三題噺「宇宙戦争」「火星のプリンセス」「コナン・ザ・バーバリアン」
若い男は隣の彼女の方を見ていなかった。
(昔はさ、宇宙人なんて夢物語なんて言われてたんだぜ)
(あら、それじゃあ私たちがその頃の地球にいたらさぞかし珍しがられたでしょうね)
隣の若い女の方もそれを気にすることなく男の向いている方向を向いている。
(ははは、それどころか『宇宙戦争でも仕掛けに来たのか!』なんて言われて迫害されたかもよ)
女は少し眉をひそめる。
(……まったく、そんなちっぽけな所は今も変わらないのよね)
(まあ、そう言うなよ。そんな彼らにしかこういうものは作れないんだからさ)
(……まあ、そうなんだけど)
不機嫌になった彼女は男になだめられると軽くほおを膨らませた。
(でも、それが不思議なのよね)
彼女の前髪が風もないのに揺れる。
(どうしてテレパスも使えない地球人が、こうも心を揺さぶる芸術作品を創れるのかしら)
その髪はまるで彼女の額のあたりから生えるようにひょこひょこと揺れていた。
「どうですか、火星のプリンセス。我が星の映画は?」
白髪をきっちりとまとめた紳士風の男が、映画を観終わったカップルに声をかける。
「ええ、大統領。今回もなかなか良い出来でしたよ」
「そうね、次はコナン・ザ・バーバリアンのような胸躍る作品が見てみたいわ」
「そうですか、それでは私どもの方で手配させておきましょう」
「頼むわね。では、また」
「失礼しました、大統領」
そうして二人の火星人カップルはホワイトハウスを去って行った。
彼女たちが去った後、小太りの副大統領が大統領に吐き捨てるように言った。
「大統領、良いんですか? あんな火星の野蛮人たちに好き勝手されて」
「良いんだよ。彼女たちはいまや我が国にとって最重要人物だ」
「しかし……」
「実は先日、CIAから中国が水星と太いパイプを持ったことがわかった」
「な、中国と水星がですか?」
「ああ。しかもヨーロッパは木星と、ロシアも金星とそれぞれ動きがあるらしい」
「そうだったんですか……」
「もはや火星は我々にとって無くてはならない存在なのだよ」
(お嬢様、良いんですか? あんな地球の野蛮人たちと仲良くしていて)
(良いのよ。彼らは私たちにとって一番の友達なのですから)
ホワイトハウスから帰る車の中で、プリンセスの前髪がぽよんぽよんと揺れている。
(しかし……)
(実はね、ついにアンドロメダの奴らが日本と接触したらしいの)
(な、日本と奴らがですか?)
若い男の目が驚いたように見開かれる。
(ええ。水星や木星、金星の人たちとも連絡を取ったのだけれど間違いはないそうよ)
(そうだったんですか……)
二人は静かにため息をつく。
(妄想を現実にする能力。そんな力を持ったあいつらと日本が手を組んだら……)
(この地球だけでなく、我々の惑星も危ないというわけですね)
(もはやアメリカは私たちにとって無くてはならない存在なのよ)
――そして、日本。
「あ、あのぉ……」
気弱そうな少年とも少女ともいえない若い子を、三人の中年男性が囲んでいる。
「それじゃあ、今度は俺の嫁のルルちゃんを!」
「いや、待て俺の嫁のレイコちゃんが先だろ!」
「おい、お前ら! いい加減にしろ!」
一番年長らしい男が他の二人を怒鳴りつける。
「よ、よかった話のわかる人がいて……」
「お前ら! 宇宙戦隊ジャパンのマッキーを忘れてんじゃねえよ!」
「……え?」
「おっと、そうでしたなぁ総理」
「いやはや、私たちとしたことが」
「よし、それじゃあ最初はマッキーを現実化するということで」
「「そうしましょう」」
「え、あ、あの……世界征服とかは?」
「「「は?」」」
「君、アンドロメダから来たばかりでよくわかってないかもしれないが」
「日本は平和な国なんだ」
「なんで戦争をしなきゃならないんだ」
「そんなことをするくらいなら」
「好きなことのために」
「情熱を注ぐだろ」
「「「常考」」」
総理ほか鼻息の荒い男たちに囲まれて、アンドロメダの使者のライフポイントはゼロになりかけていた。
こうして太陽系の平和は知らず知らず守られていたのだった。
三題噺「宇宙戦争」「火星のプリンセス」「コナン・ザ・バーバリアン」