SS40 ディスアピア

最初にいなくなったのは飼い犬のポチだった。

 最初にいなくなったのは飼い犬のポチだった。
 ちゃんと鎖に繋いであったはずなのに、朝餌をやろうと表に出ると忽然と姿を消していたと妻から聞いた。
 夜になって子供たちと一緒に近所を探し回ったが、結局見付けることは叶わなかった。
 帰巣本能があればきっと帰って来るだろう。そう宥めてその日は捜索を終えたが、鎖が切断されているのを見逃したわけではなかった。

 ***

 翌日、今度は妻が消えた。
 学校から帰宅した子供たちに買い物に出掛けて来ると言い残したまま、暗くなっても戻ってこない。持って出た携帯も繋がらない。
 まだ小学校低学年の子供たちは不安そうに、会社で残業していた私に電話を寄越した。
 急遽夕飯用にコンビニの弁当を買い込んで帰宅した私を出迎えた子供たちは一様に首を振った。
 取り敢えず遅くなった夕食を済ませた後、子供たちに電話番をさせて周辺を捜索し、心当たりに電話を掛けてみたが、芳しい返事は得られないままに一夜を明かした。

 ***

 しかしコトはそれだけでは終わらなかった。
 次の日には無理を言って学校に行かせた子供たちが戻らなかったのだ。
 休みを取って家にいた私はついにパニックに陥った。
 一体どうなってるんだ! しかし家を飛び出そうとした私を引き留めたのは一本の電話。
「奥さんと子供は預かっている」妻からの電話だとばかり思った私の頭を特大のハンマーが叩きつけた。
 誘拐か! 
 要求額は三十万。警察に知らせたらとんでもないことになると脅された。
 私はすぐさまATMに走って現金を引き出すと、次なる要求を逃すまいと電話に齧りついた。

 ***

 明けて、翌日。私は玄関の鍵を開けたまま、指定の場所に来るよう犯人から連絡を受けた。
「なぜ、その場所を知ってるんだ?」首を傾げながらも私は言われるままに、”新居”へと足を向けた。
 大型トラックが一台家の前に横付けされたことにも気付かぬままに……。

 ***

 スリリング引越し便。
 名は体を表す。こんな業者に頼んだのがそもそもの間違いだったのかもしれない。
 目的地に到着した私は安堵の吐息と共に地面へぺたりと座り込んだ。
 今日は引っ越しの日。
 --果たして妻も子も引っ越し先の新居の前で手を振っている。大量の段ボール箱と共に。
 もちろんポチも一緒だった。

SS40 ディスアピア

SS40 ディスアピア

最初にいなくなったのは飼い犬のポチだった。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-11-19

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