奇妙な宝石

あの方は背筋がゾッとするほど美しい眼をしてらっしゃいました。目の形がどうのと云う事ではなく、唯々ひたすらに眼球そのものが類い希なるものでございました。
白目の部分は降ったばかりの雪よりもさらに白く、大理石よりもつややかで、黒目の部分は深い泉のように澄んでいて、光を複雑に屈折させるのです。
私とあの方は唯の一度しか会ったことがございません。いえ、この場合会ったと云うのもおこがましいと云うものでしょう。なぜなら私たちは単に向かい合ったベンチにそれぞれ座っていただけなのですから。
その時あの方はくつろいだ様子で本を読んでいらっしゃったのですが、私が向かいに座ろうとしたときにあの方はふと顔をあげて一瞬、ほんの一瞬、私を見たのございます。射すくめられたようでございした。私はまるで草木がしゃべっているのを聞いたと同じように、その美しい眼が生きていることに驚いたのでございます。
あの方は私と目があってしまったことを申し訳ないことであるかのように、すぐにまた本に視線を落とされました。私はあの方を同じ人間とは到底思うことができませんでした。そしてあの方をどこか化け物じみているとも思いました。

もうずいぶん昔のことになりますが、今でもそのことを何度も思い出すのです。そしてあの奇妙で美しい二つの宝石が今もどこかで生きていると思うと、まるで甘美な夢を見ているような気分になるのです。

奇妙な宝石

奇妙な宝石

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • サスペンス
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-11-16

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted