メッセージ

即興小説で書いたものを少し手直ししました。

苦悩する男が一人。
男は悩みをモニターに打ち込み、世界へと発信します。
律儀に1日一回。
その日の悩みをSNSに書き込むのです。
そして男は探す。
男の悩みに、たくさんの人が反応します。
けれども見つからない。
たくさんの人が男の発言に慰めの言葉を送ります。
男は悩み続ける。
たくさんの慰めの言葉の中に、男の悩みを理解してくれている言葉はないのです。

男は今日も悩んでいる。
毎日毎日、男には生きにくい世界が続いています。
誰も助けてくれない。
男はそれでも自分の悩みを世界に打ち明け続けています。
男は無責任な言葉の羅列をただ眺める。
悩みを綴っている自分が、ただのエンターテイナーとしか捉えられていないことに、男はもう気づいています。
もう苦悩する表情もなくしている。
だからといって、いまさら辞めるわけにもいかないのです。
自分がどこにいるかすらも見失っている。
男にとって、SNSにしか悩みを打ち明けるところはなかったのです。

男はやっと悟る。
とうとう男は悩み疲れてしまいました。
自分はここにいてはいけない。
男は初めて悩み以外のことを書き込みました。
「疲れた。僕は消えます。」
男は同じ日に2度も書き込みました。
「空を飛んでみたかった。」
世界中の人が一斉に、男を止めようとメッセージを送ってきました。
男は探す。
それでも男の心に響く言葉は見つけられませんでした。
男は見届ける。
メッセージが1000を超えたところで、男はモニターの電源を落としました。
落ちる。
男が自分の体を落としてしまったのは、それから数分後のことでした。

「さて、昨晩一人の若者が飛び降自殺したという事件ですが。」
「彼はSNSで自殺予告のようなものをしていたらしいです。」
「その心理が不可解ですな。」
「しかも、その予告には1000を超えるメッセージが届いていたようなんです。」
「そんなにメッセージを受け取っていながら、彼には自殺という道しかなかったのでしょうか。」
「その心理が不可解ですな。」
「私だったら1000以上もメッセージが届いたら、感動して、生きようと思うところです。」
「そうですね、僕だってそんなに自分を慰めるメッセージが届いたら、死ぬまで生きてやろうと思いますよ。」
「その心理が不可解ですな。」

メッセージ

メッセージ

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-11-08

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