願い
裕子は親友のさつきと買い物へ行くところであった。その時に裕子の携帯が鳴り出した、だか、裕子はそれに気づかず、さつきに「早く行こう?」と声をかけ歩き出した。しかし、さつきが裕子の電話に気づいていたので「携帯鳴ってるよ」とさつきは優しく声をかけてくれた。おかげで裕子は気付いたのだ、その電話の主は母だった。裕子は驚きすぐに電話に出た。母は昨日から少し体調を崩し、今日は父がそばに居るはずで裕子に電話なんてかかってくることもないと思っていたからだ。母は消えそうな声でこうつぶやいた。「お、父さんも体調崩したみたいなの。今すぐ来れないかしら」「すまんな」後ろから父の辛そうな声も聞こえてくる。こんなの帰るしか無いじゃないか。そう思った裕子はさつきに一言ごめんと伝え家まで全速力で走った。
大きな音を立てながら家に入った。するとそこには布団にグッタリと転がっている父と母の姿があった。父は裕子に気づくと申し訳なさそうな顔でこっちを見つめ口を開いた。「悪いな、折角友達と遊びに行くのに」「うぅん。気にしないで父さんも母さんも大変なら家族が支えあうのは当たり前でしょ?」裕子は優しく微笑むと二人の額に濡れたタオルを乗せ、スポーツ飲料を渡した。「お腹すいてない?」声をかけても唸り声しか返ってこない。その時だった。家のチャイムが鳴った、裕子は大変な時なのに、愚痴をこぼしながらもドアを開けた、「大丈夫?なんか急いでた感じだったし心配でさ」眉を下げて言うさつきに裕子は涙が出そうになっていた、こんなにいい友達そうそういないよ。なんて小さく呟き、さつきを家に入れ手伝ってもらうことにした。「お粥とかたべたの?」「食べてない。それに私作れないんだ」こんなんじゃダメだよね。ははと笑いながら言うとさつきは言った。「じゃあ私が作ってあげる」「本当!?いいの?」「もちろんだよ」「ありがとう」「うん」裕子はさつきの行為に甘え、ご飯を任せて両親のそばにいることになった。しばらくしてさつきがおかゆを持ってきてくれた。「さつき、本当にありがとう」裕子は深々と頭を下げた。そして私は母にお粥を食べさせ、さつきは父にお粥を食べさせてくれた。お粥を食べている途中に母が咳き込んでしまった。きっと変なところに入ってしまったのだろう。裕子は母の背中を優しくさする。しかし咳は一向に止まなくて、救急車を呼ぶ事になった。裕子は母と一緒に救急車に乗り込んだが、やはり父の様子も気になる様子だった。それに気づいたさつきが裕子に一声かけた。「大丈夫。安心して、私が裕子のお父さんのことちゃんと看病するから」「ありがとう!」裕子はその言葉を信じて救急車に乗り込み、母と共に病院へ向かった。病院へ着くとすぐに母は変な部屋へ連れ込まれ裕子は外で待つことになった、裕子は父のことが気になりさつきの携帯に電話を掛けた。するとさつきはすぐに出てくれた。「もしもし?」「もしもしさつき?」「どうしたの?お母さんは大丈夫なの?」「うん。多分。父さんの方はどうかなってやっぱり気になっちゃって」「大丈夫だよ、静かに寝てるから」「そっか、よかった」確かにさつきの携帯からは何一つ音が聞こえなくて静かだった。裕子は寝息の一つ聞こえても良かったのにと思っていた。さつきと少し電話をしていると母が変な部屋から出てきた、しかし母の意識はなく医者も俯いていた。裕子はその様子を見ると声をかけるのが怖くなった。母が病室へ連れて行かれるのを見て裕子は後からゆっくりついていった。酸素マスクさえもつけていない母が医者や看護師に囲まれていた。裕子に大体の予想はついていた。だが、恐る恐る声をかけた。「あの、母は」その声に気付いた医者達は裕子をじっと見つめ、あの言葉を言った。「手は尽くしたのですが…」「それ、ってどう言う」裕子はただお粥を食べただけなのに死んじゃうなんて可笑しいと思った。「毒物が入っていました、ここに来た時にはもう」裕子は目を見開き座り込んでしまった。「貴方がお粥を作ったでは?」医者にそう言われ、今気づいた。「違います。私、ちょっと急いでるので」裕子は病院を飛び出し、家まで走った。父まで居なくなったら嫌だ、そう思う裕子だが、さっきの電話。寝息一つ聞こえなかった。もしかしてもう。どうしてもそう思ってしまう。
家に着くと勢いよくドアを開け中に入った。そこにはさつきが立っていた。「お母さんどうだったの?」心配そうに声をかけてくるさつきに裕子は怒鳴った。「あんた何で私の親殺すんだよ。なんで、なんで…」「裕子が言ったからだよ?そんなに会いたいの?親に」さつきの表情が変わり、ひどく冷たい目で裕子を睨む。裕子は前言ったことを必死に思い出そうとしたが、何も思い出せなかった。「裕子が、親なんか死んじゃえばいいのにって言ったんだよ?叶えてあげたわたしに感謝しなよ。親のいない私の気持ち、これで分かるでしょう」その様子に気づいたのかさつきはそう言った。「そんな、そんなのってないよ」裕子は声を震わせながらさつきに飛びかかる。その瞬間、鈍い音がし、裕子の意識がどんどんと薄れていく。裕子は理解出来なかった。ただ倒れこみ頭から赤黒い液体を流していた。体が動かない。だがこれだけは裕子の耳にはっきり聞こえた。「私はあなたの願いを叶えてあげた。感謝してよね」その声だけやけにはっきり聞こえた。その後の言葉なんてもう頭に入らなかった。意識も全てなくなりただの肉の塊が玄関で倒れていた。
願い