Why do they fight?〜第2章、前編〜
新しいキャラクターの登場です。
吹いている風が、とても優しい。
子供の頃に住んでいたJAPANでは、桜という奇麗な木の花が咲く季節だ。
そよ風に吹かれながら、裸足で野原を駆け回った。蝶が舞い、鳥がさえずり、木々がささやく。
そんな懐かしい風景を思い出すという一種の現実逃避をしていた俺に、突きつけられた現実…。
戦闘機が舞い、機銃がさえずり、薬莢の落ちる音がうるさい。
そう、この土地では季節なんて関係無しに銃弾と怒声が飛んで来る。
本当なら、今日はJAPANでヒットしている「バイオロイド」という物が届くはずだったのに!
俺は、叫ぶ!
「代引き指定した俺がバカだったぁあああああああああああああああ!」
話は半日前にさかのぼる…
前線キープポイント 指令テント
「隊長!オペレーションは成功です。オーバーロードより帰還命令がでました。なお、戦死者は1名。負傷者は7名です。」
可愛らしい女性隊員の一人が、報告に来た。こんなに可愛い子も戦場に出るような時代になってしまったのか…。
「そうか…、よろしい。各員、よくやった。現時刻、18:00を持って、作戦を終了する。帰還したら、しっかりと休め。」
隊員にそう告げた後、自分は暗い顔をしてしまったらしい。隊員が心配そうにこちらを見る。
「隊長?気分でも悪いのですか?」
「いや、なんでもない。死傷者が出てしまったのは俺のミスだ…。申し訳ない…。」
「いえ…、死んだ彼も本望だったと思います。お気になされないほうが…。」
「本望で死ぬ奴なんてβ部隊にはいない!」
ドンッと机を叩いて、つい怒鳴ってしまった。
机の上のグラスがビリビリと音を立てている。
しまったと思い、すぐに謝る。
「いや…、すまん。俺が悪いんだ…。少し、一人にしてくれ、落ち着きたい。」
「了解しました。隊長もゆっくりと休んでくださいね。」
隊員の言葉に手をあげて答え、ゆっくりと眼を閉じる。
今日は、朝から出動だったので、皆はかなり疲れているはずだ。
めんどうな、作戦だった。
大戦が始まる前の、地名は確かナイジェリアだったはずだ。今ではアフリカが地球上の一番、戦場になっている所である。
そのナイジェリアだった地区に異星人が陣を構えたのだ。
陣を造られては、色々と面倒だ。
異星人が拠点防衛システムを立ち上げる前にアサルトして、潰す。
その為に、β部隊が北側から奇襲をかけて、陽動の必要があったのだ。
しかし、そう簡単にはいかない。
敵だって、単細胞生物ではないのだ。相手の行動を先読みだってする。
俺達は待ち伏せに遭遇して、大幅に作戦開始時刻に遅れてしまった。
なんとか、待ち伏せを全滅させて敵の基地へ着いたが劣勢だった。
そこで陽動作戦から、援護作戦への切り替えをオーバーロードより命じられた。
好きに暴れても良いと言われたも同然だったので、隊員達はしっかりと仕事をした。
研究用の捕虜を何体か回収した後、敵の全滅を確認。
やっとの思いで、テントに帰ってきたのだ。
帰って来てから欲しているものは、癒しだ。
「はぁ…戦場で、なにか癒してくれる物はないかなぁ…」
前回の失態で、全ての聖書(エロ本)は沙織に回収、焼却処分済みだ…。集めるのに苦労したのに…。
俺を戦場で癒してくれる物は今はない。
「あっ…そうだ!レイなら…。」
レイは、JAPANの『オタク』という賢者?らしい。
アキハバラという場所によく行って、癒されていたとかなんとか…。そう言えば、前に…
「ソーマも癒しが欲しかったら、俺に言えよ!JAPAN流の癒しを教えてやるぜ?」
とか、言っていた。正直あの時はイラッとしたので、秒間9発ほど顔面にグーを叩き込んでやった。
しかし、今はそのJAPAN流の癒しに興味がある!
とりあえず、無線でレイを呼んでみた。
「あーあー、レイ、聞こえるか?」
ノイズが多少流れた後、音声が流れた。
『ソーマか?今は、後片付けが忙しいんだ。後にしてくれ。』
「すまん、レイに聞きたいことがあるのだが…」
『おいおい!今は皆が片付け中なんだぜ?あんただって自分の指令テントを片付けろよ』
「JAPAN流の癒しを詳しく知りたい。」
『任せろ、今行く。』
切り替えの早い友人が俺は大好きだ。
「すまん、待たせた。」
待ったと言っても2分くらいだ。そんなに待ってない。
「で?JAPAN流の癒しが知りたいんだったな」
「あぁ、そうだ。」
「多少、金がかかるぜ?だけど、一回支払えばずっと使える。」
一体全体それはなんだろう…とても気になる。
「ほう…。それはなんだ?」
「バイオロイドだ!」
一瞬、コイツがないを言っているのか解らなかったが、なんとか言葉を発する。
「バイオロイド?前に、お前が言っていたボーカロイドの仲間か?」
すると、レイは指でチッチッチッとやり、ドヤ顔で喋り始める。
「ボーカロイドは、PCの中だけだっただろう?」
だろう?と言われても俺は知らない。なんでだろう…。俺の知らないことをコイツが知っていると、無性に腹が立つ。
「バイオロイドは、人口細胞で造られたJAPANの最新技術だ!首の後ろのインストールプラグから情報を入れれば、なんだってしてくれるぞ!」
「それは凄いなぁ…。絶対にインストールしないとダメなのか?」
「いや、最初から調きょ…ゲフン。育てることも出来るが、言語や作法はインストールした方が楽だぞ?」
今、レイの口から『調教』と聞こえた気がしたがスルーしてやろう。
「そいつは唄ったりできるのか?」
「あぁ、もちろんだ。ボカロのデータを入れればな。自分の好きなようにできるぜ!」
それは、凄いなぁ…。もしかしたら、あんなことやこんなことまで…。縄を使って…、あぁして、こうして…。
これは買うしかないな!レイにお礼を言って、帰還する用意をする。
それから2時間半後。
基地に帰還して、さっさと手続きを済ませて自室に戻る。
もう、21時だ。早く注文しないと…。
「さてさて、ネットで注文っと…」
バイオロイドと検索するとJAPANのメーカーのホームページが出て来た。
「お買い求めはこちらへ、か…。」
指示通りに進めていくと、カタログのページへ…。
「こっ…これはっ!」
そこには性別から何まで、より取りみどりなバイオロイド達がずらりと列んでいた。
すると、その中に見覚えのある顔を見つける。確か…レイが必死に説明していたなぁ…。
「…この顔…あ、そうだ…」
ボカロの巡音ルカにそっくりだ…。
あっ、番号の横に説明が書いてある。
「ふむふむ…ボカロのルカ姐モデル…って、まんまじゃん!しかも、売り切れだし…!あれ?1体だけ残ってる…。」
そのバイオロイドには
「不良品につき、無償提供。翌日には届きます。」
と、記されていた。どうも、家事能力が欠落しているらしい。
「まぁ、家事能力は求めてねぇし…お試しってとこだな…」
さっそく、注文した。
「明日は非番だし、代引きで良いか」
そう、明日は休みなのだ。この子の為に色々とインストールしてやるか。と、考えていたその時
『エマージェンシー!エマージェンシー!各員は速やかに戦闘態勢にシフト。各部隊長は速やかに司令部に集合してください。』
なんだか、外が騒がしい…!それに発砲音だと!?これは、演習じゃないのか!
急いで装備を付け直して、ブーツを履く。すると、扉が開いて隊員が駆け込んで来た。
「隊長!敵の奇襲です!β部隊は速やかに非戦闘員の援護と避難の護衛をとの命令です!」
「あぁ、わかった!部隊と非戦闘員を西の講堂に集めろ!」
「サーイェッサー!」
コンバットブーツを履き終えた俺は、急いで西の講堂へ行く。
それにしても、おかしいぞ…。なぜ、敵はここを襲う…?こんなに大きい基地を襲うなんて効率が悪すぎる。なんの目的だ?
「ソーマ!」
人ごみをかき分けて講堂に向かっていると、オペレーターの沙織が俺を見つけたらしい。声をかけてきた。
「沙織か?どうした!早く講堂に行くぞ!」
「あのね!この人の子供がどこかに行っちゃったみたいで…」
よく見ると、沙織は避難民の女性と一緒だった。
避難中にはぐれたのか?とりあえず、聞いてみよう。
「お母さん、最後にお子さんを見たのはいつです?」
「サムを見たのは2時間くらい前です!基地を探検すると言って他の子供と…うぅう…」
女性はかなり心配しているのだろう。その場で泣き崩れてしまった。
仕方ない…。
「他の子供とか…沙織!この女性と一緒に講堂に行け!」
「ソーマは!?」
「俺は子供達を探しに行く!」
「βの指揮は誰が執るのよ!」
「レイに任せる!沙織が伝えろ!良いな!?」
「わっ…わかったけど…。無事に帰って来てね?」
「もちろんだが、その言葉は死亡フラグだ!さぁ、行け!」
沙織達と別れ、来た道を引き返す!
「くっそ…どこにいる!?」
不安と焦りで思考回路が働かない…。
子供の行きそうな場所…行きそうな場所…。俺が子供の頃に好きだった場所…。木の上? …高い所か!?
とりあえず、屋上に行ってみる!
階段を駆け上がり、屋上に出る扉まで来ると、扉の向こうで動く気配がする…。
くっそ…エイリアンの奴…
「うぉらぁあぁ!動くな!武器を捨てろ!さもないと、問答無用で撃つ!」
と、怒鳴りながら扉をあけてアサルトライフルを向ける。言葉が通じなくても、この状況だったら意味は伝わるはずだ。
「待て!撃つな!」
…ん?おかしいな。エイリアンが地球の言葉で喋ってる…。
目の前にいるのは数名の人間と思われる兵士。夜なので暗くて顔が見えない。
とりあえず、確認だ。
「おい!所属と名前、あとは上の服を脱げ…!」
服を脱がせるのは、腕の数を確かめるためだ。エイリアンは腕が4本という特徴があるからな。
「俺は『トライアド』の新設部隊の隊長、ラウルだ。その声はβのソーマか?」
あれ?なぜ、コイツは俺のことを知っている…。敵ではないのか?しかも、ラウルと言ったな…。もしや!
「ラウル?ラウル・アンダーソンか!」
これは懐かしい名前を聞いた。コイツはラウル・アンダーソン。小、中学校を一緒に過ごした古い友人だ。
「こんなところで何してる?」
俺は不思議に思って聞いてみる。
「俺の部隊は新設でな。配属がここに決まったんだが、この騒動で輸送機が着陸できなくてなぁ…。」
彼のチームの隊員は全員、パラシュートを切り離していた。
「HALO降下して来たのか!?」
「おっ!ご名答!」
こいつは、驚いた。輸送機から飛び降りていたのか…。
彼の説明では、部隊は4人の少数精鋭部隊らしい。
部隊長の、ラウル・アンダーソン。
ラウルの弟の、ラルフ・アンダーソン。
ラルフの同級生、サミュエル・マシューズ。
ラウルの友人、スロー・レインウォーター。
彼らは、ここの配属になったみたいだ。これは、心強い!
「そうだ。お前こそ、なんで屋上なんかに…?」
ここに来るいきさつを簡単に説明する。
「そうか…子供達を探しているのか…わかった、俺達も基地の中を知る為に同行しよう。捜索隊は数の多い方が良いからな。」
これで、捜索隊は5人となった。早く、この戦いを終わらせないと、ルカちゃんが来ない!
〜後編に続く〜
Why do they fight?〜第2章、前編〜
展開が早くてすみません。