いつもの二人

いつもの二人

いつもの日常・・・でもそんな日常の中で実は度々会っているいつもの人達。

いつも会う人・・・・そうあなたはいつもの人

いつも会う人・・・・そうあなたはいつもの人

 私は新社会人になったばかりで、職場の出勤初日に寝坊してしまい、髪も整えず化粧もせずに、慌てて家を飛び出して通勤に利用するバス停へと駆け出した。

 ダッダッダッダ!「はぁはぁ、見えた! バスだぁ! まぁってぇ~」と息を切らして言いながら、扉が閉まりかけたバスに乗り込んだ。

そのとき、すごい勢いで乗り込んだから周りの目が気になって、バスの手すりに掴まってぜぇぜぇと息がまだ整ってないまま私は顔を上げてバスの前方に付いているルームミラーを見て運転手さんの顔を窺った。

するとたまたま運転手さんとルームミラー越しに目が合って私の顔がよっぽど酷かったのか、運転手さんは少し俯いて苦笑していた。それを見ていた私はすごく恥ずかしくなり俯いてしまった。その頃にはアレだけひどくあがっていた息もすっかり整っていた。

 その日はなんとか会社に間に合って、初日ということもありそんなに勤務時間も長くはありませんでした。しかし、やっぱり会社です。日々出勤して任される仕事が増えていくたびに勤務時間もそれに比例して長くなっていきます。1年ほど経った頃には夜十時までの勤務が土日を抜いてほぼ毎日でした。

 プシューとバスの扉が開き、クタクタな体を引きずるようにして、最終便のバスに私は乗り込みました。そのとき、たまたま私は運転手さんの真後ろの席に座りこみました。

「はぁ~」椅子に座り込むと同時に私は大きなため息をつきました。バスの窓に額を押し付けてただ呆然と外の景色を眺めていました。しばらく、バスに揺られてその状態が続いていると、ふとどこからか音楽が聞こえてきます。私はどこから聞こえているのかが気になりそっと目を閉じて耳を澄ましていると、どうやら運転手さんの鼻歌のようでした。

 「フンフフフ~ン♪」なんのメロディか私にはわかりませんでしたが、なんだかとても陽気な音楽でした。それをしばらく聞いているとなんだかとても心が落ち着きました。降りる予定のバス停に着くと「あぁ~もう少し聞いていたかったなぁ~」と少し寂しい思いをしながら私はバスを降りました。そのとき、気のせいかもしれませんが、運転手さんが笑っていたような気がしました。

 その後も度々、私は最終便のバスに乗ると鼻歌を聴くために、運転手さんの真後ろの席が空いているときは必ずそこに座るようになりました。
しかし、そこで不思議なことに私は気づきました。最初は気にもしていなかったのですが、運転手さんの鼻歌が聴けるときは必ず私が1人だけでバスに乗っているときでした。例外はなく、必ず私が車内で1人だけのときでした。

そのことに、気づいたとき。私の気のせいかもしれないと思ったけれど、どうしても運転手さんにお礼が言いたくて、ある日の最終便のバスで車内で私1人だけだったときに、バスを降りる直前に「いつもありがとうございます」と笑ってお礼を言ったのです。

 そうすると運転手さんは嬉しそうに、被っていた帽子を脱いで「いえいえ、私もあなたに元気貰ってますから、お互い様です」と笑って言ってくれたのです。

「あぁ~私も知らない間に運転手さんを元気付けてたんだ~」と降りたバス停から家路を帰りながら私はそんなことを思いました。

 翌日の夜、また私は最終便のバスに乗りました。いつもの席に座り、そして車内は私だけ、「フンフフフ~ン♪」また陽気な音楽が車内に流れます。
私は笑いながら、窓の景色を眺めています。

いつもの二人

いつもの二人

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-11-16

Public Domain
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