溺れる

 彼と会うのは、いつも夜だ。
 いつもの場所で待ち合わせて、軽く食事をとり、ホテルへ行く。これはデートではない。そんな甘ったるいものではない。
 
 身も世もなく恋をした。
 胸に宿った熱は大きくなるばかりで、わたしは彼が欲しくてたまらなくなった。
「好きなんです」
 そう伝えたとき、彼は嬉しそうに笑って「かわいい」とわたしの頭を撫でた。
 
 彼のためなら何でもした。
 長い髪が好きだと言われたら、髪の毛を伸ばした。かわいらしい恰好が好きだと言われたら、服装を変えた。抱きたいと言われたら体を差し出した。
 何でもした。ただ彼が欲しかった。

 彼には婚約者がいる。背の小さい、かわいい人。もうすぐ彼女と結婚する。
 知っていた。
 ずっと前から、知っていた。

 好きだ、と言ってくれた。君が一番だ、と言ってくれた。
 でも、本当は、わたしのことなどどうでもいいのだろう。恋をしているのは、わたしだけだ。

 きっと、これからも「会いたい」と言われるだろう。わたしは「はい」と答えるのだ。犬のように従順に。
 彼は、わたしのものにはならない。
 でも、わたしが彼のものになれたら、それでいい。
 それでいい。

 わたしは、ばかだ。

溺れる

読んでくださって、ありがとうございました。

溺れる

恋は盲目って感じです。

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-11-28

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