ページめくり屋メクリダ

ページめくり屋メクリダ


 0 ぼくの決心 ――何度も反復した言葉―― 

 父さん、ぼくは(ページめくり屋)ですから(ページめくり)にかけては少々自信があるのです。あの時のように(ページにめくられていた(ぼく)ではない)はずなんです。必ず、あなたの元に、もう一度、姿を現し、次こそは、(ページめくり屋)としてのぼくが、父さん、あなたの(ページ)に挑みかかるのです。

 1 地底空洞オールドリアンでマネキン人形のダビデ円

 ぼくは忘却の村メクリから追放された(ページめくり屋)だ。
 人々が(ページめくり)をしなくなって既に1世紀が経過した。
 ぼくは(ページめくり)をするが、先天的な病、学術的な病名(ペジレナイ)で両手を失っている。だが、黒い義手ペジレールをつけて(ページめくり)をすることができ、日々の仕事に支障はない。ぼくにとって、この黒い義手ペジレールは、使用歴21年の本当の両手なのだ。

 ぼくは(ぼく自身にとって最も重要なページ)を探すために生きている。だが、それは簡単には見つからない。ぼく自身、(どんなページ)が(最も重要なページ)なのか検討がついていないんだ。ページを願えばページが遠くなるようなもので、いつも脱線ばかり、不要なページに遭遇してばかりだ。

(ページめくりについて考えるために最も重要なものを考えるとき)ぼくは、次の書を頻繁に開いていた。すわなち、忘却の村から持ち出した、(ページめくり学の権威ページ王ペジペジ)による没後発見された大著(全ページ世界論 最終章 ページめくりの終焉)を部分的に要約すれば、

(さて、われわれメクリ人のみ過去ページをめくることができ、他人種は過去をめくる能力を失った。新世界創造者が、旧世界と新世界の歴史的区分を完成させ、旧世界への歴史参照を完全に廃絶した。かつてネットワークの覇者企業が世界のすべての書を保存するという壮大な電子図書館を構想し、計画完了まで一息であった)

(しかし電子図書館すら新世界創造者の検閲を受け、新世界の歴史のみの時代がやってきた。紙の本が消えることにより過去の歴史記憶を失った上でページの概念が消えた。ネットワークのページでは過去の歴史記憶は削除された上で、ネットワークのページにおいてもページという概念は消えた)

(つまり、紙と電子媒体から人類の歴史記憶を保存してきた、読書家が愛し続けた言葉を意味する(ページ)が失われた。すなわちネオテクニウムの時代である。ネオテクニウムの時代の最大特徴として(ページという概念は世界に存在しない)。ただ、われわれメクリ人の村をのぞいて)

 ぼくは本来(ページめくり屋)だが、ペジペジの言う(ページは世界に存在しない)というネオテクニウムの世界では(旧世界教師)という秘密の職業を生業にする、いわゆる流れ者、アウトサイダーだ。
 今日は、最終講義の日である。ネオテクニウム暦111年11月11日、この記念すべき7つの1という数字が並んだ日、ネオテクニウムの世界は世界7大陸全体をあげて世界休日を設け、パレードをしている。空には大気に反映された大気投影プロジェクターから7つの世界のパレード状況を空中3D映像でリアルタイム放映している。映像シャッフルの間隔は約1分であり、視覚認知可能な空すべてがパレード映像で満たされており、空の作り出す芸術、すなわち朝の紫の曙光のグラデーション、昼の青と白、夜の深い闇は、けっして訪れないのだ。時の図鑑が大気を通して反映される街ニューアンサーを歩きながら、空をぼくは何度も見上げる。この1世紀の間、終日、空を飛来している偵察機の機影の姿が認められないことに安堵を覚えた。立ち止まってパレード各地の状況に驚嘆しながら、また歩きだし、最終講義をする場所に設定した、地底空洞オールドリアンに到着した。
 地底空洞オールドリアンの入口は正十二面体の発光扉になっており、逆さ虹のように珍しい発光扉内で生体認証をパスし、すぐに馴染みのネオテクニウム反体制派の女性書記長ガンダルフがきた。
 黒一色のスーツに身を包んだガンダルフは、細見の女である。女豹のような印象。突き放す視線の強さは峻厳さの意思表示だろう。しかし、彼女の心の奥は、彼女の大好きな花ヒヤシンスが群り、手塩にかけて育ててきた平穏の植物室を形成している、ということをぼくは知っている。堅苦しいだけの女とは違うわけだ。
「お待ちしておりましたメクリダ先生。お疲れになりましたでしょう。本日は、世界休日の日でございますから、視神経を大事になさってくださいませ。こちらをどうぞお使いください。ネオテクニウム反体制派企業ダブルアイズ社による視神経回復点眼剤ジョルジュ・ヴァタイーユでございます」
 美術品鑑定家たちが使用する類の白い手袋をはめた左手をガンダルフが差し出す。白い手袋に載せられた点眼剤を受け取り、ぼくは眼球に点眼剤をさした。目をしばたたかせていると、地底空洞オールドリアンの岩窟の異様な景色、ところどころに取り付けられた作業用ライトが仄かな光を浴びせることで赤土色の岩がせり出しているのを視認できる。秘術ゴーレムすら思い出させる、密教的な気配を醸す、地下世界なのだ。
 ぼくは点眼剤をガンダルフに返し、
「この視神経回復点眼剤の開発者兼社長は、ぼくの教え子の、あの子か。かつて旧世界に存在したフランスの作家ジョルジュ・バタイユの危険な世界観に魅惑されていたな。あの書(眼球譚)は危険な本だ。アブノーマルなポルノグラフィとして片づけるには惜しい内容だが、無神論者であるジョルジュ・バタイユの世界観に影響を受ければ、反体制派の革命思考も独自的に醸成される……か」
 ガンダルフは微笑んでいる。
「メクリダ先生。点眼剤の効用がはっきりと見て取れますわ。では、右手前方にあります脱着所にて瘴気耐性防護服をお脱ぎください。地底空洞オールドリアン内では瘴気吸収装置を稼働しておりますから安全です」
「いや、脱着所を覗いたところ、先着がいるみたいだ。1名分の広さしかないようだから待つとしよう。ところでガンダルフ君。きみたちの開発した、この瘴気耐性防護服は、とても重量のある服で肩が凝ったよ。軽量化のために材料工学の技法を応用したほうがいいだろう。宇宙服を着た掘削作業員のような気分で地底空洞の岩窟階段を降りてきた。地下空洞オールドリアンは反体制派の瘴気学者と瘴気研究のポスト・ドクトラル・フェローいわゆる研究員たちが瘴気兵器の開発・応用を検討しているようだね。研究資金の出所は、やはり君なのかい。ガンダルフ君」
 ガンダルフは深く目を閉じた。そしてぼくに正対するのをやめ、斜めに立ち位置を変えた。そして目をひらき喋りはじめようとしている。
「メクリダ先生のご賛同を頂戴することは叶わない夢かもしれませんが、わたくしは瘴気兵器が貧者の武器であるとしても、このプロジェクトに賭けるしかないのです。資金の出所の件についてですが、わたくしは体制派の主要組織の役員の娘として生命を授かりましたから、裏金の捻出に困ることはありません」
「言葉の組み合わせは常に流麗なガンダルフ君。だが、音声学的見地からして感情を表明する周波の歪みを感じる。言語病理学者なら一撃で身抜けるだろう。そうさ(声の震え)を感じる。きみほどの絶対零度の女が恐れているのか、革命戦争の成否を」
「メクリダ先生らしくないですわ。なぜ挑発的な発言をなさるのです。貴方様が教えてくださったA・A・ミルン原作(熊のぷーさん)の偽作(熊のぷっぷさん)さんのような童話的話術師の顔はどこへ? 紙芝居作者が子供たちをわくわくさせようとさせる、あの顔が一切見受けられません」
「まだ言い足りないようだが」
「当然です。貴方様のお優しい森林生活者のような、ミクロの森の微生物をルーペで観察するような心。あたたかな、やわらかな心。ガイアを照らす心をわたくしは、いつも、いつも、いつも陽光を浴びるように敬愛してきたのです」
 ガンダルフが困惑するように頭を下げている。ぼくはガンダルフに近づく。距離は香水を感じられる、密接な最少距離。彼女の下顎に片手を置いた。指三本を水平状態から直角に動かし、ぼくの眼前にガンダルフ。この距離で彼女との時間を過ごすのは初めてだ。
「子犬が舌を出して小走りしているような印象をガンダルフ君に感じる。もちろん、その子犬は喜んで小走りしているんじゃない。泣きながら小走りしているんだ。だけど大丈夫だ。ぼくは最終講義をするが、必ずまた、このネオテクニウムの世界に戻ってくる。すべては焦らなくていい」
 ガンダルフは泣いている。涙腺が緩い女でないことは知っている。だから、ぼくが泣くのを制止させるのを待つことなく素早く平静に戻った。人払いをする必要はなかった。特別な時間にしか泣けない人間の涙をぼくは記憶している。
「やはり忘却の村ですか」
「ご名答」
「忘却の村については、わたくしどもはメクリダ先生から(忘却の村)という言葉でしか知らされておりません。反体制派の秘密結社を結成して10年になりますが、より詳細な情報を与えてもらうことはできませんでした。その謎も本日、解けるのでしょうか」
「この世界休日の日、ネオテクニウムの世界の人々はネオテクニウム礼賛のパレードをする中、おそらくはネオテクニウム歴史学者が新しい歴史の証言として、この世界休日の日を記録に留めるだろう。逆の立場のぼくは忘却の歴史を考えなければならない運命にいる。というより人生が運命に追従しているよりも運命を人生に追従させるようにぼくは仕向け続けてきた。今日の講義では、ぼくの秘密の一部をきみたちに伝えるつもりだ」
「わかりました。最終講義開始時間が迫っておりますから、わたくしからはこれ以上の質問を重ねるのは控えます。それでも、これだけは言わせてください」
「どんな話なのかな」
 ガンダルフは僕を衣装室に先導した。衣装室にはマネキン人形が何十体も設置されており、衣装デザイナーたちやマネキン搬入業者たちが走り回っている。マネキン人形には子供用のマネキン人形から大人用のマネキン人形まであった。ぼくの最終講義を聴講するのは全年齢の人間であるから全年齢の人間のマネキンが用意されているのは納得がいく。
 ぼくはマネキン人形の総数を数えるため目を蜂の動きにした。計数活動終了。総計78体。ぼくの最終講義が開始する頃には、丸裸のマネキン人形はマネキン搬入業者の手によってネオテクニウム世界に移動させられているだろう。
 マネキン人形観察をしている間、ガンダルフは、ぼく用のマネキン人形をマネキン搬入業者に運ばせ、持ってきた。ただ、マネキン人形搬入業者の置き方に、不適切な心配りを感じる。というのは、ぼくを中心とする円があるとして、その円周上に均一なフォルムをしたマネキン人形が総計6体並んでいるのだ。これではイスラエルのダビデの星である。マネキン人形のダビデ円による無言の集中監視を受けているのである。マネキン人形特有の生命現象の皆無さ、それは冷たい目。ここから電子ビームでも出されたら、無菌実験室の死体マウスである。
 マネキン人形のダビデ円に囲まれた中、マネキン搬入業者に挨拶を済ませたガンダルフがマネキン人形のダビデ円の中に入ってきた。なにか珍奇なゲームをしている気分になってくるから空間状況というのは、侮れない。
 ガンダルフがマネキン人形の解説をしたそうに時計回りに周回行動を開始したが、デパートの主婦よろしく物色は逆時計回りの箱庭探索が追加された後、ようやく一体のマネキン人形を選んだ。
「こちらをご覧になっていただけますでしょうか。こちらのマネキン人形が着用しているもの。これこそ本日の最終講義に最も相応しい第一級のものであろうとわたくしがネオテクニウム世界を駆けまわって探してきたものです。ですが、お気に召されたものをお選びください。ネクタイもカフス・リンクスもモンク・ストラップもシャツも靴べらも6種類ずつ用意しています」
「ガンダルフ君、なぜ6体のマネキン人形なのかな。半分の3体もあれば迷うことなく選べるが2倍の6体もあると可能性が多すぎてファッション迷子になってしまう」
「メクリダ先生が最初にわたくしどもの前に現れた時、(6つの旧世界の話)をなされて以来、わたくしのラッキーナンバーは6です。(6つの旧世界の話)を聴講いたしましたとき、神経インパルスが発火したのを感じました。まさにガルヴァーニの火のように。知的快楽の頂点を感じた瞬間でした。過去世界の話を知っている人間の数は、希少生物の統計数の総和よりも少ない数であると。そしてすぐにわたくし自身の過去を思い出しました。幼いころ、まだ家庭派の面影を残していた父に遊園地へ連れて行ってもらったことがあります。そこでジェットコースターに乗ったとき、自分自身が竜巻になったような、とても刺激感のある爽快な気持ちを味わいました。速度の世界をはじめて体験した瞬間でした。なにか深い体験をしたように感じたのです」
「きみの過去の話の一端をぼくの話と掛け合わせてくれて、(なりがとう)」
「メクリダ先生。わたしの聞き間違いでしょうか。いま、(ありがとう)を(なりがとう)とおっしゃった気がしますが」
「ネオテクニウムの世界では感謝の言葉は(ありがとう)という言葉で統一されているね。だが、忘却の村では(ありがとう)ではなく(なりがとう)という言葉が感謝の言葉を意味するんだ。最終講義のときに紹介しようと思ったが、ガンダルフ君。きみの心に負けてしまったようだ。他の聴講者を差別するわけではないが、一足先に、ぼくの過去の記憶の一部をきみに届けたかった。そういう意味で言えば、こちらこそ(なりがとう)と言わなければならない」
 ガンダルフは、奇妙なことに股関節脱臼を直そうとするかのごとく、股関節に手をあてている。
「メクリダ先生。わたくし、年甲斐もなく感激の渦が子宮を圧迫しているのを感じます。(なりがとうございます)」
 ぼくはガンダルフの怪しげな性癖かもしれない一面を垣間見て、瞳孔拡大してしまったが、人間のボディランゲージやコミュニケーション伝達方法は文化により左右される。おそらくガンダルフは感情が高揚すると(子宮押さえの構え)を取る、あの広大な接骨学体系を開発した接骨学の開祖ハンゲツバン・ソンショウ一族の末裔なのかもしれない。ぼくの(ページめくり屋)の中の情報に(子宮押さえの構え)の項目はないが、新たに記述項目を獲得できて望外の幸せだ。学術的には接骨学というよりは広い射程を据えた文化人類学の項目が妥当な線だろう。
「よし。きみが最初に紹介してくれたマネキン人形の服を剥ぎ取って最終講義に向かうか。ようやくダビデ円と別離することができるな」
「ダビデ円?」
 ガンダルフが当惑したのも無理はない。ダビデ円は、ぼくの思考の産物で、彼女に向けてダビデ円という言葉を発してはいない。
「気にするな。そろそろ脱着室も空いているだろう。最終講義の場へと急ごう」

 2 ページめくり屋メクリダ、脱着室プロボウラーから最終講義へ

 ぼくは長い間、待っていた機会を得た。最終講義のことではない。超重量の瘴気耐性防護服を脱着室で脱ぎ終わり、へとへとなのである。脱着室に備え付けてある、クーラーボックスの中から185ミリリットルのコーヒー牛乳(もちろん瓶)を取り出し、のど越しを満足させていた。だが、ぼくの身体からはサウナ室で汗をながす力士の身体から出る、いわゆる濃厚な汗が噴出していた。185ミリリットルのコーヒー牛乳を10本飲み終え、気晴らしに空瓶をボーリングのセット状態の形に並べてみた。この下向きの三角形を象るコーヒー牛乳10本を気持ちよくストライクするためにはボールがいるのだが、ボールがないので、ぼくはマネキン人形の頭部を衣装道具屋の旦那から借りたノコギリで切断し、マネキン人形の頭部をボールとして使用することに決めた。

 第1投目。

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 記録/ガーター。虚しさや苛立ちを感じるよりも、むしろ185ミリリットルのコーヒー牛乳の浮動明王的な立ち姿に、ぼくは敗北しているのだ。レールがないので自分でボール扱いのマネキン人形の頭部を拾いにいく。おそらく球速は並だろうが、壁に衝突したマネキン人形の頭部は、素材の脆弱性を露呈し、ピノキオ風の鼻柱がへし折れた。つぶさに観察すると折れたのではなく鼻が取れていた。鼻の空洞を覗いていると女性用のランジェリーらしきものが入っていた。ぼくは手に掴んでみると、これは脱ぎたてホヤホヤの昼定食ランジェリーはいかがですか、だと決めつけた。そうだとすれば色を熱心に確認しなければならない。紫が望ましい。しかし赤である。だが、赤は候補2であるから悪くない。赤のブラジャーと赤のパンティーが匂い立っている。まさかガンダルフがぼくの最終講義のプレゼント用のために極秘に仕込んでいたのだろうか。なんというクイーン・オヴ・サプライズなんだ。
 妄想の繭を膨らませていると、誰かに肩を叩かれた。肩の手を見ると、ブルーの付け爪が見える。これはガンダルフの手だ。
「メクリダ先生、上半身裸の姿、たくましくていいですわ。任客を相手にする刺青師がおりますが、かれらが立派な彫り物を入れたくなる背中でしょう。仮に刺青師が仕事依頼をしてきても、このわたくしがそんなことは阻止いたしますけどね。わたくしの選んだものをこれから身に着けて最終講義をしてくださるのですね」
 タイミングが悪いので、即座にぼくは持っていたランジェリーをマネキン人形の鼻の空洞の中に落とし、証拠隠滅をはかる。不確かな冤罪だけはご勘弁だからだ。ガンダルフの様子から察すると、マネキン人形を見ても動じる気配はないので、あのランジェリーはガンダルフの隠れプレゼントである可能性は消えた。ということは、あのランジェリーはマネキン制作者がマネキン内部にランジェリーを封印するという、非常に特殊な変態性癖を持っていたのだろうか。この程度の推測が、ぼくの限界であるらしい。(世界は巨大である)といったのは、(ページめくり学の権威ペジペジ)である。
 証拠隠滅をするにはマネキン人形の鼻を丁寧にふさぐ作業が必要になってくる。というのは、ランジェリー封入中のマネキン人形の頭部を使ってボーリングをしているという、一種独特の行為の全体像をガンダルフが知らないとしても、この行為の不可思議さに興味を持って、必ずや次の会話の展開中に質問をしてくるだろうという危険が排除できていないからだ。
 逡巡している間にガンダルフの質問の手が伸びてきそうだ。
「メクリダ先生。マネキンの……そんなものをお持ちになって、いったい何をなさっていらっしゃるのですか」
 万事休すだ。危険に対処するための妙案が浮かばない。助け舟が来るわけもないので、ぼくは、閃きの精度はけっして高くはないが、悪手ではないであろう駒を盤面に打つ。
「木工ボンド! 木工ボンド! 木工ボンド!」
 と肺活量の使用法をオリンピックの水泳選手なみに引き出しながら、大工の棟梁のような指導的大声を出し、木工ボンドを求めて衣装室に戻り、衣装デザイナーから木工ボンドを482円で買った(けちだったので貸してくれなかった。定価よりも高いかもしれない)。ぼくは木工ボンドでさっそく応急処置をしたが、いわゆる(この場合ぼくとマネキン人形のどちらが得をしているのか)という問題提起をした場合、マネキン人形本体のファッション工芸的価値よりも、ぼくの状況のほうが得であるとぼくは判断するだろう。
 ぼくはマネキン人形の頭部を小脇に抱えて、ガンダルフのもとへと爆走した。
 ぼくの姿を確認して笑っている、ガンダルフ。この微笑は、こちらの行動を看破されてしまった笑いだろう。おそらく脱着室の185ミリリットルのコーヒー牛乳の明らかにボーリングを象った姿を見て、(メクリダ先生はボーリングの準備をしていたに違いないわ。けれどボールがあるわけもないわよね。もしかして、さきほど手に持っていたマネキンの頭を使ってボーリングを)というガンダルフ推測が働いている可能性が高い微笑なのだ。
「メクリダ先生。脱着室に頭部が持ち逃げされたマネキン人形とコーヒー牛乳の瓶がボーリングみたいに置いてあります。他の方が入室されたら不気味でしょうから片付けようかと思いました。ですが許可を得てからと思いましたから、わたくしが現場保全のために見張っておりました。抱えていらっしゃるマネキン人形の頭部と、なにかしら関係があるのですか。おそらくプロボウラーの真似事をなさっているのだろうか、と予感しているのですが」
 ばっちりだ。ガンダフルは今日のぼくの揺れ動くテンションをよくわかっているようだ。
「ご明察だ、ガンダルフ君。1投目は図らずも美しいガーターを完成させてしまったのだが、次こそはスペアを狙うよ。しっかりとマネキン人形の頭部軌道を観察していなさい」
「かしこまりました」
 さあ、再登板の時間だ。

 第二投目。

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 記録/2本。

「メクリダ先生……高難易度の状況になりましたね。この苦笑いを禁じ得ない状況、失投後数秒間放心状態になってしまい天井を仰ぎ見る状況、この状況では誰もが考えることでしょうけど、まずマネキン人形の頭部を投げる際のテクニックとして、カーブをかけて倒すことが、絶対条件になりますわね。たとえば右側をエリアAとし、左側をエリアBとした場合、まずエリアAのすべての牛乳瓶を巻き込みながら倒し、かつ倒れた4本の牛乳瓶のすべてかあるいは幾本かがエリアBの牛乳瓶と幸運結合するかあるいは余波的ネットワーク的に薙ぎ倒してくれるのを期待するしかありません」
「手首の捻りを極限まで効かせれば、壮大なカーブを描けると思う。やってみるよ」

 第三投目。


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 記録/0本。

「メクリダ先生……信じられないことですが、カーブの威力が強すぎて、倒した牛乳瓶までをも巻き込み(すべて復活して)しまいましたわ」
 ガンダルフが茫然としている中、チロリロチロリロという音が鳴った。ぼくは左手首に目をやる。最終講義開始時間5分前にセットしていた腕時計の簡易アラームが鳴り響いていた。
「……なにかの(暗示あるはい予兆)かもしれないな。不気味な現象だが、考察をしている時間はない。登壇のために先を急ごう」

 3 最終講義 ――忘却の村――

 脱着室プロボウラーの気分転換を終え、最終講義の演壇の前に立ち、マイクの小賢しいハウリングを無効調整し、静寂がようやくやってきた。席に着いた聴衆をS字に見渡した。ぼくの最終講義を聴くために集まった聴衆は、背筋を正して視線をぼくに集中している。ガンダルフの目配せの合図があり、ぼくは何度も反芻してきた言葉を紡ぎ始める。

 みなさん、これからみなさんに、この日までぼくが秘密にし続けてきた(忘却の村の話)をしたいと思います。(忘却の村とは、いったいなんなのだろうか)という素朴な疑問を氷解していきたいと思います。では、みなさん、お手元に用意されている(回想再生ヘルメット)を装着してください。この(回想再生ヘルメット)を装着していれば、みなさんは、ぼくが制作した(忘却の村の体験をぼく自身と同じように追体験できるように)なっています。音声を吹き込んでもよかったのですが、本日は最終講義ですので、音声に関しては(リアルタイム同期)させます。それでは、最終講義を開始します。

 (回想再生ヘルメット)の三次元空間内に変化が訪れる。
 
 黒の背景に緋色の花文字のタイトルと副題が浮かび上がる。

 ――忘却の村――

 ――悪魔スカートの少女メクリーヌ――

 (回想再生ヘルメット)の三次元空間内に、幽かな水の音が聞こえはじめる。閉め忘れた蛇口の水滴が、ぽとっ、ぽとっ、と静寂な音を立てるように、幽かな水の音が聞こえている。同時に、水彩画風の白と青の雲のような不定形なものが、三次元空間内にマーブル模様をかたどりながら生成されはじめる。曖昧な白と青が、広がったり、狭くなったり、開いたり、閉じたり、消えたり、現れたり、消えたり、閉じたり、開いたり、狭くなったり、広がったりしている中、

 ――これから映し出されるのは――

 ――ぼくの失われた人生の風景――

 ――これから伝え聞かせるものは――

 ――ぼくが忘却の村に戻らねばならない理由――

 ぼくは、リアルタイム同期をするため、講演音声を(回想再生ヘルメット)の三次元空間内に注入していく。

 ――いまここに、(ページめくり王であると同時に冒険王でもあった)メクリマ伯爵が古代遺跡を愛用のスコップ片手に発掘するような美的熱心さでスケッチしてきた小さな湖があります。その湖は、牡丹雪が自由の雲から降る、彷徨える湖メクラーという名で忘却の村のメクリ人たちに記憶されています。

 ――この忘却の村は世界地図、いわゆる偉大なるアトラスから抹消されたわけではなく、もともと世界地図に掲載されることすら不可能であった村のひとつです。宇宙の見えざる思惑が働いているのか、それとも神隠しの村であるのか、生半可な臆断は脇に置くとしましょう。地磁気の極度の異常混乱により、世界各国の最新の精密な軍事レーダーをもってしても正確な場所を特定できないのです。さらに不思議なことに、この村の地理学的地質学的気象学的条件を考えるならば、スノードームのような形をした、底面を円とする半球状の島であり、1年のうち9割以上の日は雪が降っており、島の外縁を死神の吐息のような不気味な雰囲気を持つ霧が覆っているのです。この霧に対しては、殺人霧という別名をぼくは与えています。それほどに見るだけで胴震いしそうだからです。ここは、新世界創造者の管理も及ばぬ別世界、(ページめくり屋のみが生活している秘密の場所)なのです。

 ――すずやかな緑の風が吹きわたり、同心円上の波を織りなす湖メクラーのまわりを、分子生物学的に遺伝改良された冬用の鶯の声が幾層にも澄んだファンファーレを鳴らす中、これまた分子生物学的に遺伝改良された強化キリギリスが群がる巨大な丸太の上で、赤いスカートが、ゆらゆら、ゆらゆらと次元、いわゆるディメンションのちがう誘惑度をもった架空の映像のように揺れています。赤いスカートの所有者は、両足をきちんと仰角45度で折りたたんで座っている、少女メクリーヌでした。巨大な丸太の上ではなく、巨大なブランコに乗っていたならば、ぼくは空に君臨する巨大ブランコをわが物とする女王に対して従順な召使になれるのにな、と奴隷的な残念感を押し隠すことができません。

 ――ぼくは彼女の位置から斜め前方の薄暗い林の死角に姿をひっそりと隠し、光量の充分確保できる場所に陣取り、ぼくの魂の相棒である愛機・双眼鏡メクリツヅケロケロッピVを使って少女メクリーヌに照準を合わせます。覗き屋的趣味を存分に発揮しながら観察していたのですが、おやおやと気付いたことがあります。この見目麗しい少女、なにか嬉しいことでもあったのでしょうか、体を小刻みに動かしており、首にかけた虹の三連ペンダントがルンルン気分で宙返りを繰り返しています。そうかと思うと突然、鶯の真似をした口笛を吹き、すると自然に少女メクリーヌの左肩の上に鶯が止まりましたが、彼女は(ページめくりの真実)という(ページめくり学者メクリールラ・キュイジーヌ・メクリータイ28世)の手になる豪華絢爛な装飾の施された難解そうな本を、チョコレートケーキを食べるような表情で読んでいるようです。

 ――ぼくは、少女メクリーヌの赤いスカートが、最高級の布地メックリと最高級の服飾デザイナー兼霊媒師であるメクラレン・メクラレンの技量で仕立てあげられているのを見て取り、おそらく高貴な家柄のご令嬢なのだろうと一考することもなく、本心を本能のまま解放し、赤いスカートを(めくりたく)なってしまいました。この物質世界と精神世界で構成される世界の中で何事も(めくられるべきだし、そして、めくられつづける摩訶不思議な現象どもが十分に理解され、さらにまた、理解をより追撃していくために追究されなくてはならない)とぼくは常々考えているのです。

 ――しかし、ぼくは、留保せねばなりません。自分の生命にかかわる話を思い出してしまいました。その話とは、この村に入村したものならば、命綱のかわりともいえる聞き捨てできない話なのです。忘却の村のメクリ人が語り継いできた話、いわゆる口承伝承によれば、少女メクリーヌは信じがたいことに、悪魔スカートの聖少女メクリーヌという通り名を持っており、一説では不死の存在であるともいわれています。

 ――不死の秘密は赤いスカートにあるそうで、どうやら赤いスカートを穿けば、永遠の生命を約束されるという信憑性のない話が、持続するゴシップとして忘却の村のメクリ人の間で偶像崇拝的に広まり、永遠の生命を手に入れるために女たちだけでなく荒々しい男までもが、不死の赤いスカートを穿くために、スカート強奪を各自のゆがんだ欲望から企てたらしいのです。

 ――ただ、スカートを強奪した者は、確率論的に言えば、1、すなわち100%の確率状態で焼死するという世界犯罪史上類例のない事件が忘却の村の犯罪統計調査により明らかになっています。この怪奇現象は、赤いスカートの制作者である服飾デザイナー兼霊媒師メクラレン・メクラレンが、不幸なことに伴侶を謎の人物に殺害されてしまったことに原因があるそうです。

 ――事件の概要を簡単に説明すると(監視カメラの映像が残っていたので状況証拠が鮮明に記録されており、再生映像をぼくは視聴することが可能だった)、氷柱を幾本でも見ることのできる厳冬の夜、メクラレン・メクラレンの伴侶が、古城のような趣のある7階建ての自邸の地下室で(ページめくりの理論と実践)という技術書の完成を夢見ながら執筆している際、突如、厳重な二段式鎧窓が、あっさりと謎の人物の手によって可及的速やかに部品に分解され、取り外されました。

 ――謎の侵入者はメクラレン・メクラレンの伴侶が自家焙煎のアラビック・コーヒーを淹れている時、背後から羽交い絞めにした後、まず筋肉弛緩剤を注射し、生体活動を鈍麻・麻痺・不能にさせ、つづいて視覚を塞ぐため強固な合成特殊粘着剤を顔面に塗り付けた後、デスマスクを模した仮面マスクをかぶせて死に化粧の用意を万事整え、殺害の終着駅である目的の地、地下室の温度を快適に保たせていた燃え盛る暖炉の中に投げ出され、かれは無残にも焼殺されてしまいました。殺害現場には、赤いスカートが残されており、よく目を凝らしてみると、赤いスカート自体になにかが浮き上がってみえてきます。どうやら謎の人物が残した小さな血文字、つまり血のメッセージが残されているようです。

 ――(この赤いスカートよりも紅く輝く場所で灰になったおまえの伴侶は、女装を隠れた趣味とする、いわゆる裏の顔を持っていた。わたしは男装を隠れた趣味としていたが、彼との秘められた密会に刺激が足りなくなり、この行為を別れの挨拶に用意した。おまえにとっては運命の重い鎖をいやがうえにも用意されたことになるが、ここまでは、真実のほんの一部を述べたに過ぎない。わたしはおまえの伴侶にわたしの伴侶を水死させられているのだ。わたしは湖メクラーで水死体という圧倒的に醜い姿をさらしている、変わり果てたわたしの伴侶を発見した。水の蝕みとは、あらゆる世界の不幸の中でもっとも悲しい惨事のひとつだ。この事実をおまえは知る由もなかっただろう。かれは秘匿主義の完璧な見本例だからな。どうだ、苦しいか? 過呼吸でも起こしそうか? 水を飲んで頭を覚まして、冷静な状態になったほうがいいかもな。水は誰でも必要なものだからな。湖メクラーでわたしは水について懸命に考えたぞ。水について考えれば考えるほど火について考えはじめた……人間は真逆の発想で逆襲を試みるものだろう?)

 ――この事件の全貌を知ったメクラレン・メクラレンは、最愛の伴侶の死を経験したことで、膝をついて打ちひしがれ、涸れ落ちる涙の数が零になり、数えることもできなくなった頃、虚無のはざまの渦中に呑み込まれていました。やがて倒錯した霊感、つまり倒錯したインスピレーションを天啓のごとく獲得し、暗黒の倒錯した制作的意欲を燃やし始めます。メクラレン・メクラレンの暗い夢が実りのある現実的結実として向かう先は、悪魔スカートのイメージです。

 ――悪魔スカートのイメージを膨らませた後、忘却の村の高度に発達した電子工学の力を借りることにし、電子工学研究所の所長の助力を得て、世界初の電子スカートを発明します。その発明とは、電子不死鳥フェニックスが眠る、機械仕掛けの赤い電子スカートを完成したことなのです。あるメクリ人の歴史家が興味深い歴史的記述を残しています。

 ――(あの赤い電子スカートは、メクラレン・メクラレンが狂人的な願望によって伴侶の死を逆の発想で不死足りえるものにするために編み出した鬼人のごとき異界の技なのだ。炎の中からよみがえるという不死鳥フェニックスを赤い電子スカートに電子工学の力でもって封じ込めることで、やり場のない殺伐とした憤怒をもう二度と呼びさまさなくてもよいように、いさめたのだ。メクラレン・メクラレンは職務である服飾制作の技巧を極限まで探究し、電子工学とのキメラ作品として、ついには記念碑的作品に昇華させたのだ。この電子不死鳥フェニックスは最初の着用者の生体データを完全に記憶し、第1号着用者以外の着用を拒否し、第1号着用者以外が触れた場合、生体データを10秒間で解析し、電子ビームをターゲットにめがけて射出する。捕捉完了後、即座に電子ビームは体長5センチほどの電子不死鳥フェニックスに形態を変え、ターゲットの目玉の中に入り込み、やがて一分間静かにゆっくりと目玉を焼き尽くした後、人体内を食い破るように巨大化し、生命を焼き尽くす。ターゲットの身体は灰すらも残さず、電子不死鳥フェニックスはプラズマ物理の世界へ回帰する。ページをめくるメクリ人の最も重要な感覚器官である視覚を最初に破壊して殺すことから、別名(ページ殺し)と呼ばれている)

 ――ぼくは、この複雑に込み入った話を、ゆっくりと時間をかけて整理し、理解してしまうと、当然ですが(赤い電子スカートをめくる)という行為を拒絶しなければなりませんでした。ぼくの(めくり信条に反する)ことになりますが、生命を消失する可能性がある事柄に手を出すのはデス・ファイトの申し子たちのみでしょう。

 ――そこで、ぼくは(赤い電子スカートをめくる)ことは素直に中止して、悪魔スカートの聖少女メクリーヌの座っている巨大な丸太の隣に座り、ちょっとした会話だけをすませて、(ある目的を果たそう)としました。牡丹雪が少しばかり吹雪いてきましたが、ぼくは雪を避けるための頼もしい東洋伝来の冬用番傘も準備して持っていますから、傘無しの彼女に近づくには少しばかりキザな登場だけれど、問題ないでしょう。会話の糸口には、彼女が読んでいる(ページめくりの真実)について質問してみれば突破口が開かれるはずです。

 ――ぼくは雪深くなってきた湖メクラーの暗い小径を歩きました。雪は、正弦曲線が乱回転するようにさまざまな雪の造形ヴァージョンに変化しながらワルツを踊っています。顔に氷の粉がパラパラとぶつかり、雪靴がズボズボと音を鈍く響かせ、白い息が空へ運ばれていきます。ついにぼくの姿を悪魔スカートの聖少女メクリーヌが認めました。彼女は、すでに本を閉じ、雪に吹きさらされるまま、物思いに耽っているように思えました。僕は、声をこちらから掛けようとしようとしましたが、蜘蛛のスパイダーネットのように警戒網に引っかかってしまったようです。彼女の高音域の警戒音声が、ぼくの耳に初めて入ってきますが、ここでいったん、ぼくのリアルタイム同期を終了し、自動再生に切り替えます。回想再生ヘルメットが、ぼくと聖少女メクリーヌの会話を忠実に再生します。メクリーヌの声は、できるだけ実在のメクリーヌに近づけるよう、ネオテクニウム世界の声優芸人にメクリーヌの音声テープを聞きこんでもらい、声帯模写してもらいました。美しく、すこやかな、ハイトーンボイスで完全再現してあります。それでは、続きを再生します)

 4 悪魔スカートの聖少女メクリーヌ

 メクリーヌ「あなたは誰? あなたは誰ですか? わたしは忘却の村のメクリーヌ。この村の人間の顔は全員記憶してあります。あなたの顔は、わたしの記憶に一致しない。つまり、あなたは村以外の人間であるということ。あなたは誰なの」

 ぼく「当然の懐疑だね。でも、安心していいよ。ぼくは(ページめくり屋)だから(ページめくり以外まったく興味がない)のさ。きみが雪に打たれて寒そうな気配を示しているから、レンタル雪傘貸出人としてご登場してみたわけ。少女のわりに知的なメクリーヌさん、はい、雪を防ぐ傘をどうぞ」

 メクリーヌ「(ページめくり屋)であることは、わかりました。けれど、発言内容に困惑を憶えます。(ページめくり屋)は(忘却の村の人間だけ)のはずです。どうして(村以外の人間である)あなたが(ページめくり屋)なのですか。まさか、あなたは……」

 ぼく「おそろしく堅苦しい少女だなあ。イチゴ妖精みたいな顔してる癖に出てくる言葉が冷凍ピザだよ。ハイトーンボイスに似つかわしくないし、はやく傘を開かなきゃ、雪だるま少女になっちゃうよ」

 メクリーヌ「質問に答えなさい。まさか、あなたは……あの世界から」

 ぼく「まったく性急な詰問だ。仕方がない。直裁に述べるよ。ネオテクニウムの世界に島流しにされた、(ネオテクニウム世界で唯一のページめくり屋)が、このぼく、メクリダだ」

 メクリーヌ「やはり、わたしたちを(忘れさせた世界)から来たのね、あなたは! なんという運命の悲惨なことでしょう!」

 ぼく「怒りながら哀しみすぎだ、メクリーヌ。意味がわからない」

 メクリーヌ「感情の襟を正すわ。メクリダさん。島流しと聞いたけど、それは裏言葉ね。おそらく、わたしの予想が正しければ、こうよ。ネオテクニウム世界にページめくり屋をたった一人だけ送り込むという計画がメクリ人たちの間で議論になったことがあったわ。新世界創造者の管理下にあるネオテクニウム世界なんて誰も行きたがらないから、メクリ人最高の道徳者である天才ページめくり屋メクリマスさんが手を挙げたわ。でもメクリ人の上層部が天才的能力の非効率的欠損を理由に却下したわ。メクリマスさんは膨大な過去ページを読み込み、ページ王ペジペジの跡を継がなければならない方だから村外放出なんて考えられないわ。だから、メクリマスさんは、断腸の思いでご子息をネオテクニウム世界の調査のために、(現在ページ調査のために)島流しにした……という話があるわ。ご子息は、英才教育のために世間に一切出さず、誰も見たことがないと言われ、わたしも見たことがなかったわ。密かに(現在ページ調査)を行うために、ネオテクニウム世界に送り込まれたメクリ人が、あなたなのね、メクリダさん……」

 ぼく「予想は非常に正確だ。むしろ、その予想は、ぼく自身が確認し終えていない事実を含んだらしい予想、といってもいいはずだ。ぼくは父メクリマスに(現在ページ調査の報告書を渡すため)に、忘却の村に戻ってきた。(現在ページ調査の報告書)は、ぼくが命を削って作り上げたものだ。必ず父メクリマスとメクリ人の(ページめくりの歴史)に(新たなページめくり)を可能にさせるものだと思っている。メクリ人は、(新しい過去ページ)を(めくる)ことが可能になる」

 メクリーヌ「メクリダさん……残念よ。メクリマスさんは既に(ページ殺し)されているわ」

 ぼく「馬鹿な!」

 メクリーヌ「メクリダさん、本当よ、冷静に聞いて。ページ王ペジペジの跡を継ぐことが内定していたメクリマスさん。ペジペジの跡を継ぐのはメクリ人最高の栄誉よね。だって(全過去ページをめくる権利が与えられる)のだから。権威者の中の権威者よ。でも、ページ王を狙う他の実力者たちが、栄誉の冠を渡すまいとして、メクリマスさんを(ページ殺し)したわ」

 ぼく「そんな! (ページ殺し)は悪魔スカートと呼ばれる(きみの赤い電子スカート)で焼き殺すことじゃないか! きみも共同殺人者だ!」

 メクリーヌ「……たしかに、あなたから見れば、共同殺人者かもしれない。でも、わたしは自分の意思で(ページ殺し)していないのよ。メクリマスさんを狙った悪党たちの道具として使われただけなのよ。わたしも被害者なの。あなたと同じように被害者なのよ。そして、メクリダさん、ここからが、もっとも大事なところ。冷静に聞いて」

 ぼく「ふざけるんじゃないぞ! 調査報告どころの話じゃないじゃないか!」

 メクリーヌ「冷静に聞くのよ! メクリマスさんは電子不死鳥フェニックスが眼球の中に入り込み、体内で巨大化するまで1分間の猶予があることを知っていたわ。だから眼球が徐々に焼かれていく激痛に耐えながらも、ページめくり屋の本能的行動を取ったわ。メクリマスさん専用の(メクリマスページ)を急いで開いて、最期の言葉を書き込んだのよ」

 ぼく「突然、言われても、ぼくは、整理しきれない!」

 メクリーヌ「……メクリダさん、あなたのお父様は、息子のことを最期まで想っていたのよ。わたしはページ王を狙う他の実力者たちの隙を突いて(メクリマスページ)を盗み、最終アクセスページを割り出し、暗号認証を突破して、言葉を読んだわ」

 ぼく「……どんな言葉……どんな言葉が……どんな言葉が並んでいたか……教えてくれ」

 メクリーヌ「自分の眼で確認したほうがいいわ」

 ぼく「……これが父メクリマスの(メクリマスページ)か。開かなくても、どれだけの仕事をしてきたかが、重さでわかる。ぼくの義手が(ページ)を感じている。父は(メクリマスページ)を決して触れさせてくれなかった。かつて父は僕に言った。ぼくが一流の(ページめくり屋)になったとき、開いていい、と。ぼくは、まだ一流の(ページめくり屋)ではない。ネオテクニウム世界を(現在ページ)として記述する唯一の(ページめくり屋)だが、父メクリマスほどの天才的な(ページめくり屋)である自信は、つゆほどにもない」

 メクリーヌ「心の準備が、まだ……できないのね」

 ぼく「……父さん。今日は、父さんが焼かれた熱い時間とは違って、天から雪が降っています。父さんも大好きだった牡丹雪が降っています。父さんは、ぼくが小さい頃、雪の構造の美しい秘密を、六花状構造の美しい奇跡の秘密を、語ってくれました。母さんがいないぼくに、雪のやさしい降り積もる様子を、語ってくれました。あの雪は自然界の母なる姿のひとつであり、おまえの母も、あの雪のようにやさしい女性だったと語ってくれました。この雪は、父さんの焼かれた、灼熱の時間を冷ましてくれるために降っているのでしょうか」

 メクリーヌ「……」

 ぼく「……父さん、開きます」

 ――メクリダ。わたしはページを開き続けるだけの人生だったが、知識をわが物にし、幸福だった。だが、同時に、ページを開き続けるだけの人生は不幸でもあることを、いま、わたしは知る。ページは、人間を変化させる、幸福と不幸の装置でもあるのだ。ページをめくらない他の生命体のほうが、幸福なのかもしれない。

 メクリーヌ「わたしが先に読んでごめんなさい」

 ぼく「ページめくりとは……ページめくりとは……ページめくりとは!」

 メクリーヌ「メクリダさん、お願いだから……お願いだから……落ち着いて。いま、あなたとわたしが存在している、この彷徨える湖メクラーは、(ページめくり)について、つまり(文字を読むことそのもの)について、真剣に考える場所ではないはずよ。場所を移動しましょう」

 ぼく「……どこへ……」

 メクリーヌ「(ページの創造者の部屋)よ」

 5 ページの創造者の部屋

 メクリーヌ「(ページの創造者の部屋)は、さまざまな(ページ)から(ページの声)が(ひとりでにページの声を読み上げ)、つまり機械音声が飛び出すの。(ページ)から複数の(ページの声が融合しながら)飛び出ているので、不気味なノイズのように聞こえるでしょう。融合ページ音声の時間帯と単一ページ音声の時間帯が周期的に訪れるのだけど、単一ページ音声の時間がそろそろやってくるわ」

 ぼく「なんという特殊な部屋なんだ。ぼくの(ページ)には、このような特殊な部屋の存在は記述されていない」

 メクリーヌ「あなたにとって、とても重要な時間が、いまからはじまるわ」

 ぼく「どういうことだ、メクリーヌ」

 メクリーヌ「この(ページ創造者の部屋)では、(ページ創造者の部屋に入室した者が(最も読みたいページ)が開かれるのよ)」

 ぼく「ということは、ぼくとメクリーヌの(最も読みたいページ)が開かれるということなのか」

 メクリーヌ「いいえ。あなただけよ」

 ぼく「なぜだ? いまの説明では、メクリーヌも条件を満たしている」

 メクリーヌ「(最も読みたいページは1回しか開いてくれない)の。わたしは、既に1回開いたのよ。わたし、部屋を出るわ。ひとりのほうがいいでしょう」

 ぼく「いや、メクリーヌもいてくれ。ぼく自身、(最も読みたいページ)が(どんなページなのか全く検討がつかない)けれど、(最も読みたいページ)をメクリーヌと一緒に開きたいんだ」

 メクリーヌ「本当にいいの? まだ、わたしのこと共同殺人者だと思っていてもおかしくないはずだけど」

 ぼく「ぼくは(ページめくり屋)だ。本来は冷静な判断力を備えている。今回は少し冷静さを失っていただけだ。共同殺人者だとは思っていない」

 メクリーヌ「わかったわ。 ああ! 書架から単一ページが! あなたの(最も読みたいページ)が光り輝きながら、あなたの目の前に飛んできたわ! わたしの時と同じ現象よ!」

 ぼく「これが……ああ! 勝手にページが開きはじめた! 閃光が……眩しい!」

 光り輝く単一ページのタイトルは、

 ――ページめくりと真の教育の取戻し――

 作者は、

 ――メクリ村ページめくり更生委員会 委員長メクリマス(30歳)――

 浮遊する単一ページ音声が叫びはじめる。

 ――ところで、本日の対談も佳境に入らせていただきます、ページ創造者よ。では、遠慮なく言わせていただく。なぜ(真のページめくり屋たち)の集合動画を見せないのですか。学生たちの(教室ページめくり)ではなく、なぜ(貪婪な大人たちの室内ページめくり)の集合動画を見せてはくれないのですか。子供たち、将来、わたしたちの国を作り上げる、子供たちは、(貪欲な大人たちの室内ページめくり)という(真の悪しき知恵をもったページめくり屋たち)の集合動画を知らないのです。社会に出る前に、見せなければ、子供たちは、現実の冷たい風にさらされ、大人たちに太刀打ちできず、路頭に迷います。(真のページめくり屋たち)の存在を知らせ、そうした上でこそ、良質な教育と読書環境を達成でき、子供たちは、真の学びに到達していくのです。

 ――ページ創造者よ、ぼくは(自分のページめくりの客観的妥当性)をより確固たる地位に押し上げたいですし、言い換えれば、押し広げることで(自分のページめくりの芸術的記憶)をさらに増すことができると何度も考えていますし、何度でも考え尽くしてきたんです。

 ――ところで、ページ創造者よ、なぜ貴方は(ページめくり)を可能にする場所の在り処、いわゆる(ページめくりの国)のことですが、この(ページめくりの国で遊ぶ)という人類にとって究極的に重要な作業を子どもたちに知らせない、要するに怠らせたのでしょうか。

 ――しかしながら、ページ創造者よ、ぼくの手話の下手さが多少向上してきたのを認めてくれているのは嬉しいのですが、ぼくは(ページめくりの国で遊ぶ)という概念をいつまでも忘れずにいたいし、この概念を獲得せずにいる全年齢の人間たちに対して必要とあれば、いわゆる暗黙の要請を嗅ぎ取ることに成功したならば、傲慢からではなく、受容と返礼の紳士性を中心に据えて(ページめくりの国で短期間でも遊んだ経験のあるページめくり屋の真の正体)を静かに発動させながら、(ページめくりを可能にする書)それ自体が誘発させる人間の完全な笑顔を引き出さずにはいられないんです。

 ――ページ創造者よ、ぼくの赤ん坊の声がわずらわしいですか、ですが、あと少しだけ聴覚を、貴方の耳のない聴覚を、ぼくの言葉に集中してほしい、ぼくは、成人を幾年か過ぎたころから(ページめくり屋)という七文字のささやかな言葉を、もう一つの自分のようにして名乗るようになったし、当然誰からも(ページめくり屋であること)を咎められてはいないし、当然取り締まり行動に遭遇することもないんです。

 ――ページ創造者よ、確かに貴方が何度も目を背けているように、ぼくの赤ん坊の手は確かに両手がありませんよ、いわゆる(その子にはページめくりが不可能ではないのか)という問題が浮上するわけですが、あと少しだけ貴方の耳のない聴覚で聞いてください、ぼくは、いわゆる(幼少期からの天然ページめくり屋)ではないけれど、いま、ぼくは、世間一般的に(ページめくりが不可能な状態つまり両手を使ってページめくりを完全に行うことが可能であることを先天的に障害された)自分の子供を背負いながらも(ページめくり屋の伝統を守るため)に(幼少期からの天然ページめくり屋)の誕生を願って、この子に(ページめくり屋の神髄)のみを授けていきたいと考えているんです。(ページめくり屋の要諦こそを)伝えたいのです。

 ――ページ創造者よ、まだこの子はページという言葉も知りませんが、ページとは精神的抱擁の荘厳なる瞬間であるということを、ぼくは語り伝えたいのです。

 単一ページ音声の叫びが止まった。光は急速にしぼみ、部屋が明るさを失った。浮遊する単一ページは書架に戻っていった。

 ぼく「……父さん」

 メクリーヌ「メクリダさん……あなたの(最も読みたいページ)はお父様の……」

 ぼく「……ぼくは自分の(最も読みたいページ)が(どんなページであるのか)まったくわからなかった。正直に言って、いまの(父さんのページ)ですら(最も読みたいページ)であるかどうか、まったくわからない。ただ、(父さんのページ)は(ぼくの今後のページめくり人生、いや(人生そのもの)において決定的に重要な瞬間)であったことだけは間違いない」

 メクリーヌ「そう……ね。そうかもしれないわね。わたしは、こう思ったわ。断片的な音声ページだったけど、わたしには、こう思えたの。あなたのお父様は(ページめくりの精神そのものを息子である貴方に、いつでも伝えたかったし、事実、そうしてきたし、誰よりもページめくりの未来を考えていた)のよ」

 ぼく「父さんを(ページ殺し)した連中は、どこにいるんだ」

 メクリーヌ「安心して。居場所を教えてあげる必要すらないわ」

 ぼく「まさか、きみが……」

 メクリーヌ「そう。わたしが(ページ殺し)の連中を(ページ殺し)して始末したわ」

 ぼく「……そう…か……ぼくは復讐する必要がないわけだ。だけど、悪魔スカートは危険な代物だ。早々に脱ぎ捨てて、処分したほうがいい。普通の女の子らしいスカートを穿くべきだ。恥ずかしいけど、ぼくがスカート屋で購入してきてもいい」

 メクリーヌ「駄目よ。もしネオテクニウム世界の連中が忘却の村に上陸した場合、忘却の村の本を消去しにかかるわ。その時、わたしの悪魔スカートは100%の精度で敵を焼死させることができるから役に立つ。それに今回の事件のようなことが、もう一度起こった場合、いつでも制裁を加えることができるわ。わたしは忘却の村の悪魔スカートの聖少女なんだから」

 ぼく「本当に、悪魔的で、かつ、聖少女という相矛盾する女の子だよ、メクリーヌは」

 メクリーヌ「もう落ち着きを取り戻したわね。(ページめくり)について、お話ししましょうか」

 ぼく「いや、やめておくよ。(ページめくり)については、休息を取った後、じっくりと、あらためて考えたい。清新な気持ちで、向き合わなければならない事柄なんだよ」

 メクリーヌ「そう。メクリダさん、立ちくらみしているのかしら。身体がふらふらしているし、顔も蒼白で心配だわ。大丈夫なの」

 ぼく「父の突然の死やメクリーヌのことで頭がパンクした。ちょっと肩を貸してくれ」

 メクリーヌ「スカートに当たらないようにしてね。(ページ殺し)してしまうから」

 ぼく「笑えない冗談……だ。少し距離を置いて、肩に寄りかかるよ。ぼくが……目を覚ましたら……メクリーヌの(最も読みたいページの話)をしてくれよ」

 メクリーヌ「わかったわ。だけど、いまは、ぐっすり眠って……」

 6 ごめんね、ガンダルフ 

 (回想再生ヘルメット)の三次元空間内の映像が、渦に呑まれるように、淡く、ぼやけていく。画面は黒になり、回想再生が終了した。

 ぼくに対して聴衆は質問を浴びせた。まず、(ますます忘却の村のことがわからなくなった)という質問である。ぼくは(何ごとも、いつまでも、ますます、わからないことばかりだから、ぼくは、ページをめくっているんだ)と答えた。聴衆は(いつごろ忘却の村から戻ってきますか)と質問した。ぼくは(滞在期間は、その時の調査報告書の内容により、数か月から数年の間で変動する)と答えた
 聴衆が散った後、寂しそうな顔をした、涙をたたえた、ガンダルフが歩み寄ってきた。
「メクリダ先生。メクリーヌさんのことを愛していらっしゃるのですか」
「ぼくの妻さ」

 7 無限のページめくり ――メクリダとメクリーヌ――

 ぼくは忘却の村へ、密航船メクリマルで帰郷した。密航船メクリマルから眺めた、島の外縁を包む死神の吐息のような殺人霧の濃厚な異常感に圧倒されてばかりいたが、人間、住めば都という古き賢人の便利な言葉があるものだ。閉じられた領域での生活に、再び慣れていった。メクリ村の外縁は、異常な霧が覆っていても、内部には幸せのウサギやキツネやクマが駆け巡る雪が覆っているのだ。深雪の日々、ぼくは(ページめくり屋)の仕事を、懸命にしているし、忘却の村の知られざる秘境スポットを開拓したりして、(新しいページ)が増えていき、嬉しさで胸がいっぱいだ。手入れを怠らなかった、黒い義手ペジレールは使用年齢88歳になっていた。数字を傾ければ無限の年齢だ。∞とは、老境にしてはじめて迫れる領域かもしれないが、(ページめくり)は、そのまま無限の作業なのかもしれない。
 あの最終講義以来、ぼくはネオテクニウム世界には戻っていない。
 忘却の村には特に変化は起こらず、名前の通り、忘却されたままの村だ。
 父メクリマスが言っていた(ページめくり屋の要諦)を習得できたどうかは、ぼくにはわからない。
 だが、父さん、ぼくは、思い出すんだ、父さんの言葉を。

 ――――メクリダ。わたしはページを開き続けるだけの人生だったが、知識をわが物にし、幸福だった。だが、同時に、ページを開き続けるだけの人生は不幸でもあることを、いま、わたしは知る。ページは、人間を変化させる、幸福と不幸の装置でもあるのだ。ページをめくらない他の生命体のほうが、幸福なのかもしれない。

 どの父さんの言葉も、父さんの言葉は真実だ、と、ぼくは言いたい。
 そして、ぼくも自分の真実を見つけたよ。

 牡丹雪が彷徨える湖メクラーに降り積もっている。ぼくは巨大な丸太の上に座り、雪傘をさして(ページめくり)をしようとする。隣にはメクリーヌがいる。

 ――今日は、どんなページをめくろうか。
 ――どんなページでも、きみとなら、めくる価値があるよ。

ページめくり屋メクリダ

ページめくり屋メクリダ

短編 58枚 形式:一人称

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-11-26

Copyrighted
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