人魚姫の恋愛事情
美しい海が広がる港街に、何年も住み続けている人魚姫。
誰にも知られず、母親と孤独に住んでいた彼女は「人間」に恋をしてしまった……。
第一話
今日は、月に一度ある盛大なお祭りの日でした。
たくさんのお店が並び、町はきれいに飾り付けられ、普段とは大違いの光景でした。
その様子を一人、静かに見守る者が海の中に……。
「私も、あんな風にきれいなドレスを着て素敵なダンスを踊りたいなぁ。」
できないこととはわかっていても、望んでしまう。
それ程つらいことはないの。
「はぁ。」
「何を溜息をついているのです?」
この声は、
「お母さん! 帰ってきてたのね!!」
「えぇ、いつも月に一度は帰ってきてるでしょう。」
「そうだけど、ね? あ、そうそう。 お土産なぁに?」
「まったくもぉ、お土産はね。 人の世界の童話よ。」
「童話??」
「えぇ、普通の物語だったわ。」
私が、お母さんが持ってきてくれた本をあさっていると、
「これ、人魚姫のお話ね!!」
「えっ、えぇ。 あんまりいい終わりじゃないけどね。」
お母さんの言うとうりだった。
見てもらえないと、泡になって消えちゃうなんて。
「私も、そうなのかな」
掠れた震える声で独り言をつぶやいた。
私の独り言は泡となって消え失せた。
誰にも届かずに消えていく、まるでこのお話と一緒。
「お母さん。」
「なぁに?」
お母さんも、今で見ていた本から私に目をうつした。
「私が、人間と結ばれたいと言ったらどうする?」
「……え?」
「も、もしもよ。」
「あ、あぁ。 そうねぇ、お母さんは、反対するわ。 人間と一緒になったところで幸せになるかわからないでしょ?」
「そうだよね、うん。 そうに決まってるよね!!」
「えぇ。 そうに決まってるわ。」
ごめんね、あなたには絶対に幸せになってほしいの……。
人間なんて信じたら、あなたもきっと不幸せになるに決まってるのよ。
大丈夫、それまでお母さんが守っててあげるからね。
絶対に、大丈夫だからね。
人魚姫が知らない間に、渦巻く母親の願いと想い。
娘も知らない、母の過去。
いったい何があったのか……過去を知ることになるのはまた先になりそうだ。
人魚姫の恋愛事情