オリオン座

オリオン座

オリオン座が消えてしまうよりもオリオン座が見えてることが辛いと彼女は笑う。

「ねぇ、オリオン座がよく見えるよ」
僕は部屋で本を読む彼女に声をかける。
彼女は顔にかかる長い髪を耳にかけて顔を上げる。
「今行く」
ずっと声を出していなかったからか
ほんの少し声がかすれていた。
近くにあったベージュのカーディガンを羽織ると
僕の方へ向かってくる。
外に出ると冷たい風が吹く。
「寒いね…」
カーディガンの前をぎゅっと閉めるて笑う。
「ほら、あそこ。綺麗だね。もう少ししたら消えてしまうかもしれないのに。消えてしまったあともしばらくは見えるんだろうけど、それも寂しいね。なくなった瞬間がわからないんだ」
僕はそういうと階段に腰を下ろした。
彼女はジッと空を見つめる。
「オリオン座が見えるってこと事態悲しいよね、昔はきっともっと探し辛かった。オリオン座の周りにもたくさん星があってあんなくっきり見えてたわけじゃないと思う。きっと近い将来、もしかしたらオリオン座の中の星が消えてしまうよりも早く私たちは夜空を見ることが難しくなるのかもしれないね。」
最後の語尾がほんの少し揺れていた。
泣いてるのかもしれないと思って僕は立ち上がり彼女の顔を除く。
彼女の黒い瞳には僕とそれからほんの少しの星が写っていた。

「ねぇ、小さい頃はもっと星が見えたの。大人になるに連れて見えるものが減っていくね、きっともっと大人になったらなにも見えなくなってしまうかもしれないね」
そう言って小さく笑う。
僕はなにも言わずに小さい彼女の隣でもう一度空を見つめる。


大丈夫、なくならない。
今の場所から見えなくなったとしたら、もっと田舎に行こう。
ずっと星が見えるように。

その言葉をぎゅっと飲み込んでただ空に大きく浮かぶオリオン座を目に焼き付けていた。

オリオン座

オリオン座

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-11-05

CC BY-NC-ND
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