百本のろうそく 第六本
5・5にしようか6にしようかまよいました。
で、結局6になりました。
キキィィィィィィィィイ がたん
何が起こったのか良く分からなかった。
僕は電車が大好きで、さっきまでユウキ君と電車を見てたんだ。
電車は急には止まれないから、電車が来てるのに線路に入っちゃだめだよ って、教えてあげたばっかりだったんだ。
ふと横を見ると、線路の外に、ユウキ君が呆然とした顔で立っていた。
―――僕は幽霊になったんだ・・・。って気づいたのは、今。
だって、・・・すぐ横を見たら、・・・・・・ふたつになった僕の、血まみれ体が転がってる・・・。
警察の人が・・・それを線路の脇に移動させて、写真をいっぱい撮ってて・・・。
その脇で、ママとパパが泣いてる。
『・・・ママ!!パパ!!僕・・・ここにいるよ・・・!!』
呼んでみても、気付いてくれなかった。
『・・・ユウキ君!!』
ユウキ君にも声をかけたけど、ユウキ君は体をビクッとさせて走っていってしまった。
線路の脇に人だかりが出来てて、ケータイで写真を撮ってた。血まみれの、線路と、僕を。
『やめて!!!・・・撮ら・・・ないでよ!!僕の・・・っ!!』
涙が出てきたのに気付くのに、時間がかかった。・・・前みたいに《あったかい》とか、《くすぐったい》とか、・・・感じられなかった。
写真を撮ってた人たちは、僕の体がシートで覆われてから帰っていった。
かんかんかんかんかんかんかんかんんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかん
踏切がなった。ひかれる前を思い出してしまう。
動けなくなって、・・・最期におっきな車輪が見える。
大好きだった電車が、怖くて、僕を苦しめる存在になっていた。
《助けて!》通りかかる人に声をかけてみるけど、誰も気づいてくれない。時々気づいてくれる人もいるけど、怖がって逃げて行っちゃうんだ。
朝も夜も、ここから動けない。パパとママが時々お花を持ってきてくれるけど、僕の事見えて無いみたい。
『パパ!ママ!!僕今日ね・・・』
お話しようとしても途中で帰っていっちゃう・・・。
『そうだ!ユウキ君なら、気づいてくれるかも知れない・・・!』
寂しい・・・怖い・・・そんな気持ちの中、
僕は期待をこめて、ユウキ君が踏み切りを通るのを待った。
『ユウキ君!!僕だよ!』
ある日、ランドセルを背負ったユウキ君が、踏切を通った。
「!!」
ユウキ君は僕を見ると、驚いた顔をした。
『・・なんだ!!やっぱり僕が見えるんだよね!?あのね、』
これからいっぱいここに来て、おしゃべりして欲しいんだ。
僕がそう言いかけたとき、ユウキ君に誰かが話しかけた。
「おいユウキ!!今日一緒に遊ぶんだろー!!はやくしろよー!」
「うん!!」
ユウキ君はその人の方を振り返って、そのまま行ってしまった。
『あっ!!待ってよユウキ君!!!』
僕は叫んだけど、もうユウキ君は遠くにいた。
かんかんんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかん
また、踏切がなった。
ユウキ君は、ここを通らなくなった。
どれくらい経ったんだろう。もう長いことここにいる気がする。
パパもママも来てくれなくなった。時々僕に気づく人は、すぐに目をそらして走って行ってしまう。
急に寂しくなったとき、
「懐かしいなぁ。ここらへんは変わって無いな~。」
聞いたことのあるような声がした。
「あれ?何でこの踏み切りは使わなくなったんだっけ・・・?」
少し低くなったけど、間違いない。ユウキ君だ!!
ユウキ君と目が合う。
「え!?そうだトシ君がひかれて・・・・・・」
驚いたように言うユウキ君を見て、僕は嬉しくなった。
さみしかったんだよ、ユウキ君。 だから、僕は笑顔で言った。
『久しぶり!!待ってたよ。』
急に、ユウキ君の動きが止まった。
『だめだなあ。はやく線路から出なきゃ危ないよ。僕言ったじゃないか。』
そういっても、ユウキ君は動かない。
踏切がなる。
遠くにいた電車が、もう目の前にあった。
電車は僕の体をすり抜け、ユウキ君に・・・。
「う・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ」
キキィィィィィィィィイ がたん
聞いたことがある音がした。
横を見ると、僕の時と同じように、
血まみれのユウキ君の体が、ふたつになって転がっていた。
そして、その横にユウキ君が立っていた。
・・・僕には分かる。ユウキ君も幽霊になったんだ!!
『やっと・・・来てくれたね。』
僕は言った。本当は、これを望んでいたのかもしれない。
僕は、独りじゃ、なくなったんだ。
百本のろうそく 第六本