タイトル未定 第2章 異世界
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第2章 異世界
まぶたの裏に、緑と白の光が差し込む。
まどろみの中、後頭部と頬に当たる温かでやわらかな感触。
その温もりに導かれるようにして目を開けると──少女と目が合った。
「──うわっ!」「――!」
思わず飛び起きると、目の前・・・にいた彼女も仰け反る。
真っ白な髪をした美少女、確か川で水浴びをしていた少女だ。
「│(俺は確か彼女を見かけて、それで…)」
きょろきょろと周囲を見回すと、自分がいるのは先ほど見た白い小石が覆う川岸。
今は驚きの顔をしている少女も、先ほど俺が見かけた美少女で間違いがない。
――現状を鑑みるに、どうやら意識を失っている間、
イワユル”ひざ枕”ヲサレテイタラシイ。
きっと、川で滑り落ちて意識を失った俺をこの子がここまで引っ張り上げてくれたのだろう。
俺のスーツは靴と上着が近くの岩の上に広げて干してあり、
彼女もまださっき見たのと同じ姿裸のままだ。
尤も、彼女は一連の騒ぎの中で自分が裸であることなどすっかり意識の外となっているようだが。
艶のある真っ白な髪、そして健康的でありながらもまるで白い絹のような肌。
その胸に乗る白い大きな双球もたゆんぽよんと揺れている。
胸の先には、大きめでありながらも美しい桜色をした――これはまだ言及しないでおく。
ともあれ、いきなり飛び起きたこちらの顔色を伺いながらも、蒼いダイヤモンドのような瞳をしたその美しい少女は俺を心配そうに見つめていた。
白い髪と白い肌、そしてその吸い込まれるような瞳、それだけでも十分に『非現実的』だというのに、最初見掛けた時と同じように彼女の頭、正確には頭の少し横から真上にかけて、その髪と同色の犬のような耳がついている。 というかぴこぴこ動いている。
そして水の中では気が付かなかったが、耳とセットであろうフサフサの真っ白な”しっぽ”も、
これまた彼女のすべすべとした臀部から生えて、ゆっくり動いている。
「犬耳、そしてしっぽ…」
俺のつぶやいた言葉に彼女は「?」といった表情で首をかしげている。
兎にも角にもここは川岸、この子が俺を引き揚げてくれたらしい。
それだけわかれば今俺がする事は決まっている、――まずは御礼だ。
俺は改めて少女に向かい合う。
豊満な胸を曝け出した全裸の美少女を凝視できるほど俺も玄人ではないのであくまで視線を泳がせながら。
そんな俺の動作を疑問の表情で見つめる少女。
透き通る瞳が実に痛い。
「えーっと、その、あれだ」
どことなく視線を合わせることができないまま、彼女に言う。
「えっと…、君が俺を助けてくれたの? 助かったよ、ありがとう。 そしてできればそろそろ服をだな…」
四苦八苦しながらもなんとか必死こいて投げ掛けたその言葉に、何故か目の前の彼女は混乱と焦りの表情をした。
「…? どうかした…のか?」
その姿を正面から凝視は出来ないながらも、俺は彼女から動揺の色を感じて更に声を掛ける。
すると彼女から漏れる混乱の色がますます強くなり、
今度は何かしらを言おうとしているのだろう、たどたどしく何かを伝えてくる。
「○――○○○○、○○?」
――――は? 今何て言ったこの子?
「――ごめん、もっかい言ってくれるかな?」
聞き間違いか、何もわからなかった。
もう一度と、人差し指を立てて言うと彼女は『?』を浮かべながらももう1度、同じ言葉を投げ掛けてくる。
「○、○○○○、○○…?」
――――結論から言うと、わからないという事が分かった。
―――――
この幻想的な森で俺が覚醒して、何時間経っただろうか。
美しい少女と出会ったが『言葉がわからない』ということがわかってしまった。
助かったと思ったらいきなり頭の痛い問題だ。
彼女の扱う言葉は、明らかに俺と違う言語体系の言葉。
表情とニュアンス以外、本気で何一つわからない。
尤も、俺が彼女の言葉を理解できないのだ、彼女の方も俺の言葉がわからないのだろう。
今も疑問府を頭の回りに飛ばしながら、もぅれれぅとか何とかぶつぶつつぶやいている。
「ともあれ…」
助けてもらったという事実は変わらない。
まずはお礼と感謝の気持ちをしっかり伝える所からだ。
言葉は繋がらなくても気持ちは繋がる! と思っておきたい。
改めて俺は彼女の目の前に座る、彼女も何かキリッとした可愛い顔で俺に向き合う。
俺はその白く肌触りのいい手を取り、彼女の顔を見て、ゆっくりと意思を込めたうえで、「ありがとう」と言う。
――ニュアンスだけでも伝わったのだろうか。
彼女も最初は何故だか顔を真っ赤にして面食らっていたが、最後は笑顔でヴぁうヴぁ何たらとかいう言葉を返してくれた。
『彼女達の言語社会では笑顔が怒りの表情だった!』とかいうくだらないオチじゃないのであれば、少なくとも今の彼女が『笑顔の感情』である事に間違いはないだろう。
そう思い、俺も笑顔を向ける。
そしてそのまま、なるべく何でもないような体を装い、『自分の姿を見てみろ』というニュアンスのボディランゲージを彼女に行なう。
最初はやはり『?』という表情で首を傾げていた彼女だったのだが、すぐに自分が真っ裸だという事に気がつくと、桜色の頬をまたもやリンゴのように真っ赤に染めて、更に尻尾を股の下から抱き締めるようにして自分の身体を隠し、狼狽した。
「a…a…ua…」
狼のような耳と尻尾で狼狽――とか言ってる場合ではない。
涙目になったことでかなり危ない絵面だ。
俺は、真っ赤な顔のまま体を隠す彼女にとりあえず服を着させた。
彼女が服を着ている間、俺も濡れたYシャツやズボンも脱ぎ、それを岩の上に干してトランクス1枚となる。
少し離れたところでは少女がいそいそと見慣れない服を着ている。
西洋、もしくは中東の民族衣装を髣髴とさせる淡い緑の服だ。
少し粗い目の布を使った長めのチュニック、又はワンピースと言った方が正しいかもしれない。
「違う言葉…か」
服を着る彼女を横目でこっそりと眺めながら、俺はここが自分の知らない土地だという確信を得た。
「これは、誰か言葉の通じる人を探さないと何も分からんぞ…」
無論、言葉の通じる人がいるのであれば、だけどな。
──────────
しばらくして、犬耳の彼女も服を身に纏って少しは落ち着いたようで、今は俺の前に座っている。
そして俺たちは互いに意思疎通を図った。
自分のことを指差しながら、はじめはゆっくりと名前を教える。
「kuro、mine、akari。 黒峰 燈」
そして彼女がその言葉を追う。
「くぉ…みぃね…?」
「そう、その調子だ」
「…ぁか…り?」
「oh yes! I`m Akari!」
胡散臭い英語教師のようになってはいるが、まずはお互いの名前を呼べるようになった。
ちなみに彼女の名前は『エミ』というらしい、正確には『エミーリャ』という名前に聞こえるのだが、愛称か何かなのだろう、エミと呼んだ時の方が嬉しそうだったので、俺もエミと呼ぶ事とした。
『エミ』という名前も、いきなり俺にとっても馴染みのある名前となってはいるが当然これは『俺が聞き取れた彼女の言葉』であって、正式な発音という訳ではない。
「ぁka…aka○○…」
彼女も、俺の名前をなんとなく呼び易い発音にして理解しているようだ。
そしてとりあえず相手のことを呼ぶと反応が貰えるというところまでは互いに理解し合う事ができた、これで多少は意思の疎通も図れるだろう。 というかそれ以上の事を解読しようとしても、今この状態じゃ意味はない。
ともあれ、ここまで少し彼女と話して分かった事は、彼女がものすごい美乳…なのはまた別の話として、彼女が俺とは違う言語を扱う存在だという事と、ここは俺が知らない土地であるという事。
そして彼女がケモノな耳を持つ娘だという事。それだけだ。
「コスプレ…じゃないよな…?」
彼女のヴィジュアルに対してどうしてもそんな感想を抱いてしまうが、見た感じあれは直に繋がっている、いや生えているように見える。
そして耳や尻尾の動き方、これも動物の耳そのもの。
耳は時折り、ピクピクとあっちへこっちへと向かい、尻尾もゆらゆらパタパタと動いている。
こうして話している間、ずっとぴこぴこ動き続けている彼女の耳や尻尾はとてもじゃないが、作り物には思えない。
それにそもそもこの森の中でわざわざ1人コスプレをして水浴びをする意味が分からない。
ここは一体どこなのかという事も未だにわからないし。 わからない事だらけだ。
「ふむぅ」
俺は胡坐のまま半裸で座り、改めて考えてみる。
記憶が正しければ、俺は確か仕事を終えて陳腐な安アパートである自宅へ買える途中、コンビニで弁当と好物でもあるプリンや生チョコ、ドリンク類なんかをいくつか買って帰る途中だったはず。
――そうだ、少し嫌な事があったのでうまいものを自棄食いしてやろうと思って、菓子類をいくつかと夕食にもサラミやパスタなど、多めに買ったのだ。
だから水から引き上げたコンビニの袋には、菓子類とドリンクなど、少し多めに詰め込んである。
どこか重要な記憶が抜け落ちている気がするが、コンビニの袋を持っていたのでコンビニに行った事は確かだろう。
それが気がついてみたらこの広大な森の中だ。
幻想的な緑に囲まれた川のど真ん中で溺れかけていた。
その時点でまずわけがわからない。
それに、このような森、少なくとも俺の住んでいた近所にはない――。
ここは日本、いや世界レベルで保護されていてもおかしくないレベルの自然、いわゆる秘境クラスの大自然だろう。
周囲を見渡す。
目に映る景色は、まるでプロが写真に収めた超美麗な自然風景。
それを更に広大にしてデジタルなエフェクトを掛けたような大自然。
そう捉えると分かりやすいほどに美しい。
夏の昼間のように明るい日差しが降り注ぎ、少し熱いが春や初夏のような快適な気温と水辺の適度な湿気が自然の空気に乗って漂っている。
そして緑色の光が世界全てを包んでいるかのような森の中のコントラスト。
日陰と日向がそれぞれ確信的な自然を演出し、その中でも白さが際立っているこの川岸へと続く。
これはとても現実のものとは思えない美しさと神秘さがあった。
「あの子の見た目、耳、しっぽ、そして俺が全く知らない土地と言語…」
いきなり見知らぬ大自然に放り出され、出会った女の子は非現実的に美しいケモノ娘。
言葉も通じない、場所もわからない、風景は非現実的で、女の子は可愛い。
そう考えてゆくと、小説を読む程度の趣味は持っている自分の頭に浮かんだ1つの可能性。
もしかして、これは…
「異世界って奴か?」
タイトル未定 第2章 異世界
最初は、現存する言語からなんとなくそれっぽい文字列を作って異世界言語っぽさを出そうかなとも思いましたが、
単語が多くなるとめんどくさくなりそうだったので記号にしました。