埋もれたい

 俺はふと目を開けた。人間は誰しも、起床時の記憶は無い。いや、もし
かすると、「起床時の記憶が無い」という記憶自体が、起床時の記憶なの
かもしれない。そんな難しいことを考えながら、俺はゆっくりと体を起こした。
 体の節々が鈍くなっているのが何となくだが分かる。軋みを上げているよ
うにも感じるが、恐らく気のせいだ。関節が軋むはずがなかろう…。

 「あー…まじかもう朝か…。」

 枕元に倒れている目覚まし時計を見て、俺は独り言を呟く。朝といえば、
小鳥の囀りだが、そんなものは皆無だ。空は曇天。今にも雨が降りそうな
くらいに沈んだ空だった。声をかけてあげたくなるようなローテンションの
空に、俺は意味もなくなぜか合掌をした。

 さて、今の時刻はというと、7時21分。自宅から学校へは15分かかる。学
校には8時までについていなきゃいけないわけだから、あと20分程度で支
度を済ませる必要がある…今日は5時半には起床する予定だったのだが、
そう簡単にはいかないようだ。しかし、なぜ俺が2時間近く寝坊したのか…
その理由は明らかだった。
 夜更かしをしていた?違う。コーヒーを飲みすぎた?違う。悩み事があ
って寝れなかった?それも違う。誰しも体感しているはずだ。

 俺は、”布団”にやられた。布団というのは、一般的には就寝時に使わ
れる布だ。掛布団、敷布団などいろいろ種類があるが、今回の寝坊の原
因はおそらく掛布団だろう。
 ふわふわとした掛布団。それは、動物の毛並にも似ている。といっても、
実際に動物の毛並なんかまともに触ったこともないので、今のは聞かな
かったことにしてくれ…。

 色は、白の生地をベースにしたもので、赤や青の星が乱雑に描かれて
いる。何を意味しているのかは分からない。最初は星空でもイメージして
いるのかと思ったが、それであればベースの生地は黒や紫であるべきだ。
そもそも、星空…というイメージだって、乱雑に描かれた星から連想された
ものであって、それ以外は眼中にない。

 とまあ布団の生地だの模様だのに批評をしているわけだが、肝心なのは
そこじゃない。いや、この場合肝心なのは、生地かもしれないな。なんという
名前の生地を使っているかは見当もつかないが、とりあえずこの掛布団は
肌触りが抜群に良い。そこらの布団とは比べ物にならない…自信がある。
 無論、無臭だ。いや、恐らく俺の匂いはついているだろうが、自分の匂いと
いうものは、自分では嗅げないものだ。それは致し方ない。

 と、そんなことを考え、俺は独りで誰かに訴えているわけだが、ふと時計を
見た俺は、急に布団を恨んだ。


 現在の時刻、7時50分。

埋もれたい

埋もれたい

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-11-12

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