『信頼のピットマン2前編』

こちらは「信頼のピットマン」の続き物です。


なのでまだ「信頼のピットマン」を見ていない人は先にそちらをご覧ください。


あの泥棒の一件から数週間後。
俺、草野武は今、焦る気持ちを押さえながらそそくさと会社から家に急ぎ足で向かっている。
まだ朝方だというのに。
仕事にいったばかりだというのに。



「どうしよう……。」



そんなことをつぶやきながらも、家に着いた。
それと同時にピットマンの声もした。



「オカエリナサイマセ。ゴシュジン。」



ピットマンを見れば見るほど、俺は心底叫びたくなった。
が、ここはぐっとこらえた。



「ピットマン。お茶を入れてくれ。」


「カシコマリマシタ。」



ピットマンがついだお茶を一口飲み、落ち着き、考えた。
そう、俺は今日、会社をクビになった。
すべてはピットマンのせいで。
いや、俺がつくったから俺のせいか。



「ピットマン、家を出るから支度をしてくれ。あと、掃除も頼む。」


「カシコマリマシタ。」



俺がクビになった理由は、先日のことだ。
どうしても必要なものがあり、その時初めてピットマンに買い出しを頼んだ。
思えばピットマンを外に出すことなんて、ほとんど無かった。
それが失敗だった。
よく考えるとピットマンのモデルは社長。
運悪く会社のやつに見られて、俺が社長のロボットを使っているとバレてしまった。
結果的には、部長までしてくれた恩人の社長を裏切った行為をしてしまったのだ。
それからは社長は聞く耳を持たず、クビの一点張りだ。
ピットマンを改良しようとしていた矢先にだ。



「ゴヨウイガトトノイマシタ。オソウジモオワリマシタ。」


「あぁ…すまない。」



俺は会社をクビになったが、これからの事について、まだ考えがある。
それは………




~三週間後~



「できた!」



ここは実家。
正確にいうと、実家の隣にある廃屋。
俺はここであるロボットをつくっていた。
実は家をでた三週間前のあの日から、自ら土地と家を売り、さらには部長のときに貯めていた貯金のほとんどをロボットにつぎこんでいた。
親には会社をクビになったことは言わずに、この廃屋を借り、貯金を使い生活をしながら、ロボットをつくっていたのだ。
しかしとうとう完成した。


「コンニチハ。ゴシュジン。」



ロボットをつくったといったが、まあ改良かな。
そしてこいつはピットマン2。
前作のピットマンの悪い部分をなくし、性能をもっと上げたのだ。
詳しくいうと、より人間らしく改良した。
人間らしいというのはつまり、「思いやり」「学習能力」「曖昧」。
この三つであろう。
例えば「思いやり」がなければ、人を殺せと言ったら殺すだろう。
ピットマン2は、罪の意識をいれ、これを犯すことは絶対にしないようにつくった。
また、毎日主人が、熱いコーヒーを飲んでいるなら、コーヒーを頼まれたら、普通は熱いコーヒーを持ってくるだろう。
それが「学習能力」。
しかし、これが欠如してしまうと、熱いコーヒーを頼まれないと、熱いコーヒーを持ってこない、という風に、コンピューターのようになってしまう。
特に大切なのが「曖昧」。今までのピットマンには、「あれ」「これ」「それ」という代名詞が通用しなかった。
お茶ならお茶、コーヒーならコーヒーと、指し示さないと動かなかった。
しかしピットマン2は違う。
「あれ持ってこい」と言っても、過去から現在の情報や、相手の表情や場所を処理し、最善のものを持ってくる。
そう、これら三つの要素を加え、さらにモデルはこの世に存在しない、極端に普通の顔に近づけた。
命令するときも名前を呼ばなくてもよい。
それこそがこのロボット、ピットマン2。
これこそが俺がつくりたかった史上最高の完全人型ロボットだ。



「おい、腹が減った。」


「ナニカアタタカイモノハドウデスカ?」


「おっいいな。じゃあ適当にうまいグラタンでも作ってくれ。」


「カシコマリマシタ。ショウショウオジカンカカリマス。ワカシテイマスノデ、サキニオフロハイカガデスカ?」


「なかなか気が利くじゃないか。」


「ハイ。アリガトウゴザイマス。」



は~。
最高だな。
このロボットを俺がつくったなんて。
あっ、別に支障はないが一つ言い忘れたことがある。このロボットには一つだけきまりがある。
それは命令をきいたら、それを必ず最後まで成し遂げることだ。
ここだけが、人間と違うこと。
どんなに辛くしんどいことでも、途中で諦めることは絶対にない。
最後まで必ず命令を成し遂げる。
まあ、悪いことはできないのだから完璧だな。



~一時間後~



「あー。いい湯だったー。お!すごく旨そうじゃないか。」


「アリガトウゴザイマス。デザートニ、メロンシャーベットモゴザイマス。」


「おう、それじゃ、いただきます。」



俺は会社をクビになってから初めて、とても幸せな気分のまま就寝することができた。
しかし貯金がそろそろ底をつき始めた。
はやく仕事を探さないと、親には金は借りたくない。会社のこともバレるとやっかいだしな。
しかし仕事はなくなったが、俺にはこいつがいる。
そしてまだ、俺には考えがある。
それはまた近いうちに実行するつもりだ……。




後編へ続く

『信頼のピットマン2前編』

読んでいただき、ありがとうございます。



後編もできるだけ早くに投稿させていただきます。

『信頼のピットマン2前編』

あの泥棒の一件から数週間がたち、草野はある失敗をする。 そこから物語は動き出す。

  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-01-30

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