放課後群像劇 番外
番外1.バスケ部 佐々木新(ささきあらた)
なんてことない、冬のある日のこと。
いつもの年より随分と早い雪が降った日のことだった。
耳に真っ黒くてふわふわとしたイヤカフをつけ、対称的に真っ白な長いマフラーを首にぐるぐると、顔が半分くらい隠れるように巻き付けて、手にはブラウンのふかふかなミトンをつけた、ダッフルコートを着用した完全防寒姿の女子高生が、不機嫌そうな顔してバス停に立っていた。俺に気がつくと、細められいていた目を見開いた。
「佐々木じゃん。久しぶり。」
「おう、久しぶり。」
女子高生こと笹部は目を再び細めてにこりと笑った。
「笹部は今帰り?」
「うん。佐々木も?部活は?」
「俺のとこは定期考査近いから部活休み。笹部のとこもそうだろ?」
「やっぱりどこもテスト近いんだね。私は部活入ってないけど。」
「あれ、そうだっけ?」
「そうだよ。」
ふふふ、と笹部は笑う。彼女の纏う雰囲気は柔らかい。
笹部とは中学時代の友人だ。三年間クラスが同じで、一度隣同士になったのを期に仲良くなった。高校は別々だが、それぞれの学校同士の距離は近い。通学路や使う交通機関も重なり、ばったり会うなんてことは珍しくはない。ただ、俺はバスケ部だから、練習で朝は早く帰りは遅い。こうして笹部に会えたのはめったにないことだった。
「寒いね。」
笹部はマフラーを鼻の上までひっぱりあげた。
「相変わらず寒がりだな。」
「しょうがないじゃん。今日は雪まで降ったんだよ。寒いに決まってるじゃん。」
「でもやりすぎじゃないか?その格好。」
「このくらいがちょうどいいの。あんたは寒くないの?」
ちなみに俺の防寒具は紺のマフラーだけだった。これだけだが、特に寒くはなかった。
「別に。」
「へぇ。すごいね。」
笹部は寒そうに、両手を顔の前でこすり合わせる。
沈黙がおちた。
そわそわと、笹部が落ち着きのない様子を見せる。
何か話しかけようとしているのか、若干うつむいて、視線が彷徨う。
俺はそんな笹部をただ黙って見ていた。
こちらから話かけたら、笹部が言いたいことが聞けなくなる気がした。
「あの、佐々木さん。」
「ん?」
少し上ずった、緊張した声だ。
心なしか、顔が赤い。表情も硬い。
なんで敬語なんだという言葉は飲み込んだ。
「今日は何の日でしょうか!」
「今日…?」
今日は平日。今朝家のカレンダーをちらっと見たときは特に何も書かれていなかったはずだ。
笹部は赤いまま、俺をじっと見つめている。まるで俺に何か期待しているようだ。
そういえば、笹部はこの時期いつもそわそわしていた気がする。
挙動不審というより、何か楽しみで仕方がないといった、子供みたいな…
あ。
もしかして。
「笹部。」
「何でしょうか!」
「誕生日、おめでとう。」
そう言うと、笹部は満足そうに笑った。
「ありがとう!」
あの日、俺からの「おめでとう」の一言が欲しくて待ち伏せていたと本人から聞いたのは、それから暫く経って、俺の隣に笹部がいるようになってからだった。
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