静音

音を吸収してしまう雪に君も吸収されてしまうのではないかと不安になる。白い雪に反するような黒髪が揺れる

シャンシャンシャン・・・
なんて雪は降らない。雪の降る音は雨とは違って無である。
「雪かぁ・・・雪より雨の方が好きかもしれない」
彼女は窓の外を眺める。黒いタートルネックからのぞく首は雪のように白かった。
「雪の方が雨より綺麗じゃないか」
僕は読んでいた本に栞を挟む。
彼女は振り返り僕を見ると微笑む。
「雨音の中で読む本が好きなのよ」
彼女は本棚に向かうと茶表紙の本を手に取る。
確かその本はもう少し明るい色だった気がするけど夏の間に日焼けしてしまったか。
「・・・・・でも雪の方が綺麗だし積もったら楽しいね。」
本から顔をあげてにっこりと笑う彼女の顔はすこし幼く見えた。
「雪は音を吸収してしまうから、雪が積もるとどこにもいけなくなるから。なんだかこの世界に取り残されたみたいで不安になる。起きて目が覚めた時にもしかしたら世界中の人は暖かい星に移動してしまってこの星には私しかいなくて、いつも行く本屋も喫茶店も誰もいなくて。うーん、どうかな。暖かい星に移動したわけじゃなくて雪に吸収されてしまったのかもしれない」
彼女は首を左に傾けると静かに笑った。
「もし本当になったらそれはすごくさみしいけど、きっと雪はそれでも綺麗なんだろうね」
僕は彼女を見つめたあとに窓の外に目を向ける。
さっきよりも強く降る雪に反して外の音はあまり聞こえない。
もしかしたら本当に今、この世界には僕と彼女しかいないのかもしれない。

「珈琲おかわりする?」

いつの間にか立ち上がって白いマグカップを手にしていた彼女は僕に問いかける。
僕は「お願い」と同じく白いマグカップを渡す。

「甘くする?寒いしね」
彼女は笑ってキッチンに姿を消す。

きっと雪が積もったら彼女はさっきの言葉なんか忘れて雪遊びをするんだろうな。
その姿を想像して静かに笑が零れた。

静音

静音

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-11-19

CC BY-NC-ND
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