ちょうど軌道エレベーターが作られ始めた頃だったと思う
温暖化の影響が本格化したのだと思われていたが
どうも違うようだった

最初は少しずつ
やがて凶暴なまでの勢いで水が増えた

1メートル
5メートル
10メートル

止まることなく水は増え続けた

なぜ増えているのかも
どこから水が来るのかも判らない
なんの対策も立てられないまま
陸地は次々と沈んでいった

日本でいえば
関東平野が水没するのに1週間
2週間で2000m級の山の頂だけになり
その後数日で富士山も水に沈んだ

船に乗った人々が残り
大量の漂流物にすがりついた人もいくらか残った
他はヒマラヤなどの高峰に少数いるだけらしい

人々は多くの漂流物を集めてはつなぎ止め
そこを仮の大地とした生活が始まった
人間だけでなく多くの鳥や助け出された動物がその仮の大地に乗った
船は燃料がなくなると仮の大地の一部として使われ
仮の大地は次々とつなぎ合わされ
ちょっとした島と同じくらいになった
仮の大地には陸ではないと「船」という名前がつけられ
人も動物も皆で肩を寄せあって暮らし
ようやく水が引きはじめた頃

雲の向こうに陸地が見えた
残っているGPSを使いその陸地がアララト山だと判明したとき
ああ、この「船」は方舟だったのかと人々は思った


遠くに雷が落ちた

神だ


  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2010-12-11

CC BY-SA
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