きみにおくる物語

きみにおくる物語

これは、ある小さな村に住んでいた女の子のお話です。
どこかの国のどこかの村にお母さんと二人、仲良く暮らしていた女の子がいました。
なまえはわかりません。ここでは、そうですねえ・・・アリスとしておきましょう。
アリスはとても明るく、とても元気な子でした。

「アリス?アリス?どこへいったの?」
「お母さん、ここよ。わたしはここにいるわ。」
ある昼下がりの頃、お母さんとアリスは木苺をつみに近くの森へ出かけました。
キレイな木々に囲まれた木苺畑はとても優しい光に包まれていました。
「あぁ、アリス、そこにいたのね。」
「ふふふっお母さんのだいすきなラズベリーを採っていたのよ。」
「あら、すごくうれしいわ。ありがとう。」
お母さんと一緒にいることがアリスにとっては最高の時間でした。
もう陽がくれる頃になり、二人は森を出ました。少し出たところで、アリスが急に森のほうに向かって叫びました。
「またくるねー!!」
「どうしたの?急に大声をだして・・・」
「うんっあのね、あの森でたくさんお友達ができたのよ。」
「そう、よかったわね。」
「うんっ。」
アリスはとてもいい子でした。
自分で何が悪くて、何がいい事なのかをしっかりと理解できています。このときもそうです。
アリスは森へ何度か出かけたことがあります。ですが、今まで一度も森で友達ができたことなんてありませんでした。
「どんなお友達なのかしら?」
「たくさんよ。森のどうぶつさん達とさっきお友達になったの。」
「ふふふっそれはよかったわね。」
そう、アリスは森の動物たちとともだちになったのです。もちろん、話すことは出来ませんが、仲良くなることは出来ます。
アリスはそのことをようく知っているのです。
この森はアリスが生まれるずうっと昔、そのまたずうっと昔からここにありました。そこに住む動物たちはきっとアリスよりもはるかに年上なのでしょう。朝の日差しはそんな動物たちの目覚めのあいさつのようなものでした。
そして、夜の光はもうひとつの動物たちの目覚めの時間です。


~♪~

ありす ありす どこへ いく   わたしを おいて どこへ いく

ひとり ひとり さみしいの    さみしい よるは きらいなの

ありす ありす きみの てが  さみしい よるを あたためる


「きょうの夜はなんだか寒いわ。」
「そうね、じゃあダンロの前で夕食にしましょうか。」
「ほんとうっ!?うれしい!!」
「ふんふ~ん♪」

~♪~

「お母さん、なにか聞えない?」
「なにか?」
「うん。だれかが歌を歌っているの。」
外をみるとすごい吹雪です。とてもじゃありませんが、人が外にいるというのはとても不自然なことでした。
「なにも聞えないわ。」

~♪~

「でも、だれか歌ってる・・・。」
「じゃあ、森のようせいね。」
「森のようせい?」
「そうよ。今日木苺をつみに森へいったでしょう。」
「うんっ。」
「あの森はね、私やアリスが生まれるずうっと前からあそこにあるの。その頃はここに人は誰もいなかったのよ。森に住んでいたのは・・・ひとりのドラゴンだったの。」
「ドラゴン!?」
「ふふっそうよ。そのドラゴンはとても寂しがり屋で、いつも泣いていたの。」
「ドラゴンってすごく強くて、すごく怖くて、人を食べちゃうんだよね?」
「そうね。でもね、ここの森に住むドラゴンはすこし変わってるの。とても寂しがり屋で、臆病で、ともだちが欲しかったのよ。」
「そんなドラゴンにもある日、ともだちが出来たのよ。それが・・・
「森のようせいさん!?」
「せいかいっ」


「はあ、今日もひとりか・・・たまにはだれかと話したいなぁ。」
「ドラゴン?ひとりでどうしたの?」
「!?」
「あら、ドラゴンがひとりで驚いているわ。」
「可笑しなひとね。」
「えっ、あぁ、えぇっと・・・」
「あら、自己紹介が遅れたわね。ごめんなさい、私はジフ。森の妖精よ。」
「私はコルラ、ジフの姉よ。」
「私はふたりの妹のフューネ。」
「わたしは、ドラゴンのディラ。何億年も前からずっとこの森で暮らしているよ。」
「ごめんなさい、突然だけど私たちの話をきいてくれるかしら?」
「私たちはこの森のずうっと先にあるチルドという森から来たの。」
「そこはとってもキレイなところで多くの動物たちがいたわ。」
「だけどある日、空が暗くなって・・・」
「雲があばれはじめた。」
「そして、私たち森に住む妖精を含め、全ての動物たちがその雲に吸い込まれてしまった。」
「じゃぁ、なんで君たちは今ここにいるの?」
「私たちは、ちょうどその時、数キロはなれた野原で木苺をつんでいたの。」
「木苺を?それは何?」
「木苺はくだものよ。」
「甘くておいしくて・・・」
「ひとつひとつ粒に分けて瓶につめるの。」
「そうして一週間待つと、とてもおいしいくだものになるの。」
「ふふっ今度作ってあげるわ。」

「森に帰ったら、誰もいなかった。」
「どうしたのか、森の木々たちに聞いたわ。」
「突然空から黒い雲がやってきて、みんなをさらって行ったって。」
「どうすればいいか分からなくなって、呆然としたわ。」
「怖かった・・・」
「そして、森の木々たちは私たちに『逃げろ』といった。」
「また来るからって。ここの森は・・・」
「・・・・・。」
「どうしたんだ?」
「『ここの森は永遠に還らない』と言っていたの。」
「うっ、ううっ・・・ひっく」
「そうか。そんなことがあったのか・・・」
「えぇ、だからお願いっ私たちをこの森に住まわせてほしい。」
「ルールはちゃんと守るわ。」
「決して森は汚さない。」
「ディン、お願い・・・」


ビュォーッ ビュォーッ
「それで、ようせいさんたちはどうなったの?」
「森に住んだわ。そして、ドラゴンは話し相手ができた。この森には何のルールもなかったの。だってドラゴンがひとり住んでいるだけの森だったから。」
「じゃぁ、そのようせいさんたちがルールを作ったのね。」
「えぇ。ルールの一つ目が、《森をきれいに》。」
「ふふふっようせいさんが考えそうなことね。」
「そうでしょう、そして二つ目は《歌を歌う》。そして、最後は《みんなともだち》なのよ。」
「なんで三つ目が《みんなともだち》なの?」
「それは、きっとドラゴンのことを思って言ったのね。」
あっ・・・そうかぁっ!
アリスは心の中でさけびました。
古びたダンロには大きな火が灯り、二人の顔が小さく照らされています。
外はまだ吹雪が静かに、でも力強くふぶいています。
「ようせいさん、すごく優しいね。」
「そうね、ねぇアリス?あなたもようせいさんみたいに相手を思いやる心を持ち続けてほしいの。」
「うんっ!」
「誰も信じられなくなる時もこれからはあると思うわ、たとえ今はなくてもね。だけど、そんなときでも・・・あなたには相手を思いやり、信じる心を持っていてほしいの。」
「お母さん、私もそうゆう風になりたい。」
二人はふふふっと笑いあい、ご飯を片付け、その部屋をあとにした。
アリスはそのままベッドへ行き、眠りに落ちた。


~♪~

ありす ありす どこへ いく   わたしを おいて どこへ いく

ひとり ひとり さみしいの    さみしい よるは きらいなの

ありす ありす きみの てが  さみしい よるを あたためる


「う~ん、お母さん・・・?」


~♪~
ありす ありす どこへ いく   わたしを おいて どこへ いく

ひとり ひとり さみしいの    さみしい よるは きらいなの

ありす ありす きみの てが  さみしい よるを あたためる


「・・・お母さん?!」

突然どうしたのでしょうか?
アリスはおおきな声を出して、勢いよくベッドから出ました。
向かった先は・・・

「お母さん?!」

「お母さん?!」

「お母さん?!」

一番初めはお母さんの部屋へ。次にリビング、そして玄関へ。どこを探してもお母さんの姿は見当たりません。
アリスはその場にしゃがみこみ、泣き出しました

「おかあさーん!おかあさーん!」

ビュォーッ ビュォーッ ビュォーッ


風がつよく、つよく吹く、ある日の真夜中の出来事だった・・・。
アリスはひとり、母と暮らしてきた家にのこされた。



時が経ち、アリスは大人になりました。
あれから、母の姿は一度としてみていませんが・・・
アリスは清く、美しく、強く、とても立派な女の人へと成長しました。

きみにおくる物語

きみにおくる物語

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-11-27

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