愛しの都市伝説(15)

十五 新たな伝説

「ここ、昔は、肩がぶつかるぐらい人通りが多かったんだって」
「嘘、そんなこと信じられない。今は、百メートル走をしたって、誰にもぶつからないわ」
「誰が、商店街で百メ―トルを走る人がいるの」
「そんなイベントしたら、街が賑わうかもしれないね」
「それとも、なんか伝説があれば、人が集まるかも」
「伝説?」
「そう、伝説」
「何の伝説?」
「何でも」
「じゃあ、伝説探す?」
「うん、伝説探そう」
 大学生たちは、パフェ屋からまんじゅう屋、おもちゃ屋など、商店街の店に、伝説を探し求めた。

「そろそろ。俺たちの番かな」
「もう、忘れられてしまっているんじゃないの」
「一時的にしろ、この寂れた商店街を復活させたのはわしたちじゃ」
「復活に貢献したのは、伝説たちであって、俺たちじゃないよ」
「でも、伝説を復活させようとしたのは俺たちだよな。中上さん」
「まあ、そうですけど。僕たちが伝説になっているかどうかはわかりませんよ」
「いいや。わしたちは、伝説になるはずだ。この商店街の中興の祖として、商店街の入り口に石碑が立っているはずだ」
「立てたのは、俺たちじゃないか。自画自賛だろ」
「誰が、じいさん、ばあさんじゃ。それに、そんなに歳をとっていない」
「そりゃ、死んでから数十年が立っているから、歳はとらないけれど、死んだ時は、既に、じいさんだったはずじゃないか」
「いいや、わしはじいさんじゃない。まだ、若い」
「それに、この石碑だって、最近では、誰も掃除してくれないから、俺たちの字がみえなくなっているよ」
「もういい。とにかく、わしたちは死んで、残っているのは、この石碑の中に掘りこまれた字だけじゃ。後は、若い奴らは、もう一度、この商店街を復活させてくれるだろう。なあ、中上さん」
「そうですね。会長。若い人に期待しましょう。いつの時代でも、若い人が新たな世界を切り開くんですから。もし、若い人が、僕らに手助けを頼むのであれば、お手伝いをしましょう」
 中上の言葉に、商店街の会長や役員たちは頷いた。

「あった。こんなところに石碑が」
「なんの、石碑?」
「昔。商店街が寂れた時に、復活させた人たちがいたらしいんだ。その人たちの功績を顕彰したものだよ」
「じゃあ、伝説になるかな」
「伝説だよ」
「でも、誰も知らなかったよ」
「だから、僕たちが、伝説にしてあげるんだ」
「ああ、しんど。バケツに水を汲んで、ぞうきんを持って来たよ」
「ありがとう。さあ、早速、掃除だ」
 大学生たちは、石碑を洗いだした。
「あっ、字が浮かび上がってきたよ」
「なんて書いてあるの?」
「沢野会長だって。それに、中上って字も読めるよ」
 石碑の後ろから、ぼんやりとした人間の姿が浮かび上がってきたものの、掃除をしている大学生たちは誰一人として気づかなかった。

愛しの都市伝説(15)

愛しの都市伝説(15)

十五 新たな伝説

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-11-15

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