『信頼のピットマン2後編』
ピットマン2前編の続きです。
「オハヨウゴザイマス。ゴシュジン。」
この声で俺は目が覚めた。なんとも心地よいひざし。いつもはこの時間には会社にいるだろう。
クビになったということも忘れさせるくらい、今の時間が幸せだ。
「チョウショクノヨウイハツクエノウエデス。サメナイウチ二ドウゾ。」
「ああ。」
「ソレデハワタクシハ、キノウイワレタトオリ、チラシヲクバッテキマス。」
「あ、それのことなんだけどこれも追加で頼む。」
「カシコマリマシタ。」
そういうとピットマン2はチラシを配りに出掛けていく。
そのチラシにでかでかと書いてあるのは、「何でもお手伝いします!」という文字。
そう、俺の考えというのは、ピットマン2を使いどんな雑用でも引き受ける何でも屋のような仕事をすることなのだ。
人と違い、ロボットのピットマン2には、できないことはほとんどないだろう。怪力では最高10tまで持ち上げることができ、ミサイルまでなら効かないし、水の中でも火の中でも無重力でも平気で、大学教授50人分の学力や知識を持っている。
どんな命令でも一番最善の手段で必ず最後までやりとげる。
これほど優れたロボットは他にいないだろうな。
我ながら天晴れだ。
「もう一眠りするか。」
俺は朝食も食べずに、会社を辞めてから初めての二度寝をした。
あとのことは寝ていてもピットマン2がしてくれる。新しい仕事もできたし、金に困ることも無くなるだろうな。
~一ヶ月後~
あれから一ヶ月がたった。そして俺の予感が的中していた。
何でも屋の一人目の客は隣のおばさん。
仕事は家の掃除。
たったそれだけ。
しかしピットマン2は、掃除をした後も、その部屋に最適な模様替えをし、そのほかの気遣いも最大限に行い、高評価を得た。
それからだ。
くちコミで一気に俺の何でも屋が知れわたり、さらにそれにすべてこたえることによって、あっという間に人気屋になった。
ほかにもピットマン2は、無くした指輪を簡単に見つけたり、治らない肩こりを治したり、パーティーで一芸を見せたりと、何でもできるということをアピールして、ますます店は繁盛していった。
しかし、ピットマン2は一人しかいないから今は予約で埋まっている。
ピットマン2だけに働かして、俺は働かずして金を得る、なんてことは考えていない。
少しでも真面目に働いて、副業として何でも屋で金を稼ごうと思っている。
さすがに俺も人間だ。
プライドもある。
ロボットに仕事を全部任せられない。
「おい。次は城田さんの家に行ってくれ。庭の改造だ。」
「カシコマリマシタ。」
ピットマン2とのコンビネーションで仕事の方も順調に上手くいっている。
そして俺の最終目標は、ピットマン2を今よりもっと増やしていき、より効率よく、できるだけ多くの依頼を受けていく。
そしてこれを企業にし、会社を立ち上げて、俺はその会社の社長になる。
これが俺の目標。
そしてこれは必ず達成してみせる。
「えー、次の依頼は、………あ!前の会社の社長じゃないか………」
「ドウシマショウ?」
「多分むこうは俺のことは知らないはずだ。それに金ならあるだろ、社長だし。まあ仕事だし行ってくれ。えーと、息子の1日家庭教師だとよ。」
「カシコマリマシタ。」
「あぁー!今日の仕事はこれで終わったー!」
ピットマン2が社長のところへと向かうのを見ると、俺は大きくのびをした。
予約がぎっしりで、その管理だけでもかなり疲れる。さらにそれと並行にピットマン2の複合型をつくっているからくたくただ。
布団に少し横になると、俺はすぐにうとうとと眠り始めた。
プルルルルル!
プルルルルル!
電話の音で、すぐに俺は飛び起きた。
「はいもしもし。」
「あ、もしもし?君のところに息子の勉強を頼んだものだけど。」
「はいどうしました?」
「今すぐ来てくれ!」
「はい?」
「説明はあとだ!とにかくはやく来てくれ!」
俺は電話をきると、所定の住所のところへ車に乗りとんでいった。
ピットマン2がなにかしたのか?
いや、悪さなんか絶対にしない。
それに、どんな命令でも必ず最後まできっちりこなす。
というより相手の客が社長だから問題だ。
別に関係はなくなったが、俺のことを知ったら悪い噂を流される。
仕事にも影響がでる。
そんなことを考えながらも、社長の家についた。
「でけぇ。」
社長だけあってやはり豪邸だ。
生唾を飲み込み、インターホンへ指を持っていく。
チャイムの音が鳴ると同時に出てきた。
社長が。
「おう、来たか。とにかく入ってくれ。」
「はい。」
社長はまだ俺のことに気づいてないらしい。
そのまま子供部屋のようなところに通された。
「8、7、5、3、3、2、6、5…」
そこにはピットマン2がいた。
数字を延々といい続けながら。
「あ、パパ!」
「おお健太。今ここの管理の人を呼んだからな。」
「あの、どうしてこのようになったのですか?」
「しらないだろそんなこと。息子に勉強を教えてたら勝手にこうなった。」
「3、6、8、1、1、3、2、4、6、6、7、2…」
「ピットマン2!どうしたんだ?!」
「5、9、1、0、3、7、2、1、9、8、6、3…」
「君。どういうことなんだ。」
「はい、もしかしたら故障ですかね。」
「故障?人間じゃないのか?」
「実は、…ロボットなんです。」
「ロボット?!…あ!君は草野じゃないか!」
「そうです。社長、お久しぶりです。」
「君はもう関係ないんだから社長と呼ぶな!」
「すみません。」
「またこんなろくでもないロボットなんかつくって。とにかくすぐに連れて帰ってくれ!金も返さなくていいから!」
「はい。本当に申し訳ありません。」
とても大変なことになった。
社長に言いふらされたら、俺の何でも屋の評判はがた落ちだ。
しかし本当にどうしたんだよピットマン2。
故障なんてことはまずあり得ない。
社長がわざと?
いや、そんなことはしないだろう。
はあ、とにかく連れて帰るか。
「パパ?あの人もう帰るの?」
「ああそうだよ。あの人はロボットだったんだ。」
「ロボット?でもあの人とっても優しかったし、勉強も分かりやすかったよ。残念だな。」
「6、7、1、4、4、3、6、9、0、2、4…」
「健太くんだっけ?この人に勉強教えてもらってたんだよね。」
「そうだよ。」
「どうしてこうなったかわかるかな?」
「僕は最初、算数を教えてもらってたんだ。」
「うん。それで?」
「教科書に書いあった、“円周率”ってなんなのかを教えてって頼んだんだよ。」
「え?!」
俺の頭の中で、すべてが繋がった。
ピットマン2は“円周率”を聞かれたんだ。
そして答えている。
今も延々と。
しかし、“円周率”は無理数だ。
二度と終わることはない。しかし、ピットマン2のきまりは、どんな命令でも必ず‘最後’までやりとげること。
つまり一生このままだ。
「ありがとね。健太くん。」
俺は社長に一礼し、急いでピットマン2を車に乗せ、自分の家へと走らせた。
「6、7、7、4、2、2、2、4、7、5、6、3、8、0…」
後部座席に座っているピットマン2は、笑顔で無限に続く数字を、延々と発している。
俺は半分イライラしながら、カーラジオをつけ、その声を聞こえないようにした。
「はあ……。」
大きいため息をつきながら、俺は決心した。
二度とロボットはつくらないと。
そして、今耳にしているラジオの音に混じれて、かすかに後ろの方から聞こえてくる。
ピットマン2の声が。
「8、2、4、3、6、9、1、5、7、2、3、5、8、7…」
ふと後ろを振り替えると、ピットマン2と目があった。
子供に勉強を教えていたから、笑顔だったのだろう。俺にはピットマン2の笑顔が、今度は天使の微笑みのように見えた。
終わり
『信頼のピットマン2後編』