浮くものまとめ
ある日
ある日のことです。
わたしは白いふうせんをもらいました。
ひもの先がわっかになっていて、手にとおせます。
これなら風にとばされることがないです。
空を見ました。
青い青い空でした。
ふうせんがすいこまれそうでした。
もっていかれそうでした。
風がふいたからでした。
すっごくつよく
わたしのふうせんをもっていこうとします。
わたしはわっかをしっかりとにぎります。
空を見ました。
青い青い空でした。
白いくもがひとつありました。
さっきはなかったのに?
ぼーっとしていたら
風がわたしのふうせんをもっていこうとしました。
わたしは
手をパーにしました。
ふうせんはあっというまにとおくとおくに行ってしまいました。
白い点になりました。
ある日もらったふうせんはくもになりました。
今はどこでういてるのかな?
それは
それは
俺の狭い心の中に
ずけずけと入ってくる
俺の小さな頭の中に
土足で上がりこんでくる
俺のでかいばかりの空っぽの体の中に
ぎゅうぎゅうづめにしてくる
いっぱいいっぱいの俺は
風船になって飛んでしまうんじゃないかと思う
風が怖いのはきっとそのせいで
音にビビってるわけじゃない
とがったものが怖いのもそのせいで
痛いのが嫌だとかじゃない
そう思っていたのもつかの間で
よくわからないうちに俺は
空っぽになってしまう
元から空っぽみたいなもんだよ
空気をパンパンに詰め込んだだけで
ちょっと浮かれてたんだ
実際浮き上がったし
穴が開いていたみたいで
セロハンテープでとめてみた
となりの子を見てみたら
その子はかわいいキャラクターの絆創膏を貼っていた
ぷかぷか浮かんでるのも大好き
だって楽だ
しぼんでるのも楽だ
パンパンにされてる時が一番つらい
けど
しぼんでいく何とも言えない感じは
ちょっと怖いかな
喪失感
小さいころあんなにほしくてたまらなかったのは
いったいなんでなんだろう
連れて歩きたかった
奪い合いもした気がする
不思議でたまらなかったんだろう
そんな不思議を味わってる
今俺はそれにまた出会ってしまった
でも何という名前だったか
思い出せない
多分もうずっと前に置き忘れてきたんだ
いつもよくやる
これもきっとそう
もう置き忘れたことも覚えてない
あの日飛ばしてしまった風船みたいに
あんなに大切にしてたのに
もう覚えていない
不思議だ
それは
ばるーん
俺はもうこれでいい
ここから動きたくない
そうして俺はそのまま
そのままを望んでは変化を恐れて
だからいつまでたっても宙に浮いてばかり
ここにいるのももう飽きたのに
いつまでたってもまたここに戻ってきてしまう
ずっとぷかぷか浮いていられるわけないのに
だから風が吹いたとき
だから大雨が降ったとき
だから日差しが照りつけたとき
だから割られそうになったとき
だから誰かに持ってもらったとき
だから誰かにふくらましてもらったとき
だから誰かに殴られたとき
だから誰かにつぶされたとき
ずっとしぼんでいられるわけないのに
ずっとそうしていられるわけないのに
このままでいたいならいればいい
できることなら逃げ出してしまいたい
だけどそれができない理由があるから
みんなみんな必死に逃げ出さない
そこにいる
その理由をわからないわけじゃないのに
みんなみんな嬉しくてムカついて悲しくて愉しくて
だから誰かにだから何かに
おかげでそのせいで影響されて流されて変わっていく
俺はずっとこのままがいい
そう思っていないくせに
この重たいだけの大きな体は
空っぽは微動だにしない
こころばかりが先走って
夏の終わりのこの季節のこの雨はやけに染みこむ
秋の初めのこの季節のこの風はやけに肌を撫でる
動かない俺を置いて季節が過ぎる
怖いくらいに
うきわ
これさえあればどこまででもいける
怖くないから
流されても
どこまでだって流されても
沈まないから
連れて行かれて
引っ張っていかれて
ぐんぐんと大きな大きな波に流されていって
だけどそれでも楽しくって
そしてどこか怖くって
だけど安心して流されてた
だってあなたがひっぱってくれたから
あなたが安心だって言ったから
だからあたしは買いたてのうきわに体を通して
すっぽりはまって
初めてこんなに遠くまで来たんだ
ほらあんなに小さく見える
ほらこんなに広かった
それに気づけたのだってそのおかげ
流されることは怖いけど楽で
流されることは
うきわがあればだいじょうぶ
そう思ってた小さなあたしは
ぷかぷか青に浮いていた
浮くものまとめ