

「アイさーん! 美結来たんですか!?」

『リュウ! 早速リュウに会えるとか……今日はツイてる♪』

「来たけど、どうかした?」

「私に用……ってわけじゃないよね」

「こっち、今人手が足りなすぎて……美結もらっていいですか?」

『い、言い回しがなんか……っ!!』

「いいよ~! じゃあ、美結は荷物持ってリュウについてってね♪」

「あ、うん!」

「ごめん美結、午後一緒によろしく」

「任せたっ!!」

『やったー!! リュウとお仕事だっ!』

「じゃあ行こっか」

「うん!」

再会

「……ねぇ、リュウ」

「ん?」

「何で私は今調理をしながら掃除をしているの!?」

「人手が足りないから」

「わかってたよ。わかってたけど……いなさすぎでしょ!! てか私達以外誰もいないじゃん!」

「そ。だから大変なの」

「それにしても……!」

『辛すぎる……』

「あ、さつまいも煮たよ」

「お、じゃあ切っちゃうね!」

「ぶっ……ははは!」

「え、何?」

「美結のそういうとこ、ほんと好き」

「はっ……はぁ!?」

『いきなり何を!?』

「文句言いながらも、ちゃんと仕事してくれるとこ」

「あ、当たり前じゃん? 仕事だもん……っ痛!」

『わぁ~……久しぶりに包丁でさっくりいったな。リュ、リュウがあんなこと言うから……動揺してるな私……』

「大丈夫!? ちょっと待ってて」

「あ、大丈夫大丈夫~。ちょっと切っちゃっただけだから。舐めとけば治るよ!」

「ダメだよ、女の子だろ? 傷残ったら大変じゃん。」

「あ……うん」

『女の子……』

こんな些細なことが嬉しい。

超単純だと自分でも思う。

「はい、手出して」

「はい」

「うわっ、めっちゃざっくりいってんじゃん! 全然大丈夫じゃないだろ!」

「意識したら、結構痛くなってきた……」

「美結、手白いから目立つしな」

「白いかな~…仕事で荒れまくってるよ」

「いーじゃん。頑張ってる証拠だよ。美結の手、好きだよ」

『……また……』

そうやって。

どうして、そういうことばっかり言うの。

叶わない恋なのに。

──期待、してしまう。

「……好きだよ」

思わず、声に出していた。

「へ? 何が?」

全く気付いてない。

『……鈍感男』

「リュウのこと。ずっと好きだった」

沈黙。

いつの間にか、手当ては終わっていた。

『包帯ぐちゃぐちゃ……』

絵は異様に上手いくせに、どこか不器用だった。

頑張って巻いてくれた形跡が良く見える。

そんなところも、誰にでも優しいところも、笑っているその顔も、全部好き。


だから私は、リュウの幸せを願いたい。


「……ごめん」

『やっぱり』

「うん、わかってる」

「美結のことは本当に好きだよ。でも……妹にしか、思えないんだ」

「そりゃそうだよね~、10歳も違うんだもん。ははっ」

その10年が、どうしようもなく憎らしい。

「……ねぇリュウ」

「……何?」

「幸せに、なってね」

それが、唯一の望み。


どうか……どうか、幸せに。


「……あり、がとう」

悲しいような、少し困ったような顔で、リュウはそう言った。




『懐かし……』

口走って告ってしまったことを、今でも悔やむ。

『幸せに、か……』

リュウは今、どうしているのか。

どんな形でもいいから、ちゃんと幸せに過ごしていてほしい。

『気になる……けど、行けないや……』

まだ。

あの日から4年が経った今でも、ちゃんと笑って会える気がしない。

『なにかタイミングがあれば行けるんだろうけど……』

そんな良いタイミングは、無いのである。

「美結ちゃ~ん? ちょっといいかしら?」

「はい?」

母の声だ。

……義理の、だが。

「茉乃(まの)がね、美結ちゃんもやってた、あのボランティア活動…動物の森公園の。あれ出来ることになったのよ。自転車で通うから、道教えてあげてくれる?」

「……はい」


行く理由が、できてしまった。




「懐かし……」

ここに来るのも4年振りだ。

「美結お姉ちゃん、どうしたの?」

「ううん、何でもないよ」

「ね、美結お姉ちゃん、茉乃遊びたーい!」

「そう。じゃ、中入ろっか」

「わーい!」

『可愛いなぁ……』

茉乃はまだ何も知らないから、普通に“お姉ちゃん”として接することができるから気が楽だ。

『小3だしな……』

本当のことを伝えるのは、早すぎる。

「お姉ちゃん?」

「ごめん。行こっか」

『まあ、リュウには会わないように上手く逃げてればいいよね!』

「……美結?」

『……この、声は……』

「……リュウ」

早速、見つかった。

「美結、久しぶり」

「うん、久しぶりだね。4年振り……だよね」

「そんなに経つのか。一瞬、美結なのか不安になっちゃった。……大人になったね」

「そぉ? そんなに変わってないと思うけど……」

「ううん。綺麗になった」

『……もう』

本当に、調子が狂う。

「今日はどうしたの?」

「あ……この子、妹の茉乃。今度、ここのボランティア始めるんだ」

「へ~! こんにちは」

「こんにちは……」

「人見知り?」

「割とね。茉乃、この人はリュウ。今度からお世話になる人だよ」

「進藤茉乃です……9歳です」

「9歳……小3か~。あんまり美結には似てないね」

「そりゃそうだよね……」

「え?」

「ううん、なんでもない! じゃあ、そろそろ帰るから……」

「待って」

突然、腕を掴まれた。

「……え?」

「美結……泣いてる?」

「え……」

「いや泣いてはないんだけど。……なんか、そういう風に見えた」

『……なんで気付いちゃうかな……』

誰にも、気付かれなかったのに。


この人は、易々と見抜いてしまう。


「気のせいだよ! じゃあね! 茉乃、家に帰るよ?」

「うん!」

私とリュウが話している間に、どんぐりを拾っていた茉乃はもう満足しているようだ。

「じゃあね、リュウ!」

「ちょっ……美結!」

一方的にわかれを告げ、足早に去った。

「……美結お姉ちゃん、どうしたの? 目ぇ赤いよ?」

「なんでもないよ! あ、寒くなってきたから帰りに焼き芋買って食べよっか!」

「うん!」




「……私はバカなの……?」

『公園でブレスレット落とした……っ!』

多分、リュウに腕を掴まれた時だろう。

なので、リュウが持っている可能性が高い。

もう顔を合わせたくないのだが……

『お養母さんが、初めて買ってくれた物なんだよな……』

自分で買った物ならともかく、お義母さんのはマズい。

取りに行こう。

『さて、どうするか……』

あの時から1週間。

『道端に落ちたまま……はないよね』

おそらく、落ちていたら誰かが落とし物として届けてくれるだろう。

『じゃあ、落とし物あるか聞いてみるか……』

それでも無かったら……リュウに聞こう。

早速、出掛ける準備をして玄関に向かう。

「あら、美結ちゃんお出掛け?」

「あ、はい。そんなに遅くはならないと思うんですけど……」

「そう。気をつけてね~」

「行って来ます」

「行ってらっしゃーい」

自転車に乗り、家を出た。




「……まぁ無いよね~」

「何か大事な物だったの? 大丈夫?」

「うん……心当たりはあるから大丈夫……。ありがとミチコさん」

管理人のミチコさんに礼を言う。

「いいえ~。見つかるといいね」

「うん。ありがとね」

「あ、もうすぐ閉まるから、探すのに気を取られて出られなくならないようにね」

「はーい」

『もう道端は全て探した……ミチコさんに落とし物ないかも聞いた……。残るは……』

リュウ。

『……行くか』

リュウがいるであろう所へ向かう。

『……いた』

仕事中だ。

邪魔をするのも悪いが、しょうがない。

「リュウ!」

思い切って叫んだ。

「えっ……美結?」

「先週振り。ごめんね、邪魔して」

「いや、大丈夫だよ。ちょうど終わったとこ」

「……ねぇリュウ、私この前さ、ブレスレット落とさなかった? 銀色の」

「あぁ……あれ、やっぱり美結のなんだ」

「え、今持ってたりする!?」

『やっぱりリュウが持ってるんだ……!』

「ごめん、今日家に忘れて来ちゃったんだ」

「え……」

『じゃあ、今日は返してもらえない……?』

「来週は来れる?」

「ううん……この先1ヶ月は予定入ってる……」

「そっか……」

『どうしよ……1ヶ月後に返してもらうのだとな……』

「……じゃあ、家来る?」

「……は?」

「俺んち。近いよ」

衝撃発言。

『い、家っ!?』

「嫌ならいいんだけど……1ヶ月後で」

「うっ……」

『というか、家に入れていいのか……?』

私は16で、リュウは26。

『犯罪……だね。うん』

頭の片隅にいる冷静な自分が、なんとか気持ちを抑える。

が。

「行きます……」

勝ったのは、ブレスレットを返してもらいたい自分だった。

「決まりね。じゃあ、10分後に裏門にいて。バイクで行くから。……誰にも秘密だよ?」

「わかってるよ……」


なんだか、とんでもないことになってしまった……。

過去の記憶~美結~

「お待たせ」

『うわぁ……』

私服のリュウだ。

……格好良すぎる。

「美結? どうかした?」

「へっ!? あ、なんでもないよ!」

「そう? じゃあ、乗って。ヘルメットつけて」

「はーい」

リュウに会うのは気まずさが残るかと思ったが、全然そんなことなかった。

こんなことなら、もっと早く会いに行けば良かったと今更ながら後悔。

「んじゃ、行くぞ。しっかりつかまってて!」

「ん……」

リュウに触れた所から鼓動が伝わってしまいそうで、おずおずと手を伸ばす。

「そんなんじゃ落ちるぞ。もっとしっかりつかまって」

「は、はい……」

リュウの背後から、思い切り手を回し、ギュッと抱き締める。

『し、心臓の音伝わっちゃう……!』

自分のことに気を取られ、リュウの鼓動と混ざり合っていることなど、気付く余地もなかった──……


「あれ、上がらないの?」

「え、上がっていいの!?」

「玄関じゃ寒いでしょ」

もう11月。

確かに、ここ最近肌寒くなってきた。

「いや、ここで受け取るつもりだったんだけど……」

「ん?先週の話の続きしようよ。ちなみに、話聞くまでは返さないから」

「……え」

「美結、4年前からずっとそう。何にも言わずに自分だけで背負い込んでさ。俺にも言えないようなこと? 何か力になれない?」

『ズルいなぁ……もう』

天然タラシ。

いずれ大変なことになるぞ?

『てか、リュウは気まずくないのかな……』

なんだか、私1人バカみたい。

「じゃあ、お邪魔します……」

「どーぞ」

“リュウだから”と、何の危機感もなく家に上がってしまったのは、今世紀最大のミスで、今世紀最大の幸運だったと思う。


「コーヒーでいい?」

「あ、うん」

「ちょっと待ってて」

『うわぁ~……リュウの家だ……』

なんだか変な感じだ。

『今までじゃ考えられないことだよね……』

室内は、綺麗に片付いていた。

『綺麗好きだもんな~……』

気付けば、ボーッと辺りを見回していた。

「美結? どうかした?」

「あ、ううん、なんでもない!」

「そっか」

コーヒーを頂く。

『苦い……』

実はコーヒーは苦手だったりするのだが、さすがに言い出せない。

「あ、もう飲んじゃった? はい、砂糖とミルク。苦いの苦手でしょ」

「あ、ありがと……」

『気付かれた……』

嬉しいやら気まずいやら。

「相変わらず苦いのダメなんだ」

「まぁね……。あ、バカにしてるでしょ!」

「えっ!? とんだ濡れ衣だよ!」

「“え、ブラックコーヒーも飲めないのかよお子さまだな~あっはっは”とか心の中で思ってるんでしょ~」

「そんなことないってば美結ー!」

「あはははっ! 冗談冗談。 ……こんなに笑うの、4年振り。やっぱ、リュウといるの楽しい」

「……」

「私ね、家ではこんな風に笑えないんだ」

「なんか……前にも言ってたよね。なんで……?」

「……気使っちゃうから。あのね、私のお母さんとお父さん……本当の両親じゃないの」

「え……」

「どこから話そうかな……」




割れたグラスの音が響く。

寝室で寝ていた私は目を覚まし、気付かれないよう1階のリビングに足を運んだ。

「どうしていつもいつも私に押し付けるのよ! 私だって仕事があるの! 少しくらい協力してくれても……」

「子供の教育は母親の仕事だろう! 俺は外でクタクタになるまで毎日働いているんだぞ!」

「あぁ……もう、結婚なんかしなければ良かった!少なくともあなたと結婚したのは最悪だったわ!」

母は泣き崩れ、父は扉を荒々しく開け、自分の寝室へ向かった。

毎日、同じことの繰り返し。

“結婚なんかするんじゃなかった”と。

「……何よ。あんたいつからいたの」

「あ、の……ママ……」

「やめてよ! ママなんて呼ばないで!」

母親であることさえ否定する。

「結婚なんてするんじゃなかったわ……あんたなんて産まなきゃよかった! もう、私の前から消え去ってよ!!」

「……ごめん、なさい」

いつからだろうか、幸せな日々が壊れていったのは。

割れたグラスの破片を拾い集める。

「あ……」

一筋の赤い血が、指先から滴り落ちた。

破片で指を切ってしまったらしい。

『これ……なんだっけ』

痛いという感情も、──悲しいという感情さえも、無くなってしまっていた。

それくらい、両親からの圧力は強かった。

いつまで続くのだろうか。

いつまで──……


「……え、事故……?」

「はい。今からお宅に向かうので、病院に向かう用意をしておいて下さい」

「……はい」

「あと……今緊急手術をしていますが、……最悪な状態も、覚悟した下さい」

「……は、い……」

肝が冷えた。

7歳の子供にするような話ではない。

「あ、れ……」

目から、水が落ちてきた。

『これ……何?』

“涙”を忘れてしまうほど失われていた感情。

両親に奪われたものだったのに。

何故か、“涙”が落ちてくる。

酷いことをされても、暴言を吐かれても、

それでも──

愛していたのだ。

『ママ……パパ……』

車が止まる音がした。

病院に向かう迎えだろう。

おそらく、もう手遅れだ。

……何もかも。

両親の命も、両親から注がれる愛も、もう。

この手に、乗ることはないだろう。



「美結……」

「両親はやっぱり死んじゃって、今のお養父さんとお養母さんが引き取ってくれたの。その時茉乃は産まれたばっかりで、迷惑かけちゃいけないから、結構無理して頑張ってたな。このこと知ってるのは、優子……親友だけ」

「そっか……」

「お養母さんがね、私にあまりにも元気がないから……って、小5の時にボランティア参加するように言ってくれたの。最初の方は何も話さない、ただの暗い子だったんだけど……。あそこには、私の欲しいものが全部あった」

「何?」

「……温かい、愛情」

「……」

「それだけで充分だったんだけど……リュウと会っちゃった」

「え」

「リュウと一緒にいると、心の重りがスッと消えるの。……恋したよ」

「……」

「でも、だめなのはわかってたんだ、なんとなく。だって、あの時私は12歳で、リュウは22歳だもんね。告白なんてするつもりなかったんだけど……口からポロッと出ちゃった」

「……ごめん」

「謝らないで! リュウが幸せならそれでいいと思ったの。……だから……リュウを忘れようと思って、他の恋を探したよ。だけど……ダメなの。リュウじゃなきゃ、ダメなんだよ……」

気付けば、涙と一緒にそんな言葉まで出ていた。

『こんなこと言うつもりじゃなかったのに……』

リュウの幸せを願っているのに──……

「美結」

「え……」

腕を引かれ、リュウの腕の中へ収まる。

あまりに急だったため、思考回路が停止した。

『え……え!?』

「リュ、リュウ……っ!?」

「ごめん……本当にごめん」

『リュウ……?』

様子がおかしい。

「4年前……美結が妹にしか思えなかったのは本当だよ。だけど、それだけじゃないんだ」

「何が……?」

「……話すの、次は……俺の番だね」

過去の記憶~リュウ~

「竜~! 早く早く~!」

「ちょっと待ってって真琴、早いって……」

「竜が遅いんだよ~!ハハハ~ッ」

「全く……」

ここは、とある場所にある遊園地。

そこに、俺……菅原竜は付き合って今日で3年になる笠井真琴と遊びに来ていた。

「ねーねー、次ジェットコースター行こう!」

「あぁ。……って真琴、そっちじゃなくてこっち」

「へ? あ、あー……ありがと竜」

「ほんっと、真琴の方向音痴はなおらないよな。小3の時からずっとだよな」

「しょ、しょーがないじゃん! 頑張ってるけどなおらないんだもん!」

「もう一生無理だな」

「竜ヒドい! 馬鹿! 絶対方向音痴なおして竜のこと見返してやる!」

「真琴が迷ってたら、俺が助けに行けばいいだけの話だろ?」

「……馬鹿」


デートは終盤へ向かう。

俺達は二人で、観覧車に乗っていた。

「うわぁ……綺麗……」

「そうだな」

夜の街を一望できると有名な観覧車。

『頂上でキスをすると永遠に結ばれる』というジンクスがある。

「もうすぐ、高校卒業だな」

「そうだね」

「大学受験も終わったし」

「お疲れ様だね」

「俺ら、大学は別なんだよな」

「うん」

「……じゃあ、これ……つけといて。指じゃなくてもいいけど」

「……指輪……?」

「真琴可愛いからさ。男除け」

「竜ってば……大丈夫だよ、心配しなくても」

「ダメ。つけといて」

「……うん。今は指につけとくね。大学は……鎖通してネックレスにしよう!」

観覧車が上っていく。

もうすぐ、頂上だ。

「そしたらいつでもつけてられるし、バレないし。ね、いいアイデアじゃ……」

頂上だ。

真琴の唇に、キスを落とす。

「……『永遠に結ばれる』ってジンクス」

「やだな~。そんなジンクスなくても、ずっと一緒だよ。今までも、これからも」

「……そうだな」

なんだかよくわからない不安を覚えながら、俺達はもう一度キスをした。


「じゃあ、また学校でね」

「ああ、また明日」

「今日はすっごく楽しかった。また遊ぼーね! ……指輪も、ありがとう」

「ああ」

それぞれ家に向かって別々の方向に歩き始める。

「──真琴!」

名を叫び、真琴の手首を掴む。

「うわぁっ! な、何? 竜」

「……やっぱり送るよ」

「えー? 大丈夫だよ~! 家遠くないし。それに、竜反対方向じゃん」

「……そうだよな。ごめんいきなり。じゃあまた」

「バイバーイ」


やっぱりあの時家まで送れば良かったと、今でも後悔している。


「おはよう」

「おはよー」

いつもの時間に学校へ行く。

『あれ……』

まだ、真琴は来ていないようだ。

『珍しいな……』

いつもは一番に学校へ来るのに。

「席に着けー」

チャイムが鳴ってしまった。

先生も来たので、俺は首を傾げながら席に着いた。

「えー……非常に残念な知らせがある。……笠井真琴が昨日、交通事故で亡くなった」

『……え?』

静まっていた教室が、一気にざわついた。

「静かに。なんでも、昨日どこかへ出かけていた帰り道に、いきなり飛び出してきた車に跳ねられたそうだ」

『嘘だ』

「車を運転していた奴はまだ捕まってないらしい。今警察の方が、全力で捜査に打ち込んで下さっている」

『……嘘だ』

「笠井と共に卒業出来ないのは、本当に残念だ。しかし、どうか皆は笠井のことを忘れないでやってほしい」

『……嘘だ……っ!!』

だって真琴は。

昨日、あんなに元気に笑っていたじゃないか。

思い出すのは、真琴の可愛い笑顔だけ。

その真琴が。

……死ぬだなんて、考えられない。

どうせ、「ドッキリでした~! 驚いた!?」とか言って来るんだろう?

なぁ、早く来てくれよ。

──心が、死んでしまう。

「……原? 菅原!」

「……っはい……?」

先生に呼ばれていたのか。

全然気がつかなかった。

「……笠井のお母さんが、お前に会いたがっている。応接室にいらっしゃるから、今行こう」

「……はい」

怒鳴られるのだろうか。

『彼氏のくせに、なぜ娘を守らなかったんだ』と。

──当然だ。

何故俺は──……


あの時、真琴と離れてしまったんだ。



「……こんにちは」

「こんにちは、竜君。お久しぶりね」

「お久しぶりです……」

真琴とは幼なじみだから、真琴のお母さんも知り合いだ。

昔から良くしてもらっている。

「あの……! 本当に、ごめんなさい!」

「りゅ、竜君?」

「真琴と……最期まで一緒にいたのに、俺……!」

「……竜君、顔を上げて」

「……はい」

殴られることを、覚悟した。

「……ありがとう」

「……え?」

頬にあるのは、痛みではなく──温もりだった。

「真琴、毎日とても楽しそうにしてたわ……。竜君の話ばっかりして。……あんなに真琴が輝いていたのは、竜君のおかげよ」

『真琴……』

余計、悔やまれる。

「これ。真琴が最期まで、握り締めてたの。……竜君が、真琴に渡した物でしょう?」

「……は、い」

ハートのストーンが入った、銀色の指輪。

──俺が、真琴にプレゼントした物だ。

「可愛い……。あの子、凄く喜んだと思うわ。本当にありがとう。これは、竜君が持ってて」

「え……!」

「それが、真琴が一番嬉しいと思うから。……今まで、真琴と一緒にいてくれて本当にありがとう。真琴のことを忘れてって言うわけじゃないわ。……別の子と、幸せに過ごして」

そんなの……




「そんなの無理に決まってる。俺が愛した人は、昔からただ1人真琴だけだった。真琴を失うことは自分を失うことと同じなんだよ。死のうと思ったよ、何度も。だけど……無理なんだ。この指輪が、俺をこの世に引き留める。結局俺も、過去に縛られて前に進めていないだけなんだ」

「リュウ……っ」

話を聞いていたら、何故か涙が出てきた。

「ごめん、こんな話して。辛いよな」

「ううん……っううん……!」

『一番辛いのは、リュウのはずだから……』

“辛い”だなんて、言えない。

「ありがと……リュウ。話してくれて」

「いや。……いい機会だったよ」

「え?」

「前に進む」

「……?」

「あー……美結、真琴にそっくりなんだよ。だから、最初に話した時にすごい驚いたんだ」

「え……」

「顔も行動も、本当にそっくり」

『そうなんだ……』

なんだか複雑。

「それだから……さ、美結に“好きだ”って言われた時、……一瞬、“俺もだよ”って言いそうになったんだ」

「え」

「でも、それは美結の後ろに真琴を見ているからで、真琴と美結は違うって思って“ごめん”って言ったんだ」

『そっか……』

「……良かった」

「え?」

「だって、それでうまくいったとしても嬉しくないもん。リュウが本当に好きなのは真琴さんで、私じゃないって後から知ってたら……もう、立ち直れないや」

「……そんな美結だから」

「ん?」

「そんな美結だから、ちゃんと“美結”として好きになれたよ」

「……え」

『今……なんて?』

「進藤美結さん」

「はっ、はい!」

「俺と、付き合って下さい」

「え……」

『幻聴……?』

「美結のことフって、しばらくして気付いた。俺は、美結を真琴に重ねちゃうんじゃない。……ただ、失うのが怖いだけだ」

「……」

「また、真琴みたいに美結までいなくなっちゃったらどうしようって、すごく不安だった」

「リュウ……」

「ごめんな、自分勝手なヤツで」

『リュウ……』

「……そうだね。一度フったくせに、やっぱり付き合って下さい、とかすごく自分勝手」

「……ごめ」

リュウの頭を寄せ、唇を重ねる。

「……美結……?」

「私もね、自分勝手。リュウにフられて、愛を求める場所がわからなくなって、……色んな人と付き合った」

「美……」

「だけどダメなの。やっぱり私の一番はリュウだけで、他の人は好きになれないの」

力強く、抱き締められる。

「……今まで、ごめんな。好きだよ、美結。愛してる」

「私も」

「絶対に、何があっても守るから」

「うん」

「……勝手に、消えるなよ」

「私はどこにも行かないよ。ずっと、リュウのそばにいる」

「今の彼氏は……」

「あ……昨日、謝ってきた。ちゃんと、ごめんなさいって」

「そっか。……ところで、美結、どこまで……」

「……」

気まずい。

言えない。

「……もうそういうこと、した?」

「そ、そこまではまだ! ……あ」

「……キスとかは、してるんだ」

……ふてくされてる。

あのリュウが。

『どうしよう、可愛い……』

「……でも、リュウがいっぱいしてくれたら忘れるかも……んっ!」

急に顎を持ち上げられ、唇を重ねられる。

「……はっ……リュウ……」

「……そういうの、反則」

幾度となくキスされる。

「忘れた?」

「……まだっ。もっとしてくれないと……忘れられないよ」

『今までのぶんも……ほしい』

「……美結可愛い。顔真っ赤」

「なっ……んっ!」

『舌が……っ』

苦しい。息が出来ない。恥ずかしい。

だけど、

幸せ。

そのまま、長いこと唇を重ね続けた。

今までも普通にしてきた。

だけど、こんなにも幸せなキスは初めてだ。

「ふ……っ……は……あっ……」

乱れる呼吸。

もっと、もっとと、身体がリュウを求めている。

「リュッ……は……リュウ……ッ! ずっと、ずっと好きだったの……っぁ……」

目尻から、涙が零れる。

『これは……』

“嬉しくて”流れる“涙”。

リュウのおかげで取り戻せた感情。

「ごめ、美結……もう、限界……」

一旦唇を離され、持ち上げられる。

「きゃっ……!?」

「……嫌だったら言って」

ゆっくりと歩き始める。

ドアを開けた先は……寝室。

ドサッと、ベッドの上に横たえられた。

「美結……」

「リュウ……?」

「ごめん……美結。嫌だよな、いきなりとか……だけど俺……不安、で……こうしてないと、美結がどこかに消えてしまいそうで……」

『リュウ……』

「じゃあ……ちょっと待って」

「え……」

「お養母さんに電話。心配かけちゃうから」

「美結……」

「おわっ! お養母さんから5回電話きてる……」

急いでかけなおす。

「あ……もしもしお養母さん」

「美結ちゃん!? 良かった~……誰かに連れ去られたのかと思って心配しちゃった」

……まぁ、あながち間違ってもいない。

「あの……ちょっと出かけた先で友達に会って……その子の家に泊まって帰ります」

「そう……わかったわ。良かったわね、明日日曜日で」

「はい……ありがとうございま」

「妊娠だけはしないようにね?」

「っは!? お、お養母さん違っ……」

『いや違くもないけど!』

「じゃあ、ごゆっくり~♪」

……切れた。

なんでこう鋭いのか。

恐るべし天然養母。

「リュ、リュウお待たせ……」

「……ごめん、会話聞こえてた」

「え」

「お養母さん公認ってことで」

腕をつかまれ、再びベッドに押し倒される。

「わっ……」

「……怖かったら言って。止めるから」

「えっ……」

思わず声に出てしまった。

「いや、あの……違くて……」

「良かった、美結も同じこと思ってくれてて」

「えっと、あの……はい」

もう、恥ずかしすぎる。

『ヤる気満々みたいな感じになってしまう……!!』

それだけは嫌だ。

「大丈夫、美結可愛いよ」

そんな私の思いを汲み取ってくれたのか、リュウがフォローしてくれる。

「……可愛くない」

「可愛いって。真っ赤になって反抗するところとか」

「だっ、だから、可愛くないって……んぅっ!」

「自分のこと可愛くないとか言う口は、塞ぎますよ?」

「んっ……も、もう塞いだよ……ぁっ……」


──それからは、ただただ必死だった。

繋がる心

「は……っ、ぁ……ん……っ」

「美結……っ、挿れるよ……っ」

下半身を、激痛が襲う。

「ぁあっ……! っく……は……っ……!!」

痛い。

苦しい。

辛い。

『でも、止めたくない……』

いやらしい声が、卑猥な音が、部屋に響き渡る。

「美結……愛してる」

「リュ……っ、わた、私も……っぁあっ!!」

声と音が、耳さえも犯す。

『やっと……』

心が繋がった。

リュウも、私も、互いの腕の中でイった。




「おはよう、美結」

「ん……朝?」

「うん。俺も今起きたとこ」

「そうなんだ……」

まだ頭が冴えない。

「大丈夫? 身体……起き上がれる?」

「へ……? あ」

『そうだ、私達……』

昨日の夜……

『は、恥ずかし……っ!!』

昨日の記憶が、一気に私の頭の中でフラッシュバックする。

「……美結、恥ずかしがるの今更だから」

「だっ、だって……っ!!」

昨日の夜、何を言っていた自分。

「……おーい美結ー。潜っちゃダメだろ」

「だって~……」

「……美結の肌、真っ白だったな~。てか身体細すぎ。発達するところはいい具合に発達してるくせに、腰回り肉無さすぎだろ」

「ちょっ……リュウ!? ななな何言って……!」

「あ、出てきた」

「……~っ!!」

完璧に遊ばれてる。

「美結、おいで」

「……何……わっ!」

「やっぱり軽すぎ。何キロ?」

「…………45キロ」

「……身長は?」

「………………160ちょい」

「もっとちゃんと食え! はい朝ご飯食べるぞ~」

「ま、待って服! 服着させて!」

「お、そーだったそーだった。はい」

「あ、ありがと……」

リュウの腕から下ろしてもらい、散らばった服を回収する。

『昨日と同じ服になっちゃうけど……仕方ないよね』

「あ、服いる?」

「えっ!? 私声に出してた!?」

「いや……なんとなく」

リュウ恐るべし。

「じゃあ借りよっかな……ごめんね、ありがとう」

「……てか、べつにそのまんまでも……」

「は……っは!? さすがに何も着ないのは無理だよ!」

「美結綺麗だよ?」

「そういう問題じゃなくて…… 」

『リュウ、人格崩壊してない!? サラッとこんなこと言うなんて……心臓の音うるさいしっ!!』

さっきからずっと、ドキドキしっぱなしだ。

「まぁそうだよな。はい、これ。サイズでかいかもだけど」

「ありがとう」

『これは……俗に言う“彼ティー”ってやつ!?』

まさか私ができるとは。

なんだかドキドキする。

「じゃあ、先下降りてるから。着たら来て」

「うん」

『お、パーカーだ……』

パーカーは好きである。

周りから“パーカー愛好家”と称される程だ。

『……ん?』

「デカ……」

想像以上にデカい。

袖も、丈も合わない。

とにかくブカブカだ。

『うわぁ~……』

リュウの匂い。

『あ、あったフード♪』

パサッと被ってみる。

「ま、前見えな……」

「美結ー?」

「リュウ?」

「大丈夫か? 着れ、た……」

「えっと……リュウ? どしたの?」

リュウが直立不動だ。

近寄って、見上げてみる。

「リュウ……? っひゃ!」

「…………反則、そういうの」

「はっ、はい!? リュウ下ろして……」

「はい」

『なんでベッドに下ろす!?』

「リュウ……?」

「……美結が悪い」

「は!?……んっ」

何度も、何度もキスされる。

「リュ、リュウ……」

いつの間にか、ファスナーがおろされていた。

「もう一回、シていい?」

「あっ……朝! 朝だから!」

「でも、夜はもう帰るでしょ? 明日学校じゃん」

「……まぁ」

「美結が足りない……」

「……そっちこそ反則っ!!」

なんか、急に甘々雰囲気になった気がする。

『リュウ、プライベートだとこんな顔するんだ……』

新しく知った事実に、少し顔がにやける。

「美結? どした?」

「なーんでもないっ!朝ご飯食べたいな?」

「んじゃ、やっぱり俺もいただきます」

「は!? ……んっ!」

「美結おいしいから、いくらでも食べれる……」

「へ、変なこと言わないでっ!!」

結局、リュウの朝ご飯は昼過ぎまで続いたのだった……。



「送ってくよ」

「私の家、わりと近いから……いいよ」

「彼女を一人で帰らせるわけないでしょ」

『彼女……』

その響きは、なんだかくすぐったい。

「じゃあ……お言葉に甘えて?」

「うん」

そう言って、歩き始める。

「ねぇ……リュウ、どうしていきなり……」

「あぁ……」

答えづらいのか、少し言葉を濁らせる。

「……美結のお母さんに会った時、言われたんだ」

「え……」



「あ、菅原さん?」

「あ、茉乃! お母さん来たよ」

「わーい!」

「……菅原さん」

「はい?」

「娘の……美結の笑顔を、取り戻してくれませんか?」

「え……」

「あの子、7歳の頃は全然笑顔がなくて……“笑ってほしい”って思いでここに通わせたんです。美結は、私達の前でも笑うようになりました……」

「お母さ……」

「だけど、六年生の時かしら……笑いも、泣きもしなくなっちゃって……」

「あ……」

「美結はあなたによって笑顔を取り戻しました。でも、笑顔を失ったのもまた、あなたのせい」

「……」

気付かれている。

「うふふ、別にこんなことを言うために来たわけじゃないの」

「え……」

「……お願い、美結の笑顔を、取り戻して。これは、あなたにしかできないことだと思うから」

「……はい」



「……つまり、お養母さんは全部わかって……?」

「そういうこと」

『う、ウソでしょ……!?』

かなりショックだ。

恥ずかしすぎる。

「お母さんから言われたから、急にあんなこと言ったりしたわけじゃないんだ。俺が、そうしたくなったからしただけ」

「そう……」

「あ」

「私の家……」

「結局、翌日帰りになっちゃったな」

「それはリュウがっ……!」

「俺、強制した覚えないもん」

「……意地悪」

「俺こんなだよ」

また新たな顔を見れて、嬉しい。

こういうことを少しずつでも知っていけたらいいな……と思う。

「…美結」

「ん?…っ」

振り向きざまにキスされる。

「またな。…ありがとう」

「…うん。送ってくれてありがとね」

「俺がしたかったからしただけ」

「…リュウ、大好き」

「どうした?急に」

「なんか、言いたくなっちゃった」

「…だから、反則はそっちだって」

「え?」

「…また、帰したくなくなるじゃん」

「…っ」

『そんな顔して言われたら…っ!』

「でも、そういうわけにはいかないからな。じゃあ、また」

「…うん。バイバイ」

同じ道を再び歩くリュウを見つめる。

「…夢なのかなぁ」

気がつくと、一人で呟いていた。

『リュウと、両想い…』

実感が湧かない。

「…リュウの彼女かぁ~…」

その響きに、何故だか酔いしれる。

「…寒っ」

風が冷たくなってきた。

「入るか」

リュウの唇の余韻を残して、家の中へ入った。

困難の先に…

「へぇ~。じゃあ、やっと結ばれたのか。」

「う、うん…。ごめんね、報告してなくて。リュウに、“せめて高校を卒業してからにして”って言われてて…。」

今は、大学生。

付き合って約二年。

違う大学に進んだけど優子とは今も仲良しで、今日は久しぶりに会う約束をした。

「スゴいね、付き合うってなった初日から関係進みまくり。」

「ちょっ…優子、声大きすぎ!!」

「…っ良かった…。」

ギュッと抱き締められる。

「…ゆうこぉ~…っ!」

「今度こそ、ちゃんと幸せになりなよ?」

「うん…っ!」

「結婚式は呼んでね。絶対行くから!!」

「け、結婚なんてそんな…まだ早いし。」

「あれ~?その首に付けてるネックレスは何かな~?」

「あっ…!!」

無理やり、首からチェーンを取り出される。

「やっぱり。結婚指輪?」

「違うっ!…婚約、指輪…。」

「幸せ者め。」

「うぅ…。」

そう。実は、私が20歳になったら結婚することになっているのである。

もうお互いに両親に挨拶済み。

「学生で妻か。かっこよー。」

「て、照れるからやめて…。」

「…本当に良かった。ちゃんと美結が幸せになれて。」

「優子、今までありがとう。これからもよろしくね。…って、今日言いたかったの。」

「…うん。こちらこそだよ。」

「あ、もう行かなきゃ。」

「何か用事?」

「うん。」

「そっか。じゃあ、またね。次会うのは…結婚式かな?」

「さぁ?」



『いた。』

「わっ!!」

「うわっ…美結!!驚かせるなよ~。」

「えへへ、ごめんごめん。待った?」

「今来たとこ。」

『とかいって、15分くらい前には来てるんだよな~。』

「じゃあ、行こっか。」

「うん!」



色々なことがあった。

悲しい思いをして、たくさん泣いた。

多分、これから先も辛いことがたくさんあるだろう。

けど、それ以上に──…

「美結?どうかした?」

「…ううんっ」



幸せが、降り注ぐだろう。



10年先を歩むキミに、追いつけたから。



~完~

10年先を歩むキミ

とりあえず完結しました。
初投稿作品です。
何だかノロノロペースで、次作がどんどん増えてしまい、初作品は一番に完結しないのでは…?という危機感が自分の中にありましたが、一番乗りで完結して、良かったです。
拙い文章ではありますが、何とか書き終えました。
美結もリュウも、不器用な2人ですからね…。
なかなか、くっつけるまでが大変でした。
一番の壁は、やっぱり“歳の差”ですね。
途中思い通りにキャラクターが動いてくれなくて、モヤモヤした時もありましたが…
本当に、完結できて良かったです。

最後に。
ここまで読んで下さった方々、ありがとうございます。

他作品も、是非読んで下さると嬉しいです。

海月

10年先を歩むキミ

過去に深い傷を負った少女、進藤美結。 彼女は今、恋に自暴自棄になっている。 ただひたすら“愛”を求め、心は空(から)のまま身体を繋ごうとする。 しかし、脳裏をかすめるのは、初恋の相手、リュウ。 彼もまた、過去に深い傷を負っていた。 過去に縛られ、先に進むことができない2人。 交錯する2人の想い、 気付いていない真実(ほんとう)の気持ち。 不器用な2人によって繰り広げられる、愛の物語。

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 青年向け
更新日
登録日
2014-12-01

CC BY
原著作者の表示の条件で、作品の改変や二次創作などの自由な利用を許可します。

CC BY
  1. 消えない想い
  2. 再会
  3. 過去の記憶~美結~
  4. 過去の記憶~リュウ~
  5. 繋がる心
  6. 困難の先に…