君と僕との勘違いの苦悩

君と僕との勘違いの苦悩

どうも猫病家です。この作品は甘めの恋愛モノですので苦手な方は戻るをお勧めします。「君と僕との勘違いの苦悩」どうぞ。

ep.1 オモイチガイ

彼女は1人だった。
いつも1人でいた。
教室でいつも1人で本を読んでいる。
見た目はいたって普通だった。違う点といえば、いかにも天然そうで、髪は艶やかな黒色というところだけだ。
1人でいるにも関わらず、いつも笑顔だった。
「なぁ、なんでいつも1人なんだ?寂しくとかねぇのかよ?」
「え、えーっと?誰でしたっけ?」
笑いながら首を傾げる彼女は特に詫びもなくそう答えた。
「俺か?俺は 狩野 祥哉(かりの しょうや)よろしくな!」
彼女には祥哉は光り輝いて見えた。
「お前さ、名前なんて言うんだ?」
「え、えっと 上山 美月(かみやま みづき)です」
「美月っていうのか!お前全然喋らないから知ら・・・」
そして視界が歪み世界が歪んだ。
気がつくと机に突っ伏していた。
どうやら数学の授業中に寝てしまっていたようだ。
横で美月も笑っていた。
小学生の頃とは打って変わり、よく喋るようになった。
いつも通りの平凡な日々
いつも通りの憧れる日々
そんな中で生きていくのが辛いとさえ思えるが美月の笑顔がその全てを吹き飛ばし、その全てを作り出した。
「狩野、授業中に寝るとは感心せんな。後で職員室にこい100回記念だ盛大に祝ってやろう」
先生は少し怒り気味に言ってきたが無視をした。
授業が終わると、
「祥ちゃん寝てるから先生に怒られるんだよ!」
休み時間になると席が隣なので美月とはよく話す。
「だってあいつの授業つまんねぇもん」
「つまんないからって寝ちゃだめだよ!通知表またC付いちゃうよ?」
真剣に言ってくれるのは嬉しいのだけれども、つまらないものはしょうがない。
祥哉は渋々返事を返した。
「わかったよ、寝ないようにするから。その代わり寝たら隣なんだから起こせよ?」
「うん!いいよ!」
美月は無邪気な笑顔で答えた。
それに対して祥哉は顔を少し赤める。
「祥ちゃんどうしたの?顔赤いよ?熱でもあるの?」
「べ、別に何でもない!」
「そう?熱とかない?」
不意に額に冷たい物が触れた。
「やっぱり少し熱っぽいけど?」
「べ、べ、別に大丈夫だから!心配しないで!」
祥哉は照れながら言った。
「ふーん」
少し不満そうに美月は、わかったと言ってくれた。
「ほら、授業始まるから席つけ」
「はーい」
授業が始まった。
授業が始まって30分くらいやはり祥哉は寝ていた。
「祥ちゃん!起きて!」
小声で問いかけながら呟く美月しかし反応がない。
祥哉は起きないまま授業が終わった。
「う、うう、終わったか?」
「祥ちゃん!起こしたのになんで起きないの!」
「ああ、ごめん」
祥哉は少しフラついて椅子にもたれついた。
「祥ちゃん大丈夫?熱いよ!熱出てるよこれ!」
「大丈夫だから…」
元気がなさそうに返事した。
「祥ちゃん!保健室行くよ!」
祥哉の服の袖を引っ張るが美月の力ではやはり動かない。
祥哉は仕方なく保健室まで行った。
「先生!祥ちゃんが熱計りにきました!」
「はいはい、体温計そこに置いてあるはずだから適当に使ってちょうだい」
「適当だな先生のくせに」
「祥ちゃんそんなこと言わない!」
「ちょっと出かけてくるから熱あったらそこのベッドで寝てなよ」
先生は保健室から居なくなった。
机の上に置いてある体温計で熱を測ってみると、
「38.2⁉︎祥ちゃん!寝なさい!」
「いやでも、、」
「寝なさい!」
祥哉は、渋々ベッドに入って寝た。
美月も祥哉の横にある椅子に座って容体を見た。
5分くらいたった。
「美月?授業行かなくていいの?」
「・・・・・・・」
「美月?寝たのか…」
美月から返事がなかった。多分寝たのだろう。
「好きだってこいつは気付いてるのかな…」
そんな、思いが口から出てしまった。
「ひぇ⁉︎え、祥ちゃん⁉︎何言ってるの⁉︎」
美月はいきなり、声を上げた。
「美月⁉︎起きてたのかよ⁉︎なんで寝たふりなんかしてたんだよ!」
「驚かせようと思ったけど逆に驚かされちゃったね」
へへへ、と笑う美月2人とも耳まで真っ赤になっている。
「美月!」
「ひぇ⁉︎な、なに?」
「あ、あの、、」
伝えたい言葉がうまく伝わらない。
言いたい言葉がうまく言えない。
怖い恐い怖い恐い逃げ出したい思いでいっぱいになるが勇気を出して、
「俺は美月のことが好」
『好』まで言いかけたが目の前の光景に驚いて言い切れなかった。
美月が泣いた。
「ごめんやっぱ嫌だよなこんなこと…」
「祥ちゃん違うよ。やっと言ってくれたと思って、4年間待ち続けてた。初めて私に手を伸ばしてくれたのが祥ちゃんでその時好きになって4年間ずっと待ってたの」
「ごめん、気付けなくて……」
祥哉は精一杯の気持ちを込めて
「好きだよ」
ただ一言だけ言った。
「うん!」
泣いた顔で笑いを作る美月のその顔は泣いていながらだが、今までで一番いい笑顔に思えた。
そして、祥哉は美月が泣き止むまで一緒にいた。
そして、雨が止んだ。

ep.2 答えは約束

付き合い始めてから、なんの進展もないまま1週間が過ぎた。
「はぁ…美月って本当に俺のこと好きなのかな」
心も空も曇る梅雨の季節がきた。
「心配性だな祥哉は!」
そう言ったのは祥哉の友達の中林 達也だった。
「だってさ、あれから殆ど口聞いてないんだ」
祥哉と美月は付き合ってから1週間たった。
祥哉と美月は付き合う前より口数が減った。
一方美月も、
「ねぇ千奈美ちゃん。祥哉に嫌われてるのかな?」
「どうしたの?いきなり」
「1週間殆ど口聞いてないの…」
美月はうつむきながらそう呟いた。
「好きなんでしょ?」
イタズラそうに言ったのは美月の友達の柳田 千奈美だった。
「ふぇ⁉︎いや⁉︎えっと⁉︎その⁉︎す、す、す、すすすき⁉︎とかじゃな、な、なくて!!!」
「へー好きじゃないんだ」
「そうじゃないけど…」
「なら好きなんだ?」
「・・・うん…」
美月はうつむき顔を赤めながら言った。
「ふーーん。やっぱ好きじゃん」
そう言って千奈美は席から立ち祥哉の方向を向いた。
「千奈美ちゃん⁉︎何しようとしてるの⁉︎」
そう言って美月は、しがみついて千奈美の体を止めた。
「何って?あいつに美月の気持ち伝えに行くだけだけど?」
「そ、そ、そんなことしなくていいよ!恥ずかしいから」
美月は焦ったせいか、早口で話した。
「それなら、いいんだけどさ」
「おーい美月ちょっといいか?」
「彼氏くんが来たから私どっか行くね美月頑張りなよ」
そう言い残して千奈美は廊下へと消えていった。
「しょ、祥ちゃん、な、な、なに?」
「え、えーっとさ次の」
キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン
話している途中で5限の始まるチャイムが鳴って祥哉の声はうまく聞こえなかった。
授業が始まって祥哉は、なんで美月はさっきの事を聞いてこないのかが不安でならなかった。
美月にとって俺はいらない存在なのか、美月はもう好きではないのか……沢山のマイナス思考の考えが浮かんできた。
そして授業が終わると直ぐに美月は立ち上がり逃げるように廊下に逃げていった。
それを見てた達也は、
「お前避けられてんの?」
その言葉は深く祥哉の心に突き刺さった。
「わかってますよ。避けられてることくらい!どうせ避けられてるんですよーだ!どーせ俺なんか見向きもされませんよー!」
「そう卑屈になるなって」
「でも…」
祥哉はウルウルと目を輝かせて落ち込んだ。
「わかった、わかった、なんとかしてやるからまってろ」
「ちょ⁉︎え⁉︎何する気⁉︎」
祥哉は達也の行動に目を見開いた。
「え?なにって、本人のところに…くぼぁ!」
祥哉は達也の顔を殴った。
「ふー危なかった!」
「危なかった!じゃねぇよ!祥哉てめぇなんで殴った!」
「え?蚊がついてたから」
「嘘つくならマシな嘘つけ!本人のところに行って欲しくないんだろ?」
「いや、別にそういうことじゃないけど…」
祥哉はうつむきながら小さな言葉で言った。
「ふーんなら行ってくるね☆」
「だめ!」
「なら、どうすんの?このままでいいの?」
「嫌だけど…」
「なら自分で行動しろ!」
そう言われて祥哉は言い返す言葉もなく立ち上がった。
そして、廊下へと出ていった。
そして、走った。走った。走った。探した。探した。探した。
「はぁはぁ…」
息が切れる。見つからない。
キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン
また授業のチャイムがなった。
今日最後の授業だ。美月はギリギリに教室にやってきた。
美月はどこにいたんだろう。そんな事を考えてるるだけで授業が終わった。
授業が終わると直ぐに挨拶をして美月は帰った。
「美月!待って!」
しかし、教室の騒々しさのせいで言葉は届かなかった。
そして暫く色々な事を考えた。
美月が話してくれないこと。
なんで話しかけてくれないのか。
わからなかった。
「わからないままは、嫌だ!」
走り出した。
見えた!美月だ。
「美月!」
大声で名前を呼んだ。
美月はその場で立ち止まった。
「しょ、祥ちゃん⁉︎な、なに?」
「はぁ…えっとはぁ…」
「祥ちゃん落ち着いて」
いつものように無邪気に笑う美月は懐かしく思える程に美月の笑顔を見ていなかった。
やっと落ち着いた祥哉は話し出した。
「美月なんで話しかけてくれなかったの?」
「それは祥ちゃんだよ!」
「え?だって俺は…」
ここで祥哉は初めて自分も美月に前より話しかけてないことに気づいた。
「でも、私も確かに前より話しかけてなかったかも…」
「う、美月ごめん…」
「話しかけてくれなかったから拗ねてたの?」
「す、拗ねてはいません!」
祥哉は照れながらそう言った。
「ふふ、私も何だか話しかけるのが恥ずかして話しかけれなくてごめんね」
「いいよ、わかったから。嫌われたかと思ってたし」
「それは、こっちもだよ祥ちゃん!」
「「へへへ」」
2人は笑いあった。
「あ、そうだ!美月今週の日曜空いてる?」
「え?なんで?」
美月は不思議そうに尋ねた。
「なんででも!」
「えーっと空いてるけど?」
「そっか!なら遊びに行かない?」
「千奈美ちゃん達と?」
祥哉は少し肩を落とした。
「違うよ!2人だけで!」
「ふ、ふ、ふふ⁉︎2人だけ⁉︎そ、そ、れって…!
美月は想像もしてなかった言葉に驚き照れた。
「デートだよ」
祥哉は恥ずかして穴があったら入りたい気分にぬった。
「え、う、うん!いいよ!行こう!行こう!」
「わかったよ、じゃあ日曜に美月の家行くね!」
「え⁉︎く、来るの⁉︎」
「だ、だめ?」
「ううん!いいよ!」
「じゃぁな美月また明日学校で!」
「うん!ばいばい!」
美月も祥哉も顔を真っ赤にして帰った。
「祥ちゃん嫌ってなかった」
「美月嫌ってなかった」
2人は離れた場所でも同時にその言葉を呟いた。
美月、祥哉2人とも日曜に向けて心拍数は上がっていった。

ep.3 スイートデート

日曜にある美月とのデートに祥哉は心躍らせていた。
しかし、季節は6月梅雨の時期もあり雨の心配をしている金曜日の朝だった。
「おはよー祥ちゃん。今日も雨だね」
「そうだなー日曜は、晴れればいいな」
「うん!」
雨の中、祥哉と美月は今日も並んで登校していた。
「おはよー祥哉」
そう声をかけてきたのは達也だ。
祥哉はもう少し美月と二人きりで喋っていたかったなと思ったが声に出さなかった。
依然として祥哉と美月は、あまり学校内で喋らないが登下校の時は思いっきり喋っている。
「今日も学校めんどくさいな」
「祥ちゃん今日頑張ればお休みだからファイト!」
それを横目に見ながら達也はニヤニヤしてるのを祥哉は気付いた。
絶対学校で蹴る。でも今は美月がいるから我慢だ。
そう心に誓った。
学校へ着いて美月が教室にかけていくと、
「達也」
「うん?どうした祥哉?」
軽く蹴りを入れた。
「ちょ!いった!おい祥哉何だよ⁉︎」
「朝お前横目でニヤニヤしてたのイラついたから」
「だからって蹴るなよ…」
「まぁこれで許してやるよ」
「もっと他の方法はなかったの⁉︎」
そんなやりとりをした後2人は、教室へ向かった。
そして、特に何もないまま授業が終わった。
「祥ちゃん今日も寝てたよ?」
「うっ、眠いからしょうがないだろ…」
祥哉は美月にはとても弱い。
そして2人はまた一緒に帰っていった。
土曜日2人は明日への期待と心配で張り裂けそうな思いで過ごした。
そして、約束の日曜日になった。
「ごめん祥ちゃん!待たせちゃったかな?」
「だ、大丈夫だよ!全く問題ない!」
美月の私服はとても可愛かった。
祥哉は美月の私服を見て自然と意識してしまった。
「よかった!じゃぁ行こうか」
「美月はどこ行きたいの?」
「祥ちゃんの行きたいところでいいよ?」
2人共互いの事を第一に考えるせいかこのような事になってしまうことは、多々あった。
「いや、俺は特に行きたいところもないし美月決めてよ」
「うーん、じゃぁ!この前新しくオープンした雑貨店行こう!あそこ可愛いの沢山あるって聞いたことある!」
「じゃぁそこいこっか!」
「うん!」
時折見せる美月の笑顔は祥哉にとっては何より嬉しいものだった。
そして雑貨店についた。
「いらっしゃいませ!」
元気の良い掛け声が聞こえた。
美月と祥哉は店内をウロウロと見て回った。
「祥ちゃん!祥ちゃん!これどうかな?」
「な、なんだそれは?」
美月はぱっと見何か分からないような物を持ってきた。
「もぅ、猫だよ猫!」
「あ、ああ!いいんじゃないかな」
祥哉はよくあれを猫と見分けられたなと内心驚いた。
「でもこれ高いしな…」
「どうすんの?」
「違うのにしよ!」
「そっか」
その後も店内を2人で見回った。
「祥ちゃん!買ってくるから待ってて」
「う、うん」
美月は何か見つけたらしく待っててと言ってレジへ向かった。
美月がレジで会計を済ませて戻ってきた。
「祥ちゃん!次行こう!」
「おう!どこ行く?」
「えーっと、じゃぁ駅前のクレープ屋さん!」
「よし!じゃぁ行こっか」
そう言って2人は駅前に向かって歩き出した。
「そういえば美月は何買った?」
「え、内緒!」
美月は少し照れくさそうに言った。
祥哉は何でおしえてくれないんだよと、少し拗ね気味になった。
しばらく歩きクレープ屋についた。
「わぁ!祥ちゃん沢山あるよ!」
「美月店内では静かにしろ」
「はーい」
2人は各々の食べたいクレープを頼んだ。
「おいしい!」
「そうだな」
美月は祥哉のところをじっと見ていた。
「美月どうかした?何か顔についてる?」
「大丈夫ついてないよ!その一口欲しいなって…」
「っ⁉︎」
祥哉はクレープが気管に入りむせた。
「祥ちゃん⁉︎大丈夫⁉︎」
「お、おう」
「よかった」
「はい、 美月食べる?」
祥哉は照れながらクレープを美月の前に突き出した。
「うん!」
こいつは間接キスになるって気づいてんのかなと思いながら祥哉は美月にクレープを上げた。
「美味いか?」
「うん!祥ちゃんも私の食べる?」
今度こそ祥哉は完全に顔を赤めた。
「え、あの…」
「いらないんだ…」
美月は少し残念そうにうつむいた。
それを見た祥哉は断れるはずもなく、
「食べるよ!美月ありがと!」
そう言ってクレープを食べた。
間接キスじゃんこれえええと心の中で叫んだ。
できるだけ間接キスを意識しないようにしたが、やはり顔は赤くなっていった。
「祥ちゃんこれ!」
美月はキーホルダーを祥哉の前に差し出した。
「え?キーホルダー?」
「そう!ペアキーホルダー!」
美月は少し照れながら自分の携帯についてるキーホルダーを祥哉に見せた。
「う、うん、ありがと…」
祥哉は照れているのを隠すのに精一杯で消え入りそうな声でお礼を言った。
そして、2人は食べ終わり店内を出た。
「そろそろ帰るか?」
「うん!祥ちゃん今日はありがとね!」
「こちらこそ」
2人は笑い合いながら帰っていった。
「雨降りそうだなー」
そう呟くと美月が、
「あ、本当に降ってきちゃった」
2人は近くにあった建物の下に急いで入った。
少し待ったが一向に雨は止む気配がなかった。
「傘持ってきてないのにな…」
「祥ちゃん駅まで近いし走っていく?」
「うーん、そうするんなら」
祥哉は突然自分の着ていたカーディガンを美月の頭に被せた。
「ひぇ⁉︎な、なに?」
「それ被って行くぞ」
「え、でもそれじゃぁ祥ちゃんが…」
「俺はいいの!バカは風邪ひかないって言うだろ!」
「えええ⁉︎認めるの⁉︎」
「う、うるさい!それに美月に風邪ひかれたら、俺が…困るから」
祥哉は顔を赤めながら言った。
「うーー」
美月は不満そうな顔でこっちを見てきた。
そしてラチがあかないと祥哉は思い、
「もう、行くぞ!」
祥哉は美月の手を取って走り出した。
「ま、まって祥ちゃん!」
美月は手を握られ少し恥ずかしそうに走った。
雨の中2人は互いの顔を赤くしながら駅まで走っていった。
着いた頃には雨は弱まっていた。
祥哉は身体を震えさせてくしゃみをした。
すると、
「祥ちゃんやっぱし寒そうじゃん!これ着て!」
そう言って美月はバッグに入れて雨から守っていた祥哉のカーディガンを突き出した。
「美月風邪ひくなよ?」
「私は大丈夫だよ!」
2人はそんなやりとりをしながら電車に乗って帰った。
2人の顔には満足そうな笑みと少しの赤色が見えた。
そして、楽しかった日曜日は終わりを迎えた。

ep.4 最悪モーニング

楽しかった日曜日が終わり気が思い朝を迎えた。
「祥哉起きなさい!」
リビングの方から母親の声が聞こえた。
「うぅぅ」
眠い目を擦りながら祥哉は危ない足取りで階段を降りてきた。
朝食を食べ終わり祥哉は学校へ行く準備をした。
「行ってきまーす」
家を出ようとした時に、
「美月ちゃん家にいつ連れてきてもいいからね」
「は⁉︎え?ど、どういうこと?」
祥哉は母親からの突然の自分の隠していた秘密がバレたのかと、驚きの表情を隠しきれなかった。
「え?あんた達付き合ってるんじゃないの⁉︎」
「っ⁉︎」
言葉にならない声で驚きの声を上げた。
「え?違うの?」
「いや、なんでそうなるの?」
「え?だって昨日2人で手繋ぎながら歩いてるところ見たから」
あの時か……心の中で酷く後悔した。
「いや、それは」
「美月ちゃんだったら大歓迎だからいつでも連れてきていいからね!」
「う、うるさい!」
祥哉は顔を赤くしながら家を出た。
「はぁ…」
祥哉はバレた事に対して凄く落ち込んだ。
「祥ちゃん!おはよー!」
元気の良い美月の声が聞こえてきた。
「おはよう」
「祥ちゃんどうしたの?なんか元気ないけど…」
「大丈夫だよ!」
「つ、辛かったらいつでも頼っていいんだよ!」
「ありがとな」
それ男子の言うセリフだろと思いながら祥哉は返事を返した。
「おー朝からラブラブだなこの夫婦は」
「達也辞めときなよ私達お邪魔だって」
「千奈美ちょっとゆっくり歩こうか」
「ですねー」
ニヤニヤとしながら祥哉と美月にチャチャを入れてくる2人は同じくらすの達也と千奈美だった。
祥哉はそれを聞いて直ぐに、
「誰が夫婦だよ誰がお邪魔だよ、お前らもこっちこい!」
そう言って祥哉は2人を引っ張って強引に連れてきた。
「おい祥哉本当によかったのか?」
達也は気を使いそう聞いてきた。
「え?なんで?」
祥哉は達也の質問の意味を理解できなかった。
「せっかく2人きりだったのに」
「だと思ってるんなら最初からチャチャ入れるなよ!」
祥哉は睨みつけてそう言った。
しかし、睨んでも特に怖くもない祥哉の睨みは、達也に全く効かなかった。
それを見て、
「祥ちゃん喧嘩はダメだよ!」
美月は祥哉の恐い顔を見て喧嘩をしていると勘違いしたらしい。
「だ、大丈夫!喧嘩なんかしてないから!」
「本当に?」
「本当!本当!」
「そっか、ならよかった」
美月は笑顔でそう言った。
「あんた本当に美月に弱いよね」
千奈美は祥哉の変わり方を見て少し笑いながら小声で言った。
それを聞いて祥哉は顔を赤くした。
祥哉が顔を赤くするのを見て美月は首を傾げている。
「千奈美それは言っちゃダメだよ」
達也は笑いをこらえながら言ってきた。
「2人とも休み時間いいかな?」
祥哉は笑顔でしかし声に怒りを込めて小さな声で2人に向けていった。
「「は、はい」」
2人共顔を暗くさせて答えた。
それからは、あまり喋らずに学校へ着いた。
1限目から4限目までが終わった。
「はぁ…やっと終わった」
「祥ちゃん偉いね!寝てないよ!」
美月はキラキラした目で祥哉の方を見た。
「いつも寝てるみたいに言うなっと」
祥哉は美月に軽くデコピンをしてから、立ち上がり給食の準備に取り掛かった。
給食も食べ終わり昼休み祥哉は直ぐに達也のところへ行った。
「朝のアレは一体何かな?」
「え、ちょ祥哉指鳴らしながらって完全に殴られ」
「ん?なに?」
「いや、あの、すいませんでした」
達也は素直に謝った。
謝るまでに10秒もあったろうかと思う程に早かった。
「まったく、あんまりそういうの辞めろよな美月だって困るだろうし」
「なんだかんだ言って美月が一番なんだね」
「っ!当たり前だろ」
気恥ずかしそうに祥哉は答えた。
「祥哉はシッカリしてないところもあるけど、美月よりは天然ではないから面倒みろよ」
「わ、わかってるよ。てか恥ずかしげもなくそんなこというな!」
「告り方すらチキンな野郎にそんなこと言われたくないなー」
笑いながら達也は祥哉をからかった。
「お前ボコるぞ?」
「すいませんでした!」
祥哉が言い終わると同時に謝った。
昼休みが終わり授業も終わった。
「祥ちゃんやっときた」
「あ、ごめん待たせた」
「いいよ別に」
祥哉は課題を提出しろと言われ居残りを受けていた。
「じゃぁ帰るか」
「うん!」
最近は一緒に帰る。少し家に着く時間が遅くなった。ゆっくり歩いているのだろうと祥哉は思った。
そんな事を考えていると、
「うわっ⁉︎」
祥哉は転けた。下にあった段差に足が引っかかったのだろう。
「祥ちゃん大丈夫⁉︎」
そう言って美月は鞄の中から絆創膏を取り出した。
「これで大丈夫!」
「ありがとう…」
「祥ちゃん天然だから気をつけなよ?」
「美月に言われたくないよ」
祥哉は少し微笑みながら言った。
2人はいつも通りの場所で別れた。
「祥ちゃんバイバイ」
「おう、また明日な」
祥哉は少し進むと止まり空を仰ぎため息をついた。
祥哉の夕日に照らされる頬はいつもより赤く見えた。

ep.5声の無い秘密の会話

特に進展も無い2人はジメジメと憂鬱な気分になる6月が終わり蒸し暑い7月の中盤まで特に遊びにも行かずに登下校時に喋るくらいだった。
美月に話しかけたいけどタイミングがな…。
落ち込みながら授業を不真面目に受ける祥哉その隣には、少し退屈そうにノートを写し取っている美月がいる。
祥哉の視線に気づいたのか美月は祥哉の方を向いた。
目が合った瞬間に祥哉に美月は目をそ逸らされた。
美月は視線を下に落とし寂しそうな表情をした。
それを見て祥哉はノートを切り取った。美月はそれを何をしているのか?という表情で見つめている。
そこに祥哉は何かメモを取った。
先生が黒板の方向を向いた瞬間に祥哉は美月にノートの切れ端を渡した。
「美月これ」
先生にばれないように小声で美月に受け取れと伝える。
美月はそれを受け取るとどうしたらいいの?という表情をしてきた。
祥哉はそれを見てノートを開くジェスチャーをして見せた。
美月はノートの切れ端を開いた。そこに書かれていたのは、
『目逸らしてごめん』
という祥哉の気持ちだった。
美月は、
『気にしてないよ。祥ちゃんありがとう。それより期末テストも近いし放課後一緒に勉強しない?』
と書き先生にばれないように祥哉に渡した。
祥哉は最初の1文を読み胸を撫で下ろした。
そして次の2文を読み少し戸惑った。祥哉はそれに対する返事の前に質問した。
『誰の家で?』
そう書いて美月に渡した。
美月は直ぐに返事を書いた。その返事が返ってきた。
そこにはハッキリ、
『祥ちゃんの家で!』
と書かれていた。
祥哉は少し前に母親から言われた言葉を思い出した。
 ̄いつ連れてきてもいいからね。_
それを思い出した祥哉は少し考えた。そこで、ある事を思い出した。
そういや母さんは平日夜の7時まで仕事だったよな…
美月の気持ちをいつも優先する祥哉の考えは、ただ一つにまとまった。
美月を家に呼び6時までには家に帰そう。
という考えに至った。
それを書いて美月に送ると直ぐに、
『ありがとう』
と返ってきた。
「そうだな上山 美月!次の文を読みなさい」
「は、はい!」
席を立ち祥哉と紙で話していたせいでページがわからず、慌ただしくページをめくっては戻している。
それを見た祥哉は美月にバーカと舌を出して、ページを教えてあげた。
6限の授業が終わり帰りの会も終わると祥哉と美月は、我先にと正面玄関へ駆けて行った。
「美月早く早く」
「待ってよ祥ちゃん早いよ」
帰り道には祥哉は走らずにゆっくりと2人で歩いた。
これも美月の事を思っての行動だろう。
「美月6時までには俺の家から出てけよな?」
「え?なんで?」
「なんでって親来ちゃうじゃん」
「そ、そうだね…」
美月は少し寂しそうにしたが、直ぐにいつもの元気な美月に戻った。
そのまま2人は歩いて祥哉の家へと向かった。
「ただいまー」
「おじゃましまーす」
祥哉は美月を自分の部屋まで案内して、
「美月そこで待ってて飲み物でも取ってくるから」
「いいよ別にー」
「いいのいいの」
そう言って祥哉は冷蔵庫に飲み物を取りに行った。
美月は初めての祥哉の部屋に少し戸惑っている。
美月は辺りを見渡し始め机の上にあった携帯電話に目が止まった。
携帯電話のストラップに美月は少し嬉しくなった。
なぜならそれは、美月がこの前のデートでプレゼントしたペアキーホルダーのそれだった。
「美月って炭酸もう飲める……うわぁ⁉︎」
祥哉が帰ってきた。
そして飲み物をテーブルの上に置き直ぐに携帯電話をポケットにしまった。
「祥ちゃん使ってくれてたんだね」
美月は笑顔で祥哉に言った。
「も、貰ったんだし使ってあげないと悪いかなって…」
祥哉は顔赤くして言った。
「でも、なんで隠すの?」
色々と鈍感な美月がそんな事を聞くと、
「いや、その別に、何でもない」
そう祥哉は答えた。
「何でもないならいいじゃん!見せて!」
「え、えっと…」
祥哉は困り果てた顔をした。
「そのちょっと恥ずかしかったから…」
本当の理由を少し小さな声で恥じらいながら祥哉は言った。
「えーなんで恥ずかしいの?」
鈍感な美月は、そこからが疑問点らしい。
「なんででも!勉強するよ!」
「はいはい!祥ちゃん頭悪いから私が教えてあげるね!」
「あ、ありがとな」
祥哉は引きつった笑いを浮かべたが、美月は満面の笑みだった。
数分後
「祥ちゃんそこ違うよ」
「祥ちゃんそこも…」
「祥ちゃん8割くらい違うんだけど…」
「美月の鬼…」
「え⁉︎お、鬼じゃないよ…ちゃんと教えるからね!」
美月は両手で小さくガッツポーズを組み励ました。
「う、うん…」
そしてそろそろ時間になると祥哉は、
「よし!美月もう終わりにしよ!」
「ええ⁉︎まだ殆ど祥ちゃんできてないよ⁉︎」
「いいの!ほら!送ってやるから帰るぞ」
そう言って祥哉は美月に手を伸ばした。
「明日も勉強しようね!」
美月の笑顔で祥哉は断れるはずもなく、
「わかったよ」
そう答えた。
美月は祥哉の手に捕まり立ち上がった。
もう辺りが夕日と夜の色が混合している。
2人は自然と手を繋ぎながら美月の家まで向かった。
「じゃぁね祥ちゃん」
「また明日な」
また明日勉強か…でも美月とやれるんなら…
そう考えながら祥哉は家に戻った。
期末テストまで後5日間だ。

ep.6 よくできました!

祥哉はあれから毎日のように美月と2人で放課後に祥哉の家で勉強した。
祥哉の親は夜の7時にならなければ帰ってこないので見つからずに勉強できた。
期末テスト1日前2人はいつものように祥哉の家で勉強していた。
「祥ちゃん凄いね……」
美月は祥哉の書いたプリントを持ちながら、棒読みでそう言った。
祥哉は美月に採点してもらったプリントを見るまでもなく、何と無くだがその意味がわかった。
「そ、それで何点なの?」
「祥ちゃんは何点だと思う?」
美月は顔を暗くして聞いた。
「70点くらいかな…」
そしてプリントを突き出された。それを見ると、
「49点だよ………」
「ははは」
祥哉は作り笑顔を浮かべた。
「そうだ!テストで最低300点以上とらなきゃ祥ちゃんとは遊ばない!」
美月は思いついたようにそう言った。さすが天然だ。
「ええ⁉︎ちょっと待って美月、俺の点数何点だか知ってるだろ?」
「そう言ってばっかじゃ点数上がらないし、点数悪かったらお母さんからも遊ぶなって、言われるんじゃないかな?」
美月はこういう時だけは祥哉に凄く厳しい、それも祥哉に対する思いなのだろう。
「うう、わかったよ…」
美月にそこまで言われたら男としてもだし…美月と遊べないのが辛い。
「よかった。じゃぁ早速問題やろうか!」
「はーい…」
小学校の頃は俺が教えてあげてたのにいつの間にか逆転しちゃったな…。
そんなことを祥哉は思い出して勉強をやり始めた。
そして夜の6時になった。
「よしよし頑張ったねー」
美月は小さい子を撫でるように祥哉の頭を撫でた。
「や、やめ、てください……」
祥哉は恥ずかしさと驚きのあまり敬語になっていた。
「ご、ごめんなさい…」
美月も素で頭を撫でていたらしく顔を真っ赤にしている。
「そろそろ送るよ」
「うん、じゃぁ荷物まとめるね」
「はいはい」
そう言った時だった、
「ただいまっと、祥哉誰いるの?お友達?」
母親の声が聞こえてきた。
ギシッギシッと階段が軋む音がした。
2階部分にある祥哉の部屋に向かっているようだ。
「美月とりあえず布団中潜れ!」
「う、うん!」
そう言って祥哉は美月をベッドの布団に潜らせた。扉が開いた。
「祥哉友達でも来てるの?」
「う、うん!今トイレ行ってる」
「そうなんだ。遅くならないうちにね」
「は、はーい」
間一髪でバレなかった。
「祥ちゃん何で隠してるの?」
「何でって、そりゃ恥ずいからだろ…」
祥哉は照れながら言った。
「ふーん」
美月はそうなのかな?という顔をしている。
「とにかくコッソリ帰るぞ」
「わ、わかったよ」
そう言ってゆっくりと祥哉は部屋の扉を開けた。
「足音立てないようにな」
「うん」
台所からだろうか何かを炒めているジャーッという音がする。
それを聞いて祥哉は何とかなると確信した。
階段を降りて右に曲がれば玄関、左には台所右に曲れば台所にいる母親にはバレない少し早歩きになり2人は右に曲がった。
もう少しで外にバレずに出れるという時だった、
「祥哉やっぱし美月ちゃんと付き合ってるんじゃん」
母親の声が聞こえた。
祥哉は顔を赤くし、
「美月行くぞ!」
と言って扉を開けた。
今日もまた祥哉は美月を家まで送ることにした。
「祥ちゃんバレちゃったけどいいの?」
美月が少し申し訳なさそうに聞いてきた。
「いいよ、いつかバレるし早いか遅いかの問題だったんだろうな」
「そ、そっか…」
美月はうつむいた。
「美月が気にすることじゃないよ。美月は悪くないし」
「うん…」
今日もまた祥哉は美月の家の前まで行った。
「じゃぁな美月」
「祥ちゃんありがとね」
2人が振り向いた時に祥哉は何か思い出したように振り返った。
「美月また勉強教えてくれよな」
「うん!いいよ!」
美月の顔にはいつもの笑顔が戻った。
やっぱし美月は笑顔が似合うな…。
そう思った祥哉だった。
帰り道に祥哉は家に帰ってから母親に何と言われるか緊張していた。
「ただいま」
「おかえり。ご飯できてるよ」
「はいはい」
祥哉はリビングへと向かった。
「祥哉あんたやっぱし付き合ってたんだね」
「わ、悪いかよ」
「別にー」
母親は楽しそうにしている。
「そう…」
祥哉は直ぐに食べ終わって、お風呂に入り部屋と向かった。
祥哉は机に向かいワークと教科書と筆箱を出し勉強を始めた。
美月と遊べないのは嫌だ!その一心で必死に勉強した。
しかし美月は、
「祥ちゃんと遊びたいな…」
帰ってからそんな事を呟いていた。
そういや300点とらなきゃ遊ばないとか言っちゃったけど頑張ってくれたし別にいっか…。
美月は祥哉が必死に勉強しているとは知らずにそんな事を思った。
次の日の期末テストで、祥哉は眠そうにしながらもしっかりと起きていた。
そして、テストから1週間ほどが経ち結果が出た。
「美月!ほら見てみろよ!」
そう言って祥哉は美月に結果を突き出した。結果は348点と目標よりも上にいっていた。
「祥ちゃんおめでとう!」
「ありがとな!」
祥哉は余程嬉しかったのか満面の笑みだ。
「これからも毎日勉強する?」
「毎日はちょっと…だけど、たまになら良いかな」
そう言って祥哉は笑った。
もう直ぐ夏休み美月と沢山遊びたいなそう思う祥哉と、もう直ぐ夏休み祥ちゃんと沢山遊びたいなそう思う美月がいた。
夏休み課題と共に楽しみが押し寄せる。

ep.7 淡い光

カンカン照りの太陽の下、祥哉と美月は夏休みを利用してキャンプに来た。
キャンプ場は自然が豊かな森の中で、近くには小さな池のようなものや河原がある。人もあまりいないキャンプ場らしく周りには祥哉達以外誰もいなかった。
「達也ありがとな!」
「いや、いいよ俺の兄貴が夏休み予定あったけど無くなったから、友達とどこか連れて行ってやるって言ってたから」
達也は謙虚にそう答えた。
「達也お前それ言うなよ…俺だってな…俺だってな…」
そう嘆いてるいるのは達也の兄の亮太だ。
亮太は夏休み中に大学の彼女とキャンプへ行く計画を立てていたらしいのだが…彼女と別れてしまい夏休みの殆どの予定がなくなったらしい。そこで、どこでも連れて行ってやると言って達也が誘ってくれた。もちろん美月も一緒にだ。
達也と千奈美、亮太、祥哉、美月を乗せた車は山道をかけていく。
「そういや達也から聞いたけど祥哉くんと美月ちゃんは付き合ってるんだって」
唐突に亮太がそう聞いてきた。
「は⁉︎達也お前……」
睨みつけるが達也は全く動じなかった。
「ごめんごめん謝るよ」
達也は笑いながら謝った。
「祥ちゃん怒らないでー」
少しビクつきながら美月にそう言われ祥哉は笑顔に戻った。
「リア充死ね…」
ボソリと亮太が聞こえるか聞こえないかギリギリの低い声でそう言った。
「兄貴、別れたからってそう嘆くな」
達也がそう言うと、
「だってよ!俺だって夏休みの予定頑張ってやりくりしたのに!なのによ!それが全て無駄の泡になったんだぜ!」
亮太は少し半泣きになりながらそう嘆いた。
頼むから事故らないでくれよ…。
そう祥哉は願った。
キャンプ場に着くと亮太が車からテントや寝袋等のキャンプ用品を取り出し、女子用のテントと男子用のテントをまるで手慣れているかのように直ぐに建てた。
「亮太さん凄いですね」
祥哉がそう言うと達也が、
「家で練習したりしてたもんな」
彼女とのキャンプのために練習していたことをバラした。
「うるせぇ!それ以上言うなよ…」
亮太は本気で落ち込んだ。
周りにいる千奈美や祥哉達は苦笑いをしている。
「あ、そうだ祥哉そこに川あるから魚でも釣りに行こうぜ」
「あ、ああ!美月も来るか?」
「え?あ、私もやる!」
そう美月が言うと達也は釣竿を4本取り出した。
「千奈美も行くぞ」
「ちょ、待ってよ達也」
「遅いー」
そう言って4人は河原の方へ亮太を残して向かった。
亮太は1人寂しく子供の世話をするのであった。
河原に着くとそこには、綺麗に澄んだ水が太陽に照らされ水面が反射していてとても綺麗だった。
「祥ちゃん!とっても綺麗だよ」
「ああ、そうだな」
美月はとても楽しそうに辺りを見回した。
「早速釣りでも始めるか」
達也がそう言うと皆一同に、
「「「おー!」」」
そう声を上げた。
「釣れないねー」
「美月……あんたは竿をブンブン振り回し過ぎだから!」
普段あまり動じない千奈美も美月の意外性たっぷりの行動に驚いている。
「美月竿はこうやって垂らすだけで良いんだぞ?」
祥哉は美月の横で教えた。
「彼氏くんしっかり面倒見てあげてね?」
千奈美は笑顔でイジってきた。
「う…」
祥哉は黙るしかなかった。
「1時間やってこれだけか…」
達也は結果に不満があるようにそう呟いた。
結果的に釣れたのは5匹だけだった。
「ま、まぁ達也そう不満そうにするなって!5匹あればみんなで食べれるしな!」
祥哉はすかさずフォローに入った。
「そうだな兄貴のところに戻るか」
「うん!亮太さん寂しがってるよきっと」
「美月は優しいねー」
千奈美がそう言うと美月は戻ろうと駆け出した。
「うわ⁉︎」
美月の驚きの声とともに祥哉と美月が川へと落ちた。
転びそうになり、とっさに美月が祥哉に捕まったせいで祥哉も巻き添えを食らったのだ。
「美月大丈夫か⁉︎」
石で擦りむいた手を気にせず美月の方を心配した。
「う、うん!ごめん祥ちゃん…」
幸い川は浅かったので大事には至らなかった。
「2人とも帰るぞ」
達也は少し笑った。
その理由は祥哉と美月にはわからなかった。
「祥ちゃん手大丈夫?」
「手?うわ、血出てるじゃん。大丈夫だよ美月は悪くない」
そう言って祥哉は傷ついてない方の手で美月の頭を撫でた。本人は擦りむいていた事に気づいていなかったようだ。
帰ると直ぐに2人は変えの服を着た。
亮太には過剰に心配されたが特に怪我もなく大丈夫と言っておいた。
「おーいお前ら肉焼けたぞー」
亮太の声がすると、みんなBBQの方へ向かい晩ご飯を食べた。
「亮太さんこれどうします?」
「ああ、それはそこ置いといて」
祥哉がBBQの片付けを手伝っていると、
「祥ちゃん!来て来て!千奈美ちゃんが凄いの見つけたよ!」
美月のその声を聞いて達也と亮太も千奈美の場所へ向かった。
そこにあったのは無数の蛍が飛び交い水面を照らし草花に乗っかる光の大群だった。
「うわ⁉︎すげぇこんなとこあったのかよ」
「凄い…」
各々から感嘆の声が漏れた。
「美月これって蛍か?」
「そうだよ祥ちゃん!見たことない?」
「うん、だけど…綺麗だな」
祥哉からも感嘆の声が上がった。
「ちょっと達也」
小声で千奈美が達也に声をかけた。
祥哉達の方を指差した。
「ああ、仲良さそうだな」
達也と千奈美は2人が手を繋いでるのをみて和やかな気分になった。
祥哉が千奈美達の視線に気づき顔を赤めた。
「な、なんだよ……?」
「いや、お前ら仲良いなと思ってさ」
祥哉は照れながら、
「べ、別にいいだろうこういう時ぐらい…」
少し素直になった。
月の灯りと蛍の光が重なり幻想的な雰囲気に祥哉と美月は呑まれていった。

ep.8 不気味な光

キラキラと太陽に照らされ輝く川に架かった橋の上に立っている人がいる。
辺りをキョロキョロと見回したり携帯を開いては時間を確認している。
「おーい達也何してんだ?」
「お、祥哉か美月はどうした?」
「俺がいつも美月といるみたいに言うなよ」
祥哉は握り拳を作り握り締めた。
「悪い悪い」
達也はヘラヘラと軽く謝った。
「ところで達也は何してんだ?さっきからキョロキョロしたり携帯イジってるけど」
「あーちょっと知り合い待ち」
「それお前の彼女とか?」
祥哉も久々に達也をイジれると思いそう言ったが、
「いや違う」
顔の表情一つ変えず冷静に即答された。
「なら誰だよ?」
「9月から転校してくるやつ」
「転校か…転校⁉︎」
「うん転校、というより幼馴染み」
「そ、そっか…何かわかんないけど、俺邪魔そうだから帰るな」
祥哉は達也の言うことが、よくわからなかったからその場を去ろうとした。
「あ、ちょい待て!お前夏祭り美月と行く?」
「行かねぇよ!バレるだろ!」
「だろうな、ならちょっと協力するか…」
達也は最後の方を聞き取れるか聞き取れないかギリギリの声で言った。
その後は、少し話してから家に帰った。
それから数日経った。
祥哉が家で宿題をしていたところ達也から電話がかかってきた。
「もしもし」
「祥哉か?美月と今日夏祭り行かないか?」
「はぁ?だから行かないって」
「俺と千奈美も付いて行けば仲良いって誤魔化せるだろ?」
「ま、まぁそうだけど…」
祥哉も口では、ああ言っているが実はとても行きたかったのだ。
「内心行きたいとか思ってたんじゃないのか?」
「うっ…」
図星を突かれて言葉に詰まった。
「まぁいいや、今日の6時にお寺の前でな」
「おう!わかった!」
そう言って祥哉は電話切った。そして、直ぐに美月の所へかけた。
「美月、今日の夜空いてる?」
「空いてるけどどうしたの?」
「達也と千奈美と行くことになったから美月も来るかな……って」
祥哉は少し照れ臭そうに誘った。
美月の事遊びに誘った回数って俺結構少ないよな、いつも美月から誘ってきてくれるし…。
そんなことを考えている間に返事が来た。
「うん!いいよ!私も行きたかったから!」
「そのくらい明るければ学校でもモテそうなのにな」
祥哉は冗談交じりに軽く微笑みながら言った。
「祥ちゃんは私が取られちゃってもいいんだー」
美月は棒読みでそう言ったが祥哉はそんな事を考える暇もなく焦った。
「い、いや、ち、違う!」
「大丈夫だよ私は祥ちゃんが大……」
美月はそこで言葉を詰まらせた。
「え?」
祥哉は美月の言おうとしたことがわかり驚いた。
「な、なんでもない!今日何時にどの集合?」
美月は少し口調が慌ただしくなった。
「えっと6時にお寺の前」
「わかった!祥ちゃんありがとう!」
そう言って祥哉からの返事を聞かずに美月は携帯を切った。
「本音が出そうになっちゃったよ……でも祥ちゃん言って欲しいとか思ったのかな…」
美月はベットにうつ伏せになりながら、顔を赤めボソボソと呟いて声にならない声を出した。
待ち合わせ時間になると…
「おーきたきた、よっ千奈美」
「達也意外とくるの早いんだね」
「意外とは心外だね…」
達也は苦笑いした。
「おーい!達也くん!千奈美ちゃん!待った?」
「こら!美月恥ずかしいから大声で名前呼ぶな!」
「えーなんで?祥ちゃんの名前呼んでないからいいじゃん」
「そういう問題じゃなくてだな…」
キャンプの時から2人の距離は少し縮まったように思えた。
「うわーイチャついてるな…」
「達也なんか言った⁉︎」
「言ってませーん」
「皆んな揃ったしお祭り行こうか?」
千奈美がそう言うと皆んなは夏祭りを行っている会場へと向かった。
「うわー祥ちゃん!金魚だよ金魚!」
「ん?やりたい?」
「うん!」
美月は笑顔で返事をした。
パシャッという音がして紙が破れた。
「祥ちゃんこれ取れない……」
美月は困り果てたような顔で見てきたので祥哉は、
「おじさん1回」
そう言って金魚すくいをやり始めた。
「はいよ」
「美月見てみなこうやってだな」
パシャッパシャッパシャッ何度も水に漬けてはすくう音を立て祥哉は4匹取った。
「祥ちゃん凄いね!」
「これくらいどうってことないよ」
「本当これくらいどうってことねぇよな」
達也が横からちょっかいをかけてきたが気にしなかった。
「はい美月」
そう言って祥哉は美月に金魚を渡した。
「わーい!ありがとう!」
美月は祥哉に笑顔を見せた。祥哉はそれだけで顔を赤くした。
その後4人で色々なところを周りお祭りも中盤に差し掛かり帰ろうとした時に、
「美月はこれから予定とかある?」
美月の方を振り向くと美月がいなかった。
「達也!美月知らない⁉︎」
「さっきまでいたけど?迷子になったのか?」
「美月迷子になったの⁉︎」
「わからないけど今振り向いたら居ないんだ…」
祥哉は不安になりながらもどうしたらいいか2人に相談した。
「手でも繋いでおけばよかったのに…」
千奈美にそう言われ確かにと祥哉は感じた。
「とりあえず俺探してくるよ。先帰ってていいからさ!」
そう言って祥哉は祭りの人混みに消えていった。
「千奈美そう言われても帰れるわけないよね?」
「同感」
「それじゃ見つけたら携帯に連絡入れてね」
「オッケー」
そう言って2人も美月を探し出した。
祭の提灯の並んで揺れる姿があたかも祥哉の心の中を映し出しているようだった。

ep.9 花火と不安と鈍感と

祥哉は美月と夏祭りにきていたが、美月が人混みに紛れ込みわからなくなってしまった。
「美月!美月!」
できるだけ大きな声で呼んでみるが美月は見つからなかった。
放心状態になっている時に携帯が鳴った。かけてきたのは美月だ。
祥哉は直ぐに携帯を取り出した。
「美月⁉︎今どこにいるの⁉︎」
「祥ちゃん!えーっと迷子になっちゃって…」
「それは知ってる!それで今どこにいるの!」
「えっと…皆んなで集まったお寺の前だよ」
「わかった!迎えに行くから待ってて!」
祥哉の顔はイキイキとした笑顔に戻った。
そして皆んなで集まったお寺に向かって走り出した。
祥哉は人混みを掻き分け、ぶつかりながらも全力で走った。そしてお寺に着いた。
「美月!」
そこに美月はいなかった。
「美月?」
呼んでも返事が来なかった。
「おーい祥哉」
お寺の方から達也の声が聞こえた。
「達也⁉︎どうしてここに⁉︎」
「なりふり構わずお前が走ってどっか行くからだろうが!雨降ってたから寺の方で雨宿りさせてるから来い」
祥哉は雨が降っているというのを聞いて驚いた。言われてやっと雨が降っている事に気付いたからだ。
「雨降ってたのか…」
「ん?どうした?」
「なんでもない」
「そうか」
俺の中で美月が凄く大切になってるんだな…。
祥哉は素直にそう思えた。
「あ!祥ちゃん!」
美月がこっちに向かって走ってきた。美月は笑顔だったが目が赤くなっていた。怖かったんだと祥哉も直ぐに気付いた。
祥哉は美月の前に立ち抱き締めた。
「ごめん…」
「へ⁉︎しょ、祥ちゃん⁉︎ど、どうしたの⁉︎」
美月は祥哉から突然抱き締められ顔を赤めた。
「ごめんちゃんと見てなくて」
「大丈夫だよ!怖くもなかったし!」
祥哉は美月の目が赤い事に気付いている。祥哉は美月の優しさで心が軽くなったように感じた。
そして、祥哉は美月とは違った意味で臆病なんだと実感した。
美月が近くにいないだけで取り乱したり、美月と関わらなければ寂しくなったり、そんなことを考えてると祥哉は自然と抱き締める強さを強めてしまった。
「しょ、祥ちゃん苦しい…」
「ご!ごめん!」
「でも、ありがとう」
赤くなった目で少し目を潤しながら美月は笑顔を見せた。
美月は強いな…。
祥哉がそう思うと美月も祥ちゃんって強いなと思った。
「あのー、お2人さん楽しんでるところ悪いんだけどさ花火始まっちゃうよ?」
千奈美がそう言うと祥哉は顔を赤くしてうつむいた。
「じゃぁ皆んなで行くか!」
「だね、カップルさん行くよ?」
達也と千奈美は2人の関係を見て楽しそうに微笑んだ。
「か、かっ、カップルとか言うな!」
祥哉は顔を真っ赤にさせそう言った。
「へーならカップルじゃないんだ。抱き締めたり手繋いだりしてるのにー?」
千奈美は少し上から目線で言ってきた。
「あーもう!美月行くよ!」
そう言って祥哉は今度こそ離すまいと美月に手を差し出した。
美月も祥哉の手を取った。
「うん!」
しっかりと手を繋ぎながら2人は花火会場へと向かった。
達也はそれを見てやれやれと、ため息をついた。
「千奈美あいつら少しは距離縮んだかな?」
「少しはね…」
「見ててイラってくるの俺だけか?」
「祥哉がヘタレすぎて私もイラってくる時はあるけど、まぁそこも含めていい関係なんじゃないかな」
「そっか…」
2人は苦笑いしながらそんな事を話した。
「おーい達也行くぞ」
遠くから祥哉が呼ぶ声が聞こえてきた。
「はいはーい」
「花火始まっちゃうよー?」
「わかったよー」
そうして4人は花火会場へと移動した。
花火会場もこれまた凄い人混みだった。
「うわー凄い人混みだね」
「また迷子になっても困るから手離すなよ…」
祥哉は照れながら美月にそう言った。
「う、うん」
美月も照れながら返事をした。
照れながら笑っていると花火が打ち上がった。
ドン!という大きな音の後に夜空に大きな円が広がった。祥哉と美月はその辺に座り花火を眺めた。
達也と千奈美は邪魔するまいと2人から距離をとって眺めた。
「祥ちゃん好……だよ」
美月が手をギュッと握りそう言ったが途中花火で掻き消されよく聞こえなかった。
美月は顔を赤くしていたが、うまく聞こえなかった祥哉にはよくわからなかった。
花火も終わり帰る時にメールが入った。
『2人で帰れ!』
という内容だった。気恥ずかしさやら嬉しさやらで少し戸惑ったが祥哉と美月2人だけで帰った。
「じゃぁね祥ちゃん!」
「うん、バイバイ」
2人の手はそこで離れた。
「しっかり手握ってあげればよかったな…」
祥哉は帰り道夜空を仰ぎそう呟いた。
眩いばかり光る星、祥哉にはその光全てが霞んで見えた。

ep.10 オモワレ想い出

祥哉が遊びまくってると夏休み上旬が終わろうとしていた。
夏の暑さと蝉の声がミンミンと体に染み渡る。
祥哉は少しヤバイなと感じながら部屋で課題をしていた。
「あーわっかんねー」
10分程やると直ぐに集中力が切れてペンを置いてしまう。しかし、やらなければならないので続けるがやはり進まない。
そんな時電話がかかってきた。祥哉は美月とわかりすぐに出た。
「祥ちゃん?」
「うん?どうした?」
祥哉は美月がいきなり電話をかけてきたことに少し驚いた。なぜなら、美月は普段自分から電話をかけてくることは少ないからだ。
何かあったのかな…。
祥哉の美月が心配に感じることは、今になると些細なことでも心配と感じる。
「えっと…一緒に勉強しない?」
なんだそんなことかと祥哉は安心した。
「じゃぁ俺の家に今から来いよ?」
「えっと、そうじゃなくて私の家で…」
「え?」
祥哉は予想もしていなかった言葉に驚いた。
「だ、ダメかな?」
「いいよ!大丈夫!」
「ありがとう!」
「じゃぁ今から行くからな」
そう言って祥哉は電話を切った。
「美月の家か…」
そう呟き祥哉は大量の勉強道具を持って家を出た。
祥哉は5年間美月と遊んだりしてるが、遊ぶといっても公園や図書館ばかりで家の場所くらいは知っているが祥哉自身が美月の家に入ったことはなかった。
「そういや一度も入ったことないな」
美月の家に着くと期待していた通り美月が出てきた。
「祥ちゃんいらっしゃい!今お母さん達出てるから静かに勉強できるよ!」
「あ、うん」
「さっそく勉強しよっか!」
「うん」
期待通り2人きりか…。
「祥ちゃんここ私の部屋だから入ってて」
「うん!」
祥哉は美月の部屋の扉を開けた。
そんな2人きりなわけないですよね…。
「おー祥哉」
「やっほー」
そこにはしっかりと達也と千奈美がいた。
「なんでお前らがいるんだよ⁉︎」
祥哉は期待していたのとは裏腹に最悪な展開だった事に少々イラつきを感じた。
それを聞いて達也が、
「なに?もしかして2人きりだヤッホーとか思ってた?」
ニヤニヤしながらこちらを見てイジってくる。
「悪いかよ⁉︎」
「い、いや別に」
祥哉はこの頃本音を出すようになったが、今の本音はあまりにも必死過ぎて達也に引かれた。
「お待たせー飲み物とってきたよー」
一瞬の沈黙の後に美月が入ってきた。
「ま、まぁ勉強しよっか!」
「祥哉お前どれだけ残ってる?」
「9割くらい!」
自信満々に祥哉は言った。
「「「・・・」」」
全員呆れ果て言葉も出なかった。
「しょ、祥ちゃん頑張ろうね!」
「う、うん!」
美月がフォローしてくれて助かった…。
そうして祥哉も勉強に入った。
1時間後達也は先に終わり携帯を取り出した。
そして千奈美にメールを送った。
千奈美がメールを開くと本文には、
『適当なところで抜けね?』
と書いてあった。
千奈美はなるほどといった顔をしメールを返した。
『OKわかったよ』
そうして2人は携帯を閉じた。
そして、直ぐに千奈美が立ち上がった。
「美月!私ちょっとこれから用事あるから先抜けるね」
「あ、うん!千奈美ちゃんばいばい!」
「うんじゃぁね!」
そう言って千奈美が抜けた。
10分ほど経ち達也が荷物をまとめ、
「祥哉俺も夏期講習あるから抜けるわ」
そう言った。
「え、あ、うん」
「またな」
「おう!」
達也が抜けて5分ほどすると祥哉の携帯にメールが入った。
達也から?どうしてあいつ…。
メールを開くと、
『2人きりで勉強頑張れ!』
と書いてあった。
祥哉は直ぐに嵌められたとわかった。
でも、これは美月と2人きりのチャンス…。
そう考えたが意識しすぎて勉強どころではなかった。
「み、み、美月、これ教えてくれね?」
「う、うん」
2時間程経つと祥哉も疲れ果て床に寝転んだ。
「祥ちゃんもうしないの?」
「ちょっと休憩」
「小学校の頃は逆だったのにね」
美月は微笑みながらそう言った。
「逆って?」
「いっつも祥ちゃんが先に行って引っ張ってくれてたのに、勉強になると私が先に行けるんだなって」
「頭悪いんだもん仕方ないだろ」
祥哉は少し拗ねたように美月に背を向けた。
「祥ちゃん覚えてるかな?私がイジメられてた時、祥ちゃんが1人で守ってくれてたこと」
忘れるはずもない、その後俺は格好つけた癖にコテンパンにやられたんだ…。
「覚えてない」
自分の気持ちは真逆の答えを言った。
「そっか…」
「でも、美月に友達ができた時のことは今でも覚えてるよ。4年前にあったことだけどさ」
「それだと、まるでそれまで私が友達いなかったみたいじゃん!」
「ご、ごめん!」
祥哉は墓穴を掘ったと深く後悔した。
「でも、合ってるからいいよ!それに祥ちゃんがいるし!」
美月はそう言って笑顔を見せた。
蝉の大合唱が響き渡る中でも2人は蝉の声など聞こえないかのように思い出話を楽しんだ。

ep.11夏の終わりのありがとう

夏休みもそろそろ終わりを迎えそうな日になった。
祥哉は夏休み最後のイベントの為に心躍らせていたが、課題が終わらなければ参加してはいけないと美月に言われ必死に課題を終わらせていた。
夏休み最後は海に行きたいねと話してると、またまた達也のお兄さんが連れて行ってくれるらしく、必死で課題を終わらせると直ぐに美月に連絡した。
「もしもし美月?」
「どうしたの?」
「課題終わらせたよ」
「凄いね!祥ちゃんおめでとう!」
祥哉はそれを聞いて笑顔になった。
「じゃぁさ!明日行ってもいいよな!」
「うん!もちろん!」
「よっしゃー!」
大きな声でそう言うと、
「祥哉うるさい!」
母の声が聞こえてきた。
「じゃぁ明日な」
「うん!」
そう言って電話を切った。
翌日には達也の家で4人が集合した。
「うーっす」
「達也きたよー」
「お、今回も2人一緒かって付き合ってるんだからそうだよな」
亮太は肩を落としそう呟いた。
「祥哉こいつは無視でいいから」
「う、うん」
祥哉は達也の無表情な顔の怖さに思わず肯定してしまった。
「祥ちゃん!行くよー」
「あ、うん」
亮太と美月は先に車に乗っていた。
「達也行こう!」
「おう」
そう言って一同は海へと向かったが……
「今日ってここ雨だったんだね」
美月は疲れたような目でそう呟いた。
「全然知らなかった…」
「マジかぁ…」
亮太がそう言うと、
「俺は兄貴が調べてこの日にしたのかと」
達也は兄の無計画さに驚いた。
「で、でも!雨でも出来ること何かないかな!」
美月は落ち込んでるみんなを励まそうとフォローする。
「ないだろ…」
亮太がそう言うと、
「スイカ割りとか!」
美月はそう言ってスイカを持ってきた。
「まぁやってみなきゃわかんないし」
「祥哉マジで言ってる?」
「もちろん!」
そうして雨の中スイカ割りが始まった。
5分後……
祥哉は風のせいで倒れ大量の砂をつけて戻ってきた。
「祥ちゃんごめんね。私がしようって言ったばっかりに…」
「大丈夫だよ!美月は悪くない!悪くないよ!」
祥哉は美月を直ぐに慰めた。
「兄貴どうする?」
達也がそう言うと亮太は、
「ゲーセンでも行くか」
そう言って最寄りのゲームセンターへと向かった。
店内のクレーンゲームコーナーで美月は1つの景品をじっと見ていた。
「美月それ欲しいの?」
「う、うん」
美月がそう言うと祥哉は財布を取り出しプレイしたが、
「えっ⁉︎取れない」
「祥ちゃん頑張れ!」
「う、うん、また⁉︎」
こいつらいいカモだな…。
達也は心の中で表情には出さないがそう笑った。
「祥哉くんどいてみな俺がやってやる」
そう言って亮太はプレイした。
すると、100円で直ぐに取れた。
「えええ⁉︎なんで⁉︎」
祥哉は何回やっても取れなかったのに1発で取れたことに驚いた。
「コツだよコツ、ほい美月ちゃんこれ」
そう言って亮太は美月に景品を渡した。
「祥哉拗ねんなよ」
「うるさい達也!」
こんな事に拗ねるなんて器が小さいのかな…。
祥哉は笑顔の美月を見ながらそう思った。
「しょ、祥ちゃん!あれ撮らない?」
美月は祥哉の服を引っ張りながら少し恥ずかしそうにプラクラの機械を指した。
「うん!いいよ、2人も一緒に…」
「えっと、2人きりじゃ、だ、ダメかな?」
祥哉がそう言おうとすると美月から2人で撮りたいと提案してきた。
「も、もちろん!」
祥哉は笑顔で返した。
達也と亮太はそれを見てニヤニヤとして祥哉の方を見た。
「なんだよ……」
「なんでもない、行ってこい」
達也がそういうと祥哉は振り向いて美月の方へ向かった。
「祥哉くん彼女いいな……」
亮太の悲痛な嘆きを達也は聞き流しブラブラと辺りを歩きに行った。
「美月使い方わかる?俺こういうの初めてでさ」
「私もよくわかんなくて…」
入って2人は説明書を読みながら写真を撮り文字を描きプリントした。
「祥哉どんなのとったの?」
達也は出てくると早々に聞いてきた。
しかし祥哉は、
「教えない」
即答で答えを出してきた。
「まぁいいや特に興味ないし」
「なら最初から聞くなよ!」
祥哉は達也の行動に色々とツッコミたかったがここで終わりした。
「おーいそろそろ帰るぞ」
亮太の声が聞こえ全員車に乗って家に帰った。
「ただいま」
「おかえり、祥哉晩ご飯できてるよー」
「はいはーい」
祥哉は自室に向かうと机の上に今日撮ったプラクラを置いて食卓へと向かった。
プラクラには楽しそうに笑いながら弱々しいピースをする2人と、美月と小指を絡め合い指切りをする2人が写っていた。2つの写真には美月が書いた『ありがとう』の5文字が描かれていた。
ミンミンという蝉の音が静まり返る夏の終わりもう直ぐで2学期が始まる。

君と僕との勘違いの苦悩

読んでいただき本当にありがとうございます。
美月と祥哉の二人のやりとり甘酸っぱいと感じてくれたら嬉しいですね!
ではでは猫病家でした。

君と僕との勘違いの苦悩

君と僕とで生まれる勘違い、少しずつ半歩ずつでも進展していく恋。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2014-11-02

CC BY-NC-ND
原著作者の表示・非営利・改変禁止の条件で、作品の利用を許可します。

CC BY-NC-ND
  1. ep.1 オモイチガイ
  2. ep.2 答えは約束
  3. ep.3 スイートデート
  4. ep.4 最悪モーニング
  5. ep.5声の無い秘密の会話
  6. ep.6 よくできました!
  7. ep.7 淡い光
  8. ep.8 不気味な光
  9. ep.9 花火と不安と鈍感と
  10. ep.10 オモワレ想い出
  11. ep.11夏の終わりのありがとう