テディベア

テディベア


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そっと彼女の手が僕の手を離して行く。
待って。
待ってよ。
行かないで、優姫ちゃん。
そう心で叫んだって優姫ちゃんには聞こえない声。届かない想い。もう全てが終わりだ。そう思っていた。

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当時、10歳の女の子天野優姫ちゃんは僕(テディベア)を大切に抱きしめてずっと一緒に居てくれた。優姫ちゃんがどんどん大人になるにつれて僕といる時間は寝るときしか無くなっていた。もう優姫ちゃんは小学六年生になっていた。
「くまさん。一緒に居られなくてごめんね・・・」
寝る前にそっと抱きしめて呟いてくれた。うぅん。いいよ。優姫ちゃんがこうして抱きしめてくれてるんだから、僕は幸せだよ。そう言うと優姫ちゃんが抱きしめてる手の力を強めた気がした。届いてないはずの声なのに。
「ん・・・くまさん・・」
寝言で僕を呼ぶ声が聞こえる。それに応えるように優姫ちゃんの名前を呼ぶ。そしてまた僕の大嫌いな朝が来る。朝が来ると優姫ちゃんは僕を離し学校の準備をする。
「おはよう、くまさん。行ってくるね」
そうやって声をかけてくれるのが嬉しくてたまらない、いってらっしゃい。また心でそう思ったんだ。その後にドタドタと大きな足音が聞こえて優姫ちゃんの大きな声が聞こえてくる。
「じゃあ行ってきまーす!」
「はーい、いってらっしゃい。気をつけなさいよ」
毎日のように聞いてる会話。僕も入りたい。優姫ちゃんとお話がしたい。その事をずっと考えているんだ。今日もまた優姫ちゃんは大人に近づく。その度に怖くて怖くて仕方なくなる。
優姫ちゃんがいない間、優姫ちゃんのお母さんが部屋を掃除に来る。
「まだこのクマを持ってるの?あの子ったら・・・」
それどういう意味・・?僕はもう要らないの?ここに居ちゃいけないの?不安が募る。だが何も出来ない。動くことも話すことも何も。じっとその場に座りお母さんが言う言葉を全て聞いていた。そして僕に近づいてこう言ったんだ。
「汚いわねぇ・・こんなの捨てちゃおうかしら」
僕をまじまじみながらそんなことを呟く。ねぇ、どうして?優姫ちゃんは僕を大切にしてくれているのに、優姫ちゃんにはきっと僕が必要なのに・・
「捨てるなら、あの子に確かめてから捨てないとね」
そんな事を言って掃除を終え部屋を出て行った。
それからしばらくすると優姫ちゃんが友達を連れて帰ってきた。
いつものようにただいまって抱きしめてくれると思っていた。
「ただいまー!友達遊びに来たよ」
「お邪魔します」
「友達の楓ちゃん!」
「あら、いらっしゃい。お菓子持って行くから部屋で遊んでなさい」
「「はーい」」
二人で返事をして優姫の部屋へ行く。優姫ちゃん早く抱きしめて、さみしいよ。
そう思いながらじっと待っていた。
「ここが私の部屋!」
友達もを中に入れ僕の方を一瞬見てすぐ目をそらした。どうして抱きしめてくれないのだろう。悲しくて仕方なかった。その時、来ていた友達が僕を見て優姫ちゃんに言ったんだ。
「ねぇ、優姫。あんたまさかこんなの抱いて寝てたりすんの?」
僕の耳を持って上にあげた。痛い。優姫ちゃんはもっと優しく僕を撫でてくれるのに、どうしてこんなにも他の人は乱暴なのだろう。
「そんな訳ないじゃん」
優姫ちゃんはそう答えた。僕の思考が止まった。
「だよねー!こんな汚いクマあったって無駄だよ。それにもっと可愛いのでてるし!クマが好きなら今度一緒に見に行かない?」
「え、うん!行く!!」
待って、待ってよ。もう僕は要らないって言うの?悲しみが込み上げてくる。泣きたいよ。でも涙は一粒も出ない。
「じゃあこのクマはもう要らないわね!」
「・・・・え?」
「こんな汚いくまより可愛いくま探すんでしょ」
「あ、うん」
「じゃあ、これ捨てちゃいな!」
どうしてそんなひどいことを言えるのだろうか、僕には理解出来なかった。優姫ちゃんは汚れた僕を何度も手洗いで丁寧に洗ってくれていた。
前にももうすぐ洗ってあげるからって言ってくれたのに、本当に捨てられるかもしれない。そう思ってた時に優姫ちゃんのお母さんが来た。
「そうよね、優姫。楓ちゃんの言う通りよ?そんなくま捨てなさい。ね?」
「う、うん。わかった」
「じゃあ、これは持っていくわね」
優姫ちゃん・・・?やっぱり僕は要らなかったんだね。そんな悲しい顔しないでよ。一番悲しいのは寂しいのは僕なんだよ?僕はお母さんに抱き上げられ黒い袋に入れられた。暗い怖い助けてよ。その願いは届かず、僕は袋に入れられたまま外のゴミバケツへと投げられた。
その後のことなんて知らない。何週間たったのか分からない。何も覚えてない
ただ今はじっとゴミの山に埋もれている。変な匂いがする。僕は燃やされて今度は何になるのだろう?そう思いながらそっと意識を失った。その時に声が聞こえた。
「くまさん!!何処にいるの・・?くまさんごめんね。あのとき私が」
「お嬢ちゃんここは危ないから出て行きなさい」
「でも、でも!私のくまさんが」
空耳だろうか、やけにはっきり聞こえる優姫ちゃんの声。来るはずないのに。僕は要らないくまさんなのに。
「くまさん!どこ!!」
「じゃあ明日の朝まで待つから、それとどんなくまさんかな?探してあげるよ」
「茶色いもふもふの可愛いくまさん」
「茶色いもふもふだね」
「可愛いくまさん!」
「ん、わかったよ」
その声が聞こえ、だんだんと影が大きくなって女の子の顔が見えてくる。
優姫ちゃん?これは僕の夢じゃないのかな?
「くまさんいた!!!」
大声を上げる優姫ちゃんらしき女の子。徐々に僕に近づき抱き上げる。
「ごめんね、ごめんねくまさん」
力一杯抱きしめられる。このぬくもり覚えてる、優しくてすごく暖かい優姫ちゃんだ。
「お嬢ちゃんみつかったかい?」
「あったよ!!」
「よかったね、今度は大切にするんだよ」
「うん!」
優姫ちゃんは僕を家に持ち帰り、丁寧に丁寧に洗ってくれた。
少し綺麗になった僕は風通しの良いところに干されている。
「くまさん。これからもずっと一緒だよ?捨てたりなんかしない。大人になったら私の子供にくまさんをあげるから」
濡れた僕の頭を優しく撫でながらつぶやいた。
ありがとう。僕は聞こえないはずの想いを言った。やっぱりそれは届かないけど、優姫ちゃんがそばに居てくれて、僕を大切にしてくれるだけでそれだけでいいんだ。

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15年後
「ままー。このくまさん洗ってあげたい!」
「そうね、綺麗にしてあげよっか」
「うん!!由紀このくまさんとずっといるー!」
優姫ちゃんが結婚して子供間生まれて、あの時言ってくれたことを本当にしてくれた。優姫ちゃんの子供、由紀ちゃんも僕を大切にしてくれる
新しいテディベアもあり、両方同じように大切にしてくれる。
僕はこの家庭でずっと大切にされていくんだ。いつかほつれて無くなっちゃうかもしれない。
その日まで。

テディベア

テディベア

くまさんのお話

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-11-22

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  1. テディベア
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