Why do they fight?〜第2章、後編〜
俺達は3階の階段にいた。
「α部隊長は新しい合い言葉を知っているのだろうか…」
これが唯一の心配だ…。先日、この基地では合い言葉がかわった。
ちなみに基地ごとに合い言葉が違うのはセキュリティの為だとか…。
本音を言えば、面倒くさい。こうやって基地に常にいる部隊は良いがいきなり派遣された時は、
ブリーフィング中に寝ていて聞き逃すと大変なことになる。
「α部隊長はブリーフィングにあまり参加しないから…」
ラウルがそう呟く…。3階で合流した時に合い言葉が違えばα部隊長を取り押さえることになるのだが、
彼を5人だけで取り押さえることができるのだろうか…彼の実力は半端じゃない。
「多分、大丈夫ですよ?」
と、ラルフが言って来た。大丈夫ってどういうことだろう…
「実は、新兵の中で噂になってるんですが…α部隊長が、合い言葉を考えているらしいですよ?」
『え!?』
俺とラウルの驚きの声が重なる。それもそうだ。合い言葉を決定できるのは元帥から名指しで使命されないと貰えない権限なのだ。
「おいおい、それはないぜ!?それが本当なら俺は次の戦場を一人で突っ込んでやるよ(笑)」
俺が笑いながらそう言った時、ラウルの表情が少し曇った…。ん?どうしたんだろう。まぁ、いいや。
「じゃあ、もしそれがデマカセだったらお前らで次の戦場を切り抜けろよ?」
「…っ!…わかりましたよ!絶対に(多分)本当ですからね!」
売り言葉に買い言葉で賭けの内容が決まる。まぁ、もしラルフ達が負けても
ちゃんと援護してやるつもりだがな。
「さて…、話はもういいか?」
「あぁ、ラウル。待たせてすまない。」
そして、各部屋を確認しながらα部隊長がいる場所の扉に来る。
(ここだ、静かに、突入する)
手話で話して、全員で息を合わせて突入する。
中は真っ暗で、わからない。とりあえず、暗視ゴーフルのスイッチを入れる。
するといきなり横から嫌な気配が飛んで来る。
その気配に身構えた時、拳が暗闇から飛んで来た!
すぐさま、受け止めて右に流しカウンターを放つが受け止められる!
そして、足払いをかけられそうになったのでジャンプして避ける。
「…このタイミングがズラされる攻撃は!」
直ぐに合い言葉を言い放つ。
「『カウボーイ』!」
「…」
反応がない!まさか、敵か!?
新設部隊の4人はすでに、俺と組み合っている影をライフルを構えて狙っている。
もう一度、聞いてみる。
「『カウボーイ』!『カウボーイ』!…くっ!反応しろ!『カウボーイ』の答えはなんだ!?」
お互いに攻撃を繰り出し、受け止め、カウンターを放つ。が、お互いになかなか決着がつかない。
すると、影はやっと喋った。
「…『カウボーイ』の答えは『リボルバーを腰にぶら下げたイカれ野郎』だ」
「α部隊長の『スペード』ですね?」
スローがそう言って確認する。
国連の約束で、コードネームで聞かれたら本名を答えるというものがある。
逆に本名で聞かれたら、コードネームを答える。敵の成済ましを見破る手段の一つだ。
「よぅ!ヴィクトール・シュナイダーだ。久しぶりだな、ソーマ。腕は訛ってないようだwあれ?ラウルもいるじゃんw」
聞き慣れたドイツ訛りと名前が耳に入る。90%本人だ。最後の確認をしよう。
本人なら絶対に答えは決まっている質問をする。
「ドイツの技術力は?」
「世界イチィイイイイイイイイイイ!」
間違いない、本人だ。さて、本題に移ろうと、思い話しかける。
「お疲れだったな。ドイツから直ぐに来てるんだろ?」
「あぁ、めっちゃ大変だったよ?だって、40人いても足りなかった作戦だったしw」
「へぇ…どんな作戦だったんだ?」
気になって聞いてみる。
「『ランス』の隊員のガキの子守り」
『ご愁傷様です』
俺達5人の声が重なる。
第1大隊『ランス』の人達は30歳以上、第2大隊『インディゴ』の隊員は20歳以上なので、子持ちが多い。
このご時世、親の片方が戦場に行くと、残された親は育児に自信が無くなってしまう。それを援助する為に時々、あいている部隊が行くのだが…。
「『ランス』のガキは面倒みたくねぇよなぁ…」
「あぁ…あの親にしてこの子あり…って、言葉の意味をしっかりと思い出させてくれるよ…」
とりあえず、ガキの性格がクソ悪い。
言う事を聞かないなんて、当たり前。勝手に侵入禁止区域に入るし、装備をあさるし…とりあえず、何度ハンドガンをぶっ放そうと思ったか…
「『ランス』に所属する人は屈強な戦士ばっかりなんだ…。」
おっと、嫌な思い出は忘れようか。
とりあえず、今は優しい子供を探さないと…
しかし、ふと思い出した事を恐る恐る聞いてみる。
「ヴィクトール。きみはもしかして合い言葉を作成する権限があったりするかい?」
「おう!この前もらったんだw今回の合い言葉だって俺が考えたんだぜ?」
ラルフがニヤリと笑う。その後ろではラウルが頭を抱えていた。あの時、ラウルが曇った表情を見せたのは、このことを知っていたからか!
「そういえば、ガキを数人探してるんだってな?」
絶望の中の俺は、ヴィクトールに言われて反応する。
「そうなんだ。サムっていう子達なんだけど…」
母親から預かった写真を見せる。
「やっぱりこの子か。じゃあ、もう探さなくていいぞ」
ヴィクトールがおかしなことを言いだす。
一体、どういう意味だ!?
「なんで、探さなくていいんだよ」
「もう、見つけたからだ。」
そう言って、後ろのロッカーをあけるヴィクトール。
すると、中から8人くらいの子供が出て来た。
「偶然、この部屋に隠れていたんだwいやぁ、良かった良かったwしかも、見ろよ!このサムって子の手には重要機密物品と来たもんだw」
そういって、笑い出すα部隊長。俺達は、とりあえず事態を収集するのに時間がかかった。
数分後〜
「だから、エイリアンが攻めてきたのか!」
やっと、納得できた。ヴィクトールの説明だと、俺達が日中に攻めた基地にはエイリアンにとってかなり重要な物品があったらしい。
それを人間側が強襲した時に回収。それを取り返そうとして攻めてきたのだ。
しかも、ソレをサムが持っている。なのでエイリアン達はどこにあるかわからずに撤退もできないらしい。
サムは、ソレをカッコいい形だったので持って来てしまったという。
そうとわかれば撤収しよう。長居はご免だ。速くしないとルカちゃんが来ない!
しかし…天は俺を嫌っているらしい。
エイリアンが突入して来たのだ…。
パパパパパンッ!っと、乾いた銃声が響き合う部屋でロッカーを倒して盾にする。
エイリアンが使用しているのは戦場から拾ってきた地球製のライフルだ。
ロッカーの後ろでは子供達が泣き出してしまった。仕方ない!
「ヴィクトール!こちらで戦えるのは6人、ガキが8人。うぜぇことにエイリアンは10匹だ!」
「だから、どうする!」
「サムを置いて、後ろの窓から皆で脱出しろ!機密物品は持って行けよ!?5人でガキ達を援護してやれ!」
「なんで、サムを置いて行く!?」
応戦しながらラウルが聞いて来た。
「エイリアンはサムが物品を持っていると思っている!だから、俺とサムでおとりになる!しかも、俺は賭けに負けた!一人で戦場を駆け抜けてやるよ!」
「サムに危険な真似はさせれない!」
「俺達もまだ16のガキだ!どうせ死ぬなら大きな博打を打って死のうぜ!」
そう言って、アサルトライフルを発砲する!なんとか、一発がエイリアンの防護服の下に入って致命傷となったらしい。これで9匹!
「仕方ない…断腸の思いだが…。死ぬなよ!」
「お前こそな!」
そう言って、弾幕をはる。
その間に皆は窓からロープで脱出した。
そして、第2章前編の冒頭に戻る。
カッコいい言葉を言ってたけど…
このままだったら、いつ帰れるかわからない…くそ!ルカちゃんが!
「代引き指定した俺がバカだったぁああああああああああああああ!」
怒りも助けてくれたのか、エイリアンがもう1匹、倒れる!
これで、あと8匹!
応戦しながら、サムに語りかける。
「よう、坊主!お前は大丈夫か!?」
「うぇえええええええええええん!うえぇええええええん!」
「おいおい…泣いてたらわかんないぜ!」
手榴弾を投げて、一時的に敵をひるませる。その間にサムの顔を覗き込む。
「いいか?よく聞け。お前の母さんはな、お前が生きて帰ると思ってんだ!親の願いの叶えるのは子供の仕事だぞ!」
「…子供の…仕事?」
「あぁ、そうだ。子供の仕事だ!親を安心させること!親の言うことを聞くこと!親の願いの叶えること!その他諸々、子供の仕事だ!」
「お兄ちゃんは、その仕事をしてきたの?」
泣きながら、サムは質問して来た。
「…あぁ…今、やってるよ」
「…今?」
「あぁ、今だ。俺の両親の願いは、俺が生きて帰ってくること。それを達成するには、この状況を突破しなければならねぇ!お前の助けが必要なんだ!」
「ぼくの助けが…必要?」
「あぁ、そうだ!だから、コレを持っていろ。」
自分のバックパックからハンドガンを1挺、サムに渡す。
「こっ!これ!銃だよ!?」
「あぁ、そうだ。これは銃だ。命を狩る道具だ。いいか?君がコレを使うのは逃げ道が全てなくなった時と、俺が死んだ時だ。」
「お兄ちゃん、死んじゃうの!?」
サムが心配そうに言う。
「バカ野郎w俺は死なねぇよ!例え話だ!」
そう言って、3匹目の頭に銃弾を叩き込む!これで、7匹!
「よし!走れ!」
そう言って、右側にあった扉を開けてサムに呼びかける。
そこにサムが入ったのを確認してから、俺は扉を閉めようとする。
「お兄ちゃんは来ないの!?」
「あぁ、ここでお別れだ。次に扉を開けるのが俺だったらラッキーだぜ!俺じゃなかったら、その銃を使えよ?」
そう言って、扉を閉める。
さて、言い方は悪いがお荷物は消えた。好きに暴れるぞ!
腰のホルスターに入れていた1挺のハンドガンを右手に、鞘から抜いたサバイバルナイフを左手に構える。
「楽しい楽しいお遊戯の時間だ」
そう言って、俺は敵のど真ん中に飛び込む!1匹の頭にハンドガンを突きつけ引き金を引く。そして続けざまに後ろにいたエイリアンの頭をナイフで切断する。
これで、残り5匹!
敵は、一瞬怯んだもののすぐに反撃してきた。
しかし、俺はうまく避けてハンドガンで反撃する。跳躍して、ローリングして、時にしゃがみ、時には敵の死骸を持ち上げ盾にする。
1VS大人数の基本戦略だ。常に動く続けること。
敵も、至近距離だとライフルは取り回しが悪いと気づいたのか、近接武器に持ち替える!
おなじみのエネルギーブレードの斧だ。あいつは面倒くさいんだよなぁ…。
そう思いつつも、ハンドガンのマガジンをリロードして敵に撃ち込む!
「切手が付いてねぇけど、郵便物だぜ!頭で受け取りな!」
よし!2匹倒した!これで残り、3匹!ハンドガンをホルスターにしまってナイフ2本を両手に構える。
そして、敵に向かって投げつける!奇麗に敵の頭に吸い込まれて行き、残り1匹!
しかし、ここでアクシデントだ…。パンッと乾いた音と共に、いきなり右足に力が入らなくなった。よく見ると、貫通銃創ができている…。撃たれたのか!
あとから、痛みがどんどんこみ上げてくる!
「ちくしょう!あと、1匹なのに!」
俺を撃った、最後の1匹が静かにこちらに近づいて来る…。
腰のハンドガンを抜いて撃とうとしたが、すぐに右肩を撃ち抜かれる!
「うぐぅううううう!」
万事休すといったところか…!サムはちゃんと逃げれるだろうか…。あのルカちゃんは…どうなるんだろうか…。
その時、視界のすみで動く影を見つける。その影が誰だかわかると口元がにやけてしまった。
ナイスタイミングすぎるぜ
ちくしょう…、お前は最高の戦士になれる…。そのまま、目の前で構えるんだよ…。そう…上手じゃねぇか…。引き金の絞ったら敵を狙って引くんだ。今だ!
パーンッ!
目の前のエイリアンが、びくんっと身体をふるわせて倒れる。
と、同時に影が走り寄って来た。
「おにいちゃん!大丈夫!?」
「あぁ、ナイスショットだ。お前、いいセンスだぜ」
「そんなことより、助けを呼ばないと!!!」
「そんなに慌てるな。止血するだけで良いから。そんなことより、飯を食べたいな…お前の母さんは料理が上手か?」
「うん!めちゃくちゃ美味しいんだよ!」
「そうか…」
急に気が遠くなる…。血を失いすぎたか…。助けを呼ばないと…。うぅ…。
気が付くと俺は、ベッドにいた。
「おぅ!目が覚めたか?カッコつけるからだぜ?後から送り込んだ後援部隊が発見していなかったらどうなったことか…」
最初は誰だかわからなかったが、どうもレイが寝ずに付き合っていてくれたらしい。
どうやら、エイリアンの撃退は成功したみたいだ。
「目覚めて、1番目の顔が男かよ…」
なんとか皮肉を言うが、身体が言う事をきかない。すると、女の子の声が聞こえて来る。
「ソーマ!大丈夫!?」
「おう、沙織か…。お前のフラグのせいで危うく死にかけたぞ」
「…?ふらぐ?」
「いや、知らないなら良い…」
「それはそうと…ソーマ?」
あれ?なんか機嫌が悪い…
「この子は…誰?」
ん?誰だろう…沙織の横に女性がニコニコして立っている。
腰まで長いピンクの髪。くりっとした大きな眼。端正な顔立ちで、すらりとした高い身長だ。
そして、なにより…沙織より…胸が明らかに…その…豊満だ…。それで、機嫌が悪いのだろう。
「俺も…わからん…」
「…えぇ!?ますたーは、私のことを忘れちゃったんですか!?わたし…さみしいです…。」
…ますたー?しかも、なぜだろう…見掛けよりも、あきらかに精神が若い気がする…。5歳くらいだろうか…。
「えっと…?ゴメンね?名前を教えてくれるかな?」
「…はいです!私の名前は!」
「…名前は?」
「…まだ、つけてもらってないです。ますたーがずっと寝ているから…」
そこでやっと思い出す!
「…あぁ!バイオロイドの…!」
寝ている内に届いていたらしい。
「そうです!おもいだしてくれましたか?」
「あぁ、思い出したよ!ようこそ!」
「はいです!では、なまえをつけてくれますか?」
「名前ねぇ…ルカちゃんじゃダメかな?」
待ってる時も、ずっとルカちゃんだったんだ。ルカちゃんでいこう!
「…ルカちゃん?かわいいですね!うれしいです!」
彼女はうれしそうにニコニコする。そして、なんと抱きついてきた!
「痛い!」
銃創に激しい痛みがっ!
「ソーマのバカ!」
「うぎゃぁぁあああああああ!」
なんで、沙織が怒るんだろう…しかも、肩の銃創にピンポイントで攻撃をする。
「ますたーにひどいことしちゃいやです!」
「あんた、なによ!」
「痛たたたたたたたたたたたたたあたたたたたたたたたたたた!俺を挟んで喧嘩しないでくれ!」
「ケッ!バイオロイドなんて買う金ねぇよ!この野郎!」
なぜだか、レイにまで怒られる…
ちくしょう…散々だ…
ん?そうだ。レイに聞いてみる。
「サムはどうした?」
「あぁ、あの子か。お母さんがお礼を言いたいらしいぞ。しかも、ご飯を作ってくれるそうだ。行くか?」
「あぁ、腹も減ってきたしな。てか、お前はなんで来るんだよ」
「まぁ、いいじゃねぇかw」
まぁ、いいか。確かに、ご飯は沢山で食べた方が美味い。
ならば、と。
「沙織とルカちゃんもどうだ?」
『行くにきまってんじゃん(ます)!!!』
「そっ…そうか…」
なんで、こんなに勢い良く返事するんだ?まぁ、良いけど…
そうして、皆でサムの新しい居住区に行く。
「あぁ!お兄ちゃん!」
と、サムが駆け寄って来た。
「おう!元気にしてたか?」
「うん!でも、お兄ちゃん、車椅子だね…ぼくのせいかな…」
そう言って、顔を落とすサムの頭をくしゃくしゃとなでてやる。
「そんなことねぇよ。お前は俺の命の恩人だからな。」
「うん!ありがとう!」
「おう!こちらこそだ。」
すると、サムの母親と父親が出て来る。
「この度は、家のサムがとんだご迷惑をかけまして…隊長殿にお怪我を…」
「いえ、この怪我は自分のせいであります。お気になさらないでください。」
「そういってもらえると救われます。さぁ、どうぞこちらへ。お食事の準備が出来ています。お口にあうかわかりませんが…」
用意されていたのは、ナイジェリアのメニューのキャッサバと肉のシチューだ。
「美味しい!これ、めちゃくちゃ美味しいですよ、お母さん!」
口々に皆が美味しいという。ナイジェリアでは、スプーンを使う人が多い。手づかみばかりではないのだ。
皆、おかわりを何回もしてお腹がいっぱいになり、満足感が心を満たす。
「あぁ、美味しかった!なぁ、美味しかったよなw」
と、同意を求めると
「うん、美味しかったね!」
「おいしかったです!」
『キッ!』
沙織とルカがお互いににらみ合う…
「頼むから…仲良くしてくれ…」
先行きが不安だ…
Why do they fight?〜第2章、後編〜
やっと…第2章完結です…
フラグ回収が大変だった…もう、本当に大変だった。
さて、次章よりルカとの絡みが濃くなります。
ではでは!