詰みゲー! 2-16~2-23,0-1

「詰みかけのゲームみたいな世界に迷い込んで」の続きです。

二章 中編・後編

†††2-16

「迎えに来たわよー・・・・・・ってこれは何!?」
ミリアはやる気のない声で『扉』をくぐるやいなやこの状況に驚いた声を出した。
なにせ無言の重装兵の団体に囲まれて俺と白い天使が話し込んでいるのだ。叫びたくもなるだろう。
「あら、ワッフルワイン。いいところに!」
「あ!えーと、ジャベリン様?」
とミリアはレインを見て、ひざまずき、名前を聞いた。・・・・・・レインがミリアにどんな自己紹介をしたのか大体察しがついた。
「・・・・・・私ジャベリンでしたっけ?」
「・・・・・・俺に聞くな!」
「・・・・・・とりあえずはレインでかまいませんよ」
「わ、わかりました」
ミリアがあまりにも低姿勢なので俺もするするとミリアの横に同じくひざまずいた。そしてついでにミリアにこそこそと話しかけた。
「・・・・・・こいつ偉いの?」
「めっちゃ偉いわ」
「どのくらい?」
「多分この国で最強の人間よ」
「え?」
その言葉に俺は思わずミリアの横顔を見た。相も変わらず端正な顔立ちはいつもと違って真剣な表情だった。

「・・・・・・わかった?大魔術師って偉いでしょ」
レインはいつの間にか俺の隣で話を聞いていたらしい。
「・・・・・・めっちゃ偉いってことはわかりました」
「よろしい」
レインは立ち上がり、ひざまずく俺たちの前に立った。俺は正直この大魔術師がいきなり恋について語り出す可能性を考えると気が気ではなかった。
が、大魔術師の言葉は俺とミリアの予想外のものであった。
「ワッフルワイン。彼は我ら、国王の正規軍に加えます。よろしいですね?」

†††2-17

「「<え?>」」
俺とミリア、ついでにキティもぽかんと口を開けた。
「ちょっ、ちょっと待ってください。レイン様」
「なんですか、ワッフルワイン?」
「彼はすでに我らのレジスタンスに入団が決定しています」
「ほう、ならば退団すればいいではないですか」
その言葉にミリアは絶句した。そのミリアの横顔を見て、俺はなんとなく何かを言いたくなった。
「あの、レイン・・・・・・様?」
「なんですか、サッキーさん?」
「坂井です。俺は入団を取り消すつもりはありません」
「ですがあなたを喚んだのは元はと言えば我々なのです。であれば我ら国軍側に加わるのが筋だと思うのですが?」
「確かにそうです。ですが、俺をこの都まで連れてきてくれたのはミリアです。なら、レジスタンスにも同等の権利があるはずでは?」
「なるほど。一理ありますね」
レインは無表情のままでうなずく。すかさず俺は提案した。
「両方に加わるのはどうでしょう?」

†††2-18

「両方に加わると?国軍とレジスタンスに?」
「はい」
うーん、とレインは思案顔で歩きだした。
レインがうろうろと歩き回って何やら考えている間にちら、とミリアに目をやった。
ほとんど無意識でどうして目をやったのかはわからない。
ただ、そのときのミリアは下唇をかんで悔しそう、というよりも何かもっと不快なものを感じているようだった。

ほどなくしてレインはぴたっと止まり、
「ま、いっか」
と言って俺を指さした。
「汝、サッキー・ジョンを我らが国軍に加える!」
「う、うええぇぇ・・・・・・?は、はい、わかりました・・・・・・」
いきなり口調だけ厳めしく言われても気分乗らないし、名前間違えてるし。
俺の返事が「うえー?」だったのも無理はないだろう。

「あ、あとでハンコ押してね」

†††2-19

「あー・・・・・・。もっといろんな話をしようと思ってたのに・・・・・・。時間だわ。付いてきてちょうだい」
レインは懐中時計を取り出して時間を見るや、俺に「立て」と合図した。
「一体どこへ・・・・・・」
「あ、ミリアはダメよ。猫ちゃんもね」
俺の質問を無視し、続いて立ち上がったミリアにレインが制するように言う。
だが、実際には見上げて言っているので端から見るとアンバランスである。
「あなたは・・・・・・別室で待機してて。あとでジョンを連れてくから」
「翔太な」

かくして俺は城の更に奥へと足を踏み入れることとなった。

†††2-20

「なんや、お前が勇者かいな。えらい頼んなさそうやんけ」
「は、はあ。すみません」
自分に落ち度はないはずなのだが思わず謝ってしまった。
しかしながら、跪いて頭を下げなければならない相手だとどうしても強く出られない。
俺は元々そんなに強気な性格ではないのだ。
「まあ、ええわ。今はお前みたいな奴でも頼らんとしゃあないもんな」
「が、がんばります」
俺はこんな言葉遣いでいいのかな、と思いつつ答える。
側の大臣の行列がざわついたが問題の関西弁が大丈夫そうなので大丈夫だろう。
「おい、大魔術師。こいつで間違いないんやな?任命するで?」
「はい陛下。間違いありません」
レインが頭を下げてそう答える。

・・・・・・そう、俺は今この国の国王の前にいる。
レインとミリアとキティとたくさんの兵士がいた部屋から出て、身ぐるみを剥がされ、調べられ、洗われ、着替えさせられ、待たされ、俺は今ここにひざまずいている。そして膝はけっこう痛くなってきていたりする。
それはなぜか。王様に謁見するため、無礼の無いように。

そうして謁見した国王はなぜか関西弁だった。

†††2-21

「よし。ほな・・・・・・。あ。お前、名前は?何ていうんや?」
「坂井翔太と言います」
よし、ここできちんと名前を言いさえすれば皆にもちゃんと覚えてもらえるだろう。
「・・・・・・これでよし」
王様は目の前の机に置かれた紙に何かを書き留めた。
そしておそらくはその紙を持ち上げて読み上げた。
おそらくさっきのは俺の名前のサインか何かだろう。これで俺の正式な名前が記されたわけだ。
王様自ら書いたものだから変更は難しいだろう。王様がちゃんと聞き取ってくれたと信じたい。
ま、関西弁話すくらいだから大丈夫だろう。

「汝、サッキー・ジョンを勇者に任ずる!」
「なんでだあああああああああぁぁぁぁぁッッッッッ!!!!!!!」
つーか勇者って何だよ!?

†††2-22

貫禄のある中年の男は流暢な関西弁で宣言した。
「汝、サッキー・ジョンを勇者に任ずる!」
そこで俺が静かに異議の声を上げると、
「勇者がなんやわからんのか、しょうのないやっちゃな。説明したる」
「いや、そこじゃないです」
「勇者ってゆうのはな、今回特別に作った役職や。在籍すんのはお前一人。わざわざ『裏』から来てもうた客人を一般兵と一緒にはでけんからな」
「この国の人ってホント他人の話聞かねーよな!」
「お前に勇者としてやってもらわなあかんことは、『王宮(パレス)』の破壊や」
耳慣れない単語に俺は名前のことも忘れてしまった。
「パレス?レオ?」
「せや、『王宮(パレス)』や。レオパ●スやないで。細かいことは後で大臣にでも説明させるさかい、今は敵の本拠地やとでも思っとってくれ。オーレン、後で説明頼むわ」
王様はレインの隣に立っていた臣下を指名した。
指名された臣下は深く礼をし、
「御意のままに」
と言った。
「詳しく頼むで」
王様は念を押すと俺に向き直った。
「勇者であるお前には『王宮(パレス)』を破壊してもらう。わしらの軍やレジスタンス連中では歯が立たんのや。せやさかいに、『裏』からお前をわざわざ喚び寄せたんや」
「あ、あの、ええと・・・・・・」
俺はどう言っていいのかわからなかった。山を下りたときにはこんな感じの展開を期待していたが実際に直面するとまた別物だった。
俺にできるのか?
これが最初に浮かんだ疑問だ。
この国の連中、レインをはじめとする人たちは「君ならできるよね?」感をぷんぷんさせて俺に話を進める。
しかし、俺はまだ何もわからない。
ミリアは俺には魔術師の素質があると言っていた。
だが、まだ俺は魔術師でもないし、実力なんてわかるはずもない。
自分も、相手も、俺にはまるでわからないのだ。
こんな状況で判断を下せと言う方がどうかしている。

だから俺はこう答えた。
「俺には、まだ何ともいえません。勇者にするのはもう少し待ってください」
「何言うてんねん、お前はもう任命されたやんけ。逃げられへんで」
王様は俺の提案を即座にはねのけた後、にやっと笑った。
「大丈夫や。そこにおる大魔術師がお前なら大丈夫やて、言うたんやから、お前やったら大丈夫やろ。そんな気張んな。失敗しても・・・・・・誰もお前のせいにしたりはせん」
俺は息をのんだ。
目の前の関西弁の王様は失敗することの、つまりは国が滅ぶことの覚悟はしているのだ。そしてその責任は、・・・・・・おそらくは国王である自分自身にあると思っている。そういう口調だった。

すべての責めを一身に受ける覚悟があるのだ。

それに引き替え、俺は無知を理由に断言することにビビった。勇者になってやる、俺に任せろ、と。

俺は昨日ミリアに誓ったばかりじゃないか、「この国の人のために戦う」と。
だったら何を迷うことがある?
覚悟なんてあの時にできてるはずだろ?

俺は顔を上げ、王様に向き直った。
「王様、必ずや『王宮(パレス)』を破壊してみせます。待っていてください」
王様は驚き、俺の目をまっすぐに見た後、ふっ、と笑った。
「気張んな、言うたのに」

†††2-23

「断言してもろた後でなんやけど、さっそくオーレンに説明してもうてくれ。・・・・・・オーレン頼むでー」
王様がそう言うと、王様の側の臣下の一人が、
「さ、こちらへどうぞ」
と言って、案内を買ってでた。それに従って大広間から出ると後ろからオーレンなる大臣も付いてきた。
「こちらで説明を受けてください」
案内役は廊下の中で適当な部屋を見つけると中に入るよう促した。


「説明を始めますよ、サッキー殿」
俺とオーレンが部屋にあったテーブルに対面で座ると、オーレンが話しかけてきた。
ちなみにオーレンは黒を基調とした服を着ている。何というか、タキシードに似ている。
「坂井です。お願いします」
「では説明を始めましょうか」

†††0-1

この物語はどのような物語だろうか?
空想か、あるいは史実か。
実の所、どちらとも言えない。
この物語の語り部として私はそう言っておく。
私は私の手元にある史料を元に、想像力を働かせて物語を紡いでいる。
だから史実ではない。
かといって完全な空想物語でもない。
全てを私の頭の中でひねりだしたわけではないからだ。

まあ、そんな下らない前置きは置いておくとして私がいきなりひょっこり出てきた理由を説明しよう。
説明、まさにそれだ。
物語の流れ上、オーレンという男が坂井翔太に延々とこの世界についての説明を繰り広げることになるだろう。

そしてそれは長く、単調である。
語り手として私は「オーレンは説明しない」というシナリオにはできない。それはおそらく史実に反してしまう。それでは私の信条にも反する。
では、どうするべきか?

その問いに対する私なりの答えは用意して置いた。説明そのものよりもおそらくは、はるかに遠回りではあるが・・・・・・。

諸君等も、この話のいささか緊迫感の欠けた展開に飽き飽きしてことと思う。
そろそろこの物語の本筋、というやつの片鱗でもお見せしようではないか。
ああ、言い忘れていた。今から語る物語はある人物の主観から語る。そのことは十分に留意していただきたい。

では再び話の流れに身を委ねてもらおうか。

†††

詰みゲー! 2-16~2-23,0-1

詰みゲー! 2-16~2-23,0-1

魔物の侵攻によって人類滅亡の危機に瀕した異世界に迷い込んだ坂井翔太は魔法使いの少女と出会ったりして、なんやかんやした結果世界を救う勇者になる。 果たして勇者の運命や如何に! ……みたいな話でーす。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 青年向け
更新日
登録日
2014-11-09

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