春と桜と約束の木
一部
〜思い出〜
桜の花びらが舞い散る頃、俺は桜の木の下で昔にした約束のことを微かに思い出す。明確な記憶ではないけど、小学校の卒業式の後、ある女の子と約束を交わした。
「帰ってきたら、付き合おう」
次の日、女の子は引っ越して行った。その子とは家が隣同士だった為、家族がらみで仲がよく、一緒に学校へ通ったり遊んだりしていた。最初は仲の良い友達だと思っていた俺はいつからか、その子のことが好きになっていた。だから、あの卒業式の日に告白をした。
返ってきた答えは、ありがとう。その時に引っ越しのことを初めて知らされ、驚きと悲しみの余り、俺はその時に桜の木の下で只々と突っ立っていることしか出来なかった。黒髪のよく似合う女の子、俺の初恋の相手。この時期になると必ず微かに思い出す。俺はあの約束を心の隅でまだ信じているのかもしれない。
〜変貌と再会〜
「ちょっと、佐伯さん?また外ばっかり見てそんなに外が気になりますか?」
「すみません、なんでもないです」
俺は桜の木に向けていた視線を黒板に向けた。訳のわからない古文がずらりと板書されている。シャーペンを手に持ち、板書された呪文をノートに書き写そうとした時、肩を後ろから叩かれた。
「ねぇ、春 ?また、あの約束のことを思い出してたの?」
「あぁ、やっぱりこの時期になると思い出しちゃうんだよな。昔の事なのによく覚えているよな俺って」
「気になるのは分かるけど、ちゃんと授業も受けないとテストの点数また下がっちゃうよ?」
「わかってるよ。これ以上、志乃にも迷惑かけれないしな」
「うちだって暇な時しか勉強教えてあげれないんだから、日頃もちゃんと頑張ってよね?」
「りょーかい、りょーかい」
後ろの席の志乃とのひそひそ話も終わり、シャーペンを握り直し、呪文をひたすらノートに書き写した。国語はやっぱり苦手だ。そんなこんなで授業が終わり、ホームルームを終え放課後になった。校門を出るといつものように志乃が待っている。
「んじゃ、帰ろうっか」
志乃とは、だいたい一緒に帰っていた。家が同じ方向というのもあるが、中学からの友達で、高校で一番絡みやすかったのもありそれから中学以上に仲が良い友達になったのだ。
「ねぇ、春?」
「ん?どうした?」
「その、例の女の子ってどんな子だったの?」
「あぁ、約束の?確か、、黒髪の似合う大人しい感じの子だったよ」
「ふーん。帰ってきたら、付き合おうか~。いつ帰ってくるんだろうね」
隣を歩く志乃が笑いながら言う。正直、俺ももう笑い話として話のネタにしていいぐらいだと思うが、あの時のあの子の顔を忘れることは出来なかった。ありがとうと微笑むあの子を裏切るような気がして、、。
「まぁ、でもその子が帰ってきたら俺は晴れてリア充になれるんだ。たのしみだぜ」
「あっちはちゃんと覚えているのかな?」
さっきより、笑いながら志乃が言う。
「さっきから、笑いすぎだぞ?バカにしてるだろー」
「してない、してない!もう、春が純粋過ぎてさ、、。小学生の頃にした約束なんて、分からないじゃない?普通は」
「まぁ、確かにまだ子供だったし、付き合うなんて言葉も軽々しく言っただけかもしれないしな」
「まだ子供って、今も十分に子供じゃん」
俺の肩を笑いながら叩く。志乃は本当、俺のことを下にみているような、、。
「高校二年生は十分に子供卒業だ!」
「はーい!はい!」
俺が言った言葉を適当に志乃があしらう。そんな感じで志乃とは下校していた。こんな奴だけど、一緒にいて楽しいことは事実だ。志乃のおかげでクラスでも馴染めるようになったようなものだし、とにかく感謝している。
それから学校の話や、家の話などをしていたらあっという間に分かれ道にたどり着いた。
「んじゃあな、志乃。気をつけて帰れよ」
「はーい、春も気をつけてねー」
俺と志乃は毎回ここで左右に分かれてそれぞれの家に帰る。俺はこの分かれ道をいつも通り、左に曲がる。ここの通りに自分の家はが建っている。
「はぁ、今日も疲れたな」
俺は溜息を吐き、空を見上げる。規則性なく並んでいる雲がゆっくりと動いているのがわかる。
「ほんと、この街は変わらずに穏やかだよな、、。変わったといえば」
俺は視線を空からこの通りに見える大きなマンションに向ける。俺の家の真ん前に建てられたそのマンションは静かにそこに建っていた。
「マンションが建つ前は、よく空き地で遊んだっけな」
昔の事を思い出す。それもずっと昔の事だ。そう、あの女の子がこの街にいた時の頃。俺と女の子は家が隣同士で、目の前が空き地だったから毎日のように空き地で遊んでいた。ボールで遊んだり、追いかけっこをしたり、家が目の前だったから夜遅くまで遊ぶことも多々あった。今となってはその思い出もあの大きなマンションの下敷きになっている。
「今日は、昔の事をよく思い出すな」
俺はいつの間にか立ち止まっていた足を再び動かす。見慣れた道に見慣れた家々、もう少しで家へ帰れる。いや、まてよ。誰かうちの家の前にいる立っている?この辺りではめずらしい金髪の女性が立っていた。
「母さんの知り合いか、、?」
俺は疑問に思いながら、自分の家へと金髪の女性へと近づいた。すると、あちらもこっちに気付いたらしく、近づいてくる。
「あの、すいません。ここの家は佐伯さんのお宅ですか?」
「あ、はい。そうですけど、、」
やばい、綺麗だ。近づくと分かるけどこの人すごく綺麗な人だ。こんな人うちの知り合いにいたのか?
「それじゃ、その横の空き家は?」
「あ、うちの横の空き家は昔、人が住んでいたんですけど、引っ越しちゃってそれからずっと空き家なんですよ」
「ふーん、ここで合ってるんだ、、」
「あの、、?うちの知り合いか何かですか?」
ふーんと、手に持っている紙に目を落とす、金髪美女に丁寧に聞いてみる。歳はいくつぐらいなんだろうか、、。下手すりゃ俺と同い年ぐらいに見えるけど、、。金髪美女は視線を紙から俺に向けた。こんな美女に見つめられるとドキドキしてしまう。そして、金髪美女はニコッと笑って口を開く。
「ただいま、春!」
そう言うと、金髪美女は俺に抱きついてきた。
「え!?ちょ、どうゆうことですか!?離してください!」
俺は素早く手を解き、体勢を立て直した。
「ただいま、春ってなんで俺の名前知ってるんですか!?」
俺は動揺を隠せず、金髪美女に聞く。
「なんでって、、?」
金髪美女は腕を組み、なんで?みたいな顔をこちらに向けてくる。
「ちょ、誰なんですか!?」
「えぇ!春!私のこと忘れたの!?」
金髪美女は驚いた感じで続ける。
「わたしは片時も春のことを忘れたことないのに!」
金髪美女はそう言うと、涙を拭う真似を大袈裟に見せてくる。まって、この人誰なんだよ、、。
「えぇ、片時もって、、。あの名前教えてもらえませんか!?そしたら、思い出すと思うんで!」
俺は必死に訴えた。この人言ってること無茶苦茶だろ!名前聞いても思い出さなかったら俺、どうしようか、、。
「もう!本当に忘れちゃったなんて、、私、悲しいよ、、。」
金髪美女がついに泣き出しそうになった時、うちの玄関のドアが開いた。
「ちょっと、家の前でなにやってんのよ!近所迷惑になるでしょーが!」
ドアを開け出てきたのは母さんだった。
「ちょ、母さん!?違うんだよ!この女の人がわけわからないんだ!どうにかしてくれよ!」
俺は、目の前で涙目の金髪美女がいる状況が一人では解決不可能だと思い、母さんに助けを求めた。すると、目の前の金髪美女が母さんをみて、おばさん!と呼んだ。
「おばさん!お久しぶりです!うわぁ、変わらずべっぴんですね!」
「まぁ!もしかして、結衣菜ちゃん!?うわぁ、髪の色が変わってたからすぐには分からなかったわ!結衣菜ちゃんも凄い美人さんになっちゃって~!」
べっぴんと、言われて否定しない母さんをほっといて俺は目の前にいる金髪美女が誰なのか全て思い出した。いや、思い出しだというか、俺の中にいたその人と目の前にいる人を照らし合わせている方が正しいのだろうか。
だって、昔は黒髪のよく似合う、、。俺の初恋の相手、、。結衣菜なのだから。
「ゆ、結衣菜、、!?ほんとうに、結衣菜なのか!?」
目の前の金髪美女、いや結衣菜は俺の問いかけに嬉しそうに答えた。
「春!やっと思い出してくれたの!?わたし、すごく嬉しいわ!」
さっきまで涙目のだったのが嘘みたいに、こちらをみて、微笑んでいる。こんなに可愛くなったのか、、結衣菜は、、。金髪も似合ってるじゃないかよ、。
「言われるまで、気付かなかったよ。ていうか、なんで結衣菜がこの街にいるんだ??」
「なんでって、故郷に帰ってきちゃダメなの?春はわたしが帰ってきたこと嬉しくないの??」
「故郷って、、。いや、嬉しくないことはないけど、急過ぎないか!?連絡ぐらいしてくれても、、」
「いきなり行った方が春も喜ぶかなって思ったの!わたしは、春にまた会えてすごく嬉しいんだぁ」
結衣菜は可愛い笑顔をこちらに向けてくる。こんな幼馴染がいたとは自分でも思えないぐらいだ。
「それじゃあ、こっちに戻ってきたってことか?」
「そうだよー!また、隣に住むことになるからね!まぁ今回はわたしだけだけど」
「結衣菜だけ?おじさんとおばさんは?」
「あっちでの仕事が忙しいから、私だけ戻ることになったのよ。だから、一人暮らしってことになるわ~」
「一人暮らしって、、大丈夫なのか?それに学校はどうするんだ?」
「大丈夫よ!それに、学校は編入試験を済ませて、手続きも済ませてるから来週から春と同じ学校に通うことになってるよ」
「編入試験ってうちの高校って結構、偏差値高い方だけど、、?」
「楽勝だよ!楽々合格しちゃったわ」
結衣菜はピースを作って俺に向けた。結衣菜は相変わらず、頭は良いのか。変わったのは見た目と性格だけか、、。そう、俺が知る結衣菜なこんな感じではなかった。見た目も大人しい感じで、性格もおっとりしていたような。今では見た目はモデル、中身はアイドルのような感じになってしまっている。人って変わるもんなんだなと思ってしまった。
「それじゃあ、結衣菜だけまたお隣に引っ越してくるってことかしら?」
「そうゆうことです、おばさん!また、よろしくお願いします!」
「いえいえ、こちらこそね~。でも荷物とかはどうするの?」
「明日、明後日の土日を使って、引っ越し業者が来るので家に入れ込もうかと」
「そうなのね、それじゃあ、春にも手伝わせるわ!ね、春?どうせ暇なんだから、手伝ってあげなさいよ」
「えぇ、母さん、勝手に決めないでくれよ、、。まぁ暇だけどさ」
「手伝ってくれるの、春?」
結衣菜は誘うような上目遣いで聞いてくる。こんな目で見られたら手伝わない訳にはいかない。
「わ、分かったよ!手伝えばいんだろ?」
「わーい!ありがとぉ、春!」
結衣菜は俺の手を掴んで、微笑んでいる。
「でも、今日はどうするの?結衣菜ちゃん」
「今日はとりあえず、ビジネスホテルにでも泊まろうかと、、」
「それなら、うちへ泊まりなさいな~。ビジネスホテルより、うちの方が体が休むでしょ?」
「えぇ、おばさん!いいんですか!?」
「えぇ、母さん!本気かよ!?」
「全然構わないし、全然本気よ?昔からの仲なんだからね、助け合わないとね~。それに昔はしょっちゅう泊まりに来てたじゃない?」
「うぁ、おばさん、ありがとうございます!お言葉に甘えさせて頂きます!」
母さんったらいつも勝手に決めて、、。はぁ、これからどうなるんだよ、、。
「まぁまぁ、中に入りなさいな。ほら、春も早く制服を着替えて部屋を片付けなさい!」
「分かったよ!くそぉーー!」
俺は急いで家へと入った。
正直、この状況が飲み込めないでいる。俺の初恋の相手が帰ってきた。でも、見た目も中身も変わって、、。俺は嬉しい反面、悲しい感情もあった。もう、あの日の結衣菜はどこにもいないのかと、、。結衣菜はあの約束のことを覚えているのだろうか、、。後ろで聞こえる、結衣菜のお邪魔しまーすがとても懐かしく、とても切なく聞こえた。
春と桜と約束の木
読んでくださった方ありがとうございます。
「兄と妹の夏季課題」を書きながら思いついたストーリーを
自分ながら書いてみました。文章力は乏しいのですが読んで感想を下さったら幸いです。