勇者と英雄の多重奏 【仮名】
この作品は複数人で書いている小説となりますので書き方の違いが現れますが特徴の一つだと思って読んでくださると有難いです。
a start. a finish. 〜ある始まりとある終わり
『英雄side
「はあ、この国も見飽きたな……」
ボクは言葉の中に大量の落胆を込めてそう呟いた。
「旅人さんやもうでてしまわれるのか?」
宿屋の主人である老婆はそうボクに聞いてくる
「そうだね。もうこの国にもボクが楽しめるようなこともなくなったしね」
ローブをさらに深く被りながらボクはそう応える
「そうかい、それならいいんだがね。あと占い師としても一言じゃがその扉ではなく町にでる扉をくぐりなされ。退屈しない”世界”に誘ってくれるはずじゃからな」
そう老婆は何故か説得力のある不思議な感覚なことを言ってきた。
「ふうん。まあ、もうこの国にも飽き飽きしていたからね。新しい楽しみがあるなら是非とも行きたいね」
そういいながらボクは町へと出るはずの扉をくぐる。
扉をあけ足を踏み出した瞬間に視界が白色に埋め尽くされその白が収まると………
目の前には王様がいた
『勇者side
小さい頃、俺の憧れは正義の味方、まさにヒーローだった。
自分の利益はなくっても、見返りを求めず人の為に戦う人達に。
無垢で世界を知らない俺はずっと夢を見た。
こんな、筆舌に尽くし難い素晴らしい人の様になりたいと。
今は分かる、
世界は甘くない、
汚く、儚く、そしてとても脆い。
ヒーローなんて、ただの偶像でしかなかったのだから。
作られた、偽りのものでしかないのだから。
そんな呆気ない夢を見た俺は今や高校生、何の特記するものもなく何かに打ち込む事もなく。退屈で意味のない日々を過ごしていた。
「なんで、こうなっちゃうんだろうな…」
虚しくそんな事を口にし、いつも通り家へと続く道を一人歩く。
しかし変わらない、ものなんてなかったのだ。
そんな退屈でありきたりで、質素な生活が。
ぱらぱらと崩れていく音が密かにした。
「ただいまー…」
家の扉を開け、いつもの様に靴を脱ぎ部屋へと歩いて行く。
階段に一歩踏み出した所でふと、何か違和感に気付いた。
(?…そういや今日は母さん休みだったよな…)
うちは両親共働きで、母は近所のスーパーで働いている。
今日は母さんが休みだと前々から嬉しそうにエステに行くだの買い物をするだの語っていた。
しかし母さんはそう言いながらも休みの度に俺の帰宅を待っていつも仕事のある日には言えない「おかえり」を言いにわざわざ玄関まで出迎えてくれるのだ。
(母さん、出掛けたのかな…)
俺はそう思い、階段を上っていった。母さんったら、気分屋なんだから、急にこんな変えてくると逆にムズムズするっての…。そんな事を思いながら疲れた体を動かし部屋を目指す。あれ…、鉄の臭いか?
最後の一歩で、俺は言葉を失った。
母さんが、血塗れで倒れていたからだ。
「か、母さん!?母さん!!どうっ…!!」
駆け寄ろうとしたその瞬間、
ズキリと突如頭に痛みが走る。
思わず手すりに捕まり、頭を抑えた。吐きそうになるがなんとか堪え、赤色に染まった母さんへと近づいた。
その時だった
(誰か、…いる?)
奥の部屋から、足音がする。
ゆっくり、こちらへと、近付いてくる。父さんの馴染みの書斎の扉が、異質な空気を放っている。
ありきたりであたりまえだった日常が、退屈で意味のない、暖かな日常が、はっきりと壊れていく音がする。
扉は、開かれた。
ここから俺は何も覚えていない。
summons 〜召喚されし勇者
ここは、どこなんだろう。
辺りが真っ暗だ、俺はどうしてこんな所に…。
少しずつ鮮明になってくる意識、
少しずつ、思い出されていく、
赤色。
赤色?
「か、かあさん…母さん!!」
ぐったりとした母さんが頭に過ぎった。いつも明るく気丈で俺の帰りを待ってくれる母さん。世界でたった一人の母さん。
だって、大切な家族があんな風に血塗れで。
…悪い夢なんじゃないか。母さんは実は今もリビングにいるんじゃないか。いつもの様に笑っているんじゃないか。そんな事ばかり考える。急いで母さんを病院へ連れて行かなきゃ、早く救急車を!言葉にしにくい不思議な感覚に陥ってしまった体を動かそうとした瞬間、
ズキリ
「ゔっ…!」
また頭に酷い痛みが走る。
意識ははっきりしてきている、なのに体が動かない。この暗い空間で瞳を開き辺りを見渡す、真っ暗だ。自分の姿は辛うじて見える。辺りが暗いからなのか上と下、右左まで狂ってしまいそうだ。
そういえばあの後どうしたのだろうか。夢なんじゃないかとは思うが…どうしてもリアルで不安になる。確か、あの後は書斎から異質な気配がしてそれで…、思い、出せない。俺はどうしてしまったのだろうか…。頭を抱えたくなる状況の中、
ジリジリ…と少しずつ明るくなっていく視界。もしかしてこの暗黒から解放されるのか…?小さな希望を抱いたのが束の間目が焼き付けられる様な強い光に飲まれた。
「ゔぁっ…!!?」
強い光を防ぐ様に咄嗟に目を閉じた
何が起こってしまっているんだ。すると何やら触手の様なものが腕や足に纏わり付き、ゆっくりと確実に俺を何処かへ連れて行こうとする。込み上げる恐怖感と不安がじわりじわりと心を蝕む。
一体… 「どうなってるんだよ…っ!!」
ズキズキと頭痛が酷くなり顔を顰める。ずるりずるりとどこかへ引っ張られていくうち、
纏わり付く謎の物体の力が漸く緩くなってきた。周りの異常な明るい光が徐々に引いていく、強い光のせいでまだ目を開けられないがどうやら解放されるのだろう。体から感覚が戻ってき、ドサリと膝から崩れ落ちた。頭痛はもうない、光が引いたらすぐに…と思考を巡らせた。…が、既に時は遅かったのだ。自分は何かとんでもない罪を犯してしまっていたのか?いや違う。
理不尽な巡り合わせと理不尽な運命のせいで、と俺は思う。
「せ、成功したぞ…!」
ワッと周りから歓喜の声が上がる、俺は状況を理解出来ずに固まる。母が血塗れだったといい、不思議な闇や光に飲まれるといい、姿は確認出来なかったが何らかの生き物に纏わり付つかれるといい、…意味がわからない事が多過ぎた。しかし同級生達と比べると現実主義な俺でも、いや俺じゃなくてもこの事態の異常性はなんとなく理解出来ただろう。
先程の強い光で刺激された目が漸く開いた。そこに映ったのは
「ようこそ、お出でになりました…。我らの希望、勇者様よ!」
まるでゲームの中に存在する魔法使いやファンタジー系の物語に出てくる非現実的な衣装だった。血を連想してしまう様な鮮やかな赤のマントにハロウィンによく見る魔女の様な黒く特徴的な帽子の人間達が俺を囲っていた。手に握っていた杖を地面に置き膝を着く。代表者であろうこの人間が足を着いた途端周りも同じように膝を着き、俺を縋る様な、期待の目で見ていた。
このコスプレ(なのかどうかは分からないが)人間は何を言っているんだ。
成功?勇者?希望?そんな事はこの時の俺にとってはどうでも良かった、それよりも目の前で起きた事への疑問が一番に優先され、思わず俺は
「ここ…どこなんだよォォ!」
いつかぶりの大声を出して途方に暮れたのだ。
*
「勇者が無事に召喚された様ですよ。」
本が山積みになって置かれている広い部屋の奥で、侍女と思われる女性が佇んでいた。すると特に目立つように高く積み上げられた本の山々の中から小柄な女性が顔を出した。
「予定より早く終わったね、私も召喚過程を拝見させて頂きたかったよ。」
小さな手に持っていた分厚い本を閉じ、彼女はゆっくりと立ち上がった。
「資料はもういいのですか?」
侍女が尋ねると女は得意げに言った。
「一介の魔導師とは違うものでね、それだけで十分なのさ。」
パチリと指にスナップをきかせ乾いた音を出す。その瞬間彼女の肩にマントが掛かり頭にまでフードを被った後扉へと向かうのであった。
勇者と英雄の多重奏 【仮名】